ジャーン! やって来ましたタカラヅカ! 私がいま立っているのは手塚治虫記念館前です。今月と来月の2回にわたり虫さんぽスペシャルとして宝塚さんぽをお届けいたします!! 手塚先生が幼少期を過ごしたここ兵庫県宝塚市界隈は3年前の2011年にも歩いていますけど、今回はちょっぴり趣向を変えて手塚治虫記念館のディープな楽しみ方をご紹介いたします。もちろん前回紹介していない新情報もありますのでお見逃しなく!! うおおお〜〜〜〜っ!!
JR・阪急「宝塚」駅を降りて東へ。宝塚大劇場前を通る桜並木の遊歩道「花のみち」をそぞろ歩くこと約8分。やがて正面にドーム屋根と虹色に光る窓が特徴的なブロンズカラーの建物が見えてくる。宝塚市立手塚治虫記念館である!!
この手塚治虫記念館が開館したのは1994年4月のこと。オープン当初はものすごい人気で、休日には入場規制が行われるほどだった。私・黒沢も当時は日曜の入館をあきらめ、大雨の平日にこそっと入館してようやく展示をゆっくりと見学できたのだった。
そして! 今年はそのオープンから20周年ということで再び手塚治虫記念館に注目が集まっている。さらに今年は宝塚歌劇も100周年、宝塚市制が60周年の年でもあるそうで、何だか宝塚がむちゃくちゃアツくなっているのであった。
というわけで、わが虫さんぽ隊も記念館20周年をお祝いしようということで、3年ぶりに宝塚界隈と手塚治虫記念館を散歩することになったのだ!! うおおお〜〜〜っ、懐かしいぜ宝塚、会いたかったぜ記念館っっ!! いざ散歩に出発だーーーーーーーっ!!
ちなみに前回記事はこちら↓↓
・虫さんぽ 第17回:【夏休み関西さんぽ・後編】兵庫県宝塚市:手塚治虫記念館周辺を歩く
今回も散歩のスタートは前回と同じく手塚治虫記念館から! といっても一般的な館内紹介は前回やっちゃっているので、今回はやや趣向を変えて記念館をもう少しマニアックに楽しんでみようと思います。
題して「隠れ手塚キャラを探せ!」
手塚治虫記念館を訪れたことがある方ならご存知だと思いますが、記念館の周りや建物の中には手塚キャラがあちこちに隠れているんですね! 右を向いても左を見ても天井を見上げても(!)、そこかしこに手塚マンガと手塚アニメの人気キャラクターが隠れている。それを今回はつぶさに観察してみようというワケなのだ。
過去に記念館に行かれたことのあるそこのアナタ! あなたはこれから紹介するキャラを全部チェックして来ましたか!?
ではいざ手塚治虫記念館へ入館しよう!! と、その前に! 建物の外側を歩いて外壁を見上げることをお忘れなく。タイル張りの外壁には手塚キャラの大きなブロンズ製レリーフが埋めこまれている。レリーフは全部で5枚。玄関に近い方からアトム、サファイア、ヒゲオヤジ、レオ、B・J、火の鳥の順に並んでいる。
玄関前の敷き石ももちろんチェック。ここには前回紹介したように手塚キャラの手形・足形が刻印されている。そして玄関のファサードには開館20周年記念ということで期間限定でサファイアの顔がカラーで掲げられていた。
エントランスを入ったら券売機でチケットを購入して入館する。シロウトはここですぐに展示室へと走って行きがちだけど焦ってはいけません。このエントランスホールだけでもいたるところに手塚キャラが隠れているのだ。
床の手塚先生の絵のタイル画や、天井のオールスターステンドグラスはすぐに目に入るけど、注目すべきは天井の隅! まず受付カウンターの真上では『リボンの騎士』のチンクがラッパを吹いている。
その反対側の角では虫眼鏡を使って古文書らしきものを読んでいる2匹のヒョウタンツギと、「ケラケラ」と笑うブタナギの姿が見える。やや離れたところの天井には「オムカエデゴンス」が口ぐせのスパイダーもいるぞ!!
エントランスだけでもこんなに手塚キャラがいるとなると、さすがのぼくでも大事なポイントを見逃してしまいそうだ。そこで心強い案内人にご登場いただこう。手塚治虫記念館の石井泰一係長である。石井さん、よろしくお願いいたします!!
「黒沢さん、ようこそ手塚治虫記念館へ。うーん、隠れキャラですか。トイレのドアとタイルはご覧になりましたか?」
あーっ、そういえば何か絵があったような気がしますけど、はっきりとは見てません。
「ではご案内いたしましょう」
さっそく石井さんの案内でトイレへと向かう。記念館へ来ていきなりトイレへ向かう人も珍しいと思うけど、行ってみると……おー、あったあった。
「ドアのイラストは3種類あります。それぞれどんな手塚キャラクターがモチーフになっているか分かりますか?」
これは手塚先生の元絵をそのまま使っているわけではなくて、手塚キャラからイメージを借りているオリジナルキャラなんですね。でもそれぞれ特徴があるから分かりますよ。頭に葉っぱのようなツノのある少女は『火の鳥 望郷篇』に出てきたコムでしょう。悪魔のような2本ヅノの少年は『吸血魔団』もしくは『38度線上の怪物』のヒロイン・モードさんですね。そしてウサギのキャラは『地底国の怪人』の耳男……ですか?
「おおむね正解です。ウサギ耳の少年は手塚マンガに数多く出てくるウサギキャラクターを総合してイメージした絵なんです。『
なるほどー、奥が深いです。
石井さん、タイル絵の方も見せていただけますか?
「タイル絵は全部で6種類です。こちらもけっこう難しいですよ」
フフフ、虫さんぽの黒沢を甘く見ない方がいい。これは手塚先生の元絵をそのまま使っているようです。これならすぐに分かりますよ。まず『リボンの騎士』のチンクが2種類と『
「『リボンの騎士』は「なかよし編」バージョンと言って欲しかったですね」
えーっ、そこまで!! ではあとの3種類も特定してみましょう。こちらは少し難しいぞ。このアメーバ状のキャラは『火の鳥』のムーピーですか。座布団みたいなキャラが『ブッキラによろしく』のザザプトン先生。そしてこのカラスが何だったか……どこかで見たような記憶はあるんですが……こ……降参です。
「これは『マンションOBA』でカラスコンクールに出場していたカラスです」
あーっ、そっかー!! さすがにこれは分かりません!!
「あっ、申し訳ありません、黒沢さん、私はここで失礼します。今日は土曜日でイベントがあって忙しいものですから! G階へ行ったら「幻の花」をお見逃しなく。それからお帰りの際には「花のみち」と「宝塚大橋」へも行ってみるといいですよ!」
石井さん、『幻の花』って何ですか? 花のみちと宝塚大橋に何があるんですか? ああ……行ってしまった……。仕方がない、自分で探索しよう。石井さんありがとうございました!!
ということでここからはまたひとりで歩きます。館内のいたるところに手塚キャラの立体フィギュアが立っているのでひとつひとつじっくりと見ていこう。
エントランスホールのアトム、サファイア、チンクに続いて1階展示室の奥には『ジャングル大帝』のレオ(大人バージョン)がいる。ブラック・ジャックはいないのかなと思ったら、こちらはG階に立っていた。G階にはさらにポーズの違うアトムとチンクも。そしてアニメ工房の奥では手塚先生の等身大(?)フィギュアが今まさに仕事中という感じで椅子に座り、こちらを振り返っている。
見逃しがちな隠れキャラの宝庫が2階のジャングルカフェとミュージアムショップだ。『ジャングル大帝』の世界をイメージしたジャングルカフェにはオウムのココやシカのトミー、ずるがしこい黒ヒョウのトットもいるぞ。と、そのとき、机の影に隠れているライオンのブブを発見!! これこそまさに隠れキャラ!!
一方ミュージアムショップには『ヤングブラック・ジャック』のマンガ家・大熊ゆうご先生の直筆色紙が展示されていた。またこれはほとんど誰も気づかないだろうというのが、展示棚の上にさりげなく立っているヒョウタンツギだ。
ぼくはここで記念館の絵柄が入った玉子煎餅を購入した。この玉子煎餅は宝塚名物の炭酸煎餅を製造販売している老舗・
それにしても石井さんが言っていたG階の『幻の花』とは何だろう。それを探るべくふたたびエレベーターでG階へと降りる。あっ、ちなみにエレベーターのドアにも各階ごとに違う手塚キャラのイラストが入っているのでお見逃しなく!!
G階は、お客さんが自分で描いた絵をアニメにして動かしてくれる「アニメ工房」や、手塚先生が昆虫採集をしていた戦前の宝塚を再現したジオラマ「手塚治虫昆虫日記の宝塚」などが展示されている。けど『幻の花』なんていう展示はないなあ……。
そう思ってふと壁面を見ると「のぞいてごらん! なかになにがみえるかな?」と書かれた小窓を発見。中をのぞくと小さなヒョウタンツギが3匹置いてある。下の小窓から手を入れると触れそうだ。
ところが、ヒョウタンツギに触れようとすると手がスカッと宙を泳いだ。??? 目の前に見えているのにつかめないのだ。いったいなぜ!?
そうか、わかったぞ! これが『幻の花』だ!! このときぼくは手塚先生のエッセイの一文を思い出していた。それは前々回の大阪さんぽ前編で紹介した四ツ橋の電気科学館について書かれたエッセイである。その部分を引用しよう。
「いまでも忘れないのは凹面鏡のトリック装置で『まぼろしの花』という展示。正面から花が見えるのに、手を伸ばしてもそこに実体がなくつかめない」(講談社版手塚治虫漫画全集別巻13『手塚治虫エッセイ集6』「懐かしのプラネタリウム」より。※初出は1985年刊「月刊うちゅう」)
四ツ橋の電気科学館跡地を歩いた前々回の虫さんぽはこちら↓
・虫さんぽ 第35回:大阪さんぽ(前編)手塚少年に芽生えた科学する心を訪ね歩く!!
手塚先生は後年、この展示のトリックをそのまま短編マンガのトリックとして引用している。1963年に『週刊少年サンデー』の読み切り作品として発表された『ビルの中の目』がそれである。
いやー、手塚治虫記念館は何度来ても新しい発見がありますね。では次の目的地へ……とその前に、忘れてました。石井さんがもうひとつ言っていたことがあったのだった。「花のみち」と「宝塚大橋」に何かがある?
花のみちというのは宝塚大劇場の前を通る遊歩道で、今朝、記念館へ来るのに通った道である。一方宝塚大橋は宝塚南口駅から手塚記念館へ来る際に渡る大きな橋だ。ともかく行ってみよう。
記念館を出て目の前の交差点を南へ歩くと100mほどで見えてくるのが宝塚大橋だ。
その宝塚大橋を渡りかけてすぐにぼくは石井さんの言った意味を理解した。
なんと舗道の足もとに手塚キャラの絵柄が入った大きなカラータイルが埋めこまれていたのだ。タイルは記念館側から対岸まで等間隔に設置されていて絵柄は全部で5種類あった。記念館側から順に火の鳥、ブラック・ジャック、リボンの騎士、ジャングル大帝、鉄腕アトムと並んでいる。その後、花のみちにも同じタイルが設置されているのを確認。うああ、さっき通ったのに何で気づかなかったんだ!?
後で調べたところ、このタイルは今年3月に手塚記念館の開館20周年を記念して宝塚市が設置したもので、サイズは45cm×45cm。滑りにくい表面加工をほどこしたセラミック製だという。3月末に行われた完成披露式には宝塚市の4代目観光大使サファイア・
さて今回、宝塚さんぽ前編の仕上げとして向かうのは、先ほど記念館で紹介した玉子煎餅の製造元である「炭酸煎餅本家 黄金家」だ。事前に取材のお願いをしたところ「店頭で炭酸煎餅を焼いていますので間近に見られますよ」と快諾してくださった。
手塚記念館からいったん宝塚駅方面へともどり、宝塚駅の南側に架かるS字カーブを描いた変形橋・宝来橋を渡る。すると交差点の右手角に見えてくるベージュ色の建物が黄金家だ。出迎えてくださったのは黄金家 代表取締役の白本功美子さんと店主の的場
うかがったとき、的場さんは炭酸煎餅を製造する機械の前で忙しく仕事をされていた。ゆっくりと回転するオーブンから煎餅が次つぎと焼き上がる。それを的場さんは6枚ずつつながった状態で取り出し、焼け具合をチェックしては冷ましてベルトコンベアーに乗せるのだ。
コンベアーで運ばれた煎餅は下に落ちるときに2枚ずつに分離し、さらにV字型の溝にはまって1枚ずつバラバラになり、下の箱の中に貯まってゆく。
うまく考えられた装置だけど作業中は片時も手が離せない。
なのでまずは白本さんにお話をうかがった。
はじめまして白本さん、こちらの炭酸煎餅にはどんな歴史があるんですか?
「うちは先々代の主人が明治30年に創業いたしました。何か宝塚名物を作りたいということで試行錯誤をし、この地に湧き出ている天然の炭酸泉を使ったお菓子を考案したんです。それが炭酸煎餅です」
今も温泉を使っているんですか?
「今は源泉が湧かなくなってしまったので炭酸泉に近い水を使用しています。ただの水ではこのサクッとした食感ときれいなキツネ色が出ないんですよ」
ここで煎餅焼きマシンの作業を的場さんから白本さんに交代。今度は的場さんにお話をうかがった。
的場さん、源泉はどこにあったんですか?
「うちのすぐ裏手です。今は記念碑が建っていますよ」
そこへ案内していただけますか?
「いいですよ。こちらです」
えーっ、まさにお店のすぐ横なんですね!
ところで的場さん、手塚治虫記念館で玉子煎餅を販売することになったのはどういう経緯からだったんでしょう?
「6〜7年前に手塚プロさんからお話があったんです。うちの煎餅がおいしいからぜひ記念館でキャラクターの絵を入れて販売したいということで」
絵柄はどうされたんですか?
「手塚プロの方で用意していただきました」
こちらのお店では手塚キャラの玉子煎餅は販売されていないんですね。
「はい。こちらでも売っていいということだったんですが、記念館のおみやげだから記念館限定の方がいいだろうということで、うちではオリジナルの宝来橋の絵柄の玉子煎餅を販売しています。どちらも味は一緒です」
記念館と宝来橋ですか! 両方買うと、宝塚名所がそろっておみやげとしての価値も高まりますね。白本さん、的場さん、本日はどうもありがとうございました!!
ということで前編はここまで! 後編では素敵なゲストにお越しいただき、その方と一緒にとっておきの手塚スポットを歩きます!! ではまた来月、虫さんぽでご一緒いたしましょう!! うおおお〜〜〜〜〜っ!!