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虫ん坊 2014年11月号 特集1:手塚治虫の官能美 「手塚治虫の美女画」展 手塚るみ子インタビュー

虫ん坊 2014年11月号 特集1:手塚治虫の官能美 「手塚治虫の美女画」展 手塚るみ子インタビュー

 『鉄腕アトム』や『リボンの騎士』『ブラック・ジャック』のような少年・少女向けの作品を描く傍ら、『I.L』や『奇子』、『MW』などの成年向けの作品も手がけていた手塚治虫の、「美女」に特化した展覧会が開催予定です!
 手塚治虫が描いた、特に「大人の女性」の裸婦像に絞って、複製原画(一部原画)を展示するこの展覧会について、プロデュースを担当した手塚るみ子に、詳しくお話をききました。

関連情報:

「手塚治虫の美女画展」Facebookページ



●「ふらりと立ち寄れる街のギャラリー」がコンセプト

虫ん坊 2014年11月号 特集1:手塚治虫の官能美 「手塚治虫の美女画」展 手塚るみ子インタビュー

——まずは、この展覧会の企画のきっかけについて教えてください。

手塚るみ子(以下、手塚): きっかけとしては2つあって、まずはこの9月に復刊ドットコムから復刊された、『手塚治虫美女画集 ロマネスク』の、ジェネオンエンタテイメントの初版を実家で見つけて手に取ったことです。
 当初、「こんな本があるんだ」と、何気なく手にとったのですが、まずはこれを復刊したい、という思いがありました。ファンの方はこの本の存在を知っているかも知れないけれど、一般の方では買い逃した方や、そもそも存在を知らなかった方もまだ多くいるんじゃないかな、そういう方々にも知ってもらい、買ってもらえればいいな、というのがありました。
 あの画集の後半には、大人の女性の美しい絵がたくさん入っていて、これは、こういう手塚治虫の絵もあるんだ、ということをもっと多くの人に知ってもらいたい。私自身も「こんな絵がこんなにたくさんあったんだ」という驚きもあったし、知り合いにも見せてみるとかなりの反響があったんです。特に男性の方に(笑)。
 『ロマネスク』の復刊から、展覧会につながるのは、もうひとつのきっかけとなった、神楽坂での上村一夫先生の展覧会です。あちらは、お嬢さんが企画をされて、神楽坂のartdishというギャラリー兼カフェで行われた(編注:上村一夫原画展「花の輪廻」 2013年3月)のですが、街中の、ほんとうにふらりと気軽に立ち寄れるような小さなギャラリーで、素晴らしい、上村先生のエロティシズムの境地が、原画ですごく美しく展示してあって。カフェなので入場料などは取らないのですが、そんなところであんなすごいものを見せてもらえる! ということにすごく、衝撃を受けました。手塚治虫の原画展といえば、どうしてもアカデミックになってしまっていて、入場料も1000円から2000円と高め、となるとある一定以上関心の高い人のみに対象がどうしても絞られちゃいますよね。もっと、一般の方が街を歩いている中で、看板やポスターで絵をみて「うわ、この素敵な絵はなんだろう?」となって入ってみる、というようなところが、これまでの手塚治虫の展覧会には足りないところだったんじゃないか、と。


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——では、このGALLERY KAIを選ばれたことも、上村先生の展覧会がイメージとして強くあったから、場所自体もコンセプトを大切に選ばれた、ということだったのでしょうか。

手塚: ここを見つけたのは本当に偶然でした。私は吉祥寺がホームタウンなのですが、ここの存在は知らなくて。蔵を改装したギャラリーなんですけど、入ってみて一目で、「奇子の世界だ!」となって、ここに決めたんですけれども。
 吉祥寺、という場所についてははじめから決まっていました。まずは、私のホームタウンである、ということもありますが、そもそも漫画家の先生方が良く個展を開かれているので、そういう素地があることもありますし、学生からファミリー、お年寄りまで、さまざまな方が足を運ぶ街、ということもあります。それで、今年の初夏ごろに、吉祥寺ギャラリーマップというパンフレットを頼りに、いろいろ見て回って、このKAIさんを見つけました。
 他にも、たとえばギャラリー創とか、漫画家の展覧会をやりなれているところもあるのですが、オープンスペースで往来から近すぎるとか、直射日光が入ってきてしまうなどといった懸念点がいくつかありました。紫外線や、湿気の問題など、手塚治虫の原画を展示するにあたっての条件がいろいろありまして…。そういう問題点もすべてクリアされていたので、最終的にもKAIさんで大丈夫、ということになりました。
 それから、実は吉祥寺は、私が父・手塚治虫と最後にいっしょにご飯をたべた想い出の場所でもあるんです。


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——そうなんですね!

手塚: そのお店はもうなくなってしまったけど、私がボーイフレンドと同棲するから家を出る! といって母ともめていたときで、父は「それなら、ふたりきりで話そう」と言って。
 そのときに、「一回家を出てみるか、ためしにやってみるか」といってくれたことはけっこうありがたい言葉でした。親としてはなかなか言わない言葉だとは思いますが、「一回試しにやってみて、うまくいったら結婚すればいいし、だめだったら戻ってこればいい」とか、ありがたかったです。

 他にも、吉祥寺という街が、どこか父の故郷の宝塚にも似ていて、商業施設と、住宅地と、緑のバランスがとてもよく取れている場所なんですよね。また、大学や文化施設も多いし、こういう小さなギャラリーもそれこそたくさんあります。住みよい町であると同時に、文化的なかおりもする。私は小学校のころからここ吉祥寺の成蹊に、大学まで通い続けていて、言ってみればここで育ったようなものですが、そういうバランスが取れた環境にずっといたことが糧になっているような気もします。
 最近では、住みたい町ナンバーワンだとかで、人気があるのも分かります。


●裸婦像へのこだわり

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——展示物は裸婦像にこだわられた、ということですが、この17点はどのような視点でえらばれたのでしょうか。

手塚: 選定基準はエロティックであることと、ヌードであることです。ヌード、というよりも、裸婦画というべきかな。大人の女性であることも条件にしました。『エンゼルの丘』のルーナの絵などは、まあきれいといえばきれいだけど、少女だし、人魚だしということではずしました。
 また、会場規模からも点数はしぼられるので、なかには泣く泣く展示をあきらめたものもあります。カラーかモノクロかはあまりこだわらずに、また、一部漫画本編からのものもあります。
 17点のうち3点は原画で展示しようと思っています。

 一つは、『人間昆虫記』の扉絵に使われたこの絵ですね。
 原画で見て初めて分かるんですが、この、蜂の写真のところはぜんぶコラージュなんです。この時代の造作物としても面白いな、と思いますし、そういうのって印刷してしまうと分からないじゃないですか。いろいろな大きさの写真を細かく切って、貼ってあるんです。そうとう凝った表現ですよね。
 当時はパソコンなんてなかったから、こういう表現もアナログだったんだな、という意味でもとても面白い作品です。


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手塚:  あとは、この、扇子の紙に描かれた絵ですね。
 これもやっぱり、実物を見てもらいたいと思って、原画でだそうかな、と。どなたかに差し上げるものとして描いたものの、失敗作らしいのね。完成したものはその方に差し上げちゃったみたいです。
 扇子の和紙に描かれてる、というのはぜひ原画で見てほしい。

 あと、この、ポスタービジュアルにも使った「マイフェアレディ」は、たまたまこれまでは復刊ドットコムの本でしか見ていなかったものなのだけど、これが実際の現物はもっと落ち着いた色合いで。印刷で見るとちょっと白っぽく出てしまっているけど、原画で見るとなんとも言えずシックで、深い茶色なんです。印刷で出すにはとても難しい色らしいんですよ。だから、これも原画で見てもらいたいな、と。
 ただ、全部原画にしなかったのは、警備の面で点数が増えれば増えるほど危険が伴うので、ぎりぎり3点だけ、選んで出すことにしました。


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——裸婦像ではありますが、老若男女に見てほしいですね。

手塚: 場合によってはお母さん方が、ちいさなお子さんと一緒に見に来られてもいいし、中高生が覗いてくださってもかまわない。絵としてはヌードといっても美しいし、えげつない絵、というわけでもないから、ぜんぜん誰でも見られると思います。
 もちろん、お母さんが、「これは子どもには見せたくない」と思われるのであれば、それでもいいし。

——西洋画の裸婦像と同じような感覚ですね。

手塚: ちょっとアーティスティックな絵も多いし、漫画家の手塚治虫が、こういう絵も描いているし、デザイン的にもこんなに素晴らしいものを描いていたんだ、ということを見てもらいたいです。単行本でも、扉絵や口絵はなかなか見られなくなってもいるし、今回の展示では、従来の展覧会では出してこなかったり、出しづらかったりしたものが出てきますので、展覧会でもなかなか見られないものになります。
 やっぱり、大きな展覧会だと、どうしても配慮してなかなか、裸の女性の絵というと控えるケースも多いようですから。
 この、『人間昆虫記』の蜂のコラージュの原画も、これまで出したことが無い、と手塚プロダクションの展示担当者も言っていたので。


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——以前お話を伺った、FUKUSHIMA RECORDSの『Vanilla』など、手塚治虫の女性キャラクターについて、以前から力を注いでいらっしゃいますよね。手塚治虫のいわゆるヒューマニズムよりも、むしろエロティシズムにスポットを当てる、というような。

(※関連情報:虫ん坊2012年4月号特集2 手塚ヒロインがジャケットに登場!FUKUSHIMA RECORDS 『Vanilla』とは?

手塚: 多分、今の自分がやっていることは基本的に邪道というか、外道なんです。手塚プロダクションが王道。展覧会についても、大きな展覧会はちゃんと全国規模で、王道路線でしっかりやっているので、私のほうはもっとそういうところでは見られないようなものをやっていきたい、という気持ちはあります。もちろん、王道を否定しているということではなくて、そちらばかりに偏ってしまうと、きっと天邪鬼だったうちの父なら、「いや、違うぞ」となると思うんですよね。そうやってあれだけの作品を描いてきた人でもありますから。だから、普段は取り上げられないような手塚治虫の側面も出していかないと、可哀想だな、とも思うんですよね。


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——ところで、今回された作品の中で、特にお気に入りのキャラクターは誰ですか?

手塚: 『奇子』は作品としてもすごいと思います。この時代によくこんなシチュエーションを思いついたな、という。小さい女の子を蔵に閉じ込める、とか、今でも大問題になりそうだけど、あの時代に考え付くというのが。奇子自身の人生に魅力を感じるというよりは、小さいときの奇子にすごく親近感はありましたね。どれだけ辛い思いをしたんだろうか、この子は、というような。
 キャラクターとして好きなのは、このブルーメン芳子ですね。お話もすごく印象的で。
 『リボンの騎士』のときからそうだけど、サファイア姫という正当な少女に対して、ヘケートという、不良な少女が配置されているんです。いつもその対象が立てられている。『エンゼルの丘』にもルーナとあけみという対比がありますよね。でも本当はどっちもすごく不遇で、愛らしい少女なんですよね。私は個人的にはヘケートみたいなちょっとワルな、でも本当は心が優しくて思いやりも持ってて、クールでかっこいい、みたいな女の子が気に入っているんです。ヘケートって、格好からしてあんまりドレスとかを着なくて、ぱつぱつのスパッツとか着てるでしょう? クールですよね。
 そういう部分でもこのブルーメン芳子はかっこいいな、と思ってます。
 でも、うちの父が女性を描くと、たいがい悲劇なんですよね。いやな思いをさせているんですよ。あれ、なんなんだろう、って思いますね。何で必ずいやな思いをさせるんだろう、って。


●手塚治虫の女性観!?

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——女性がしくしくと泣くシーンは随所に出てきますよね。

手塚: 少女漫画には不遇の運命で、継母に育てられて、とか、親が亡くなって、っていうのは昔からセオリーなんだろうけど。大人の女性になると乱暴されたりとか、殴られたりとか、果ては殺される、とか。ものすごい、不幸のどん詰まりに追いやられるケースがすごく多いのね。ちょっと、女性の不幸を楽しんでいる、みたいなところがすごくある。

——しかし、手塚作品の登場人物って、あまりハッピーな人そのものを見かけません。

手塚: 『きりひと讃歌』の麗花とか、あの、「人間天ぷら」の。あんなに尽くして、最後天ぷらになって死んじゃうなんてあんまりですよね。あの子もすごくインパクトが強い。『火の鳥』でも女性キャラはそれぞれひどい目に遭ってますよ。
 手塚治虫も男性作家だから、そういう、女性がひどい目に遭うことそのものに、エロティシズムを感じて描いていたのかも知れないな、などと思ったりもします。不遇な眼にあって、しくしく泣いていたりすると、「かわいそうだ」というような父性みたいなものが沸くのかも知れません。


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——でも、そういうサディスティックな描写があっても、女性が読んでもさほど反発を生まないというのも不思議です。

手塚: なぜでしょうね。上品さがあるからなのか、キャラクターがきちんと描き込まれていて、読者に感情移入させるからこそ、ひどい目に遭っていても「かわいそうだ」という気持ちのほうが強くなるのかも知れません。「ひどいことをさせるな」と客観的に思ってはいるんだけど、イヤじゃない、というか、そこまで嫌悪感はなかったりしますね。
 少年キャラも、痛めつけられるシーンが出てきたりしますが、あれは自らの戦時中などの体験も入っているんだと思います。多分、自分の惨めな体験がフラッシュバックして、ああいうシーンが「ひどいもの」として出てくるのかも知れません。読んでいる読者に「これはひどいな」と思わせるようなシーンとして描いてしまうんでしょう。

——女性のキャラクターに対しても、手塚治虫は自ら感情移入をして描かれていたのかもしれませんね。

手塚: 女性に対して馬鹿にしているようなところはないですよね。顔と身体だけ、みたいな描き方は決してしない。顔と身体だけを強調して描いて、人間性を感じさせない、というような、リスペクトのない描き方はしないですよね。女性の妖艶さだったり、謎に対してすごくリスペクトがあるから、読んでいてもそれほどいやな感じはしないのかも知れません。
 それはたとえば悪女でも、ちゃんとその背景を描いて、その人の個性であり、魅力である、というような描き方ですよね。だから、ブルーメン芳子だったり、ばるぼらみたいな変な女でもすごく魅力的に感じさせてくれます。


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——最晩年の作品の『ネオ・ファウスト』のメフィストに、「手塚治虫の絵ってセクシーじゃない」みたいなことを言わせていますが、セクシーな絵は苦手、というようなコンプレックスはやっぱり手塚治虫にもあったのでしょうか。

手塚: コンプレックスは確かに抱いていたと思います。先日、新座のスタジオの机の中から、エロティックな原画がたくさん出てきましたが、あれも、他の先生が描かれた女性のヌードや、そういうグラビアなんかがたくさん切り抜いてあって、それをトレスしたり、顔だけ自分で描いてコラージュしたりしていたんです。どうやったらそういう、エロティックな線がでるのか、ものすごく勉強していたようです。
 あれを見て、ああ、ものすごく勉強して、女性の身体のなまめかしいラインをなんとか自分の絵に取り入れよう、としていたんだな、と。美術を勉強していないコンプレックスは生涯抱えていて、でも独学でなんとかやっていこうとしていたようで…。


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——父としての手塚治虫から、「女なんだからおしとやかに」とか言われたことはありますか?

手塚: ぜんぜんないです! 母はがみがみ言ってきましたけど。でも、父の日記を見ると、私のことを「あの女は」なんて書き方されてたりして。腹立たしく思ってたようで。
 フェミニストに見えて案外、昔の人だから男尊女卑は多少あったと思いますね。女性がしゃしゃり出てきたり、生意気なことを言ったりすることにはあまりいい気分はしなかったようです。私がこういう性格だから、特に若い女の子には「もっとしっかりするべきだ」というような思いはあったようです。しっかりもしてないのに、口ばかり達者になって、というような。
 まあ、手塚治虫は世の中全体に対して厳しい眼は持っていたけれど、特に私ぐらいの世代ぐらいから、女性がどんどん世の中に出てきたことについては、ちょっと反目はあったのかも知れません。

——たしかに、作品上でもけっこう「女は男の仕事に口を出すな!」みたいなセリフは出てきますよね。

手塚: で殴られたりするんだけれども、それにも負けずに女性が自らの足で強く立ちあがってゆく、というところまで描くから、リスペクトされるんだと思います。結局、男女の差を超越して、人間すべてに魅力を感じていたんでしょうね。ひいては生き物全体に対してのリスペクトがあるから、描きかたが丁寧なんだと思います。


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——手塚治虫の美女画の魅力は、どのあたりにあると思いますか。

手塚: デッサンは完璧じゃないけど、生き物としての姿かたちの美しさはやっぱりすごく伝わってくる絵ですよね。あと、すごくやわらかい感じがしますね。生き物だけじゃなくて、自然界にあるあらゆるものからヒントを得ているんじゃないでしょうか。川の流線や木や草の曲線とか。
 あと、絵じたいが静止画でも、動きを感じさせるラインなんですよね。ゴムまりのようにはねたり、ヘビのようにくねったり。あるいは金魚みたいな身体をくねらせる動きだとか。そういう動きの想像と重なって、そこにエロスを感じるのかも知れません。
 やっぱり、幼い頃から自然と触れ合って、生物を写生してきたから、自然とそういうニュアンスを習得しているんじゃないでしょうか。筋肉や骨の配置が構造的、というよりも、流体のような。
 実際、手塚治虫の女性像って、皮と脂肪しかないみたいに見えますよね。哺乳類的ながっしり感じゃなくて、爬虫類とかにちかいような…。
 もっというと、医者をやっていると、細胞を顕微鏡で覗くようなこともあるじゃないですか。細胞の、骨も何もない、硬いところは一切ない感じからもインスピレーションを受けていたのかも知れないです。
 スライムみたいな、ぐねぐねしたところから分裂して、形が出来ていく、というものまでも連想させますよね。究極の生命の神秘ですよね。


●次なる挑戦は

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——手塚るみ子さんは、10月27日から始まった手塚治虫記念館の企画展「忌野清志郎展」もプロデュースされています。
 手塚治虫と、忌野清志郎さんとをつなげるというのは、ファンにとっても「なんで?」というところがあるように思いますが。

手塚: もともと忌野清志郎さんには、手塚治虫トリビュートアルバム『ATOM KIDS』に参加いただいていて、そこからのお付き合いになります。あれを企画したときにも、ほんとうにいろいろな方が参加表明してくれて。企画を立ち上げて初めて、「ああ、この人も手塚ファンだったのか」と知って、それを機会にめぐり合えたり。佐野元春さんとか、筋肉少女帯とか。収録されてる方以外にもたくさんの方が参加を希望されていたんです。

——音楽方面のアーティストにもかなり手塚ファンが多いのですね。どうしてでしょう?

手塚: 音楽をやっている方のなかで、ある世代に共通しているのが、1回はマンガ家になろうとしていた、ということがありますね。子どもの頃はマンガを描いていて、漫画家を目指していたけど、10代の途中から音楽に目覚めて、という人が結構います。自分を表現するアーティスティックな手段として、マンガを描く、ということがそれだけメジャーだったのでしょうね。
 そんな国って、日本ぐらいですよね。あまり他の国で、ミュージシャンが漫画を描いていたなんて話は聞かないでしょ。逆に漫画家も音楽が好きな人が多い。手塚治虫も音楽が大好きですしね。
 忌野清志郎さんもはじめは漫画家を目指していたそうです。手塚治虫も好きで、『手塚治虫のマンガの描き方』を読んで描いたりしていたけれど、マンガ専用の道具を使う話が出てきたところで、くじけてやめてしまったそうですよ(笑)。


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——では、もっと続けていれば、もしかしたら漫画家・忌野清志郎という方向性も…。

手塚: 清志郎さんの歌う『少年マルス』(アニメ『ジェッターマルス』主題歌)を今回企画展に合わせてシングルカットするのですが、それが本当に、忌野清志郎の歌そのもので。彼の声で歌われることで、忌野清志郎の歌ってきた世界観と、手塚アニメの世界観がぴたりとあっていたことが良く分かります。
 媒体は違えど、訴えているメッセージは同じという感じがします。

——そのほか、今計画中のことなどありますか?

手塚: 具体的に計画中のものというと、特にないですが、この、『手塚治虫の美女画展』でエロスの世界の紹介が成功したら、今度は、手塚の「かわいい」をテーマに展覧会を考えたいですね。それこそ、いまや日本の文化には「かわいい」がつきもので、世界共通語になりつつありますよね。その発信地の原宿で、そんな展覧会をやってみたいです。

——最後に、『美女画展』来場者にメッセージをお願いします。

手塚: ぜひ、手塚治虫の描くなまめかしいビーナスたちに触れてほしい、と。その一言ですね。

——ありがとうございました!






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