震災や、原発事故による風評被害に苦しめられている福島。「FUKUSHIMA RECORDS」は、その「福島」のブランドの回復と未来のために立ち上げられた音楽レーベルです。
2011年9月9日に発売された第1弾『Good Days』、同12月12日発売の第2弾『声に出して。』につづく第3弾『Vanilla』が今年3月3日にリリースになりましたが、なんとそのジャケットには手塚治虫の描く美女たち12人が勢ぞろいしています!
音楽ファンのみならず、手塚ファンにも気になるこの『Vanilla』について、ジャケットワークをプロデュースされた手塚るみ子さんと、FUKUSHIMA RECORDS代表兼プロデューサー、小山順之さんに詳しくインタビューしました!
FUKUSHIMA RECORDS 3rd. Album は手塚ヒロインがジャケットを飾りました。
FUKUSHIMA RECORDS WEBサイト
楽器 for Kids WEBサイト
——第3弾の評判はどうですか?
小山: すばらしい、と大変好評をいただいています。このアルバムは、先行発売期間を設ける売り方をしています。発売日から1ヶ月間は販売元のネッツトヨタ福島を中心にトヨタの販売店ネットワークや、アーティストや私たち関係者が販売し、その後CDショップやamazonなどで一般販売されることになります。今回の『Vanilla』は、3月3日に先行販売が開始しましたから、4月上旬ごろ、全国発売となります。 今回から、GEOなどのレンタル店も検討しているところです。
——手塚キャラクターのジャケットはいかがですか?
小山:たいへんな評判ですよ。まず、参加したアーティストが一番、喜んでいます。今回のアーティストは12組で、女性アーティストばかりなのですが、ボストンのZili Misikというバンドも参加しているのですが、彼女からもメールが来て、「すごい素敵!」って。
とにかくジャケットの力が強いので、アーティストは皆、持ちたがるんですよね。今回参加してくださった大御所のムッシュかまやつさんも、ライブなどに持ち込んで、売ってくださったりしています。
——普段、商品化などに登場しないキャラクターですね。
小山:裏にちゃんと、ピノコを入れましたよ。るみ子さんのイメージで。
手塚:私はピノコはいらないって言ったんですが、小山さんがどうしても、と。その昔、手塚治虫の「美女画集」という本がありましたよね、限定版で。それを「これ、いい画集でしょう」って小山さんに見せていたんですよ。そのとき、すごく気に入ってくださって。その画集には、一般的な女性キャラ、ピノコとかサファイヤとかだけではなく、あまり知られていない、大人向けの作品などからの、そんなヒロインたちも収録されていますよね。それを、「次のアルバムジャケットに使いたいね」というお話をしていました。
小山:今回のアルバムは、3月3日のひな祭りが発売ということで、女性をメインにして、男性はどちらかというと縁の下の力持ち、という感じにしたいな、と。女性12人の曲のイメージに合ったキャラクターをちりばめてみました。そうするとすごく華やかで、まさにひな祭り発売にぴったりじゃないか、ということで。
手塚:FUKUSHIMA RECORDSは難波弘之さんが音楽プロデューサーなんですが、難波さんといえば、ファーストアルバムのジャケットは、手塚治虫が手がけているんですよね。
小山:難波さんの最初のアルバムのジャケットは、手塚先生にお願いしたという話を、浦沢直樹さんともしたんですよ。
2枚目のアルバムを作っているときに、浦沢さんが話してくださったのですが、浦沢さんの昔の小学館の担当編集者の方が、かつて手塚先生の担当だったそうで、その方がある日、手塚先生のところに詰めていたら、そこに髪の長い兄ちゃんが入ってきて、「ジャケットできました?」みたいなことを言うわけですよ(笑)。手塚番の皆さんでマージャンか何かをしながら待っていたところだったので、「なんだあいつは」「俺たちの原稿のほうが先だ!」という剣幕でにらまれていた、というような一幕があったそうです。まさにそれが、若い頃の難波さんで。そこで僕は、「やっぱりそれなら、るみ子さんにお願いしよう」と思いました。
僕自身は、直接手塚プロダクションとはつながりがなかったのですが、るみ子さんは以前から知っていたので、お力になってくださるかな、と。
1枚目は瀧本幹也さんの写真で、2枚目は浦沢直樹さんのイラストでしょ。もうすでにインパクトがあるわけですよ。この次はどうしよう!? と。
インパクトはあるけれど、誰もが見て分かるような感じにしたくて。浦沢さんのジャケットがすこし迫力があるので、次はポップでキュートな感じにしよう、と。ベースの色合いは、第1弾が薄いブルーで、第2弾が薄いオレンジなので、つぎは薄いピンク、と頭の中でカラーリングは出来ていました。
いつもタイトル曲は難波さんが作曲されるのですが、「Vanilla」については、春のドライブにぴったりなフレンチ・ポップスでいこうじゃないか、と。
——るみ子さんと小山さんがお会いになったのは、いつごろだったんですか?
手塚: 私が以前勤めていた広告代理店をやめて、ようやくひとり立ちしだした頃ですね。
小山: 初対面は10年以上前になると思います。お付き合いは長いのですが、一緒に御仕事が出来るようになったのは、ごく最近です。僕も、いろいろな企画をして、手塚さんと一緒にできる仕事をいろいろな方に持ちかけていたんですが、まだ、ぼくはご一緒できていませんでした。今回ようやく形になって、うれしいです。
——難波さんも以前から手塚治虫と親しくされていたんですよね。
小山: そうですね。難波さんも僕も、それぞれ別のルートでるみ子さんと知り合いではありました。
手塚: たまたま、「FUKUSHIMA RECORDS」を立ち上げた際の音楽プロデューサーが難波さんだ、というお話を、小山さんから聞いていたので、「ご縁がありますね」というようなお話はしていたんですよ。
——では、第3弾のジャケットの御話で、初めてそのラインがつながった、ということでしょうか?
小山: いえ、それ以前からたびたび、難波さんと手塚さんのお話はしていたんですよ。実は、第2弾に収録する曲の中に、「鉄腕アトム」を難波さんがカバーした曲を入れよう、という話もあったのです。ただ、第2弾の制作の時期、ちょうど原子力発電所の問題が盛んに議論されていた時期で、スポンサーであるネッツトヨタ福島のほうから、原子力の話は現在、福島県内ではご法度になっている、という話を聞きまして、「鉄腕アトム」は問題があるだろう、ということで、急遽録音をやめたんです。
「鉄腕アトム」をカバーするよ、という話もすでにるみ子さんにしていたので、事情をお話して他の曲も考えてみたのですが、やっぱり「鉄腕アトム」に勝る有名な曲はないので、手塚作品の曲でのカバーはやめて、変わりにシンディ・ローパーの「Time after Time」のカバーを収録しました。震災直後のコンサートなどで日本を力づけてくれたシンディ・ローパーにもリスペクトをしたい気持ちもありましたから。
音楽ではカバーが実現できず、るみ子さんに悪かったね、というようなお話を難波さんともしていて、次には手塚関係のなにかを入れたい、と思っていて、そこでひらめいたのが、曲じゃなくてジャケットでカバーする、というアイディアだったんです。
——キャラクターの人選ですが、どなたが御考えになったんでしょうか?
手塚: 先ほどもお話した「美女画集」をもとに、私のほうからいくつか絵を選んだり、小山さんのリクエストも伺ったりして。さらにそこから、収録するアーティストの方の曲の雰囲気にあうものを。曲については小山さんのほうがご存知ですので、私の選んだ中から、さらにイメージにあわせてチョイスをしていきました。
それで私は「ピノコはいらない」って言っていたのですが、小山さんがどうしてもピノコを入れたい、と言っていて。
ですから、あえて、ピノコ以外はあまり知られていないキャラクターを選んでもいます。
小山: ボッコちゃんはよく知られていますよね。だから、メインキャラクターはボッコちゃんにしたんですよ。ギター持ってるし。で、タイトル曲の「Vanilla」はボッコちゃんのイメージだったり、「バン・バン・バン」は千里刑事、とか。それぞれのキャラクターに色も合わせているのですが、それもあわせて、曲のイメージで。
——買われる方も、若い女性以外にもたくさん、いらっしゃいそうですね。
小山: そうですね。曲やアーティストのファンも幅広いのですが、手塚ヒロインに思い入れのある方も買ってくださっていますよ。
——可愛いだけじゃなくて、ちょっと色っぽい感じの絵も使われているので、大人っぽい雰囲気ですね。
小山: でも、表ジャケットはわりと健全な感じなんですよ。買った方だけがエロティックな面(ブックレットの裏側)を見られる、という。
手塚: 今回は、可愛い絵だけではなく、タトゥーとかヌード姿の人物も入れているので、見る人によってはちょっとぎょっとされるかも知れませんよね。でも、音楽のようなアーティステッィクな世界であれば、そういうのもありだな、と。とはいえ子どもの目に触れることもあると思うので、そのへんは配慮しています。
ブックレットの最終ページには、どのキャラクターがどの作品に出ているか、という説明も付けていただいているので、ほとんど知らないキャラクターだとしても、ここから手塚作品を読んでいただく、キッカケになるといいですね。
——FUKUSHIMA RECORDSのコンセプトを教えてください。
小山: 他の東北の各県は復興が進んでいるのに、福島はあまり進んでいない、ということがわかり、「何かしなきゃな」と考えたのが始まりです。私の本業は経営コンサルティング業なのですが、トヨタ自動車のお手伝いも長くしており、そこで以前からネッツトヨタ福島とは御付き合いがありました。ネッツトヨタ福島のお客様にも県外流出した方が多く、離れてしまったお客様とネッツトヨタ福島が、今後どのようにつながればよいのか、と考えたのが、企画の発端です。
今後のことを考えると、福島は大変な危機にありますよね。復興はまず難しい。立ち入り禁止区域も広いし、そういうところでは何も手を付けられない。誰もが困ってはいるのですが、その中でも一番の弱者は子どもですよね。子どもたちに今後、健康被害が出たときに医療補助が出来る基金集めも、レーベルでできればよいなと思いました。
FUKUSHIMA RECORDSはチャリティレーベルではありますが、クオリティに妥協はしていません。一流のミュージシャンにこだわって参加を呼びかけました。FUKUSHIMA RECORDSのクオリティを皆さんに評価していただくことで、傷ついてしまっている「福島」のブランドイメージを回復するお手伝いにもなると考えています。
全部が主目的なんです。基金だけが目的であれば、収益のすべてを基金に回すべきですが、このプロジェクトでは収益の半分を基金にしています。基金を寄付でまかなう、ということになると、長くは続けられませんからね。
実は、震災以前からトヨタ自動車には「プリウス」などのハイブリッド自動車の中で聞く音楽のプロデュースのご提案をしていたんですよ。ハイブリッド自動車は車内が大変静かなので、どんなジャンルの音楽でも快適に聴くことができます。スピーカーやプレイヤーの性能もどんどん上がってきています。そこで、車を買ってくださる方に、合わせて「いっしょに聴くCD」をすすめてみてはどうだろうか? と考えていたんですよ。それが今回のFUKUSHIMA RECORDのコンセプトにも生きています。
手塚: コンサルティングをされているだけでなく、音楽もやっていらっしゃったからこそ、そういう発想が出てくるだと思いますよ。
——アーティストの人選については、どのような基準で選ばれているのでしょうか?
小山: 第1弾を作ったときには、本当に時間がなくて、5月に企画を立ち上げ、制作にかかったのは7月でしたから、リリースまでほぼ1ヶ月半しかなかったんです。そのとき、難波さんと二人で「時間がないね」と。人選もそのなかでやりましたので、友達のつながりで何とか声をかけていった感じです。
2枚目からはアーティストを募集しようか、という話も出たのですが、そうするといろいろなタイプの方が集まってしまうかな、と思い、ぼくと難波さんとで、この人は、と思う方に一人一人御声がけしていきました。僕たちの考え方に賛同してくれる方でなくてはいけませんし、もちろんクオリティの高い音楽を作れる方で、とこだわりました。
9月9日にこだわったのは、まず、震災から半年で出したかった、というのと、9月9日がちょうど難波さんの御誕生日なんですよ。
——それから、発売日はすべてぞろ目の日ですが、なぜですか?
小山:それはなんとなく、です(笑)。ちなみに第4弾は7月7日、七夕にちなんだ大人の恋愛ものにしようかな、と思っています。
——震災当日はどうされていましたか?
小山: ちょうどネッツトヨタ福島の常務が東京出張で銀座に来ていて、地元となかなか連絡が取れず、僕はSUVの社用車を出して、物資を積み込んで銀座に向かいました。常務はその車で現地に帰ったのですが、15時間もかかったそうです。
——もし、ネッツトヨタ福島とかかわりがなくても、なんらかのボランティアには取り組んでいた、と思いますか?
小山: おそらくなにかやっていたと思います。ぼくの友人のサックス奏者の武田和大さんが、この企画の前に「楽器forKids」という、被災地の子どもたちに楽器を届けるプロジェクトをしているのですが、被災した楽器の代わりに、ミュージシャンや一般の方から、今は使っていない楽器を寄付して貰って、リペアした上で持っていって、プロミュージシャンが技術指導もする、というような取り組みをやっています。僕もそちらを支援しています。これは震災の直後から始まって、今も続けていますよ。武田さんのそんな動きに僕も感化されたところもありますね。
ミュージシャンをやっていたこともありますが、僕の本業はやはりコンサルタントですので、僕が手がけるのであれば収益事業が望ましいと考えました。皆が喜べ、長く続けられる、収益を生む取り組みをつくるのが、僕の仕事だ、と思っています。
——お忙しい中、ありがとうございました!