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関係者インタビュー 私と手塚治虫 青山由香編 第2回 空気を読まない!? 新人アシスタント。でも先生は笑ってくれた

2026/07/17

関係者インタビュー

私と手塚治虫

青山由香編

 

2回 空気を読まない!? 新人アシスタント。でも先生は笑ってくれた

文/山崎潤子

関係者に話を聞き、さまざまな角度から手塚治虫の素顔を探っていこうという企画です。今回は、「手塚治虫の最後のアシスタント」といわれる青山由香さん。青山さんは、手塚治虫が亡くなる10ヵ月前に手塚プロダクションに入社されました。異例入社のきっかけや在社中のエピソードを中心に、手塚マンガや手塚治虫への愛があふれるお話をお聞きしました。

 

PROFILE

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青山由香(あおやま・ゆか)

北海道札幌市出身。父親の本棚にあった手塚治虫のマンガを読み、熱心なファンに。短期大学卒業後、手塚プロダクションに入社。手塚治虫の最後のアシスタントとなる。1989年のテレビシリーズと連携した『ジャングル大帝』や『青いブリンク』の学年誌での連載、『三つ目がとおる』のグッズなどを担当。現在はイラストレーターとして活躍中。2026年、MoN Takanawaで行われた、マンガをライブパフォーマンスで体験する「MANGALOGUE:火の鳥」では、『火の鳥 未来編』の着彩を担当。


◾️正式入社前の「体験入社」

 

──トマムでの出会いがきっかけで、上京して入社になったんですか?

 

はい。短大2年生の秋でしたから、翌年の4月に入社することになりました。

実はその前に、体験入社をさせてほしいとお願いして、冬休みを利用して一度上京したんです。初めて飛行機に乗って、高田馬場の手塚プロダクションへ行きました。ファンクラブの方が安く泊まれるところを紹介してくださって。

とにかくうれしくて、緊張しながら年賀状のベタ塗りやホワイトの作業のお手伝いをした記憶があります。そんなつもりはなかったんですが、1週間分のお給料までいただいてしまいました。その後3月に短大を卒業して、本格的に上京したわけです。

 

──他に同期入社の人はいたんですか?

 

私が入社した頃、アシスタントの募集は2年に1度だったんです。その年は募集がないはずだったので、異例の入社でした。トマムでの一件がなければ、私が上京してアシスタントになることはなかったと思います。そう考えると、本当に導かれたような気がしますね。

 

 

◾️入社後の対面で「目を逸らされた」理由

 

──入社時はどんな感じでした?

 

ちょうど新座スタジオができて、マンガやアニメの制作現場が高田馬場から新座へ引越しというタイミングでした。

 

──その頃、先生のご様子は......?

 

実は、4月に入社したとき先生は入院中で、5月に初めてお会いしたんです。ようやくお会いできたときは、げっそりされていて......。前年のトマムや年末の体験入社のときはお元気そうだったのに、すっかりやせて、スーツがブカブカでした。

 

──5月の時点で、ずいぶんやせられていたんですね。

 

退院直後とはいえ驚きました。「よろしくね」と挨拶してくださったんですが、目線や顔の向きを逸らされてしまった印象があります。目を合わせてくれないというか。やせてしまって体調が悪い姿を見せたくなかったのかもしれません。それまではずっと目を合わせて話してくださっていましたから。

その後はにこやかに接してくださいましたが、初対面のときだけは、少し様子が違ったような気がします。

 

──新入社員に元気のない姿は見せたくなかったのかもしれませんね。

 

先生は東久留米のご自宅から新座のスタジオまで自転車で通われていたこともありました。今思えば、体力をつけようと思っていたのかな......。「先生、無理しないで〜」って、心の中で思っていましたけど。

 

 

◾️いつのまにか社内の情報通に

 

──当時は手塚先生も新座スタジオで仕事をされていたわけですよね。

 

4階の角部屋が先生の部屋で、壁1枚隔てた隣がアシスタントの部屋でした。行き来するには一度廊下に出る構造ですが。

 

──隣の部屋で仕事をされていたんですね。青山さんはどんなお仕事を?

 

力不足すぎて、雑用ばかりやっていました。ベタや線引きを頼まれたり、やることがなくてスクリーントーンの切れ端を整理したり......。先輩たちは忙しくしているのに、私はまだまだ技術が足りなくて。

 

──でも、入社したばかりなんてそんなものですよね。

 

もちろん仕事は教えていただいたんですが、「こんちくしょう、先輩よりうまくなってやる!」という気概がなくて。自分の仕事がないと書庫で手塚マンガを読み耽ったり、アニメ部や資料室に顔を出して、慣れ慣れしくあちこちでおしゃべりしたり。もう、考えられないようなことをしていましたね。背景がうまいとか、下手に実力があったらどんどん仕事を振られますから、あちこちでおしゃべりする暇はなかったと思いますが。

 

──きっと、社内の潤滑油的な存在だったと思います!

 

たしかにあちこちで話をしているから、マンガ部で「いまアニメのほうはどうなの?」と聞かれれば、「あんまり忙しくないみたいですよー」とか「ちょっと大変な感じですねー」とか、情報だけは持っていました(笑)。

 

 

◾️「作画の代筆が回ってきたら......」の妄想

 

──当時マンガ部のアシスタントさんは何人ぐらい?

 

アシスタントチーフの福元さんがいて、たしか机が8個あったから、常時78人はいたと思います。忙しいときはベテランの方が応援に来てくださったりして。

 

──当時の連載はどんなものが?

 

どれも未完となってしまいましたが、『ネオ・ファウスト』『ルードウィヒ・B』『グリンゴ』の3本でした。先生の病状が厳しかったとき、『ルードウィヒ・B』だけは、アシスタントの大先輩である伴(俊男)さんが、1話か2話分だけ、作画の代筆をされていました。もちろんネームは先生が描いていますが。

 

──病床でも、ネームは描かれていたんですね......。

 

先生も現場に戻るつもりで、何とか連載をつなげようとしていたのだと思います。

そういえば、伴さんが『ルードウィヒ・B』を代筆しているのを見て、「もしかして自分にも回ってきたらどうしよう」って、一生懸命練習したのを覚えています。

冷静に考えたら、似せて描けるからって、代筆なんてできるわけないんですけど。我ながら自分の思考が怖いです。

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『ルードウィヒ・B1987年〜1989年)[未完]

ベートーヴェンの半生を描いた作品。ドイツで生まれたベートーヴェンは、音楽家である父から音楽の英才教育を受け、才能の芽を伸ばしていく。しかし公爵の息子フランツの理不尽な敵愾心によって耳を殴られ、そのときの傷がもとで耳がときどき聞こえなくなっていく......。

◾️「先生の部屋に入るな」お使いでの大失態!?

 

私が唯一積極的にする仕事が、みんなの夜食を買いに行くことだったんです。できることがなさすぎて、みんなのサポートをすることに生きがいすら感じていましたね。

「コンビニで梅おにぎりを買ってきて」って言われたら、「梅おにぎりがなかったら?」「鮭」「じゃ、鮭がもしなかったら?」って第3希望くらいまで聞いたりして。

 

──それ、仕事ができる人のやり方ですよ。

 

手塚先生からもおつかいを頼まれることがあったんですが、「あのコンビニの2列目の棚の何段目のこの辺にあるから」とかおっしゃるんです。

 

──すごいですね。コンビニの棚の商品位置まで覚えているんですね。

 

あるとき先生に頼まれたものを買って、先生の部屋をノックすると、中から「はい」って聞こえたものですから、ドアを開けて先生の机の横まで行ってお話ししたんです。

「先生、たしかグレープって聞いたんですけど、グレープとグレープフルーツがあったから、両方買ってきちゃいました」「ああ、こっちかな?」「やっぱりグレープフルーツだったんですね」みたいな感じで。

先生が「お金は大丈夫かい?」なんて心配してくださるから、「大丈夫です!(アシスタントチーフの福元さんにもらえるので)」と答えて。先生も始終にこにこうれしそうにされていて、私が自分の席に戻ったら......。

 

──戻ったら?

 

......アシスタントの先輩にめちゃくちゃ怒られました。「なんで部屋まで入るの?」って。ノックして返事があったからズカズカ入っちゃったんですけど、通常はドアの外で待って、先生がドアのところまでいらして原稿などの受け渡しをするという暗黙のルールがあったんですね。みんなから「ありえない」って言われてしまいました。

つまり、アシスタントごときが先生の部屋に軽々しく入ってはいけないということです。部屋に入れるのは社長とか上の人だけで。でも、先生ご本人もニコニコしていたから全然わからなかったんですよ......。

 

──青山さんの人懐っこさもあって、先生も違和感がなかったのでしょうね。

 

私は当時、業界の常識や距離感をよく分かっておらず、考えなしにうっかり部屋に入ってしまうことが何度かあって、毎回怒られました。先輩たちはきちんと一線を引いて、私のようにヘラヘラと馴れ馴れしくするようなことはありませんでしたから......。

今となってはいい思い出ですが、当時はいろいろやらかしましたね。

 

──若さゆえの怖いもの知らずの一面があって、周りから見ると「おいおい」って感じだったんでしょうね。

 

本当に、空気読めなかったーーー。申し訳なかったです。

 

 

◾️超難問!?「ヒョウタンツギ」のコマを言い当てる

 

何もできないアシスタントでしたが、みんなの役に立てたエピソードもあります。

先生の過去の原稿を整理しているとき、資料室の森さん(編注:元資料室長・森晴路)がヒョウタンツギの切り貼りを持ってきて「これ、どこの絵かわかる?」とみんなに聞いたんです。切り貼りが剥がれてどの作品に使ったものかわからなくなってしまったらしくて。

ヒョウタンツギなんてありとあらゆるところに脈絡もなく出てくるでしょう。でも、私は見た瞬間に「あ、これは『ブラック・ジャック』の「クマ」で、ブラック・ジャックが雪の中を兄妹を訪ねるシーンですよ」って、すぐにわかったんです(笑)。

 

──(該当ページを探して)す、すごい。なんの特徴もないヒョウタンツギ、普通はわからないですよ!

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『ブラック・ジャック』「クマ」より

ブラック・ジャックが幼なじみの女性から「クマ退治に取り憑かれた兄を助けてほしい」との手紙をもらい、兄妹の家を訪ねるシーン。該当のコマは2段目中央。切り貼りのヒョウタンツギに後ろの小さいヒョウタンツギはなく、青山さんは単体のヒョウタンツギのみを見てこのコマを当てたという。

背景があればわかりやすいですけど、単体でわかったのは我ながら笑ってしまいました。森さんも「やばい、本当にそうだ」って言っていました。

 

──やっぱり青山さんの手塚愛はすごい......。

 

私でもなぜすぐに答えられたのかわからないんですけど。

 

 

◾️はからずも、同じ映画を見ることに

 

ある日先生専属の運転手さんが「映画のチケットあるけど、行くか?」って言ってくれて、「行きます!」と答えて、会社帰りに都心の映画館まで行ったんです。たしかベティちゃん(ベティ・ブープ)が出てくる映画(編注:1988年公開の『ロジャー・ラビット』にベティ・ブープがカメオ出演しており、その試写会だったのではと思われる)だったと思います。

そうしたら、少し前に座っている男性が「サインください」ってサインを求められていて、誰かと思ったら手塚先生でした。まだ仕事をしているはずなのに、抜け出していたらしいです。

 

──大好きな先生がすぐそこにいたわけですね。

 

私はもう先生が気になって気になって、映画どころじゃなかったです。さすがに声をかけることはできなかったですが。ドキドキしながら斜め後ろから見るだけでしたね。

 

◾️『木を植えた男』の読み聞かせ

 

こんなこともありました。

あるとき、手塚先生が私たちのいるマンガ部にやってきて、フレデリック・バックの『木を植えた男』(編注:発行日からこぐま社『木を植えた人』だった可能性も)という絵本を読んでくれたことがあるんです。おそらく体調も決してよくなかった時期だと思いますが。

絵本とはいえかなり文字の多いもので、丸々一冊、最後まで、子どもに読み聞かせをするように読んでくださったのを覚えています。

 

──いいお話だからと、みんなにも読んであげたくなったのでしょうか。

 

先生は当時海外から帰ったばかりでしたから、おそらく海外での評判を聞いたのかもしれません。

私は一番前で聞いていましたが、先生が読んでくださっていることに感動して、体力は大丈夫かなとな心配もしつつ、内容は全然入ってこなかったんですけど......。もちろんすぐに本屋さんに行って、買って読みました。いまだに何度も読み返しています。

 

──題名は聞いたことがありますが未読でした。手塚先生が読み聞かせしたくなるほど感動した絵本、気になります。

 

[第3回に続く]


yamazaki.jpg山崎潤子

ライター・エディター。
幼少期より漫画漬けの生活を送ってきた生粋のインドア派。
好きな手塚作品は『ブラック・ジャック』。著書に『10キロやせて永久キープするダイエット』などがある。


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