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関係者インタビュー 私と手塚治虫 堀田あきお&かよ編 第2回 アシスタント時代を彩った愛すべき登場人物たち

2024/11/01

関係者インタビュー

私と手塚治虫 堀田あきお&かよ編

2回 アシスタント時代を彩った愛すべき登場人物たち

文/山崎潤子

関係者に話を聞き、さまざまな角度から手塚治虫の素顔を探っていこうという企画です。今回はマンガ家の堀田あきお&かよさん。『手塚治虫アシスタントの食卓』では、夫のあきおさんのアシスタント時代を描かれています。手塚治虫の話はもちろん、当時のエピソードやマンガ制作の裏話を伺いました。

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PROFILE

堀田あきお&かよ(ほった・あきお&かよ)

マンガ家。

「あきお」は1978年に手塚プロダクション入社、手塚治虫のアシスタントを経て、『少年チャンピオン増刊』(秋田書店)に掲載された『天使の翼』マンガ家デビュー。学年誌、青年誌など幅広く活躍する。編集者だった「かよ」と結婚後、2人でマンガを描き続ける。『手塚治虫アシスタントの食卓』(全2巻)『不妊治療、やめました。~ふたり暮らしを決めた日~』『親の介護、はじまりました。』『親の介護、10年め日記。』『おふたりさま夫婦、老活はじめました。~どうなる!?  私たちの老後~』(すべてぶんか社刊)などの著書がある。

https://akikayo.com/


 

◾️恵まれていたアシスタント生活

 

──手塚先生のアシスタント時代について、改めてお聞きしたいのですが。

 

あきお:僕らの時代は1日徹夜すると、2日休みがとれたんですよ。つまり24時間働くと、8時間×33日分働いたっていう考え方。だから徹夜明けの朝から翌日まで休みになるんです。

 

──なるほど、8時間×3で3日分とカウント......徹夜はあるものの、ある意味かなりの好条件ですよね。

 

あきお:しかも休み中に人手が足りなくて「堀田くん、今日どう?」なんて声をかけられて、出勤すれば時間外の手当がしっかりついたんです。僕らの前の代の先輩たちの時代には、なんとボーナスが12ヵ月分あったんですよ。

 

──ボーナス12ヵ月ってすごすぎます。

 

あきお:僕らはそれを聞いてものすごいワクワクしていたんですが、3ヵ月になっちゃった。先生がアニメはじめちゃったからね(笑)。

 

──アシスタントさんの年代ごとに、条件もいろいろなんですね。

 

あきお:僕らの時代はボーナスも減ってアニメもはじまったけど、とても恵まれていた時代だったと思います。一緒に入社した同期とも仲がよくて、とにかく人間関係がすごくよかったんです。

 

──恵まれているといえば、夜食のことも『手塚治虫アシスタントの食卓』に描かれていましたね。

 

あきお:徹夜をすると深夜の夜食と翌日の朝食が会社持ちになるんです。夜食は事務所のビルの地下にある「杉っ子」という僕らからすれば少し高級な小料理屋さんみたいなお店で、何をどれだけ食べてもいい。いくらまでという制限もなかったんですよ。朝食は喫茶店のモーニング。そのうち夕食代の支給も勝ちとったくらいだから、本当にいい会社でしたよね。

 

◾️同期アシスタントの面々

 

あきお:当時は本当にいい時代でしたよね。今よりモノや情報は少ないけれど、なんというか、未来を信じながら生きられた時代だったような気がします。それは僕らみたいな仕事だけじゃなく、もちろんサラリーマンの人たちもそうだし、社会全体に希望があったような気がしますね。

 

──景気が上り調子だったのあるでしょうが、下手にモノや情報がないからこそ、自分の道を進めたみたいなものもあるでしょうね。

 

あきお:そうですよね。今は情報が多すぎてどうしても萎縮しちゃったりとかね。

 

──『手塚治虫アシスタントの食卓』では、当時の様子が生き生きと描かれていますよね。石坂啓さん(Fクダさんとして)、わたべ淳さん(Wタベくんとして)、高見まこさん(Nブくんとして)など、過去にこの連載に登場した人物も出てくるので、うれしくなります。

 

かよ:当時のアシスタント仲間は、今でも仲がいいんですよ。私もみなさんにお会いしていますし。

 

──以前お話を聞いたわたべ淳さんが「自分は長髪にロンドンブーツみたいな格好をしていた」とおっしゃってましたが、『手塚治虫アシスタントの食卓』ではまさにそんな感じで描かれていて、笑ってしまいました。

 

あきお:彼はジョン・レノンかさだまさしだって自分で言っていました(笑)。あとから聞いたら、彼の丸眼鏡は特注だったそうです。当時あの形はなかなかなかったんですね。たしかにわたべ君はおしゃれだったし、石坂さんも風変わりな(ジャニス・ジョプリン風の)服ばかり着ていましたね。

 

──眼鏡で思い出しましたが、『手塚治虫アシスタントの食卓』では、手塚先生の「眼鏡のぶ厚さ」が表現されていますよね。実際に近くにいた人にしかわからないディテールだなと思いました。

 

あきお:今はレンズも薄くなったけど、当時は度の強さがそのまま厚さに出るからね。

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『ザ・クレーター』より「三人の侵略者」(1969年)(『ザ・クレーター』所収)

脱獄囚に化けて地球人を偵察に来た宇宙人が、避暑地の重井沢にやってくる。別荘で缶詰になっているマンガ家・手塚治虫を「知識豊富な学者」であると勘違いして頭の中身を吸いとったものの、いつも締め切りに追われる売れっ子マンガ家の脳は......。

 

◾️手塚治虫の「パンイチ」エピソード

 

──そういえば、手塚先生のファッションは、どんな感じでしたか?

 

あきお:マンガを描いているときは、それこそランニングとか上半身裸とか、とてもマンガの神様とは思えませんでした。

 

──『手塚治虫アシスタントの食卓』で、あきおさんが手塚先生の部屋に原稿をとりにいくと、手塚先生がパンツ一丁で、胸の辺りを隠して出てくるシーン。あれ、一番好きなシーンかもしれません。

 

あきお:あれは僕もショックだったんです(笑)。何せマンガの神様がパンイチなんですから。

でも、あまりの忙しさで身なりになんかかまっていられなかったんでしょう。夏の暑い時期は本当にあんな感じでした。でも、パンイチだけどなぜか乳首を隠すところに、先生の上品さを感じるんですよね。

フォローするわけじゃないけど、先生は人前に出るときは本当にパリッとして、かっこよかったですよ。詳しいことはわからないけど、眼鏡や服も舶来物だったんじゃないかな。それは手塚先生というより、奥さんがきちんと準備していたのかもしれないですね。

 

◾️福元さんの人徳と、モテ男の松谷マネージャー

 

──同期のみなさん以外にも、チーフアシスタントの福元さん(Fさんとして)、マネージャーの松谷さん(Mさんとして)など、『手塚治虫アシスタントの食卓』で脇を固める登場人物も濃いキャラクターですよね。

 

あきお:思えば、福元さんって本当にいい人だったんですよ。手塚先生とあまり変わらないくらいの年齢で、僕らから見ればだいぶ年上のおじさんみたいな感じでしたが、本当に温厚でね。僕らのような生意気な新人が入ってきて、えらそうなことばかり言うし、チーフアシスタントだから手塚先生にもあれこれ言われる。

それでもいつも、ひょうひょうとされていてね。実力もあって、マンガもアニメも描けて、長く先生の作品を下支えしてこられた方ですからね。当時のマンガの単行本を見ると「あ、これは福元さんの絵だな」なんて、懐かしく思い出します。

 

──アシスタント仲間だけでなく、みなさん仲が良さそうですよね。

 

あきお:本当にそうでした。仲のいい編集者が車で海に連れて行ってくれたり、暇なときは一緒に麻雀をしたりね。

手塚先生のマネージャーだった松谷さん(現在は手塚プロダクション社長)も、しょっちゅう飲みに連れて行ってくれたりして、近しくさせていただいていました。

 

──本当に、いい仲間だったんですね。

 

あきお:松谷さんも若くて、とにかくかっこよくてね。女性にモテまくっていましたよ。ときには僕らも女の人がいるような、ちょっと品のいい高級な感じのバーに連れて行ってもらうことがあったんですが、行くたびに「あら松谷さん、久しぶりじゃない。何やってたのよ」なんて女性たちに囲まれていました。

 

かよ:松谷さんがご結婚されたときの張り紙のエピソードもおもしろかったよね。

 

あきお:ここだけの話だけど、事務所のドアに恨み言が書かれた張り紙がしてあったんです。細かい文面は忘れたけど、松谷さんのことが好きだった女性のしわざね(笑)。

 

──たしかに、松谷社長はお年を召してもまだまだかっこいいですからね。

 

◾️名物編集長と手塚治虫

 

──秋田書店『週刊少年チャンピオン』の名物編集長の壁村さん(K村さんとして)も登場します。

 

あきお:アシスタントの中で、実際に壁村さんに会ったのは、僕くらいじゃないかな(笑)。

僕が『週刊少年チャンピオン増刊号』でデビューしたとき、ペンネームを「神楽坂あきお」にしたら壁村さんに却下されたのはいい思い出です。「そんな芸者みたいなのはダメだ」って。

 

──壁村さんは手塚先生に『ブラック・ジャック』を描かせたことでも知られていますが。

 

あきお:当時人気が低迷していた手塚先生に『ブラック・ジャック』を描かせたのは、壁村さんの一存だそうですからね。そういう意味では、手塚先生を救ったのは壁村さんなんですよね。壁村さんは、手塚先生の力を信じていたのはもちろん、やっぱり人として、先生のことを好きだったような気がします。

 

──手塚先生は『ブラック・ジャック』で不死鳥のようにマンガ界に蘇ったわけですから、人の縁ってすごいですね。

 

あきお:僕らが手塚プロダクションに入社した頃は『ブラック・ジャック』はすでに大ヒットして、先生も連載をたくさん抱えていましたが、低迷期には手塚先生が持ち込みをされていた時代もあったそうです。

 

──え! そんな時代が。

 

あきお:僕の先輩アシスタントは、先生と一緒に出版社回りをしたそうです。劇画が主流になっていた頃は、先生もご苦労されていたわけですよね。ただ、そのぶん先輩たちは僕らよりもっともっと手塚先生と距離が近かったわけで、ちょっとうらやましいですね。先生ともっと関係が近ければ、たまには冗談を言ったりしてみたかったです。

僕らが入社した頃、手塚先生はそうそう声もかけられないし、話すのにも緊張するような大先生でしたから。

 

[第3回に続く。次回は手塚治虫のエピソードや超絶技法について聞いていきます]


yamazaki.jpg山崎潤子

ライター・エディター。
幼少期より漫画漬けの生活を送ってきた生粋のインドア派。
好きな手塚作品は『ブラック・ジャック』。著書に『10キロやせて永久キープするダイエット』などがある。


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