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関係者インタビュー 私と手塚治虫 濱田高志編 第4回  「手塚作品の復刻版をつくる」意義

2021/06/16

関係者インタビュー
私と手塚治虫

第4回 「手塚作品の復刻版をつくる」意義

文/山崎 潤子

手塚治虫先生の関係者に話を聞き、さまざまな角度から手塚治虫の素顔を探っていこうという企画です。濱田高志さんは、多数の手塚作品の復刻版を手掛けています。子供の頃に手塚漫画から受けた影響、手塚治虫本人との邂逅、そして現在のお仕事にどうつながっていったかなど、運命のような深い縁をお聞きしました。

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PROFILE


濱田高志(はまだ・たかゆき)


アンソロジスト、編集者、ライター。
宇野亞喜良、和田誠、柳原良平といったイラストレーターの画集の企画・編集、テレビやラジオ番組の構成・出演、音楽CDの企画などを手掛ける。これまで国内外で企画・監修したCDは500タイトル以上。手塚作品の出版は国書刊行会、立東舎の一連の復刻シリーズをはじめ、『手塚治虫表紙絵集』(玄光社)、文芸誌『新潮』の特集「手塚治虫のエロチカ」(新潮社)など多数。大阪府出身。

濱田さんが企画・編集、解題をつとめた手塚治虫の珍しい作品を集めた単行本はこちら


「手塚治虫アーリーワークス」
「手塚治虫コミックストリップス」


■復刻版に対する関係者たちの思い

──濱田さんが編集や監修をされた手塚作品で、思い出に残っているものはどれですか?

どれも思い出深いですが、しいていうなら単行本の表紙を集めた『手塚治虫表紙絵集』(玄光社) でしょうか。
これは手塚プロダクションの森さんと一緒にはじめたものですが、今までにないものをつくろうっていう意気込みでした。森さんもご自身のコレクションからも何百点ものデータをスキャンしてくださって。二人して「自分たちが本当にほしいものをつくろう」って燃えていたんですよ。
でも、制作途中で森さんが亡くなってしまって......。森さんは手塚漫画の生き字引のような方で、いつも何かあれば森さんに聞けばいいって思っていましたから、森さんの訃報を受けて途方に暮れましたね。ですが、資料室の田中さんをはじめ、888ブックスの吉田宏子さんや二階堂黎人さんら多くの方々の協力を仰ぎながらなんとか完成させました。それだけ大変な思いでつくったものなので、特に印象深いんです。

あとは『新潮』が初めて増刷になったという「手塚治虫のエロティカ」っていう特集企画。手塚るみ子さんと一緒に関わらせていただいたものですが、あれはかなり話題になりましたし、思い出深い仕事のひとつです。拡散のタイミングや情報の打ち出し方など『新潮』編集部との連携がとてもうまくいったと思います。

あと、個人的に楽しかったのは『手塚治虫ヴィンテージ・アートワークス〈漫画編〉』と『同〈アニメ編〉』(立東舎)。アニメのコンテやイメージボードなど、漫画の本編からこぼれた絵を集めたものですね。他では見ることができない貴重なものがたくさん集められているので。

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──濱田さんのように企画・編集してくださる人がいないと世に出ませんから、貴重ですね。

あとは版元ですよね。版元担当者の理解がないと形にできません。
そして当然ですが、復刻については賛否両論があります。
たとえば森さんは手塚先生の存命時から先生ご本人に話を聞いているから「これは先生の本意ではないだろう」とか「これは出してもいいだろう」っていう、ある程度の判断基準を設けられていました。当然ですよね、権利元としては。しかし、僕は外野の立場なので、「自分が読みたいもの」「自分が好きなもの」っていうファン視点から、価値があるものはできる限り本の形で残していきたいという気持ちが強いんですね。

(手塚)眞さんに取材させていただいた際、眞さんは「復刻に関しては、習作やネームをはじめ発表を前提に描かれていないものが世に出るのは遺族として複雑な気持ちがある。ただ、自分もアーティストだから、漫画研究の素材として残すという意義はよくわかります。静観してはいるけれど、なんでもいいわけではない」とおっしゃっていて、その時は身が引き締まる思いでした。

もちろん個人的な日記のようなものは考えられませんが、手塚プロダクションの出版局長だった故・古徳(稔)さんも「手塚治虫は特別な存在なんだから、残したものにはすべて文化的意義がある。作品にまつわるものは後進のためにも残すべきだ」と賛成してくれて、ありがたかったですね。そんな古徳さんも亡くなってしまって、本当にショックでした。

──復刻についてはいろいろな考え方があるんですね。

復刻に関しては、僕自身意義を感じてやってきたものだし、森さんや古徳さんも応援してくれました。資料室の田中(創)さんにも多大な協力をいただいています。もちろん、出版不況で市場はなかなか厳しいですけど、可能な限り続けていきたいですね。

■こだわり抜いてつくった『手塚治虫アーリーワークス』『手塚治虫コミックストリップス』

──この『手塚治虫コミックストリップス』(888ブックス〈ハチミツブックス〉)も、濱田さんが手掛けたものですよね。

これは『手塚治虫アーリーワークス』に続いてつくったものですが、どちらも非常に手がかかっているんですよ。

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『手塚治虫コミックストリップス』
新聞連載漫画が3冊にまとめられている。収録作品は「タイガーランド」「アバンチュール21」「ケン一探偵長」「タツマキ号航海記」など。

──はい。現物を見るとそれがよくわかります。

アーリーワークスとコミックストリップスについては、コロナ禍を受け、他社で企画が宙に浮いてしまった状況から、888ブックスの吉田さんが出版を引き受けてくれました。吉田さんにはもともと手塚先生の他の本の制作を手伝ってもらったという縁もあったんです。888ブックスのようなリトルプレスだからこそ実現できたような企画ですね。

アーリーワークスに収録した『ロマンス島』や『マアチャンの日記帳』は、すでに刊行されていました(『ロマンス島』は講談社「手塚治虫文庫全集」の全巻購入者特典として)。でもこれまでのものは、原稿をコピーして修正されているなど、本当の意味での初出版ではないということで、抜けのあった部分もプラスして完全版になっています。さらにこぼれた新聞漫画を集めてまとめました。

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漫画『マアチャンの日記帳』は(1946年)
新聞連載の4コマ漫画で、手塚治虫のデビュー作。明るくやんちゃなマアチャンが、父母や近所の子どもたちと繰り広げる楽しい騒動が描かれている。

──装丁は祖父江慎さんで、本当に凝っていますよね。

888ブックスの吉田さんが祖父江さんとは長いお付き合いで、祖父江さん自身も手塚漫画のファンということでお願いしたんです。そうしたら、本当に素晴らしいものができたわけです。

アーリーワークスの制作秘話はこちら

──『手塚治虫アーリーワークス』も『手塚治虫コミックストリップス』も、物体としての魅力がありますよね。紙や印刷の雰囲気も、デジタルではわからないよさがあるというか。本が好きな人は装丁や質感も含めて愛するものですから。

実際に手に取らないと、なかなか伝わらないですけどね。この判型も888ブックスだからこそ実現しました。採算度外視でこだわり抜いてつくりましたから。

──たしかに判型もすごいですよね。この長さ!

コミックストリップスについては、新聞連載されたものをほぼ原寸で初めて単行本にしたんです。とても貴重なものだと思います。

あと、収録作品のほとんどが手塚先生の書き文字なんですよ。先生の書き文字は味があって、非常に読みやすいんです。

──たしかに、伝わるものがありますよね。「手塚治虫フォント」としてほしいくらいです!

書き文字によって誌面の印象も変わりますから、すでに作品を読んだことのあるマニアの人やファンの人にも再確認してほしいですね。

■初心者は短編・中編集から入るのもあり!

──手塚漫画の初心者向けに、濱田さんのおすすめを教えてください。

当然ながら、まず読んでほしいのは代表作ですね。『ジャングル大帝』なんて、巻数は少ないのにものすごく壮大なテーマですから。
手塚治虫といえば『鉄腕アトム』や『ブラック・ジャック』のイメージが強いと思うけど、本当に読みきれないほどの作品群があります。だから短編集から入ってもらうのもおもしろいと思います。最近『空気の底』のオリジナル復刻版を二十代の子に薦めたら、すごくおもしろかったっていう感想をもらいました。

──短編なのにめちゃくちゃ中身が濃いですからね。

『空気の底』なんて50年以上前の漫画なのに、若い人が読んでもおもしろいわけですから。短編・中編のアンソロジーから入るのもいいと思います。

──手塚作品のマニアには、どんなものをおすすめしますか?

たとえば『マアチャンの日記帳』。知っているし持っているっていう人が多いと思いますが、復刻版は既刊とは違うっていうことをわかってほしいですね。アーリーワークスのマアチャンはオリジナルで、これまでのものは相当な修正や書き換え、あるいはトレースされたものでしたから。

──オリジナルと単行本の違いも楽しむのがディープな手塚ファンですよね。

各社、やみくもに復刻版を出しているわけじゃないですから、復刻版を読み直す意味はあります。たとえば『アドルフに告ぐ』だって、オリジナル版はエピソードの順番も違うんですよ。それによって物語全体の印象が随分変わっています。

──最後に、復刻版のお気に入りを教えてください。

そうですね。自身が関わったもので5つ選ぶとすれば、初めてつくった『冒険狂時代・ピピちゃん』(国書刊行会)、それから『手塚治虫表紙絵集』(玄光社)、『ふしぎなメルモ トレジャーブック』(玄光社)、『鉄腕アトム プロローグ集成』 (立東舎) 、そして888ブックスの『手塚治虫アーリーワークス』と『手塚治虫コミックストリップス』でしょうか。あ、6つになりましたね(笑)。アトムのプロローグ集成とメルモのトレジャーブックは、僕が子供の頃、こんなのがあればいいなあ、と夢想していたものです。

──次の企画も楽しみにしています!

これまで40冊の復刻版をつくらせてもらっているので、50冊つくれたらひとつの区切りをつけようと思っていますが、コロナ禍のさなか、どうなることやらですね(笑)。とりあえず41冊目の企画はすでに着手していますし、その次も決まっているので、楽しみにしていてください。

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yamazaki.jpg山崎潤子

ライター・エディター。
幼少期より漫画漬けの生活を送ってきた生粋のインドア派。
好きな手塚作品は『ブラック・ジャック』。著書に『10キロやせて永久キープするダイエット』などがある。


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