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関係者インタビュー 私と手塚治虫 手塚 眞編 第1回 僕がいま、映画『ばるぼら』を撮った理由

2020/11/16

関係者インタビュー

私と手塚治虫

1回 僕がいま、映画『ばるぼら』を撮った理由

文/山崎 潤子

手塚治虫先生の関係者に話を聞き、さまざまな角度から手塚治虫の素顔を探っていこうという企画です。今回は手塚治虫の長男、手塚眞さん。これまで数々の映像作品を手がけてきた眞さんが、手塚漫画の中でもカルト的人気を誇る『ばるぼら』を実写映画化(20201120日全国公開)。撮影時のエピソードや原作への思い、そして父・手塚治虫の漫画についてお聞きしました。

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手塚 眞

ヴィジュアリスト。1961年東京生まれ。高校生の時に8mmで映画製作を始め、大学在籍中から映画、テレビ、ビデオなどさまざまなメディアで活躍する映像クリエイター。映画『白痴』(1999年)はヴェネチア国際映画祭でデジタル・アワード賞を受賞、世界的に注目された。ネオンテトラ代表取締役、手塚プロダクション取締役、手塚治虫文化財団代表理事、手塚治虫記念館名誉館長兼総合プロデューサー、宝塚市大使などを務める。


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11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開

 公式サイト:https://barbara-themovie.com/

■なぜ『ばるぼら』だったのか

────何度も同じ質問をされていると思いますが、数ある手塚漫画の中からなぜ『ばるぼら』を映画化されたんですか?

手塚眞(以下、手塚):本当に、みなさんそこをお聞きになるんですよね。僕が映画化するなら......当たり前くらいに思っていただけるかと思っていたのですが(笑)。

────一般読者にすればマイナーですが、たしかに監督が選びそうな作品です。

手塚:僕が選ぶなら、やっぱり『どろろ』『バンパイヤ』『ばるぼら』あたりでしょうね。以前から好きだった作品です。ただ『どろろ』*は既に映画化されているし、『バンパイヤ』の企画もあるけれど、全然進まない(笑)。『ばるぼら』は今まで自分がつくってきた映画のイメージに近いし、ストーリーの構造がシンプルで、場所も登場人物も限定されている。3つの中では、実現できる可能性が高かったわけです。

*映画『どろろ』(2007年)

監督:塩田明彦、キャスト:妻夫木聡、柴咲コウ、瑛太、中井貴一 他

────『ばるぼら』は手塚漫画の中では大人向けというくくりですよね。

手塚:大人っぽさがあったり、あどけなさがあったり、いろいろなものが同居した漫画だと思います。それから、これは表現者としての欲求なのでうまく説明がつかないのですが、今は「エロティックなものをつくりたい」という気持ちもあったんです。そういう意味でも『ばるぼら』はぴったりでしたね。

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『ばるぼら』(漫画)(1973年〜1974年)

小説家・美倉洋介は、ある日新宿駅の片隅でバルボラという少女に出会う。気まぐれなバルボラに振り回されながら、美倉はだんだん彼女の魅力にとりつかれていくが......。

■主演の2人は映画の中でたしかに生きていた

────主演の稲垣吾郎さんと二階堂ふみさんは、監督から見ていかがでしたか?

手塚:彼らは完璧に演じてくれました。監督として映画をほめられるとき、「いい作品でした」とか「感動しました」と言われてもピンとこないんです。それよりも「主役がよかったですね」って言われるのが一番うれしい。わかるとかわからないよりも、主役をほめられることで「ああ、よかった」と思います。監督冥利に尽きます。

────映画を観たあと、ばるぼらは二階堂ふみさん、美倉洋介は稲垣吾郎さん以外考えられなくなりました。それくらいハマっていました。

手塚:それはやはり、俳優が映画の中で「その役を生きている」ということだと思います。ただ演じるのではなく、その役になりきっているからこそ、観客側も彼らの存在を信じられる。たとえ原作と違うところがあっても、映画の中ではその人物が生きている。観客にそう感じさせることができたなら、俳優がすばらしい仕事をしたということだと思います。

────演技について、稲垣さんや二階堂さんに何か特別なリクエストはありましたか?

手塚:2人とも頭がよくて理解力があって、しかも勘もいい。だから演出は楽でした。僕があれこれ言う必要はなかったんです。

撮影に入る前、役柄について個別に話し合いをする時間をとったんです。稲垣さんとは2時間ほぼ雑談をして、その雑談の中で気持ちが通じ合えたから、それで十分だと感じました。

二階堂さんは「今回、あまり自分は考えないで現場に行きたい、あまり考えすぎるとわからなくなるから」と言っていました。「衣装を着て現場に行って、カメラの前でやってみるから、監督が気になることがあればおっしゃってください」ということだったので、じゃあそうしましょうということになったんです。

そして、初日に2人がカメラの前に立って演技をするのを見ていたら、文句のつけようもない。撮影監督のクリストファー・ドイルさんは僕の意見も聞きながら、たくさんのアイデアを彼らに投げかけていました。彼はアーティストとしての思いもある方ですから。それを受けた2人の演技が素晴らしくて、僕はもう、眺めていればいいというくらいでね(笑)。

■ばるぼらはピノコにつながるキャラクター!?

────ばるぼらというキャラクターについてどう思われますか?

手塚:原作のばるぼらは、おてんばで快活で、さばさばしている、男勝りなキャラクターですよね。『ブラック・ジャック』のピノコにつながっていくキャラクターだと思います。

ただ、ああいったタイプの女性キャラは、むしろ手塚漫画のヒロインらしいとも思います。たとえば『リボンの騎士』のサファイアも、男装のときとお姫様の格好をしているときでは少し性格が変わって見えるじゃないですか。

────中性的な感じ?

手塚:中性的というより、二面性がある。実際は同じ人間だけれども、場面によってどちらかに振れるという感じだと思います。だから場面によって雰囲気が変わって見える。そういう意味ではばるぼらも、すごく女性的なところがあったり、ボーイッシュなところがあったりします。

────手塚先生は女性を描くのが苦手なんて言われることもあるようですが。

手塚:実はそれ、父が自分で言っているだけなんですよ。僕はそうは思いません。もともと手塚ファンだった漫画家の先生たちは「やっぱり手塚治虫といえばエロだ」って、口をそろえておっしゃいます。みなさん手塚漫画の女性キャラにほれてくださっているわけですから。

そもそも、手塚漫画自体が女性的なんですよね。男の漫画っていう感じはしないですから。

■核となるのはシンプルなラブストーリー

────原作の『ばるぼら』はいろいろなメタファーがちりばめられていて、つい行間を読みたくなるような作品だと思うのですが。

手塚:たしかにいろいろな意味を含んだ漫画であるような気もします。でも、実はストーリーは難しいものではなくて、シンプルだと思うんです。

美倉洋介という作家がばるぼらという少女に出会い、それからの2人の関係を描いているわけですから、軸となっているのは男と女の話です。政治的なエピソードも少し出てきますが、話はそちらの方向には流れない。たとえば『奇子』なんて途中からどんどん政治的な話がからんできますし、『きりひと讃歌』も世界を股にかけて物語が展開するでしょう。これらと比べても、『ばるぼら』はいたってシンプルですよ。

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『奇子』(漫画)(1972年〜1973年)

東北の大地主・天外家に生まれた奇子は、ある事件を目撃したことで幼い頃から土蔵の中で育てられた。純粋なまま大人の女性に成長した奇子は22年ぶりに外に出て、欲望渦巻く現実世界に翻弄される。

────読者としてはつい「手塚治虫が語る芸術とは」みたいな深い意味を探ろうとしてしまいがちですよね。

手塚:芸術がどうのこうのという話は、主人公の境遇ですからね。ストーリーが芸術と関係があるわけでもないので、僕は純粋なラブストーリーととらえています。だからあまりよけいなことを描かず、ばるぼらと美倉の話を描きたかったんです。

■時代を感じさせない新宿の空気感

────映画の『ばるぼら』では、現代とは違った雰囲気があったように感じました。昭和の雰囲気があるというか。

手塚:そうおっしゃる方も多いのですが、僕からすると昭和というつもりはないんですよ(笑)。たしかに原作は1970年代の作品ですけどね。『奇子』が昭和っぽいといわれるならわかるけど、僕は『ばるぼら』について、あまり時代を感じない漫画だととらえていたんです。

────なるほど。特定の時代を感じさせない雰囲気といえるのかもしれません。

手塚:『ばるぼら』の舞台は新宿ということになっていますから、映画も新宿で撮影しています。僕はもともと新宿という街が好きで、今まで何本も新宿で映画を撮っているんです。学生の頃も新宿の地下街で撮影したり、とてもなじみのある場所です。

実は新宿という街は、何十年も空気感が変わらない場所だと思っています。西口には多くのビルが建ち、南口は大きく再開発されましたが、渋谷のように時代によってガラリと変化するわけじゃない。新宿という街自体が変わってしまったという感じはしないんです。たとえば歌舞伎町界隈なんて、今も昔もあまり変わっていないですしね。

────たしかに、新宿はずっと新宿らしさを保っている街でもありますね。特に歌舞伎町は、少し路地に少し入ると風景が何十年も変わらない感じがします。新宿という場所が、一定の時代を感じさせない空気感になっているわけですね。

手塚:そうだと思います。だから今回はあえて作品が描かれた1970年代にこだわっていません。70年代を無理やり再現しようとすれば、人々のファッションから建物から、よけいなところに力を使わなきゃならない。それよりも主人公2人の関係性、そこだけに焦点を当てたい。新宿を舞台にすることで、背景は現代でもいいんじゃないかという気がしたんです。

現在と当時と一番違うところはどこかといえば、人がスマホを持っているか持っていないか。だから昔とあまり変わらない新宿の雑踏の映像でも、あえてスマホを見せることで、なんとなく現在の話だとわかればいいかなというくらいで。

────ばるぼらの髪型やファッションも、一周回って現代に通じるような気がします。

手塚:10年、20年前だと少し古く見えたかもしれないけど、今はなんでもありですからね。観客のみなさんから見ても違和感はないかなと思います。

次回は『ばるぼら』について、さらに深いお話を語っていただきます!


yamazaki.jpg山崎潤子

ライター・エディター。
幼少期より漫画漬けの生活を送ってきた生粋のインドア派。
好きな手塚作品は『ブラック・ジャック』。著書に『10キロやせて永久キープするダイエット』などがある。


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