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関係者インタビュー 私と手塚治虫 わたべ 淳編 第3回 超マル秘エピソード「手塚治虫と一緒に〇〇を......!? 」

2024/07/12

関係者インタビュー

私と手塚治虫 わたべ 淳編

3回 超マル秘エピソード「手塚治虫と一緒に〇〇を......!?

文/山崎潤子

関係者に話を聞き、さまざまな角度から手塚治虫の素顔を探っていこうという企画です。今回は漫画家のわたべ淳さん。前回の石坂啓さんらとともに、手塚プロダクションで手塚治虫のアシスタントを務められました。当時の知られざるマル秘エピソードの数々や、手塚治虫の印象的な言葉などを中心にお聞きします。

 

prof_watabe.jpgPROFILE

わたべ淳(わたべ・じゅん)

漫画家、作家。

東京都生まれ。

 

東京都出身。小学生、中学生、高校生時代を富山市、金沢市などで過ごす。1978年に手塚プロダクションに入社、1980年に『海へ...』にて「ヤングジャンプ」でデビュー。主な作品に『レモンエンジェル』『ホウキとオートバイ』などがある。


 

■缶詰旅館の思い出

 

アニメの仕事が忙しくなると、高田馬場の会社がアニメで占領されてしまうんです。

だから、僕ら漫画部は道具を持って出版社の会議室に出張したり、漫画家が缶詰にされることで有名な神保町の「錦友館」という旅館で寝泊まりして描くこともありました。当時は「俺たち、流浪の民みたいだな」なんて言いながら仕事をしていましたが、今となっては楽しい思い出です。

 

──アニメは外注もたくさん頼んで、人海戦術でやっていたそうですよね。

 

有名な漫画家さんが助っ人にくることがありましたよ。永島慎二さん、御厨さと美さん、坂口尚さん......。僕は御厨さんのファンだったから、サインをもらおうと思ったらマネージャーに止められました。そんなことをする暇があったら1枚でも多く描いてほしいんだからって。

 

──そんなビッグネームが助っ人に!

 

僕らが旅館の部屋で漫画の仕事をしていたとき、テレビをつけたら先生も同じ部屋にやってきて、つけたまま作業していたんです。

そのとき、クイズ番組で「おでこはどこからどこまででしょう?」っていう問題があってね。当時の先生は髪の毛が少し薄くなっていたから、みんな笑いたいけど気をつかって何も言わなかったんです。そうしたら、先生がいきなり自分のおでこに手をあてて確認していてね。あのときは笑いを噛み殺しました。

 

──さすがに突っ込めないですよね(笑)。でも、缶詰になると同じ部屋で作業されることもあったんですね。

 

 

■もらえなかったサインとトイレの蚊

 

そんなときは先生の後ろに立って、先生が描くところをずっと見ていたかったけど、そういうわけにもいかないですからね。

 

──近くにいても、なかなかそういう機会はないんですね。

 

見学で会社にやってきた子どもたちは、遠慮なく先生に「サインください!」って言えるけど、僕らはほしくても言えない。だから、我々はサインも持っていないんですよね。

 

──意外とそういうものかもしれませんね。

 

機会があったら、もっともっと先生に余計なことを話しかけたいなと思っていたんですけどね。

 

余計なことといえば、徹夜仕事をしていたとき、トイレに行ったらたまたま手塚先生も入ってきて、横に並んだんです。そういうときって、友だち同士でもなければ話すことなんてないじゃないですか。

でも、そのときは冬場だったのに、なぜか目の前の壁に蚊が止まっていたんです。だから「あっ先生、こんなところに蚊がいますね」って話しかけたら、「そうなんです。このビルはあったかいから蚊がいるんですよ。蚊がここで冬を越すんです」って。

 

──シュールだけど、なんだかおもしろい会話ですね。

 

 

■手塚治虫が〇〇〇〇ビデオを? 知られざるマル秘エピソードがいま、明らかに......

 

──他にも、わたべ先生と手塚先生の個人的なエピソードはありますか?

 

実は、これまで一度も記事になっていない話があるんです。

 

──ぜひ教えてください。

 

講談社の『手塚治虫漫画全集』の表紙絵の作業をしていたときのことです。そのときはたまたま制作室に手塚先生と、僕と、担当編集者の3人しかいませんでした。先生のすぐそばで、緊張しながら作業していました。

 

そうしたら先生がいきなり「ビデオでも観ましょうか」というわけです。当時はまだVHSのビデオデッキで、先生のことだから、名作映画かディズニーかなと思ったんですけど。

 

──ちょっと息抜きがてらという感じだったんでしょうか?

 

それがなんと、アダルトビデオだったんです。

 

──えー!(笑)

 

僕らが面食らっていたら、先生は「最初は面白くないんですよ」って言いながら、早送りで飛ばして......。

 

──つまり、肝心なところまで?

 

そうです。「ストーリーを大事にする手塚先生も、こういうのは早送りするのか」って思いましたよ(笑)。たしか洋物で、画質も荒い感じだったのを覚えています。

 

──3人で観たんですか?

 

といっても、作業をしながらね。手塚先生も作業しながらチラッと眺めるくらいでした。

僕が「これって本当にしてるんですかね?」なんて話しかけたら、先生が「これは演技ですよ」なんて言っていました。

 

──漫画の表紙絵を描きながら、アダルトビデオが流れる空間......。

 

手塚先生は終始クールな態度でした。別に先生がアダルトビデオを観たかったわけじゃなく、僕らに対するサービスだったんじゃないかなと思うんです。

 

──なるほど。頑張って仕事をしている若者へのサービス......(笑)。

 

たまたま何かで必要があったんでしょうか。そんなビデオが手元にあったんでしょう。でも、他の先輩たちに聞いても、先生と一緒にアダルトビデオを観たなんて聞いたことはないですけど。

でも、若いアシスタント仲間がたくさんいるような現場なら、仕事の手を止めて「おおっ!」って感じでしょうけど、先生と一緒じゃ、さすがにそういうわけにもいきませんでした。

 

──さすがに、ちょっと気まずいですよね。ちょっとずれてはいるけど、先生なりの気遣いと考えれば......(笑)。

hutarihakuuki.jpg

『ふたりは空気の底に』1970年)[『空気の底』所収]

核ミサイルによって地球は滅び、宇宙旅行用のユニット・カプセルの中で育ったジョウとみどりは、いつしか愛し合うようになる。ついにユニットを出たふたりに待ち受けていた運命は......。いきなり実写版のアダルトな画像が差し込まれるという異色のコマ割りがある。

 

■アシスタントを労う手塚治虫の腰の低さ

 

手塚先生の気遣いで思い出しましたが、徹夜しているときに廊下やトイレですれ違うと、先生は「すみませんね遅くまで」とか「お疲れのところすみません」とか、必ず声をかけてくれましたね。

 

──めちゃくちゃ腰が低いですね。

 

「頑張れよ」とか「しっかりやれよ」みたいな上からな態度はあまりなかったですね。

当時、原稿がある程度描けたら4階にある先生の部屋(仕事場)まで持っていって、指示を受けるんです。

あるとき先生の説明を聞きながら、眠くて大きなあくびをしてしまったことがあるんです。怒られるかムッとされるかと思ったら、「すみませんね、眠いのに」って。

 

──あくびが出るほど頑張ってくれていると、労ってくれるわけですね。

 

もちろん先生にも機嫌の悪いときはあっただろうけど、それを僕らにぶつけることはなかったですね。少なくとも、僕らがアシスタントをしていた時代はそうでした。

 

 

■手塚治虫のリアルな仕事風景

 

──そういえば、高田馬場時代の先生の部屋って、どんな感じでしたか?

 

いたって質素でした。手塚治虫たるものが、こんなところで仕事をしてるのかって驚かれそうなくらい。

奥の部屋の畳の上には敷きっぱなしの布団があって、本棚には本がたくさん。先生は、手前のダイニングキッチンのようなスペースで仕事をしていました。

普段はノックをしてから入りますが、一度ノックをし忘れて入ってしまったことがあったんです。そうしたら、先生がパンツ一丁で、うつ伏せになって描いている。これはいけないと思って、ドアを閉めて、もう一度ノックをしてから入ったことがあります。

 

──見てはいけないものを見てしまったと。

 

よく、手塚治虫の仕事場として紹介される立派なデスクの写真ありますが、あれは晩年のものだそうです。忙しかった高田馬場時代は、僕らの仕事場の上にあるマンションの一室で、そんな感じで描いてました。

 

──漫画の神様といわれた手塚先生だから、立派なデスクと椅子に座って......、とイメージしがちですが、そうじゃないんですね。

 

そんな優雅なものじゃありません。

 

今でも思い出しますが、手塚先生が太い線を引くときは、とても筆圧が強くてね。時には紙のほうを動かすような感じで、大胆に描いていました。

手塚先生専用の原稿用紙って、普通の原稿用紙よりも薄いんです。だから、先生がカブラペンでグイッっと描き込んだ原稿は、裏側までペンのあとが食い込んで、破れる寸前のものもありました。

漫画家が自分の作品を描くときはどうしても力が入るものですが、手塚先生の筆圧の強さは驚くべきものでした。優雅とはほど遠いけど、あれもかっこよかったなあ。

僕らはアシスタントだから、おっかなびっくり慎重に線をなぞっていくんですけどね。

 

 

[第4回へ続く]


yamazaki.jpg山崎潤子

ライター・エディター。
幼少期より漫画漬けの生活を送ってきた生粋のインドア派。
好きな手塚作品は『ブラック・ジャック』。著書に『10キロやせて永久キープするダイエット』などがある。


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