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関係者インタビュー 私と手塚治虫 堀田あきお&かよ編 第1回 『手塚治虫アシスタントの食卓』が生まれた理由

2024/10/12

関係者インタビュー

私と手塚治虫 堀田あきお&かよ編

1回 『手塚治虫アシスタントの食卓』が生まれた理由

文/山崎潤子

関係者に話を聞き、さまざまな角度から手塚治虫の素顔を探っていこうという企画です。今回はマンガ家の堀田あきお&かよさん。『手塚治虫アシスタントの食卓』では、夫のあきおさんのアシスタント時代を描かれています。手塚治虫の話はもちろん、当時のエピソードやマンガ制作の裏話を伺いました。

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PROFILE

堀田あきお&かよ(ほった・あきお&かよ)

マンガ家。

「あきお」は1978年に手塚プロダクション入社、手塚治虫のアシスタントを経て、『少年チャンピオン増刊』(秋田書店)に掲載された『天使の翼』マンガ家デビュー。学年誌、青年誌など幅広く活躍する。編集者だった「かよ」と結婚後、2人でマンガを描き続ける。『手塚治虫アシスタントの食卓』(全2巻)『不妊治療、やめました。~ふたり暮らしを決めた日~』『親の介護、はじまりました。』『親の介護、10年め日記。』『おふたりさま夫婦、老活はじめました。~どうなる!?  私たちの老後~』(すべてぶんか社刊)などの著書がある。

https://akikayo.com/


◾️今より食べ物のバリエーションがなかった頃の話

 

──堀田あきお&かよ先生といえば『手塚治虫アシスタントの食卓』(1、2巻)ですよね。

 

あきお&かよ:先生だなんてとんでもない。あきお&かよさんでお願いします。

 

──では、あきおさん、かよさんと呼ばせていただきます! 『手塚治虫アシスタントの食卓』は、どんな経緯で描くことになったのでしょうか?

 

かよ:打ち合わせのときに、あきおがよく、編集者の前で面白おかしくアシスタント時代の話をしていたんです。で、新しくマンガ雑誌を立ち上げるときに「当時の話を描きませんか? プラス食べ物の話題をからめて」ということに。ただ、食べ物の話題をからめるのが意外に大変でしたが......(笑)。

 

あきお:あの時代って、今のように食べ物のバリエーションがないんですよ。

 

──1970年代後半ですからね。

 

あきお:たとえばピザトーストはあったけど、本格的なピザを食べるのは難しい時代なんです。

 

かよ:スパゲティーといえばナポリタンかミートソースで、ファミレスも黎明期だしね。

 

──でも、当時にしてはハイカラな、おいしそうなものがたくさん出てきますよね。私の印象に残ったのが、ロイヤルのB定食とか、お茶の水のYホテルのサンドイッチとか。

 

あきお:ロイヤルは手塚プロダクションのビルの1階にあったんです。夜は大人たちが食べたり飲んだりするような、ちょっと高級感のただようお店でね。僕らが行くのは昼間だったけど。

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『ブラック・ジャック』19731983年)より「ブラック・クイーン」の巻

ブラック・クイーンの異名をとる冷徹な女性医師が恋人と食事をしているシーン。背景に家族で食事をしている手塚治虫(とその家族)らしき姿が描かれている。締め切りに追われて多忙な日々を送る手塚治虫も、クリスマスなどは家族との外食を大切にしていたらしい。

◾️夫婦共作の役割分担

 

──あきおさんとかよさんの、マンガを描くときの役割分担みたいなものをお聞きしたいのですが。

 

あきお:まず、僕がこんなことがあった、あんなことがあったっていう話をするんです。僕らは夫婦で付き合いも長いし、彼女も当時のことをよく知っている。僕が話したたくさんのエピソードの中から、彼女が話を組み立ててくれるんです。

 

かよ:彼のたくさんの思い出をメモして、数あるエピソードの中から、今回はあれとこれを拾ってまとめてみようって、私がネームを描きます。

 

あきお:かよは登場人物たちにも実際に会っていたりするから、雰囲気もわかっているんです。

 

かよ:隣にいるから、わからないことがあればすぐ聞けるしね(笑)。

 

あきお:でも、昔のことだから描いたらどんどん忘れていく感じですよ。

 

かよ:そうなんですよ。何せ古い記憶だから、「あのときこう言ってたよね」「俺そんなこと言った?」みたいになることも。だから、ぎりぎり記憶を保っているときに描けたのかもしれないです。

 

──描いて世に残したことで、責任を果たしたから忘れるというような面も?

 

あきお:それもあるかもしれないですね。

 

 

◾️分業制のメリットは?

 

──かよさんは、もともと編集者だったんですよね。

 

かよ:といってもパソコン雑誌の編集者でしたから、全然畑違いでマンガのマの字も知りませんでした。結婚して一緒に住みはじめて、あきおから「これどう?」みたいに聞かれて意見を交わすうちに、一緒にネームを描くようになったんです。

 

あきお:2人で一緒にネームを考えると、意見が違うからケンカになるんです。だから、自然とそのうち分業制になっていきました。

 

かよ:私はコマ割りと、この人が話しているというようなアタリまで描きますが、私がアップ(寄り)にするとあきおが「ここはロング(引き)だろう」とか、私がロングにすると「いや、アップだよね」って。ただ、そういう場合はあきおの意見が優先ですね。プロのマンガ家なので、作画については全面的にまかせます。

 

──回顧録や自伝的な作品って、ひとりですべて完結しようとすると、客観視できなかったり、ナルシスティックになったり、逆に照れくさかったりという面があるように思いますが、かよさんというフィルターを通すことで、読者により伝わりやすくなっているような気がします。

 

あきお&かよ:そう感じていただけると、うれしいですね。

 

◾️ケンカをしなくなった意外な!?理由

 

──ご夫婦でネームと作画というのは、とてもいい分業制ですね。

 

あきお:長く一緒に暮らしていると、暗黙の了解というか、家事なんかも自然と分業になるんです。朝起きたら、かよがテーブルを拭いたり新聞を取りにいって、僕はその間に洗濯物をまとめて洗濯機のスイッチを入れるとか。どこの家庭もそうだと思いますが。

 

──ケンカはしないんですか?

 

あきお:ケンカって、若いからするんだよね。年をとるとケンカなんて絶対しないよ(笑)。

 

かよ:ケンカすると面倒くさいからね。

 

あきお:そうそう。だから今は全然ケンカしなくなったよね。

 

──たしかに、ケンカするより仲よくしていたほうが楽だし、得ですね。

 

◾️つらいリアルを明るく描き、共感を得る

 

──おふたりはほかにも旅行記などのほか、不妊治療、介護、老後という、誰もが身につまされる話を赤裸々に描かれていらっしゃいますよね。

 

かよ:不妊治療のマンガは、一度読み切りで雑誌に掲載したら、編集者の男性から「感動して泣きました」と言っていただいて、本格的に描きませんかということになったんです。

 

──当時不妊に向き合って、当事者がきちんと描いたマンガは新しかったですよね。

 

かよ:「よくぞこの話を描いてくれた」って、よく言われました。不妊で悩んでいる人はたくさんいるけど、こういうアプローチで描いてくれる人がいなかったって。たくさんの人に読んでいただいて、看護師さん向けの副読本(補助教材)になったりも。

 

あきお:手紙もたくさんもらって、うれしかったよね。

 

──不妊も介護も、つらい場面もありますが、明るく描かれていますよね。

 

かよ:不妊治療については、治療が終わったあとに描いたからあまり悲劇的にならなかったのかもしれません。治療中の経過についてはお医者さんに説明するためにかなり詳しくメモをとっていたので、それが役に立ちました。

介護のほうは現在進行形だし、どうしても暗くなりがちなテーマですが、うちの場合は親の介護であまりに愉快なことが多すぎて。腹は立つけど面白いみたいな、しょうもないことがいっぱいあるんですよ。それを描きましょうということで出発しました。着地点が見えないので、なかなか難しいところはありましたが。

 

──終わりが見えないのが介護ですよね。でも、どのマンガでもかよさんの根本的な明るさが感じられて、元気づけられました。

 

あきお:そういう面はあるよね。

 

かよ:特に不妊治療については、やっぱり渦中にいるときはそれなりにしんどいんですよ。ただ、終わってしまえば、やっぱりいい体験だったねと思えます。

 

──不妊治療は年々増えていますし、介護もこれからますます社会問題になるでしょうから、まさに時代を見据えたテーマですよね。

 

かよ:親の介護ではヘルパーさんや施設の方々から親切にしてもらっていますが、今後は人手不足で、子どものいない私たちの老後はどうなるんだろうって。

 

──で、おふたりさまの老活について描かれたという。

 

かよ:そうなんです(笑)。

 

──独身者や子どものいない人が増えていますから、これも時代を先取りしたマンガですよね。今後も読者として、新しい作品を楽しみにしています。

 

あきお&かよ:ありがとうございます。

 

 

[第2回に続く。次回はアシスタント生活の裏話を聞いていきます]

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yamazaki.jpg山崎潤子

ライター・エディター。
幼少期より漫画漬けの生活を送ってきた生粋のインドア派。
好きな手塚作品は『ブラック・ジャック』。著書に『10キロやせて永久キープするダイエット』などがある。


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