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関係者インタビュー 私と手塚治虫 鈴木 まもる編 第2回 絵本を描いて改めてわかった『火の鳥』のすごさ

2024/07/16

関係者インタビュー

私と手塚治虫 鈴木 まもる編

2回 絵本を描いて改めてわかった『火の鳥』のすごさ

文/山崎潤子

関係者に話を聞き、さまざまな角度から手塚治虫の素顔を探っていこうという企画です。今回は絵本作家の鈴木まもるさん。2024年4月に『火の鳥 いのちの物語』として、『火の鳥』の絵本化を実現されました。絵本化に至った経緯や絵本に込めた思い、また独特な絵本の世界や描き方など、さまざまな角度からお話を伺いました。

 

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鈴木まもる(すずき・まもる)

絵本作家。画家。鳥の巣研究家。

1952年東京生まれ。東京藝術大学美術学部工芸科中退。

 

1986年より伊豆半島在住。『黒ねこサンゴロウ』シリーズで赤い鳥さし絵賞、『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞、『ニワシドリのひみつ』で産経児童出版文化賞、『あるヘラジカの物語』で親子で読んでほしい絵本大賞大賞を受賞。『せんろはつづく』シリーズは累計100万部のロングセラーになっている。鳥の巣研究家として、鳥の巣に関する本も多数出版。全国各地で鳥の巣の展示もしている。

URL:https://mamorusuzuki.wixsite.com/nestlabo


 

■「読者」が主人公になるストーリー

 

──今回の絵本を拝読して、後半の「あなたは人間としてうまれました。」からの流れにとても感動しました。前半で火の鳥が語るいのちの話があるからこそ、すごく響いたというか。

 

じつは僕、絵本を描くにあたって、あえてよけいな勉強をしなかったんです。つまり、他の人の意見を入れたくなかったんです。今どきはネット上で『火の鳥』の考察論みたいなものがたくさん出ているじゃないですか。製作中はあえてそれらを見ないようにしました。

 

──作品のみと向き合ったわけですね。

 

描き終えたあとネットを見てみたら、いろいろな『火の鳥』論があるじゃないですか。それを読むと、手塚先生は過去→未来→過去→未来......と遠いほうから描いていって、最終的に現代に行き着きたかったという意見がとても多いですよね。

それは僕も知らなかったんですが、なるほどと思いました。でも、自分で言うのもおかしいけれど、絵本のほうも結果的にそうなった気がするんです。火の鳥といのちの話からはじまって、いま、この本を読んでいる「あなた」が物語の主人公になるという。だから、絵本もそういう形でよかったと思っています。

 

──たしかにそうですね。現代で終わるということは自分ごととしてとらえるということですから。奇しくも手塚先生がやりたかったことを絵本の中でも実現されていますね!

 

『火の鳥』の壮大な構成を考えても、やはり手塚先生が伝えたかったのは「自分らしく、限りあるいのちを大切に、せいいっぱい元気に生きていく」っていうことだと思うんです。そこにつながったのはよかったかなと、描き終えてから思いました。

 

 

■「やさしい火の鳥」と「厳しい火の鳥」

 

──原作漫画に登場する火の鳥は、愚かな人間に対して少しシニカルというか、厳しいところもありますよね。でも、鈴木先生が描く火の鳥はやさしくて、お母さんのようだなと感じたのですが。

 

原作漫画の火の鳥は厳しい目線も持っていますが、素直で純粋な登場人物にはとてもやさしく寄り添ってくれます。絵本の読者層である子どもたちは素直で純粋ですから、火の鳥のやさしさや母性のような部分が自然とあらわれたのだと思います。

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『火の鳥:異形編』1981年)より

父を憎むあまり、人の命を奪ってしまった左近介に対し、火の鳥が核心をつくシーン。

『火の鳥:太陽編』19861988年)より

火の鳥が争いを繰り返す人間について諭すシーン。

どちらも人間の愚かさに対する厳しい視点が描かれている。

 

■「いのち」について実感した出来事

 

中学生ぐらいの時期って、みんな「いかに生きるか」みたいなことを考えはじめると思いますが、僕もちょうどその頃、いのちについて考えさせられる出来事があったんです。

ある日家で飼っている猫と家の前で遊んでいたら、急に車がきて、猫がびっくりして車のほうに行ってしまった。猫は運悪くはねられてしまいました。

僕はすぐに猫を抱きかかえたんですが、しばらく苦しんだあと、スーッと死んでしまったんです。そのとき、生から死への境のようなものを感じて、生きるってなんだろう、死ぬってどういうことだろうみたいことを考えはじめた。そういう時期に『火の鳥』を読んで、ますます作品に惹かれたような気がします。

 

──それはご自身の作風にもつながっているのでしょうか?

 

絵本作家になってからも、日本で生まれたウミガメがアメリカを目指して、何十年後に新しい命を産むためにまた生まれた場所に戻ってくるお話とか、戦いに敗れたヘラジカがクマやカラスに食べられるお話とか、そういったテーマが多かったんです。

やっぱり、そういったいのちにまつわる作品を描きたいという気持ちがあったのでしょうね。だから今回の火の鳥でも、僕が描きたかった部分がすごく出たように思います。動物たちがほかの動植物のいのちを食べて新しいいのちを産み、いのちをつないでいるという描写がありますね。そのあたりは手塚先生の原作だから、描いていいのだという感じがしましたね。

 

──そう考えると、鈴木先生の作品にも手塚先生の漫画の影響があったのかもしれなくて、それが今回絵本という新しい作品として生み出されたと言うのは、運命的な感じがしますね。

 

本当にそうなんです。驚くべきことでした。

 

 

■漫画家を目指した過去も......

 

──子どもの頃、漫画はお好きだったんですか?

 

漫画も好きですが、僕は手塚先生の作品が好きなんです。小学生の頃は『鉄腕アトム』を読んでいたし、自分で絵を描くのも好きでしたから。

 

──絵本作家を目指されたのは理由があるのでしょうか?

 

子ども時代の「絵がたくさん描いてある本」といえば、たいてい漫画ですよね。

だから僕も、最初は漫画家に憧れて、中学生の頃の夢は漫画家だったんです。実際に高校生のとき、近所に講談社があったので自分で描いた漫画を持ち込んで見てもらったこともあります。

 

──漫画家を目指していた過去があったとは!

 

当時は劇画の全盛期で『あしたのジョー』や『巨人の星』が大人気でした。でも、僕はああいうものはとうてい描けないと思ったんですよね。で、自分の道は漫画家じゃない、違う表現手段なのだということで、漫画はやめたんですよ。

 

そこで、漫画家じゃなくて、画家はどうだろうかと思いました。

でも、画廊に行ったり、美術館に行ったりしていくうちに、なんとなくそれも違うような気がしてきたんです。

画家の世界には、どうしても〇〇派だとか日展などのコンクール、組織や団体みたいなものがある。でも、僕はそういうものは向かないし、そもそも〇号でいくらとか、自分の作品を売らなきゃいけないでしょう。僕は自分の描いた絵を売りたくなくなってしまうタイプだから、絵描きとしても成り立たないと思ったんです。

 

──画家が絵を売らなければ、食べていけませんからね。

 

僕は漫画も好きだけど、本屋さんで絵本を見るのも好きだったんです。絵本なら好きな色を使えるし、自分の絵を売らなくてすみます。特に当時は外国のいい絵本が日本にたくさん入ってきた時期だったから、こういう仕事がしたいなあと思いはじめて、絵本を描くようになったんです。

 

──なるほど。とても納得しました。漫画というより、手塚治虫の作品観のようなものに心惹かれたということですか?

 

もちろんスポーツ根性ものの漫画もおもしろいですが、僕には描けない世界ですしね。

手塚先生の『火の鳥』や『ブラック・ジャック』のように、命をテーマにした作品が好きで、自分も絵本の世界でそういうものを描きたいという気持ちがあったんですね。

 

 

■『火の鳥』に散りばめられた多彩な表現手法

 

──ちなみに、『火の鳥』の中で「推し編」みたいなものはあるんですか?

 

いやあ。どの編も大好きだから、ひとつには決められませんね。

僕はストーリーや絵を含め、手塚先生の作品の世界観というか、表現方法のようなものも含めてとても好きです。『火の鳥』も『ブラック・ジャック』も、あるいは他の作品も、先生の生き方が投影されていると思うので、やっぱり手塚治虫という人物が、僕にとっては特別なんだと思います。

 

──先生が感じる手塚作品の世界観や表現方法について、聞かせてください。

 

作品の世界観という意味では、別の作品の登場人物がいきなり登場することがありますよね。ブラック・ジャックやヒゲオヤジとかね。これはもちろん先生の遊びなのでしょうが、僕にとってはすごく大事なことなんです。

「世界は広い。今見ている世界だけが世界じゃない。こっちにもあっちにも世界があって、それはどこでもつながれるし、それでいいんだよ」っていう先生のメッセージのようにも思えるんです。

また、コマ割りひとつとっても、手塚先生はさまざまな表現手法を駆使している。それは自分の絵本にも生きていると思います。

 

──『火の鳥』を改めて読んでみると、コマ割りの表現の多様さはすごいですよね。二次元でできる、ありとあらゆることをやっているというか。

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『火の鳥:宇宙編』(1969年)より

過去を回想するシーンを表現した特徴的なコマ運び。

時間や空間を飛び超えるようなコマ割りですよね。きっと、そういう世界を描きたいという気持ちのあらわれなんでしょうね。言葉で表現できないことを、コマ割りで表現しているような気がします。

今回の絵本の冒頭も、宇宙からはじまって、視点がだんだん寄っていってから火の鳥が飛び立つという流れですが、手塚先生ならどうするだろうと考えながら描きました。

 

 

[第3回へ続く]


yamazaki.jpg山崎潤子

ライター・エディター。
幼少期より漫画漬けの生活を送ってきた生粋のインドア派。
好きな手塚作品は『ブラック・ジャック』。著書に『10キロやせて永久キープするダイエット』などがある。


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