虫ん坊

コラム「手塚を知りたい放送作家」第50話:休載と手術とバンパイヤ

2023/07/28

chibori50_title.jpg第50話:休載と手術とバンパイヤ



まずは先月のコラムを休載してしまったこと、誠に申し訳ありませんでした!

休載した理由なのですが、実は...

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手術してました...。

今年で44歳。何があってもおかしくはない歳ですが、まさかこんなことになろうとは...。せっかくなので今回、僕の身に起きたことをお伝えしていきたいと思います。


ある日、リモート会議をしていると突然腹痛が。するとどんどんと痛みがひどくなり、5分もしないうちに人生で味わったことのないほどの激痛になりました。例えるならそうですね。臓器を雑巾絞りされているような...そんな感覚です。


そして人生で初めて救急車で運ばれたのですが、これが恥ずかしいのなんのって。救急車のサイレンに「何事だ!?」と覗いているご近所の方々。そんな中を担架で運ばれるって...。痛みで意識も朦朧としていましたが、恥ずかしさのあまり顔をガードして運ばれたのをはっきり覚えています。


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病院で色々と検査を行ってみると「急性胆嚢炎」ということが判明。そして後日胆嚢を全摘出するということになりました。

全摘出というと大事に聞こえますが、胆嚢は無くても人体にはそこまで影響のない臓器のようで、治療的には「えーい、もう全部切って取っちゃえ!」ってなるのが一般的だそう。


手術もガバッとお腹を開く訳ではなく、お腹に4つ、数センチ程度の穴を開ける腹腔鏡手術。この手術だと術後の負担も少なく、割とすぐに仕事にも復帰出来るんだとか。

そんなこんなで入院することになったのですが、入院中特にすることがありません。そういえば、手塚先生は入院中の病院のベッドの上でもマンガを描き続けていたらしい。


せっかくの機会なので僕も手塚先生を見習って入院中、病院で仕事をすることにしました!


そして数日後、手術は無事成功。傷口の痛みも落ち着いてきた頃に、いざ仕事をしてみようとするのですが...病院で仕事をする気になんて全くなれません。

そもそも身体を療養するために入院してるということもあり、頭では働こうと思っても心が全力で拒否します。


この状況で仕事を出来る人...なんているのだろうか...。体験してみたからこそわかりました。僕は"仕事"という認識でしたが、おそらく手塚先生は"仕事"というよりも"マンガが描きたい"という気持ちの方が大きかったのではないでしょうか。仕事と思っていたら到底出来ない気がしました。


そんな訳で僕は一切の仕事をストップ。入院中、ふと見たことなかった「アベンジャーズ」を見てみようと思い、マーベルの映画を片っ端から見てみることにしました。


マーベルは映画だけでも30数作あり、様々なスーパーヒーローが主人公として登場します。映画を何作品か見ているとあることに気付きました。


「なんか毎回同じ顔のおじいちゃん出てない...?」


時間にすると毎作品わずか数秒の出演なのですが、明らかに同一人物です。気になって調べてみると...なんとマーベルコミックの原作者であるスタン・リー氏でした!2019年公開の「アベンジャーズ エンドゲーム」までほとんどのマーベル映画にカメオ出演していたんだとか。


これを見て、すぐに手塚先生を思い出しました。手塚先生も自身の様々な作品に出演していますよね。漫画の原作者同士、手塚とマーベルの意外な共通点を発見し、思わずニヤっとした入院中の出来事でした。


chibori50_tezuka01.jpg「ブラック・ジャック」にも度々登場する手塚先生




術後の経過も問題なく、無事に退院。家に帰ると一通のメールが届いていました。差出人は猫の本棚の店主、樋口さん。


猫の本棚さんは自分が本屋さんの棚主となり、その棚で好きな本を販売出来るお店です。以前のコラムで棚主になり、猫にまつわる手塚作品を置かせてもらっていました。

第44話:神保町で手塚作品の書店を開店しました!


届いたメールを見てみると...なんと僕の棚の全ての本が完売したとのこと!そこそこの数を置いていたのに、まさか全部売れてしまうとは...。樋口さん曰く、全部売れる棚はほとんどないそうです。流石は手塚作品!


そんな訳で新たな本を補充せねばなりません!でもまた猫作品を揃えるのも芸がないなぁ〜。そこで今回はこんなテーマで本を揃えてみました!


第1巻!



作品のスタートを飾る第1巻。漫画において読者を惹き込むとても重要な一冊です。色んな人に手塚作品との出会いを楽しんでもらえるといいな〜。


早速様々な手塚作品の1巻を仕入れ、猫の本棚へ搬入します。お店に行くと、店主の樋口さんが本を買っていったお客さんのことを教えてくれました。購入した人は圧倒的に女性が多かったとのこと。猫をテーマにしているからでしょうか。


特にアトムキャットの人気は凄まじかったそうで、アトムキャットに一目惚れし、お母さんにおねだりして買ってもらった少女もいたそうです。作品を知らない人が買ってくれるのは嬉しいし、なんだかワクワクしますね。


そして、ななな、なんと!!!

このコラムを読んでいた方が猫の本棚を訪れたこともあったそうです!!!

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まさか実際に足を運んでくれるなんて!!こんなに嬉しいことはありません。コラム冥利に尽きます!

さて今回僕が用意した1巻ですが「鉄腕アトム」に始まり...


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「どろろ」「リボンの騎士」「ユニコ」「ブッダ」「七色いんこ」

「奇子」「バンパイヤ」「ブラックジャック」「地球を呑む」などなど。完成した棚はこんな感じになりました。

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秋田書店版の「バンパイヤ」のコミックスを見て嬉しそうな樋口さん。

年代的にも心に響くものがあるみたいです。

バンパイヤはオオカミになってしまう少年、トッペイが主人公の作品。

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せっかくなのでバンパイヤ一巻の僕のおすすめポイントを紹介したいと思います。


それは...弟のチッペイの大冒険!



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トッペイの弟のチッペイも月をみるとオオカミに変身します。それどころかちょっと丸いものを見るだけでも変わってしまいます。このチッペイがなんとも愛らしい!

そんなチッペイは1巻で兄からの頼みでヒロインのミカを助けに一人で敵地に潜入します。いつものおとぼけキャラとは違い、この時のチッペイは大活躍!

普段とのギャップもあってとてつもなくカッコいいです!

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兄のために命をかけて戦うチッペイ。主人公に目がいきがちですが、是非1巻をお読みの際はチッペイにも注目してみて下さい!

それでは最後にバンパイヤのおすすめの一コマを紹介して終わりたいと思います。それがこちら!

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バンパイヤに関する文献をみて驚く手塚先生の一コマですが、注目してもらいたいのが右の本棚。お気付きでしょうか。そう!全ての本に「マンガ」の文字が書かれているんです。

別に書かないでおいても誰もなんとも思わない所ですが、あえて本棚の全てをマンガで統一しています。手塚先生のマンガへの愛が分かる一コマだな〜と。病床のベッドの上でもマンガを描くのも納得できます。

今回棚に揃えた手塚作品は有名どころもありつつ、僕が個人的に皆さんに見てもらいたいな〜と思う作品も入れてます!まだ作品を見たことのない方に是非手に取ってもらいたいですね!


もし、このコラムを見てお店に行った方は是非「コラムを見て来ました」とお伝え下さい!僕が泣いて喜びます!!



藤原ちぼりchibori10_twicon.gif

1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。

『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。

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