2020/11/30
上京して10年以上が過ぎ...気付けばもう41歳。
「歳を重ねると時が過ぎるのはあっという間」なんてよく言うけれど、それにしても早過ぎます...。
このままではいけない!若かった頃の気持ちを思い出す為に、大人になってやらなくなったことをあえて今やってみようと思います。
例えば、自転車の"立ち漕ぎ"。若かりし頃は特に急ぐ必要もないのに一心不乱にペダルを立ち漕ぎしていたのに、今では全くやりません。
大人になった今、もう一度立ち漕ぎをしたら何か思うことがあるかもしれない。そんな訳で人のいない深夜、ママチャリに乗って近所を爆走してみました。
そう、あの頃のようにもう一度風になる為に...。
その結果...
「しんどい」以外に特に思うこともなく、しっかりと老いを感じるだけの結末。現実とは残酷なものですね。
今後も歳を重ねていく中で、僕はこれからどこに向かって、何をして生きるのか...。今年は本厄。人生で大きな節目を迎えた今だからこそ、一旦立ち止まって自分自身を見つめ直したい!そして今後の人生についても考えたい!
しかし、テーマが壮大過ぎて、何からどう考えていいのかよく分かりません。
そこで僕が出した結論が...
ブッダといえば、仏教の開祖でお釈迦さまとも呼ばれるお方。
そんなブッダの生涯を描いた手塚先生の作品を読めば、今の僕に必要なものが見えてくるかもしれません。
早速ブッダを一気読み。
作中に出てくるお釈迦さま=ブッダはとても人間味に溢れていて、それまで遙か遠い存在だと思っていた"仏"をとても身近に感じられることが出来ました。
手塚先生の描いた「ブッダ」は史実と創作が入り交じった作品ですが、いわゆる葬式仏教のイメージしか持っていなかった僕は大きな衝撃を受けました。
「ブッダ」の巻末にも書かれていますが、「人はどう生きるべきか」という人間愛の根元を仏教は教えてくれていたんですね。これまでの僕はそんな仏教の教えの意味なんて微塵も考えたことがありませんでした。
...なんてこった...。今まで僕は仏教の何を見ていたんだろうか...。
反省の念が込み上げてきます。
作中でブッダはいくつもの悩みや苦悩を乗り越えて悟りの境地に至ります。
ちなみにブッダとは"目覚めた人"という意味なのだそう。今の僕に必要なものも、この目覚めなのかもしれません。
悟っちゃえば今後の人生もきっと豊かに暮らせるはず!
これはもう悟るっきゃない!
しかし、ブッダですら様々な困難の末にようやく開くことが出来た扉。
自動ドアみたいに簡単に開く訳もなく...ましてや煩悩の塊の僕に悟りなんて開くことが出来るんでしょうか。
何か悟りを開くヒントはないか、もう一度「ブッダ」を読み返してみます。
すると、度々目にするのが座禅をするシーン。
座禅は禅の基本的な修行の一つで悟りに必要不可欠なものらしいです。「これだ!」と思った僕は都内で座禅が出来る場所を探してみることに。その結果、結構な数のお寺で座禅が出来ることが判明。
どうせやるなら...ということで早朝から座禅をさせてくれるお寺に行ってみることに。
そして座禅当日、朝5時半に起床して準備を整え、都内の某お寺に向かいます。予約の必要は無いそうで、人数の定員になり次第、参加は打ち切られるそう。
座禅の開始は7時からだったのですが、万が一参加出来ないのも困るので30分前に到着。コロナ禍ということもあり、名前や住所、電話番号などを記帳し、座禅を行うお堂の中に入ります。
入り口には座禅のやり方が書かれた初心者用の説明書がありました。ソーシャルディスタンスが守られた座布団に座り、説明書に目を通します。座禅の正しい姿勢が書かれていたので、練習がてらちょっとやってみました。
結跏趺坐(けっかふざ)という座法で座るらしく、説明は以下の通り。
【あぐらをかいて、右足を左太桃の上に深く乗せ、さらに左足を同じ角度で交差させる】
説明通りに足を組み、しばらくすると...
みるみる足の色が変ってきました。太っちょにはなかなか厳しい体勢です。
そんな人の為なのか説明書には「難しい人は片足だけ組む半跏趺坐でも良し」という注釈が。迷わず半跏趺坐スタイルに変更します。
そうこうしていると参加者の皆さんが集まってきました。皆さん慣れた感じで座布団に座っていきます。そして和尚さんも登場。誰に声をかけるでもなく、座ってお鈴を鳴らし始めました。
どうやらこれがスタートの合図らしく、みんな一斉に頭を下げて合掌。僕も見様見真似で頭を下げます。
しばらくして頭を上げると...
「ヤバっ!みんなまだ頭下げてる...」
初めてだから頭を上げるタイミングが全く分かりません。
慌てて頭を下げます。
その後も何度か頭を上げますが、まだみんなは下げたまま。という件を繰り返し、ひたすらペコペコしてるだけの男になってしまいました。これから座禅を始めるというのに心の落ち着きが全くありません。
和尚さんが再びお鈴を鳴らし、みんなが一斉に顔を上げていよいよ座禅を開始。
目を瞑って精神を落ち着かせると、周りの音が自然と耳に入ってきます。
鳥の鳴き声...
風の音...
心地の良い音が耳を優しく包みます。まるで自然のオーケストラ。
今までもきっと聞こえていたはずの音なのに、座禅をする前までは全く耳に入ってきていませんでした。心の持ち様一つで聞こえる音も変わるんですね。
悟りへの道は"何も考えないこと"らしいので、頭の中を無にする為、精神を統一します。
「ピチチチチ」
「ヒュー」
「ピチチ」
「ピチチチチ」
「ニャー」
「ヒュー」
「ピチチピチチチ」
あ、猫が入ってきた...。
考えないようにすると余計に考えてしまいます...。
悟りのことだけ考えよう。そう悟りのことだけ...
悟り...
悟り...
悟る...
悟...
佐山聡...
タイガーマスク...
まるで連想ゲームのように新たなワードが頭の中を飛び交います。
これは無理だ...、無になるなんて到底出来ない...。
そういえば「ブッダ」の中で"空"という修行があったのを思い出しました。
どうせ無になれないのなら"空"について考えてみることにしてみます。
【空とは...】
思いながら思わず
ものを見ながらものを見ず
考えを消しもせず考えもせぬこと
この意味を理解したブッダはやっぱりハンパじゃありません。
20分くらいが経過した頃でしょうか。突然眠気が襲って来ました。前日も遅くまで起きていたので、朝5時半起きが響いてきました。修行どうこうよりもまずはこの眠気に勝たないと...。
一度気合を入れる為、瞑っていた目をカッと見開きます。
対面に座っているおばちゃんと目が合いました。
おばちゃんが何故目を開けていたのかは分かりません。ただ分かっていることは他の人たちが目を閉じているこの空間で僕とおばちゃんの二人だけが見つめ合っているということ。
歳が歳なら恋が芽生えてもおかしくないシチュエーションかもしれません。
でも、歳が歳なのでそっと目を閉じました。
雑念を取り払うことが難しいと感じた僕は、無になることは諦めて自分のことを考えることにしました。色々と思いを巡らせていると、あっという間に1時間が経過しました。和尚さんの鳴らすお鈴の音が再び響き渡り、座禅が終了。
ここ最近しっかり自分と向き合う機会もなかったので、非常に良い時間になりました。スマホなどの電子機器から距離を置き、心地よい風と鳥の鳴き声を感じながら行う早朝座禅。自分の心をリセットするのに最適だと思います。皆さんも是非どうぞ。
結果的に(やはり)悟りを開くことは出来ませんでしたが、非常に良い体験をさせてもらいました。心の中はブッダくらい穏やかになった気がします。
最後に和尚さんが法話を聞かせてくれるとのこと。ありがたいです。
僕らとの間に何故かiPadを挟み、法話を始める和尚さん。
「なんでiPad...?」と、疑問に思っていましたが、法話中も目線はずっとiPadのまま。どうやらオンラインで聞いている人たちに向かって話をされている様子。
法話を家で聞けるってすごい時代になったな〜と改めて思いました。何よりこういう近代化に挑戦しているこちらのお寺が素晴らしい!
法話が終わるとiPadからMCの女性の声が聞こえてきました。
女性「和尚さま、お話ありがとうございました。それでは最後に一言お願い致します。」
どんな言葉で締めるんだろう。作家という職業病なのか、やはり終わり方は気になってしまいます。そして和尚さんが雰囲気満々でゆっくりと口を開いて言いました。
ブッダの教えにもありますが世の中は"諸行無常"。
常に変化し続け、変わらないものはありません。
そんな諸行無常を肌で感じることが出来る締め括りでした。
1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。
『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。
バックナンバー
コラム「手塚を知りたい放送作家」第2話:ゴールデン街と静寂と
コラム「手塚を知りたい放送作家」第3話:振り返れば奴がいるとかいないとか
コラム「手塚を知りたい放送作家」第4話:トキワ荘跡地と知らないおじさん
コラム「手塚を知りたい放送作家」第5話:百鬼丸みたいになりたくて
コラム「手塚を知りたい放送作家」第6話:妻の支えってハンパない
コラム「手塚を知りたい放送作家」第7話:手塚グルメに舌鼓
コラム「手塚を知りたい放送作家」第8話:アトムってやっぱりすごい
コラム「手塚を知りたい放送作家」第9話:手塚にあった怖い話
コラム「手塚を知りたい放送作家」第10話:漫画家の先生にインタビュー...のはずだったんですが...
コラム「手塚を知りたい放送作家」第11話:渋谷で見つけたアトムの謎
コラム「手塚を知りたい放送作家」第12話:『マンガの描き方』を見て描いたマンガ
コラム「手塚を知りたい放送作家」第13話:痛みで学んだ手塚治虫
コラム「手塚を知りたい放送作家」第14話:第1回 手塚でバズってるツイートGP
コラム「手塚を知りたい放送作家」第15話:手塚先生の缶詰の聖地で缶詰してみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第16話:家から一歩も動かず手塚旅行に行ってみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第17話:STAY HOME
コラム「手塚を知りたい放送作家」第18話:子どもに手塚マンガを読ませてみたら......
コラム「手塚を知りたい放送作家」第19話:手塚を彩るミュージック
コラム「手塚を知りたい放送作家」第20話:ファミコンの『鉄腕アトム』をやってみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第21話:中野ブロードウェイで見つけた『鉄腕アトム』
コラム「手塚を知りたい放送作家」第22話:歴史マニアに聞いた手塚光盛
コラム「手塚を知りたい放送作家」第23話:ベレー帽をかぶってみた