2019/09/25
ある日の夜。
以前、このコラムで取材したゴールデン街の『bar図書室』で飲んでいた時のこと。(あの日以来、ちょこちょこ行くようになりました笑)
僕の隣で、二人で来店したという男性たちが飲んでいました。
片方の男性がお店のノートに絵を描いていたので、ちょっと覗いてみると...
あまりの上手さに黙っていられず話かけると、
なんと...それもそのはず...漫画家の先生だったのです!
原作と作画のお二人らしく、もうすぐ人生初となる単行本が発売されるとのこと。
今まさに漫画業界に挑まんとする新人の先生は手塚治虫先生にどんな印象を持っているのか? 是非とも赤裸々に聞いてみたい!
連絡先を交換させて頂き、後日正式に取材を依頼。
ご本人、編集部ともに快諾して頂き、取材させてもらうことに。
そしてやってきた取材日当日。
ぶっちゃけた話を聞きたいという思いから、渋谷の個室居酒屋でお酒を酌み交わしながらインタビューさせてもらうことに。
ヤングガンガンで連載しているまつたけ先生と武六甲先生。
そんなお二人の作品がこちら!
新米女刑事が尾行していたのは、鬼も恐れるヤクザの組長。
そして対面した二人。
しかし、その時...、組長をある異変が襲う!
何故か小さくなってしまった組長は女刑事の家に転がり込むことに。
そして始まるミニ極道と女刑事の奇妙な生活...。
と、いう物語のコメディ漫画なのですが、その設定もさることながら、
1巻を読ませて頂いて僕が思ったことは...ギャグが秀逸!そして、そのギャグをより面白く表現する絵の力。猫と組長が戦う所、笑っちゃいました!
ギャグ漫画好き、極道好きの方は是非お手にとって読んでみてください!
そんな『極道パラサイツ』の作者のお二人は手塚先生が亡くなられた後に生まれています。
下手したら手塚先生を「知らない」なんてこともあるかもしれません...。
そうなったら僕はこのコラムをクビになるかも...。
僕が手塚プロダクションの人間なら、そんな記事を書く輩は容赦なくクビにします。それこそ極道が如く。
ちぼり「手塚先生の作品を読んだことはありますか?」
武六甲「どろろとブラック・ジャックは読みました」
まつたけ「僕は三つ目がとおると鉄腕アトムですね」
はい、杞憂。普通に読んだことありました。
やっぱり漫画家を志す先生たるもの、一度は手塚作品に目を通しているものなんでしょうか。
ちぼり「ちなみにどこで読んだんですか?」
武六甲「中学校の図書室に置かれてましたね」
なるほど、義務教育の場に...!
自分の中学の頃を思い出すと、図書室に置いてあった漫画は『はだしのゲン』
一択。(あとは偉人の教育漫画)
戦争がテーマの『はだしのゲン』が学校に置かれているのは分かりますが、『ブラック・ジャック』が置かれているのは興味深い!たしかに学べることは多いですが...。いつか手塚作品を置いている学校に行って、話を聞いてみるのも面白いかもしれませんね!
まつたけ「あと『ブラック・ジャック創作秘話』も読みました。あの漫画で手塚先生がどんな方だったのかを詳しく知りましたね」
改めてまつたけ先生の話を聞いて思ったんですが、そもそも漫画になってる漫画家ってどれくらいいるんでしょうか...。エッセイ漫画を除けば、そんなに数がいるとは思えません。漫画家が漫画になり、こうして後世の漫画家に読まれている。よくよく考えたらすごいことですね。
ちぼり「武六甲先生、作画という目線から見て、手塚先生の絵ってどう思いますか?」
武六甲「やっぱり絵として完成されてると思います」
ちぼり「と、言うと?」
武六甲「ぱっと見で手塚先生の絵って分かるんですよね。誰が見てもわかる自分だけの絵を作るのって本当に難しいことなんです。それで悩んでいる漫画家は相当多いと思います」
ちぼり「なるほど...」
武六甲「失礼な言い方になるかもしれませんけど、手塚先生の絵ってそんなに描き込んでる訳じゃないんですよね。でも、それでいてちゃんと漫画の絵になってる。これってすごいことだと思います」
想像していた以上の意見ががっつり返ってきました。
もう武六甲の文字が武論尊に見えるくらいのオーラが出ています。
では、まつたけ先生はどうでしょう?
ちぼり「まつたけ先生、原作という目線から見て、手塚先生のストーリーってどう思いますか?」
まつたけ「メッセージがしっかり込められてますよね。うん、メッセージがある。
...僕なんかなんのメッセージ性もないですよ。...どうしましょう?」
予想外の展開から二人の絆が垣間見えました。
えぇコンビや...。
武六甲「あとは、擬音もそうですけど、僕らが普段当たり前のように漫画で描いてる表現を開発したっていうのも驚きです」
そっか...。手塚先生の漫画の技術って、後世へ受け継がれているんだなぁ...。と、最前線で戦う先生方の言葉を聞いて実感しました。そういう意味で言うと、手塚先生はお亡くなりになってはいますが、まだ漫画を描いてるのかもしれませんね。
そして、インタビューも終わりに差し掛かった頃...
ちぼり「この後はどうするんですか? せっかくなんでちょっと図書室に顔出してみます?」
武六甲「実は他のヤングガンガンの先生と約束してて...。あ、そうだ!藤原さんもよかったら来ますか?」
ちぼり「え? でも急に僕が行ったら、その先生嫌がりませんか!?」
武六甲「大丈夫です!そういうの全然平気なタイプの人なんで!」
そんな流れで、まさかの第2章に突入!急遽、別の先生とお会いすることに。
一旦お店を出て、その先生と合流します。
メガネで爽やかな青目先生。
同じメガネでも僕とは大違いです。
まつたけ先生、そして武六甲先生と同じくヤングガンガンで連載中の青目先生。
豊満ボディの女子高生の弟、るーくんは素直で可愛らしい小学生。
しかし、姉の前だけで見せるその正体は...
とんでもない変態なのでした!
いや...、
ど変態なのでした!
そんな姉と弟の日常を描く強制猥褻ギャグコメディ!
まさにエロスとギャグの融合。見事なまでの変態一本押し!
でもだからこそ、このギャグの鋭さが出るんだと思います。
ちょうど1巻が発売されたばかりらしいので、気になった方は是非見てみて下さい!こんな漫画を描く人の頭の中は一体どうなっているのでしょうか?(いい意味です)俄然、青目先生に興味が湧いてきました。
ちぼり「青目先生が影響を受けた漫画ってなんですか?」
青目「子どもの頃はカイジとか好きでしたね。小5の時とか」
青目「10歳上の兄貴がいて、家にいっぱい単行本があったんです」
ちぼり「青目先生は結構飲みに行ったりされるんですか?」
そんなもんコラムに書けるかー!
会ってからものの数分でディープな話をぶちこんでくるあたり、流石はるーくんの作者といった感じです。
聞けば、まつたけ先生、武六甲先生、青目先生はヤングガンガンでほぼ同時期に連載をスタートさせた、いわば同期。他にももう一人同期の先生がいるそうで、みんなでグループLINEをしているんだとか。なんかいいですよね、そういうの。
2軒目に入って1時間が過ぎた頃、もはやインタビューという体はどこかへ消え去り、ただただ楽しい時間が過ぎていきます。
そうこうしていると...
なにやら電話をしている青目先生。
そして数十分後...
新たな人物、S本さんが登場。
S本さんは『極道パラサイツ』と『裸のるーくん』の表紙のデザインをした人らしく、先生方と飲みに行くのも今日が初めてなんだとか。
S本さんも青目先生に負けず劣らず個性的な方で、これまた話が弾みます。
まつたけ先生、武六甲先生、青目先生の3人とも単行本のデザインにとても感謝している様子でした。
青目「俺はマジでS本さんのデザイン大好きです!ほんと良いもの作ってくれて、ありがとうございました!」
アツいです。めちゃめちゃ良いやりとり。こういう場面を見ると作品って一人で作ってる訳じゃないんだなって気付かされます。S本さんも嬉しそう。
そうことしていると...
なにやら電話をしているS本さん。
そして数時間後...
またまた新しい人が登場。
3人でスタートしたインタビューは気付けば6人の宴会に。
あっという間に時間は過ぎ...
19時の開始から、まさかの10時間が経過しました。
スタートからお酒を飲み、インタビューに答えてくれたまつたけ先生は...
そして武六甲先生は...
不可抗力とはいえ、責任を感じます...。
その場にいる全員が漫画大好き。後半はずーーーっと漫画の話をしていました。
そして、そろそろ閉店の時間。
インタビューさせてもらった手前、会計は僕が払おうとこっそりレジへ。
しれっとお会計を済ませます。
なんだろう、全然違うのかもしれないですが、漫画に携わる人たちが夜通し語り合うこの感じ...。ひょっとしたらトキワ荘ってこんな感じだったのかな...、
なんて思ったりしました。
うん、濃かったけどすごく良い夜だった。
インタビューして本当によかった。そんな風に感慨にふけっていたら...
店員「お待たせしました。こちらお会計になります」
しばらく、嫁にパラサイツ。
まつたけ先生、武六甲先生、青目先生、ありがとうございました!!!
また是非お願いします!
1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。
『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。
バックナンバー