第2話:ゴールデン街と静寂と
新宿ゴールデン街。
歌舞伎町の狭い区間に200件以上のお店が軒を連ねているという、
戦後から続く飲屋街である。
普段一人で飲みに行くことなんて、ほとんどないけど、なんとなく興味があって、ある日、ゴールデン街のお店が載っている本を買ってみたところ、気になるお店を発見。
どうやらゴールデン街には「bar 図書室」という漫画をテーマにしているお店があるらしい。
なるほど...、漫画がテーマ...。
これは是非、手塚について話を伺ってみたい!
ということで行ってみました。新宿ゴールデン街。
生まれて初めてのゴールデン街。
意気揚々と来てみたものの、一人でフラッと入るにはかなりの勇気が必要なことが判明。
素面のままじゃ厳しいと、一旦ゴールデン街を離れ、大衆居酒屋で酒を煽り、勇気とかそんなん気にならないくらい酔った状態で再び参上。
さぁ、いざ「bar 図書室」へ!
まさにその名の通り「図書室」の入り口そのもの。
学校を思い出すような、懐かしい感じ。
中を開けると、店主の女性とお客さんが一人という状態。カウンターの中は本棚になっていて、漫画がびっしり並べられていた。
店主はのんさんという女性で常連さんのいる中、一見の僕にも会話を振ってくれるなど、とても優しく親しみ易い人だった。
話を聞いていると、常連の人はどうやら出版関係者っぽい。
聞くところによるとお店のお客さんも、作家さんとか出版関係とか、なにかしら漫画に携わっている人も多いそうだ。
所狭しと並べられた漫画を見ていると、あることに気付いてしまった...。
そう、手塚漫画が置かれていないのだ。
常連の人が帰り、のんさんと二人になったので聞いてみた。
ちぼり 「手塚漫画って置いてないんですか?」
のんさん「そうなんですよ〜。手塚漫画を置いとくと、なんでこの作品は置いて、あの作品は置かないんだって、どれを取っても角が立っちゃうんですよね...」
なるほど...。
たしかに秋田書店、講談社、小学館、集英社などなど、手塚漫画って色んなとこで描かれてるしな〜。そう言われると納得。
そうこうしていると、常連の女性が来店。
話の流れでその人にも手塚のことを聞いてみると...。
女性「手塚治虫の『空気の底』はマジ名作!一回読んでみて!ほんと!読んで!」
女性「ロバ!ロバのやつね!ロバ!ロバ!」
ものすごい熱量でゴリ押しされた。
その人は、普段はそこまで漫画を読まないのだが、『空気の底』はがっつりハマったそうだ。
読んでないと、次に会った時にどうにかされそうなので、すぐさま電子書籍で購入。
ロバだ!たしかにロバだった!おっぱいめっちゃ見てる!
内容は青年向けの短編集で、SFからホラーっぽいものまで各作品の切り口は様々。考えさせられるものも多く、読み応えがあって面白かった。
「世にも奇妙な物語」でドラマに出来そうだな〜と思ってたら、どうやら本当にしてるみたい。しかも昨年。
熱心に語る女性の話を聞いていると...、突然店の外から叫ぶような大きな声が一瞬上がった。どうやら喧嘩っぽい様子。すると、のんさんが...
のん「喧嘩かな? 喧嘩かな?」
なんかそわそわしている!
そして、
店主が出て行ってしまった...。
そして残った常連の女性も...
あ!なんかそわそわしている!
いやな予感...。
そして店内は初めて店に来た僕、ただ一人となった...。
ちょ...、他のお客さんが来たらどうするの?これ?
万が一よ? 万が一、常連さんとか来たら...
って、感じになりますよ?
(実際にお客さんは来ず、すぐに二人も帰ってきました)
これがゴールデン街...。なんて自由な場所なんだ...。
漫画のことはもちろん、初めてのゴールデン街も堪能できた一夜でした。
さてさて、さきほど挿絵に出てきたこの...
"シーン"という擬音。
漫画でも良く目にすることのある表現ですが、実は漫画にこの"シーン"を用いたのは手塚治虫先生が初めてなんだとか。
(光文社の『マンガの描き方』中で本人が発言。)
知らなかった...。
確かに、今では当たり前だと思って読んでいるものも、最初にやり始めた人はいる訳ですもんね。
そう考えると手塚治虫先生が漫画に与えた影響ってとんでもないんだろうな...。
手塚治虫先生はすごいっていう認識は勿論あるけれど、具体的に「これ」を作った!というものを見ると、改めてそう感じるなぁ。
よ〜し!次回は手塚治虫先生が作った漫画のスタンダードについて調べてみることにしよう!お楽しみに〜!
藤原ちぼり
1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。
『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。
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