虫ん坊

コラム「手塚を知りたい放送作家」第1話:手塚るみ子さん

2018/12/07

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第1話:手塚るみ子さん


記念すべき第1話です。

本題に入る前にお伝えすることが。

前回のプロローグを読んだ方はひょっとしたらお気付きかもしれません。

そうなんです。タイトルの画像、嫁の絵なんです。


前回のプロローグの原稿を手塚プロに提出したところ、あれだけ挿絵に反対していた学さんが「こういう使い方なら面白いんじゃない?」と賛成してきたんです。バイトなのに立ち位置的にはもう編集者です。


じゃあどうせならということで、嫁にタイトルの絵も描いてもらいました。

今後はちょいちょい嫁の挿絵が入ってくると思います。


さて、ここからが本題。

記念すべき第1話目は、僕が担当させてもらっているTBSラジオ『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』に手塚治虫先生のご長女、手塚るみ子さんにご出演頂いた時のお話をさせてもらおうかと思います。


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『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』は作家の先生や編集者さんなど、週刊少年ジャンプにゆかりのある方をゲストにお招きするラジオ番組です。


ジャンプ(集英社)と手塚のゆかりといえば、ストーリー漫画の新人賞である"手塚賞"。

年2回、全国各地の新人漫画家さんが、この手塚賞に応募して来ます。

ちなみに『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生や、『SLAM DUNK』の井上雄彦先生なども、過去にこの手塚賞に応募されたんだとか。


ラジオの収録までの流れは以下のような感じ。


1.ゲストが決定

2.アンケートをゲストに投げる

3.帰って来たら、制作スタッフがそれを元に台本打ち


台本打ちに参加するのは番組DのT波さん、M田さん、そして僕の3人。

いつも通り打ち合わせをしていると、T波さんが資料の漫画、『ブラック・ジャック創作秘話』を手に取って読み始めました。


『ブラック・ジャック創作秘話』は手塚治虫先生の制作現場の舞台裏を描いた実録漫画で、手塚先生のお子さんである手塚眞さんや、るみ子さんについても描かれている作品です。


ついさっきまで、楽しげに打ち合わせをしていたT波さんでしたが、『ブラック・ジャック創作秘話』のるみ子さんの回を見て、動きがピタリと止まりました。


「どうしたんだろう...?」と思った矢先でした。




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本を置いたT波さんの目から一筋の涙が!

あまりに突然の出来事にM田さんと僕は慌てふためきます。



ちぼり「え、え!? T波さん!? どうしたんですか!?」



目頭を押さえながらT波さんが口を開きます。



T波 「るみ子さんの気持ちを思うと...ぐふぅ...」



手塚治虫という偉大過ぎる父を持った、若かりし頃のるみ子さんの苦悩。

最愛の父である手塚治虫を亡くし、るみ子さんが気付いた様々なこと。


そう、T波さんはそんなるみ子さんにがっつり感情移入し、涙を流したのです。



T波 「歳をとると涙腺が...ぐふぅ...」



「50を過ぎたおっさんが結構ダイナミックに泣いている!!!」



最初こそ、そんな風に思ったものの、

今思い返せば、あんなに美しく、純粋な涙はそうありません。

そう、あんなに美し...




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......。



そんなこんなで台本を完成させ、迎えた収録当日。

サンドさんの待つブースに手塚るみ子さんが登場。


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るみ子「よろしく願いします」


落ち着いた雰囲気で、聡明な印象を受けました。

なんかオーラも出てる気がする。...いや、確実に出ている。


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ブース内の位置関係はこんな感じ。

収録中の僕の役目はT波さんの指示を受けて動いたり、カンペを出したりなどなど。ラジオって作家がテレビで言うところのフロアディレクター的な役割をするんです。まぁ自分はそんな偉そうに言えるほど動いてもいないのですが。


ゲストの方の打ち合わせはM田さんが行ってくれているので、

ブースに入ったらすぐに収録が始まります。


手塚治虫先生や作品のことはもちろん、

如何にして手塚作品と今の人たちを繋げるか...、などなど様々なことをお話ししてくれました。


そんな真面目な話もある一方で...、


るみ子「父が亡くなった後、引き出しを開けたらパンツが出てきたんです!」


など、面白い話も盛りだくさん!


中でも僕が印象的だったのが『もし今、手塚先生が生きていたら...』という話。

手塚先生は根っからの負けず嫌い。若い作家で才能のある人のことを「あんなの俺でも描ける」と、まずけなすらしいのです。

しかし、るみ子さんから言わせると、それはライバルだと認めている証拠なんだとか。


漫画の神様とまで呼ばれる手塚先生が若い作家にまでライバル心剥き出しだったなんて。でもだからこそ、あれだけの漫画を描くことが出来たんだろうなと、妙に納得させられました。


そしてるみ子さん曰く、手塚先生が認めていた作家さんは、しりあがり寿先生。

これにも「へぇ〜」と思いました。横で聞いている僕はもはやスタッフではなく、ただのリスナーと化していました。



ふと気が付くと、ブースの外に人影が。

カメラを構えて中の様子を撮影している男がいます。




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ん? あれは...




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...学さん(あいつ)だ。何故TBSにまで...。


話が逸れますが、第1話目の原稿を上げる間に、

学さんからメールが届きました。



以下、原文ママ



ちぼりさんのプロフィールの横に 手塚キャラでちぼりさんになるべく似てるキャラの絵でもいれようかなと思ってるんですが、今の所「金三角」が良いかなと思っています。添付しておきます。


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...金三角?

気になって調べてみると「鉄腕アトム」、「ブラック・ジャック」、「三つ目がとおる」など手塚作品をまたにかけて登場する悪役だそうで、手塚治虫先生の小学校時代の親友がモデルになったキャラクターとのこと。




...いや、たしかに似てるけども。

遠回しにハゲでデブと言われていますよ。これは。




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話を戻します。

そしてラジオ収録も無事終了。

るみ子「お二人がお上手だからついつい喋り過ぎちゃいました」そんな言葉を残し、るみ子さんは笑顔で帰って行かれました。

手塚治虫先生の意外な一面について知れる、大変興味深い回だったと思います。

放送は終了しましたが、TBSラジオCLOUDから聴くことが出来るので、よかったら是非聴いてみてください!


『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』




chibori_profile.jpg藤原ちぼりchibori_twicon.gif

1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。

『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。


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