虫ん坊

コラム「手塚を知りたい放送作家」第45話:ライバルを作ろう!

2023/01/30

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第45話:ライバルを作ろう!




みなさんにはライバルっていますか?

共に競い合いながら切磋琢磨する...そんなライバルの存在って大事ですよね。


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手塚先生にもライバルはいるのかなぁと調べてみると...

出るわ出るわ、色んな名前。例えば、水木しげる先生。


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「どろろ」のあとがきには水木先生の描く妖怪マンガへのライバル心から、妖怪が登場する作品「どろろ」を描いたことが書かれています。

そして手塚先生の自伝作品「がちゃぼい一代記」ではこんなシーンも。


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まだ東京に出てくる前の先生たちの作品を見て、危機感を抱く手塚先生の一コマです。相手が新人であろうと同じマンガ家として、競う相手という認識を持っていることが分かります。

様々なインタビューや記録を見てみると特筆して見えてくるのが手塚先生の並々ならぬ嫉妬心!自分が描いていないモノをみると嫉妬に駆られ、若い才能に出会うとまた嫉妬する。


言わば、自分以外のマンガ家全員がライバル!


言葉にすると軽いですが、およそ700というマンガ史上類を見ない数の作品を生み出してきた所を踏まえると、比喩でなく本当にそんな風に思っていたのではないか...と思わされます。


マンガの世界でも、アトムプルートウ


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ブラック・ジャックドクター・キリコ

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など、ライバルの存在は非常に重要。主人公の壁や成長のきっかけになり、物語にもグッと深みも出ます。

ここでふと思いました...。


...あれ? そういえば僕にライバルという存在はいたっけ...? 放送作家としてありがたいことに仕事を頂いて生きてはいるけど、40代に突入し、業界に入った頃のような勢いや野心は無くなってきているのも事実。


昔はもっと尖ったナイフのように同業者を見ていた気がします。

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番組のエンドロールに出てくるスタッフの名前。「構成」の部分に知った名前が出る度にジェラシーを覚えていましたが、最近は...

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そんな気持ちすら無くなっていたような気がします。

マンガ家を常にライバル視してきた手塚先生とは雲泥の差。このままでは放送作家として伸びない気がしてきました...。


僕もライバルを作らねば...!


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しかし、いざライバルを作ると言っても、自分が一方的に思い込むのはなんか違う気がします。やっぱり互いのことをライバルと認識し合うからこそ、切磋琢磨できるような気がする...。


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ドン・ドラキュラもちゃんと言葉にして伝えてますし、はっきりと言った方が相手も僕をライバル視してくれる気がします。 


僕には他の作家さんよりも気になってしまう人が一人います。同じ歳で得意とするジャンルも一緒。だからこそ他の人よりも絆みたいなものを感じるし、その人が面白いものを作れば、「負けたくない!」という気持ちも湧いてくる。 

これはまさにライバルそのもの! 

こんな機会もないので、ここはハッキリと自分の気持ちを伝えた上で相手が僕のことをどう思っているのか聞いてみました。


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ライバルだと思ってくれてた!


認められている気がしてとても嬉しい!

しかし...



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頭がパンクしているのかと思われてしまいました...。

お互い敬語を使う距離感でのライバル発言は非常に危険なことが分かりました。さらにLINEでのやり取りだと訳が分からなすぎて一歩間違えれば嫌われかねません...。ライバル発言は顔を合わせることが必須だと痛感しました。

手塚先生が特にライバル視していたとされるのが「イガグリくん」や「赤胴鈴之助」の作者である福井英一先生。真正面から武道漫画のカッコよさを追求した「イガグリくん」には手塚先生も「しまった!やられた!」と舌を巻いたそう。


chibori45_13.jpg「漫画少年」編集室にて、漫画家・福井英一先生(左)と手塚先生(右)


そんな福井先生は33歳という若さでお亡くなりになられたんですが、手塚先生は福井先生の死後に、福井先生と親交のあったマンガ家の山根一二三先生から、こんなことを言われたんだとか。

「あいつは俺にいつも手塚がライバルだと言ってたぜ。あんた気付いてたかい?奴の家には、あんたの本が全部揃っていたんだ」

これを聞いた手塚先生は一体どんな風に思ったんでしょうか。認められていると分かった反面、その相手はもういない。嬉しいのか、それとも悲しいのか...その気持ちは手塚先生のみぞ知りますが、手塚先生の中でその気持ちは後の作品作りへの大きなエネルギーになっていた気がします。

トキワ荘も然り。ライバルたちと一つ屋根の下で暮らすその生活は創作という点において、様々な刺激と支えを受けたに違いありません。

お互いを高め合うライバル。

それはアイデアやオリジナリティに加えて、より良い作品を生み出す為に必要な欠かすことの出来ない部分なのかもしれません。そう思える相手がいるってすごく幸せなことなのかも。

そんな訳でさっきLINEした作家さんと飲みに行くことにしまーす!



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藤原ちぼりchibori10_twicon.gif

1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。

『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。

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