2023/01/30
みなさんにはライバルっていますか?
共に競い合いながら切磋琢磨する...そんなライバルの存在って大事ですよね。
手塚先生にもライバルはいるのかなぁと調べてみると...
出るわ出るわ、色んな名前。例えば、水木しげる先生。
「どろろ」のあとがきには水木先生の描く妖怪マンガへのライバル心から、妖怪が登場する作品「どろろ」を描いたことが書かれています。
そして手塚先生の自伝作品「がちゃぼい一代記」ではこんなシーンも。
まだ東京に出てくる前の先生たちの作品を見て、危機感を抱く手塚先生の一コマです。相手が新人であろうと同じマンガ家として、競う相手という認識を持っていることが分かります。
様々なインタビューや記録を見てみると特筆して見えてくるのが手塚先生の並々ならぬ嫉妬心!自分が描いていないモノをみると嫉妬に駆られ、若い才能に出会うとまた嫉妬する。
言葉にすると軽いですが、およそ700というマンガ史上類を見ない数の作品を生み出してきた所を踏まえると、比喩でなく本当にそんな風に思っていたのではないか...と思わされます。
マンガの世界でも、アトムとプルートウ
ブラック・ジャックとドクター・キリコ
など、ライバルの存在は非常に重要。主人公の壁や成長のきっかけになり、物語にもグッと深みも出ます。
ここでふと思いました...。
...あれ? そういえば僕にライバルという存在はいたっけ...? 放送作家としてありがたいことに仕事を頂いて生きてはいるけど、40代に突入し、業界に入った頃のような勢いや野心は無くなってきているのも事実。
昔はもっと尖ったナイフのように同業者を見ていた気がします。
番組のエンドロールに出てくるスタッフの名前。「構成」の部分に知った名前が出る度にジェラシーを覚えていましたが、最近は...
そんな気持ちすら無くなっていたような気がします。
マンガ家を常にライバル視してきた手塚先生とは雲泥の差。このままでは放送作家として伸びない気がしてきました...。
しかし、いざライバルを作ると言っても、自分が一方的に思い込むのはなんか違う気がします。やっぱり互いのことをライバルと認識し合うからこそ、切磋琢磨できるような気がする...。
ドン・ドラキュラもちゃんと言葉にして伝えてますし、はっきりと言った方が相手も僕をライバル視してくれる気がします。
僕には他の作家さんよりも気になってしまう人が一人います。同じ歳で得意とするジャンルも一緒。だからこそ他の人よりも絆みたいなものを感じるし、その人が面白いものを作れば、「負けたくない!」という気持ちも湧いてくる。
こんな機会もないので、ここはハッキリと自分の気持ちを伝えた上で相手が僕のことをどう思っているのか聞いてみました。
認められている気がしてとても嬉しい!
しかし...
お互い敬語を使う距離感でのライバル発言は非常に危険なことが分かりました。さらにLINEでのやり取りだと訳が分からなすぎて一歩間違えれば嫌われかねません...。ライバル発言は顔を合わせることが必須だと痛感しました。
手塚先生が特にライバル視していたとされるのが「イガグリくん」や「赤胴鈴之助」の作者である福井英一先生。真正面から武道漫画のカッコよさを追求した「イガグリくん」には手塚先生も「しまった!やられた!」と舌を巻いたそう。
「漫画少年」編集室にて、漫画家・福井英一先生(左)と手塚先生(右)
そんな福井先生は33歳という若さでお亡くなりになられたんですが、手塚先生は福井先生の死後に、福井先生と親交のあったマンガ家の山根一二三先生から、こんなことを言われたんだとか。
「あいつは俺にいつも手塚がライバルだと言ってたぜ。あんた気付いてたかい?奴の家には、あんたの本が全部揃っていたんだ」
これを聞いた手塚先生は一体どんな風に思ったんでしょうか。認められていると分かった反面、その相手はもういない。嬉しいのか、それとも悲しいのか...その気持ちは手塚先生のみぞ知りますが、手塚先生の中でその気持ちは後の作品作りへの大きなエネルギーになっていた気がします。
トキワ荘も然り。ライバルたちと一つ屋根の下で暮らすその生活は創作という点において、様々な刺激と支えを受けたに違いありません。
お互いを高め合うライバル。
それはアイデアやオリジナリティに加えて、より良い作品を生み出す為に必要な欠かすことの出来ない部分なのかもしれません。そう思える相手がいるってすごく幸せなことなのかも。
そんな訳でさっきLINEした作家さんと飲みに行くことにしまーす!
1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。
『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。
バックナンバー
コラム「手塚を知りたい放送作家」第2話:ゴールデン街と静寂と
コラム「手塚を知りたい放送作家」第3話:振り返れば奴がいるとかいないとか
コラム「手塚を知りたい放送作家」第4話:トキワ荘跡地と知らないおじさん
コラム「手塚を知りたい放送作家」第5話:百鬼丸みたいになりたくて
コラム「手塚を知りたい放送作家」第6話:妻の支えってハンパない
コラム「手塚を知りたい放送作家」第7話:手塚グルメに舌鼓
コラム「手塚を知りたい放送作家」第8話:アトムってやっぱりすごい
コラム「手塚を知りたい放送作家」第9話:手塚にあった怖い話
コラム「手塚を知りたい放送作家」第10話:漫画家の先生にインタビュー...のはずだったんですが...
コラム「手塚を知りたい放送作家」第11話:渋谷で見つけたアトムの謎
コラム「手塚を知りたい放送作家」第12話:『マンガの描き方』を見て描いたマンガ
コラム「手塚を知りたい放送作家」第13話:痛みで学んだ手塚治虫
コラム「手塚を知りたい放送作家」第14話:第1回 手塚でバズってるツイートGP
コラム「手塚を知りたい放送作家」第15話:手塚先生の缶詰の聖地で缶詰してみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第16話:家から一歩も動かず手塚旅行に行ってみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第17話:STAY HOME
コラム「手塚を知りたい放送作家」第18話:子どもに手塚マンガを読ませてみたら......
コラム「手塚を知りたい放送作家」第19話:手塚を彩るミュージック
コラム「手塚を知りたい放送作家」第20話:ファミコンの『鉄腕アトム』をやってみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第21話:中野ブロードウェイで見つけた『鉄腕アトム』
コラム「手塚を知りたい放送作家」第22話:歴史マニアに聞いた手塚光盛
コラム「手塚を知りたい放送作家」第23話:ベレー帽をかぶってみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第24話:ブッダを読んで悟りを開こう!
コラム「手塚を知りたい放送作家」第25話:手塚治虫の逃亡劇のように
コラム「手塚を知りたい放送作家」第26話:手塚治虫の感染症マンガ特集
コラム「手塚を知りたい放送作家」第27話:「ガラスの城の記録」を自分なりに完結させてみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第28話:手塚でテレビの企画書を書いてみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第29話:特撮革命!マグマ大使
コラム「手塚を知りたい放送作家」第30話:続・マグマ大使!ミニチュアの世界で出会った最小の男
コラム「手塚を知りたい放送作家」第31話:『やけっぱちのマリア』を読んでジェンダーを考える
コラム「手塚を知りたい放送作家」第32話:手塚キャラでテレビスタッフオールスターを考えてみた
コラム「手塚を知りたい放送作家」第33話:催眠術で手塚先生になりました
コラム「手塚を知りたい放送作家」第34話:私はどついたれで痩せました
コラム「手塚を知りたい放送作家」第35話:手塚をテレビで流すまで①
コラム「手塚を知りたい放送作家」第36話:忍術を初めて使った日
コラム「手塚を知りたい放送作家」第37話:手塚をテレビでな流すまで②
コラム「手塚を知りたい放送作家」第38話:アトムの馬力を分析
コラム「手塚を知りたい放送作家」第39話:七色いんこになれるかな?
コラム「手塚を知りたい放送作家」第40話:海のトリトンのようにイルカに乗ってみたい!
コラム「手塚を知りたい放送作家」第41話:シュマリのボディを手に入れろ!
コラム「手塚を知りたい放送作家」第42話:シュマリのボディを手に入れろ!後編
コラム「手塚を知りたい放送作家」第43話:西武園ゆうえんちのレオランドに初潜入!
コラム「手塚を知りたい放送作家」第44話:神保町で手塚作品の書店を開店しました!