虫ん坊

コラム「手塚を知りたい放送作家」第28話:手塚でテレビの企画書を書いてみた

2021/04/28

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第28話:手塚でテレビの企画書を書いてみた



放送作家をしていて、よく聞かれるのが「放送作家ってどんなことするの?」という質問です。確かに馴染みのない人にはイマイチ何やってるのかよく分からないですよね。

内容は色々あるんですが、一番多いのは"会議"です。番組の収録に向けて、スタッフ一同で内容を決める会議を行います。会議時間は決める内容や番組によって様々。最近だと大体二時間くらいでしょうか。


全体会議やディレクターとの分科会などを受けて、作家が行うのがスタジオやロケの台本書き。番組によってはディレクターさんが書く場合もありますが、作家が書くケースも多いと思います。


そんな感じで基本的には会議→台本書き→会議→台本書きを繰り返している訳ですが、他にもナレーションをチェックしたり、タレントさんとの打ち合わせをしたり、オーディションをしたりと何かとやることは多いです。


ちなみに僕が今までに体験した仕事でいうと、

気合バリバリのヤンキーをオーディションしたり...




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「私は叩いた人を元気にすることが出来ます!」という地下アイドルの素晴らしい特技をこの身に受けたり...


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国民的ビッグアーティストの目の前でその人の曲を歌ったり...


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などなど、とにかく貴重な体験をさせてもらっています。

そんな放送作家の仕事の中でも会議や台本書きと並んで大事なのが"企画書"


新しく番組が始まる時はまず最初に番組の企画書を作り、テレビ局へ提出します。そして数百という企画書の中から厳選されたものが番組として作られることになります。


針の穴を通すような非常に狭き門ですが、出さなければ新しい番組も始まらないので日常的に企画会議を行い、色んな所に提出しています。


前置きが長くなりましたが、ここからが本題!

せっかく放送作家という職業をやっているので手塚にちなんだ番組企画を考えたいと思います!


手塚治虫先生を題材にするのか、それとも作品を題材にするのか、まずはあまり決めずに、思いつくままにアイデアを書き出してみます。


  • ●『アトム散歩』

アトムをバーチャルで描き、タレントの散歩番組さながらに、実際の街を散歩する。第一回目は手塚プロダクションのある高田馬場。


  • ●『サンダーマスクの天下統一』

特撮ヒーローとして実写化もされたサンダーマスクが、47都道府県にいるローカルヒーローと対戦。天下統一を目指し、華麗なる復活を遂げる。


  • ●『二人だけのトキワ荘』

漫画化志望の男女が一つ屋根の下で暮らしながら漫画家を目指す漫画家ドキュメンタリー。共通の目標に向けて切磋琢磨し、お互いを支え合う中で生まれる二人の恋の様子も同時に見せていく恋愛リアリティーショーとしての側面も。


  • ●『ワンハンドレッド・ゴッド』

漫画の神様と言われる手塚先生。100人の漫画家が一人一つずつ手塚治虫という人の凄さを語っていく。出た内容をランキング化し、漫画家たちの考える手塚先生の凄さを見ていく。


  • ●『手塚治虫に会いましょう』

スタジオのトークゲストとしてバーチャルの手塚治虫先生を招く。

AI作の「ぱいどん」が話題になったので、同様にこれまでの手塚先生の言動や行動をAIが分析して、トークの受け答えを手塚治虫的思考で作成する。


  • ●『ブラックジャックを探せ』

世界で一番高額な手術費をぶんどったお医者さんを探す。


  • ●『火の番組』

テレビ史上初!火の鳥の如く、時代をかける番組。全体のパッケージ感は残しつつ、時代時代でMCを変えながら、今後数百年に渡って未来永劫行っていく特別番組。


なんかまとまりがない感じですが、企画会議によっては本当にこれくらいのアイデアを持ち寄って、話す場合もあります。せっかくなので実際の企画会議にぶつけてみましょー!


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ちなみにテレビ業界というのはテレビ局以外に番組を作る制作会社という所が存在します。テレビ局が制作会社から企画を募るケースも多々あり、今回僕が参加した企画会議はこの制作会社と呼ばれる所で行われたものです。


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僕の企画案を見たプロデューサーが口を開きます。


P「ん〜。番組じゃなくてワンコーナーのネタって感じじゃない?」



はい!ご紹介しましょう!こちらは企画会議あるあるというものがあれば間違いなく入るであろう、お馴染みの言葉。これを言われると...


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としか言えなくなり、結果的に残念な感じになります。

さらにPは続けます。


P「あとさ、この火の番組って普通に考えて出来なくない?」


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なんとなく会議が盛り上がるといいな〜と軽い気持ちで書いたものが、割と

マジで詰められる。こちらもあるある。つまりは単純にスベったということです。


一方で『二人のトキワ壮』は面白そう、という評価も頂きつつも、やはり

「今、何故この番組をやるのか?」という部分が埋められないという結論に。


むむむ。やはり厳しいのか...。

そんな風に思っていた矢先、テレビ局の番組募集内容を見ていたら、こんなものを発見しました。



『太平洋戦争の時代を生きた人々の姿や想いを描いた「終戦ドラマ」』



ん? これは...!

ご存知の方も多いと思いますが、手塚先生の戦争への思いは並々ならぬものがあります。


学徒動員として働きながら、死と隣り合わせの日々の中で漫画への情熱を燃やし続けた手塚先生。


そんな体験を経て、戦争を二度と起こさない為に「自分の体験を描いた作品」や「戦争をテーマに描いた作品」など、様々なジャンルの漫画で"戦争"というものを後世に伝えようとしました。


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そもそもヒットするための漫画ではないし、そこにはきっと編集者や出版社との様々なやり取りやドラマがあったのだと思います。

そんな"漫画で戦争を伝える"手塚先生を描いたドラマ。

普通の終戦を描くよりも、違った角度で戦争を捉えることもできて、良いドラマになるのではないかと思いました。


先ほどとは別の企画会議で早速概要をまとめて提出してみた所、なかなかの高評価!「これは出してみてもいいかも!」という話になりました。


とはいえ、局の審査に通るかどうかはまた別の話。採用までの道のりはまだまだ遠く、万が一採用されたとしても手塚プロに話を断られる可能性だって十分にあります。とはいえ、プレゼンを聞いて「良いドラマになりそう」と思ってもらえたのは単純に嬉しいですね。


そうと決まれば企画書作り!いつも以上に気合が入ります!意気揚々と募集要項を見直していると見慣れない単語が...。



ちぼり「シノプシス...?」



シノプシスとは"大まかなあらすじ"のことらしく、ここで僕はデカすぎる事実に気付きました。そう、僕はテレビ番組の企画書は散々書いてますがドラマの企画書は初めてだったんです...!なぜ途中で疑問に思わなかったんでしょうか。そりゃあ番組の企画書とは違いますよね。


しかし! この事実を突きつけられても、心が折れるどころかワクワクしてます!新しいことにチャレンジする良い機会!面白いと思ったモノには間違い無いので、自分を信じてとりあえず書いてみたいと思います!


いつの日かテレビで終戦×漫画をテーマにした手塚先生のドラマを目にすることがあれば、...それはこの時に書いたシノプシスなのかもしれません...。


なんて日を夢見て頑張ります!また進捗があったらお伝えします!

お楽しみに〜!



藤原ちぼりchibori10_twicon.gif

1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。

『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。

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