虫ん坊

コラム「手塚を知りたい放送作家」第33話:催眠術で手塚先生になりました

2021/09/22

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第33話:催眠術で手塚先生になりました



みなさん、自分を変えたいと思ったことはありませんか?

僕はしょっちゅう思います。締め切りもギリギリになってしまいがちだし、何よりも手塚先生みたいにバーゲンセールするほどのアイディアや閃きが思いつくような人間になりたい...。

そんな訳で今回は本気で手塚治虫先生になってみたいと思います!

...いやいや、お前みたいな作家の端くれが手塚先生になんかなれる訳ないじゃん。...って思うでしょ?


でも僕は手塚先生の作品の中でその方法を見つけてしまったんです。


それは...「催眠術」!


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手塚治虫漫画全集「ダスト8」。その中に収録されている催眠術をテーマにしたバカ一という作品で手塚先生は催眠術についてこのように語っています。


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自分を鳥だと思えるのなら、手塚先生になることだって不可能ではないはず!

いやー盲点でした、こんな簡単に天才になれる方法があっただなんて。

早速、都内で催眠術を行ってくれる場所を探して予約します。

そしてやってきたのは秋葉原駅近くにある「あおくま堂」。

鍼(はり)、灸、接骨などの治療に加え、ヒュプノ(催眠)を取り入れたセラピーをおこなってくれる治療院です。


迎えてくれたのは院長の垂水先生。


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鍼灸師としての資格も持ちつつ、催眠術師としても数々のテレビに出演。色んな芸能人に催眠術をかけてきたプロフェッショナルです!確かに只者ではない雰囲気が出ています。

ちぼり「あの〜手塚治虫先生になりたいんですけど、大丈夫ですか?」

先生 「まぁ、やってみましょうか」


あっさり受け入れてくれました。内心、「何を言ってるんだコイツ」と思われそうで不安でしたが、流石は百戦錬磨の先生。全く動じてません。きっともっと色んな催眠をリクエストする人もいるんでしょうね。



実は僕は催眠術を体験するのは今回が初めてではないんです。数年前に番組の収録で催眠術師の方にリハーサルで簡単な催眠をかけてもらったことがあるんですが、その時に行った「指がくっついて離れなくなる」という催眠は、全くかかりませんでした。

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ちなみに一緒に催眠をかけてもらった女優さんは「僕のことを好きで好きでどうしようもなくなる」という催眠をかけられ...

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僕を大好きに!!!

そして僕は催眠なんてかけられていないのに、その人を大好きに!

「...もしや、これが恋の魔法...?」なんて思いながら気持ちの悪い笑顔を浮かべてしまったことをこの場を借りて謝罪致します。すいませんでした。

話が逸れましたが、催眠術を一度経験して上手くかからなかったので、今回も少し不安があったんです...。


そして施術がスタート。

垂水先生はまず「催眠」に関わるお話を聞かせてくれました。


先生曰く、人間というものは"自我"が3%、"無意識"が97%で動いているそうです。

自我というのは自分が考え、感じ、行動にうつすこと。一方無意識は文字通り意識せずに行っていること。人間はこの無意識の領域で動くことがとても多いんだそうです。


先生 「極端な話を言えば...心臓ですね。これは『心臓を動かそう!』という

意識をせずに無意識で動いています」

ちぼり「たしかに...」

先生 「あとは身近なところで言うと、毎日の歯磨きもそうです。歯磨きをする時、毎回どこから磨こうって考えてますか?考えてませんよね?」

ちぼり「たしかに...」

先生 「これも無意識でやっているんです。そして歯磨きの時間は毎回ほぼ一緒。無意識が身体をコントロールしているということなんです」

ちぼり「ほぉぉ」


これまで考えたこともなかったことばかり。なるほど〜と思うことも多かったです。そしてこの"無意識を認識"することが催眠術において非常に重要なんだとか。


垂水先生の話も終わり、いよいよ待ちに待った催眠へ。

いきなり手塚先生になるのではなく、まずは簡単な催眠から行っていきます。



【催眠① チェーンを動かす】

まずは先端に石のついたチェーンを持ち、手を固定したまま、頭の中で...


「横に揺れろ〜」

「縦に揺れろ〜」

「回転しろ〜」


と、念じて動かすというもの。そういえば小さい頃に五円玉でやったことがあったような...。自分では気付かないうちにそっちの方向に動かしてるってやつです。まさに無意識。

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念じてみた結果、想像以上に動きました。しかも自分でも引くほどにブンブンと。「あれ? ひょっとして催眠術にかかってる?」。これは期待が出来るかもしれません。

そして催眠術は次のステップへ。



【催眠② お尻がひっついて立てなくなる】


なんかテレビで見たことあるヤツだー!いきなりレベルが上がり、「流石にそれは無理じゃない...?」とか思っている中、早速催眠が始まります。

先生「3秒数えると、お尻がひっついて立てなくなります。ピタッとくっついて全然離れない。3・2・1、はいっ!じゃあ立ってみて下さい」


...んんん...いや、立てる...気がする。流石にそれは...。

ここである不安が頭をよぎります。せっかく手塚先生になる催眠をしてくれるのにその前段階で催眠が失敗してしまったら、これ以上催眠をかけてもらえないのでは...。


これは禁忌のやらせに手を出さなければならないのか...。

いや...、しかしそれではコラムにウソを書いてしまうことになる...。


立つべきか、立たざるべきか...、ぐむむむむ...


時間にすればたったの数秒。悩みに悩んだ末、たどり着いた答えは、やっぱりやらせは良くない!


垂水先生ごめんなさい!俺は立ちます!!!


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立てない...。

ウソだろ...。

俺のお尻はどうしちまったんだ...。

誰かのお尻にでもなっちまったのか...。


立てそうな気はするのに、全然立てない!!!

ウソじゃないんです。本当なんです!


まさか以前はこれっぽちも催眠術にかからなかったこの僕が...こんなにガッツリかかるなんて...。正直、自分が一番驚いてます。


なぜだ...。一体いつの間に...。

あれか、あの自我とか無意識とかの件か。もうあの時からすでに催眠は始まっていたと言うのか...。


恐るべき垂水先生...。この調子ならマジで手塚先生になることが出来るかもしれない!期待に胸が膨らみます。


そしていよいよ...


先生「それじゃあ次は手塚先生になってみましょう。3つ数えるとあなたの名前は手塚治虫になります。」


名前が手塚治虫に...?
いや、手塚先生になりたいと言ったはあくまでアイデアや発想を生み出す内面的な話であって、自意識として手塚先生本人になるということではないのだけれど...。


先生「手塚治虫になりますよ〜。手塚治虫があなたの名前です。名前を聞かれるとぜ〜〜ったいに手塚治虫と答えちゃう」


もう垂水先生は止まりません。もはや受け入れるしかありません。

とは言え...、名前が手塚治虫になるのは流石に...。


お尻はまんまとかかってしまいましたが...、だって僕、藤原ですよ。

もしも、自分が大真面目に手塚を名乗ったとしますよね。


僕、100%吹き出しちゃいますよ?

ゲラである僕がそんなの事態が起こって笑わずにいられるはずがありません。

だって僕、藤原なんですもん!


先生「3・2・1!はい! あなたのお名前は?」

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手塚治虫、爆誕。


分かりますよ。ウソだと思いますよね?でも、本当に名前を聞かれると手塚治虫って言っちゃうんです。しかも一切笑わずに!


正確には、頭の中では大爆笑なんです。でも口に出る時は恥ずかしげも照れもなく、なんなら堂々と名乗っているんです。


もうすごいを通り越して怖いよー。催眠術ハンパないです。


そんなこんなで名前が手塚治虫になった僕ですが、「創作に関する部分で手塚先生みたいになりたいんです。」と改めて伝え直し、その催眠をかけてもらいました。



先生「3つ数えると仕事がとっても楽しくなる。アイデアもどんどん出てくる。もう書きたくて書きたくて仕方がなくなる。そして書いてるうちにあなたはどんどん手塚治虫先生に近づいていきます。3・2・1、はい!」


目を開くと、頭の中がスッキリした感覚になり創作意欲に駆り立てられました。この催眠体験で感じたことや発見もあったので、頭の中でアイデアの種が渦巻いています。これを形にすれば...きっと面白い企画を出せるはず!まるで初めて作家になった時のようなワクワクした気分です。早く家に帰って色々考えたい!


と、思って家に帰ったはいいものの...。締め切りが重なっているタイミングで催眠術の取材を行った為、新しい企画など考える暇もなく、まずはたまっている作業を片付けていくことに...。手塚治虫になれたことを実感するのはもう少し先になりそうです...。


でも...、締め切りに追われているこの現状だけみると...、結果的に手塚先生っぽくなれたのかもしれません!


垂水先生、非常に貴重な体験をさせて頂きありがとうございました!

みなさんも催眠術に興味があれば是非、体験してみて下さい!



藤原ちぼりchibori10_twicon.gif

1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。

『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。

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