サンリオ リリカ「野牛の丘(前編)」扉絵 1976年
ギリシャ神話に出てくる伝説の一角獣=ユニコーンの子どもであるユニコが、行く先々で、人々に幸せをもたらしながら旅をするファンタジーです。
美の女神・ビーナスはものすごい焼きもちやきで、人間のプシケが自分より美しく人気があるのをねたんでいました。ビーナスは、そのプシケの美しさの秘密が、彼女が飼っているユニコーンの子ども・ユニコにあると知って、西風の精ゼフィルスに、ユニコを遠い所へ捨ててくるように命じます。
ユニコは、自分を愛してくれる人々のためになら、不思議な力が出せるのです。ゼフィルスは、ユニコを気の毒に思いながらも、命令に逆らえず、ユニコを時の流れの彼方へ連れさってしまいました。
アメリカ先住民の世界、中世ヨーロッパの城、近代ヨーロッパの森、妖精の国、ロシア帝国などなど......。ユニコはあらゆる時代のあらゆる場所をさまよい、そのたびに、前の記憶をすべて失ってしまうのです。
1976/11-1979/03 「リリカ」(サンリオ) 連載
中性的な魅力のユニコーンの子ども、ユニコが主人公の、ファンタジックな作品です。とてもかわいらしいユニコですが、男の子です。
ギリシャ神話の世界からやってきたユニコですが、西風の精・ゼフィルスの力によって、歴史も時空も飛び越えて、色々な世界に行くことができます。そのたびにかかわりのあった人々やときには動物たちとの関係も都度リセットされてしまうのは、ユニコにとっては可哀想ですが、物語を読む側としては、無限にいろいろな世界でのユニコの活躍を見ることができるというわけで、いくらでもストーリーが想像できる設定といえます。
サンリオ リリカ「うるわしのロゼリア(3)」扉絵 1977年
『ユニコ』が連載されたのは、キャラクターグッズで有名なサンリオが発行していた少女雑誌「リリカ」でした。「リリカ」は海外版をつくる計画もあったために、横書きで左綴じという、日本では珍しい体裁の雑誌でした。そのため『ユニコ』は左開きで描かれ、連載開始当初はオールカラー、そしてコマの外枠をはみ出してページの端いっぱいまで絵が続く裁ち切りを、全ページにわたって採用するという、非常にユニークなコマ割りとなっています。
手塚治虫は、この表現手法を、後に『未来人カオス』でも使いました。当時、サンリオはアニメ制作に熱心で、ユニコのキャラクターは、手塚治虫がサンリオのロサンゼルス・スタジオを見学に行ったときに、その場でひらめいたものでした。
ユニコ
ユニコーンの男の子。もともとはプシケという少女に飼われていたが、プシケに嫉妬したビーナスが西風の精・ゼフィルスに命じてプシケのもとから連れ去ってしまう。ユニコには自分を愛してくれた人に幸せをもたらす能力があるのだ。ゼフィルスはユニコを様々な世界に捨てにいくが、その都度行く先で知り合った人々に助けられ、助けてくれた人々を不思議な力で幸せにしていく。
>キャラクター/ユニコ
ユニコ
プシケ
ビーナス
ユニコのもともとの飼い主。美しい少女で、ビーナスの嫉妬を買うが、そのビーナスの息子・エロスですら彼女を好きになってしまうほど。
美の女神。美しいと評判の人間の娘・プシケに嫉妬し、彼女の手からユニコを取り上げる。「美しいということは残忍なこと」とゼフィルスの言うとおり、大変美しいが意地悪。自分以外に美しい女性がいることを許さない。
ゼフィルス
ビーナスの命令を受け、ユニコをさまざまな世界に捨てにいく西風の精。風の精なので透き通っていて、高い空を飛んでやってくる。優しいがビーナスの命令には逆らえない。
ゼフィルス
チャオ
悪魔の子
黒猫の女の子。もともとは飼いネコだったが、ドジな性格が災いして捨てられてしまう。魔女にあこがれていて、いつか魔女の飼い猫になって魔法が使えるようになることを夢見ていた。
>キャラクター/チャオ
ユニコが孤独の島で出会った悪魔の子ども。まだ子供だが、父親の悪魔はすでにいないようで、1人で暮らしていた。やんちゃだがどこか憎めない性格で、父親と同じような一本角にあこがれている。
「ユニコ(小学一年生版)」のユニコとラゴン
(前略)
「リリカ」の連載がはじまって、ただひとつ困ったのは、ユニコがかわいらしすぎることでした。
今のマンガの主人公は、あるていど毒がないとおもしろくないのです。ユニコは優等生で良い子すぎます。従って、強烈な個性の相手役が必要です。
「リリカ」から連載は「小学一年生」にうつりました。猫のチャオや、竜の子どものラゴンなどの脇役にささえられて、ユニコはみなさんにかわいがられています。
(講談社刊 手塚治虫漫画全集『ユニコ』2巻 あとがきより抜粋)
「ユニコ(小学一年生版)」のユニコとラゴン
サンリオ リリカ「ほうきにのったネコ(3)」扉絵 1977年