コラム「手塚を知りたい放送作家」第54話：100冊目の手塚作品
2023/12/25
第５４話：１００冊目の手塚作品
いつも電子書籍でマンガを購入しているのですが、こないだふと購入した手塚作品の数を調べてみたら９９冊になってました。
あと一冊で１００冊か〜。せっかくだから１００冊目に相応しい一冊を選びたい！そんな風に思い、探していると...ぴったりの１冊を見つけました！
それがこちら！
ライオンブックスは手塚先生の短編作品を収録しているシリーズで、その５巻に収録されているのが「百物語」という作品なんです。１００つながりということで早速購入！記念すべき１００冊目を手に入れることが出来ました！
そんな訳で今回はこちらの「百物語」をご紹介していきたいと思います！
手塚先生はドイツの詩人・作家であるゲーテの作品「ファウスト」をこよなく愛しており、「ファウスト」を基にしたマンガを３回も描いているそうです。
１度目が「ファウスト」、３回目が未完に終わった「ネオ・ファウスト」ですが、この「百物語」は日本の時代劇として２回目に描かれた作品です。
主人公は勘定型（会計係）の武士、一塁半里。
ある日、家老の命令で出したお金がお家乗っ取りの軍資金として使われてしまいます。そして本人には全くその気はなかったものの、同罪ということで切腹することに...。
そんな一塁の切腹間近に現れたのが悪魔の娘、スダマでした。
そんなスダマは命を助け、３つの願いを叶える代わりに魂をもらうという、
悪魔の取引を持ちかけます。
こうして一命をとりとめた一塁。
そして一塁がお願いした３つの願いがこちら。
①、満足がいくまで人生を過ごしたい
②、天下一の美女を手に入れたい
③、一国一城の主人になりたい
願いが叶うまで、スダマは一塁の家来となって過ごしていくことに。
そしてまず最初に行ったのが一塁の容姿の変更。
まるでモブのようだった一塁の顔が...
絶世の美男子に！
もうお気付きの方もいるかもしれませんが、悪魔と契約するこの手の話は大抵夢が全て叶った後に不幸になるという結末を迎えるのが常ですが...、そこはやはり手塚先生！全くそんな風にはならないんです！
それではここから、そんな「百物語」の予想を裏切るすごいポイントをご紹介していきましょう！
普通は優れた容姿を手に入れるとこうなります。
女性たちにチヤホヤされた結果、自堕落になり、さらに堕ちていくパターンが多いのですが一塁は違います。彼が選んだ行動は...
山に籠る！
そう、一塁は自身の弱さに向き合い、今一度人生をやり直すために、丸三年も山に籠ってしまいます。そして、そんじょそこらの武士では敵わないほどの強さを手に入れます。
せっかくイケメンになったのに、まさかの山籠り。
これは確実に〜
続いての予想を裏切るポイントはスダマです。
契約を交わした悪魔側。通常であれば...
従った振りをしつつ、最後の最後で無慈悲に契約を実施するパターンがほとんんどです。しかし、スダマは...
一塁にラブ！
なんとあろうことか一塁に本気で恋をしてしまいます。名前を呼ばれただけでこんなにも目を輝かせる悪魔、今までいたでしょうか？ここだけ見ると恋愛マンガと言っても過言ではありません。スダマが可愛く見えて仕方ないです！
悪魔のくせして少女のようにピュアな恋愛。
これはもう確実に〜
それでは最後の予想外ポイントです。
一塁はある殿さまの家臣になり、謀反を企てお家乗っ取りに成功。晴れて一国一城の主人になりました。しかし、そう思ったのも束の間、他国から攻められ、結局は物語冒頭のシーンと同じく、切腹することになってしまいます。
願いは叶ったものの、結局命を落とすハメになってしまった一塁。このパターン、通常であれば...
恨み節全開で散っていくところですが、一塁は...
後悔ゼロ！
それどころか満足した様子で散っていきます。
もう一度最初のコマと比べてみましょう。
こんなにも生に執着していた男があっさりと受け入れる死。
これはもう確実に〜
何故、一塁はこんなにも安らかな表情で死を受け入れることが出来たのか？
そして一塁に本気の恋をしてしまったスダマはどうするのか？
その結末は是非、その目でお確かめください！
１００冊目にぴったりの作品でした！
藤原ちぼり
1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。
『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。
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