虫ん坊

コラム「手塚を知りたい放送作家」第47話:夜の椎名町を歩く

2023/03/31

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第47話:夜の椎名町を歩く



前回、トキワ荘を再現したトキワ荘マンガミュージアムを訪問。

ミュージアムには当時の町の様子なども資料画像と共に展示されていました。

そんな資料を見ているうちに、手塚先生を始めとする先生方が暮らした町ってどんな所なんだろう...と気になってきました。

トキワ荘の跡地があるのは東京都豊島区南長崎。

完成当時の住所は椎名町でした。

南長崎は前回来た時に歩いたので、今回は椎名町に注目してみたいと思います。手塚先生が暮らしたこの椎名町はどんな町なのか...。

先生が暮らした頃からもう70年近くが過ぎてはいますが、実際に足を運んで見ていきたいと思います。

椎名町は西武池袋線で、池袋からたった一駅の場所。

ちなみに地図上で見ると、トキワ荘マンガミュージアムと椎名町駅はこのくらいの距離感。徒歩15分ほどです。





さぁ、そんな訳で椎名町へやってきました!


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夜にね!


やはりその街の本当の姿を知るには夜が一番でしょう。

そんな訳で今回はあえて夜の椎名町を攻めていきたいと思います。

そういえば駅の構内には、トキワ荘マンガミュージアムで開催されていた

藤子不二雄Ⓐ先生のまんが道展のポスターが貼られていました。

やはり椎名町としてもトキワ荘や先生方を大事にされていることが伝わってきますね。ポスター見たらまた行きたくなって来ましたが...、いかんいかん。今回は椎名町の散策です。

駅に降りてまず感じたのは"風情"でした。

結構都会なのかと思ったら全然そんなことはなく、令和の今に漂う昭和感。

昭和生まれの自分にはどこか懐かしさもあり、心地良いです。春間近の夜風も気持ちが良い。

さて、町を散策といっても何も決めておらず、行くあてもありません。

とりあえずブラブラ歩いてみることに。

駅からすぐに現れたのが「すずらん通り商店街」。高いアーケードの下にお店が並んでいます。実は僕も商店街の生まれ、商店街育ち。アーケード商店街ではありませんでしたが、この地域感溢れる商店街の感じ、とっても懐かしいです。

時間は夜の7時半。商店などは店じまいの準備に取り掛かっているところもちらほら。

その一方で賑わっていたのが飲み屋さんです。

割と閑散としていた駅前やアーケードの商店街に比べて、飲み屋さんはどこも盛況で人で賑わってました。トキワ荘の先生方もこうやってたまには飲みに行ってたのかな〜。

やっぱり町やそこで暮らす人を間近で観察するのにぴったりなのは飲み屋さん!そんな訳でブラブラしながら飲み屋さんを探します。

数ある中で目を引いたお店がマグロが売りの立ち飲み屋さん。

座りよりも立ち飲みの方が町と近い気もするし、何より美味しそうなお店!

ここに決めて一人で店内へ。

正直、知らない町の立ち飲み屋に一人で入るのは中々勇気が入ります。

恐る恐る暖簾を覗く姿はまるでシャイニング。


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店内はカップルがいるかと思えば、一人飲みしている若者やおじさん。

そしてベロンベロンによっている職人さん二人など、客層もバラバラ。

そんな人たちを横目に早速注文。値段見てびっくりしました。

なんと枡盛りの本マグロが衝撃の199円!



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安過ぎて逆に不安になる値段です。

トキワ荘時代から、時の流れが他の街より遅いのか...!?

と、思うほどの値段設定ですが、もちろん注文!!!

食べてみてさらに驚いたんですが、めっちゃ新鮮で美味しい!

これはお酒がすすみます!

その他にもマグロの角煮や、マグロのレアカツなど、あまり食べたことのないものもたくさん。せっかくなんで頂いちゃいましたが、これまた旨い!この安さで楽しめるなら、通ってしまいそうです。椎名町恐るべし。

それにしても職人さんがベロンベロンに酔っています。

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頭にはねじりハチマキ。ねじりハチマキをしている人を生で見たのはひょっとしたら人生初かもしれません。

お店の常連と思わしきこの職人さん。本当に愛すべきキャラクターでした。

このお店がテイクアウトの料理も店頭で販売しているんですが、帰り際に職人さんが大きめの一言。

職人「ここに残ってるの全部買ってやる!これ全部くれ!はい!財布!こっからお金取って!」



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財布ごと店員さんに差し出すスタイル。なんて豪快で、なんて太っ腹なんだろう。まるで昭和の職人さんがタイムスリップしてきたかのようです。手塚先生たちが住んでいた頃もきっとこんな人がいたんだろうな〜と思いました。

結構な量のテイクアウト品を袋に詰めている横で、そんな風に感慨にふけっていると、聞こえて来たのが...

店員「...あの、お金足りないっす」の一言。

まるでギャグマンガを見ているような展開でした。振りがしっかり効いていた分、面白かったです。笑いの基本を学ばせてもらいました!

たまたま入ったお店で、こんなに創作意欲を掻き立てるキャラクターに出会えるなんて。トキワ荘の先生方の作品にも椎名町で出会った人がモデルになったキャラもきっといるに違いありません!

(一方的に)そんな運命の出会いを果たし、ほろ酔いで店を出た後、次に目的を考えます。そこで浮かんだのが"銭湯"でした。

トキワ荘は風呂無し。当時から先生方は「鶴の湯」などの銭湯に行ってマンガのアイデアを出していたんだとか。

残念ながら当時先生方が行っていた銭湯は残ってはいませんでしたが、調べてみると椎名町には別の銭湯が存在!そこで僕も銭湯に入り、仕事のアイデアを考えてみることに!

やってきたのは椎名町駅から徒歩2分の銭湯「妙法湯」。2019年にリニューアルしたとあって、とても綺麗な銭湯です。

中にはいると結構な数のお客さんの姿が!親子連れからお年寄りまで幅広い感じです。時代的にもお風呂は家にあると思うんですが、みんな銭湯が好きなんだな〜と感じました。

お風呂の種類もいくつかあって、その中には電気風呂も!電気風呂未経験だったのでせっかくだから電気風呂に入って番組企画のアイデアを考えてみることにしました。


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想像以上の電気!全身がビリビリしてアイデアどころじゃありません!

あまりの驚きに「わ!」と声を出してしまいました。でもコリに効いてる感じでお風呂出たあとはスッキリ!慣れてしまえば癖になりそう...!やっぱりお風呂っていいものですね〜。

美味しいお酒に銭湯。図らずもかなりの癒しを堪能し、笑顔いっぱいで家路に着こうと駅に戻ってみると、駅前に立ち食いそば店が。



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立ち食いそばも、日本古来の庶民の味。せっかくなんで頂いて帰ることに。

駅前のベンチで食べるのもOKのようで、ベンチで腰を据えて頂きます。


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モリモリのお肉が名物のそばらしく、これまた美味しい!!!

ていうか、かなり美味しい!椎名町、一体どうなってるのでしょうか!?

手塚先生たちが暮らしたのも納得です。マンガに出来るほど魅力に溢れた町なんだもの!

思い切って引っ越そうかな...!

トキワ荘の近くに引っ越した!というネタも面白そうな気がします。

椎名町、そんなことを考えるくらい魅力いっぱいの町でした!





藤原ちぼりchibori10_twicon.gif

1979年生まれ、岡山県出身。放送作家。

『サラリーマンNEO』、『となりのシムラ』、『落語 THE MOVIE』などの人気番組の他、テレビアニメ『貝社員』の脚本も担当。『特捜警察ジャンポリス』、『サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ』など、漫画を題材にした番組にも携わっている。

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