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手塚マンガあの日あの時+(プラス) Theインタビュー:『手塚治虫とトキワ荘』の著者、中川右介の執筆手法を探れ!! 第3回: 中川流執筆術をほんの少しだけご紹介!

2021/12/10

Theインタビュー:『手塚治虫とトキワ荘』の著者、中川右介の執筆手法を探れ!! 第3回:中川流執筆術をほんの少しだけご紹介!

写真と文/黒沢哲哉

第1回からひきつづき、『手塚治虫とトキワ荘』著者、中川右介氏の執筆手法をインタビューで御紹介する第3回目。中川氏のように「書いてみたい」と思ったあなたに向けて、とっておきの執筆アイデアやコツをちょっとだけ教えて頂きました。


◎初出に当たることで見えてくるものがある

 さて今回のコラムの第1回目の冒頭で、中川氏の執筆スタイルが、これから手塚マンガを論じようという人たちに大きな示唆を与えてくれるのではないかと書いた。いよいよそのことについてうかがった。

「手塚治虫本人はもういませんから、手塚先生ご自身のことについては語れません。しかし作品はあるわけですから、まずはいろいろな作品を読むことから始めたらいいと思いますよ。

 そしてさらに本格的に論じたいのならば、手塚治虫は常に時代の中で作品を発表してきた人ですから初出に当たるというのが大事になってきます。

 その作品が『少年サンデー』に発表されたのか『ビッグコミック』に掲載されたのか、それだけでも大きく違ってきます。またそれが発表された時代はどんな時代で手塚治虫はどんな境遇に置かれていたのか、とかですね。最近は雑誌連載オリジナル版が復刻版として多く出ていますから、それらを読むだけでもいろいろなテーマが浮かび上がってくるはずです。

 あと手塚治虫の場合、マンガだけでなくアニメも多く手がけていますが、アニメとマンガの両方を並べて語った本というのはあまり見かけません。ここでもやはりアニメとマンガで専門が分かれてしまっているんですね。

 でもこれは本来おかしな話でね、ここはタコツボ化しないで俯瞰的に見ていくとまた新しい視点の手塚論が生まれるはずです。あれだけ両方に力を入れた作家はいないんですから」

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◎その出来事がいつどこで起きたかが重要!

 また中川氏は先ほどのアリバイ崩し(?)の手法を使ったこんなアイデアも提供してくださった。

「世の中にはいろいろな手塚伝説がありますが、果たしてそれは本当なのか検証するというのも面白いですね。たとえば手塚先生が梶原一騎のマンガをアシスタントに見せて涙を流しながら「これのどこが面白いんだか教えてくれ」と言ったというエピソードがありますが、これがもし事実だとしたら、それは何年何月の『あしたのジョー』だったのかってことまで調べなきゃいけないんですよ。

 たとえばそれが単行本の第1巻とかかなり早い時期の出来事だとしたら手塚治虫はライバルをいち早く察知して研究していたということになるけれども、これが10数巻目だったとしたら、なぜその時期になっていきなりそんなことを言い出したのかという、別の意味が生まれてきますよね。

 仮にこの伝説が事実だとしてもその時期によって解釈がまったく違ってくる。何かの資料からこれを突き止められたとしたらすごいスクープになるはずです」

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◎マンガ家とアシスタントの関係は!?

 作品そのものに注目するということでいうと、中川氏は手塚治虫が生み出したアシスタント制にもまだまだ語るべき点があるのではないかと言う。

「マンガ家がアシスタントに絵の一部をまかせるという分業制を初めてシステム化したのは手塚治虫だったわけですが、これはものすごく画期的な発明だったと思います。これがなかったらマンガ界の今日の隆盛はあり得ないわけですから。

 だけど不思議なのは、たとえばアシスタントが背景を描いていたとしても手塚治虫のマンガは背景も含めて手塚治虫のマンガになっていることですね。

 ぼくは絵を描く専門家ではないので、なぜアシスタントが先生と同じタッチで絵が描けるのかまったくわかりませんが、これは指揮者と演奏者の関係に近いのかなと想像しています。指揮者は自分では演奏しないけれど、カラヤンが指揮をするとベルリン・フィルがこの音を出す。他の指揮者だと違う音を出すという......、マンガ家とアシスタントの関係はこれに近いような気がするんです。手塚先生はアニメも手がけていますし、アニメは多くの人が関わる共同作業ですからね。もしかしたらそこにも秘密があるのかも知れません。

 マンガ家とアシスタントの関係やその作画方法というのも、日本のマンガを研究するとしたらとても興味深いテーマだと思いますよ」

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◎新進の手塚論登場に期待したい!!

 ということで3回にわたって話をうかがった中川右介氏のインタビュー、いかがだっただろうか。創作の秘密から新たな取材テーマの提案まで、気さくにお答えくださり、我々「あの日あの時+(プラス)」調査隊としては感謝の言葉しかありません。

 このインタビューを読んで「我こそが新世代の手塚論者である!」と名乗りを上げる方が出てきてくれたら大いにうれしいことだと思っています。

 中川右介先生、ありがとうございました。

 ではまた次回のコラムにもお付き合いください!!

協力/集英社 学芸編集部


黒沢哲哉


1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


手塚マンガあの日あの時+(プラス)

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