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手塚マンガあの日あの時+(プラス)手塚マンガに新たな光を!『マグマ大使』編 第1回:フリーダムすぎる変形の魅力!!

2021/03/26

手塚マンガに新たな光を!『マグマ大使』編 第1回:フリーダムすぎる変形の魅力!!

写真と文/黒沢哲哉

 手塚治虫のマンガはフツーに読んでも面白い。けどほんのちょっぴり見方を変えるとその何倍も面白くなる!! 手塚マンガの新たな魅力を掘り起こす「あの日あの時+(プラス)」の新シリーズ「手塚マンガに新たな光を!」。その第1弾は少年マンガの傑作『マグマ大使』を3回にわたって深読みする。この作品は1960年代から70年代にかけて大流行した巨大変身ヒーローブームの先駆けとも言われている。しかし今回のキーワードは"変身"ではなく"変形"!? この言葉にいったいどんな意味が秘められているのか、さっそく光を当てにあのころへ向かいましょう!!


手塚流ヒーローマンガ、その見方を変えてみたら......!?

 手塚治虫のマンガ『マグマ大使』の連載は月刊少年雑誌『少年画報』1965年5月号から始まった。

 その物語の内容は──あるとき地球征服を企む宇宙人ゴアが地球に襲来する。その危機をいち早く知った日本人少年まもるの前に現れたのは、地球創造の神アースによって造られたロケット人間・マグマ大使だった。まもるはロケットに変身できる超人マグマ大使とともに、ゴアの野望に敢然と立ち向かう!!

 このあらすじを読めば、恐らく誰もがこのマンガはSFヒーローマンガだと思うだろう。実際、旧「手塚マンガあの日あの時」でも、『マグマ大使』を手塚が時代に先駆けて生み出した巨大ヒーローマンガとして、もうひとりの巨大ヒーロー『ビッグX』とともに紹介したことがある。

手塚マンガあの日あの時 第23回:手塚流巨大SFヒーロー誕生の時代

 だが、このコラムを書いた後もぼくの中には何となくスッキリしない気持ちが残っていた。マグマ大使は確かに同時代に活躍したウルトラマンなどと同種のSF変身ヒーローと言って間違いではないだろう。だけど何かが違うのだ。『マグマ大使』には、あまたの変身ヒーローとは異なる魅力がある。それは何なのか!?

 そこで思ったのが、『マグマ大使』はじつはヒーローマンガではないのではないか?ということだ。

 そこで今回から3回に分けて『マグマ大使』を"ヒーローマンガではない"という視点から読み返してみようと思う。第1回目の今回は、マグマ大使の"変身"について。SFヒーローにはつきものの"変身"だが、マグマ大使の場合、そもそもこの"変身"が、あまたのSFヒーローとは大きく異なっている。どう異なるのか。キーワードは"変身"ではなく"変形"である。

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◎"変身"ではなく"変形"、その心は......!?

 マグマとその妻モル、そして息子のガムの3人は、地球創造の神であるアースによって生み出されたロケット人間だ。普段は人間のような姿をしているが、移動の際などはロケットの形に変身して高速で空を飛ぶことができる。

 こうした変身シーンは変身ヒーローの大きな見せ場だ。多くの変身ヒーローが、普段は人間の姿をしていて、いざ怪獣が現れると物陰に隠れてヒーローに変身、敢然と怪獣に立ち向かう。

 だけどマグマ大使の場合、この変身のプロセスそのものが多くの変身ヒーローとはまるで異なっている。光に包まれて変身するような、いわばファンタジー的な"変身"ではなく、自分自身の姿形を物理的に変える"変形"なのである。

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 カットが省略されているので、マンガをよく見ても変形の細かい過程ははっきりとは分からないが、両腕が引っ込むのと入れ替わりに胴体に収納されていた多段式の翼がせり出し、頭や足の周囲には上下から円筒が出てきて顔や足を覆い隠しロケットの機体が完成するようだ。

 また、人型(ひとがた)とロケット型の2つの形だけでなく、顔だけを残して胴体だけをロケットに変形させたり、下半身だけがロケットになるなど、かなり自由自在に変形できるようである。

 こうした"変形"は、変身ヒーローよりもむしろ、70年代から80年代にかけて玩具メーカーとのタイアップでヒットした巨大変形ロボに似ていると思われる方もいるかも知れない。だがマグマ大使の変形がこれら巨大変形ロボとも違うのは、それがじつに有機的で生物的なことである。

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マグマ大使の正体!!

 そうなると気になるのが、マグマたちロケット人間はいったい何者なのか、ということだ。彼らは生物なのか、それともロボットなのか!?

 マグマたちロケット人間を作ったのは冒頭にも書いたように地球創造の神アースである。最初にマグマとモルを作ったアースは、隠れ家の火山島を訪れた人間の少年まもるを見て、彼をモデルに3体目のロケット人間ガムを作る。それもまもるが食事をしているわずかの間に完成させてしまうのだ。

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 ここから推測できるのは、マグマたちロケット人間はロボットのように部品を組み立てて造られた機械ではなく、アースの不思議な力によって生み出された生命体だろうということだ。

 これは推測だけど、ロケット人間の材料は火山島の溶岩などの無機物で、そこにアースが命を吹き込んで誕生させたものだったのではないだろうか。たとえばユダヤ教の経典から生まれた伝説の泥人形「ゴーレム」のように......

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1920年公開のドイツ映画『巨人ゴーレム』ポスター(上)とスティル写真(下)

マグマ大使は妖怪だった!?

 そう解釈すると、マグマたちのあの軟体動物のような"変形"が何なのかも理解できてくる。あれは変身というよりもむしろ妖怪変化の"変化"に近いものなのだ。

 実際、マンガの中でマグマはロケットに変形せずに人の形のままで空を飛ぶこともある。そう、そもそも彼らは空を飛ぶためにロケットに変形する必要すらなかったのである。

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 マグマたちが人間の作ったロケットやジェット機に似た形に姿を変えるのは、妖怪や物の怪が人間や人間の使う道具に姿を変えてみせるのによく似てはいないだろうか。

 つまりマグマ大使は、ウルトラマンなどの巨大変身ヒーローよりも、手塚マンガの『どろろ』に出てきた妖怪変化や、人間がオオカミに変身する『バンパイヤ』のトッペイに近い存在だったのである!

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 さて次回は、そのマグマ大使の宿敵ゴアとその手下である人間モドキの奇妙な生態に迫ってみよう。

 それから最後にオマケとして、ぼくのコレクションから、連載当時の貴重なマグマ大使グッズをいくつかご紹介します。

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雑誌連載当時、小出信宏社から発売された『マグマ大使』かるた

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サンスターの『マグマ大使』まんが歯みがき(左)と、景品のお面

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小出信宏社の『マグマ大使』パノラマゲーム

 それではまた!!


黒沢哲哉


1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


手塚マンガあの日あの時+(プラス)

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