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再録・手塚マンガあの日あの時 第4回:"悪魔のような男"はこうして生まれた -バンパイヤからMWへ-(その1)

2021/03/12

再録・手塚マンガあの日あの時 第4回:"悪魔のような男"はこうして生まれた -バンパイヤからMWへ-(その1)

写真と文/黒沢哲哉

手塚マンガというと、正義の心を持ったヒーローが活躍する活劇や、人間愛にあふれた感動的なドラマを思い浮かべる方は多いだろう。仮にそれを手塚マンガの"表の顔"とすると、実は手塚マンガにはもうひとつ、"裏の顔"ともいうべき作品群が存在する。それが、現在映画化されて公開中の『MW』に代表される、人間の"悪"を描いた一連の作品たちである。『MW』の主人公であり、あらゆる悪を内包した究極の"悪役"結城美知夫──。この悪魔のような人物が、いかにして誕生したのか。今回は『MW』が描かれた時代へとタイムスリップいたします!!

(※この記事は2009年7月当時の内容をそのまま再録したものです。記事内でご紹介した事実などはすべて取材当時のものとなります)


◎アトムに欠けているものとは?


「アトムは完全ではない」


『鉄腕アトム』「電光人間の巻」で、スカンク草井は御茶ノ水博士に対してこう言い放った。
 アトムが完全になるには、人間のように悪い心を持たなければならない。スカンクはそう主張するのだ。
 この言葉がまるで予言だったかのように、その後「アトラスの巻」でラム博士が完成させたのが、ロボットに悪の心を持たせる装置"オメガ因子"だった!
 人間の心に潜む善と悪という相反するふたつの心──それは手塚治虫が、古くから興味を持って描いてきたテーマだ。


 1967年、手塚は満を持して人間の悪の心を正面から描いた意欲的な作品を発表する。『週刊少年サンデー』に連載された『バンパイヤ』がそれだ。
『バンパイヤ』の主人公トッペイは、オオカミに変身する能力を持つバンパイヤ族の少年だ。トッペイは普段は温厚で善良な少年だが、ひとたびオオカミに変身すると、理性を失い凶暴な野獣と化してしまう。まさに善と悪を内包した手塚治虫ならではのキャラクターだった。
 そしてここに、主役のトッペイをも食ってしまうほどの魅力を持った個性的悪役として登場したのが、間久部緑郎=通称ロックである。

◎天下の悪童・ロック登場!


 スカンク草井に言わせると、きっと『バンパイヤ』のロックこそが、もっとも人間らしい人間ということになるだろう。
 ロックは、自らの欲望のために、あらゆる人を徹底的に利用し、用がなくなれば容赦なく殺す。
 最初は書生として世話になっている会社社長の娘・大西ミカを誘拐し、身代金を手に入れるとアッサリと殺害。続いて大西社長本人や、作中人物として登場する手塚治虫、さらには故郷から上京してきた唯一の親友・西郷までをも次々と殺してしまう。


 当時、このロックの登場はかなり衝撃的だった。1970年代に入ると、少年誌の読者年齢が上がり、それにつれてタブーを扱った社会派の作品も多く描かれるようになる。けれども『バンパイヤ』が発表されたころの少年誌は、完全に子ども向けの、健全でのどかな作品が誌面のほとんどを占めていたからだ。
 そして、僕より年上の手塚ファンはこのロックの役柄にもっと戸惑っていたと思う。というのは、ロックは、昭和20〜30年代にかけての手塚作品の中では、ずっと正義感の強い真面目なヒーローを演じていたからだ。


 だが、そうした戸惑いは連載のほんの最初のころだけだった。僕らはすぐに、今までの少年誌では見たこともないようなロックの魅力にたちまち取り憑かれてしまった。
 後に『少年ブック』で連載が再開された『バンパイヤ』第2部では、ロックがほとんど主役になっていたことからも、彼の悪童ぶりがいかにハマリ役だったかを証明している。

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バンパイヤ変身マジックカード。短冊状の紙片を折り畳んで開くとトッペイの絵がオオカミに変化! 別冊少年サンデー『バンパイヤ』特集号の付録

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バンパイヤトランプ。『バンパイヤ』第2部連載当時の『少年ブック』の付録。ロックをジョーカーにして欲しかった

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『バンパイヤ』連載中の『少年サンデー』表紙。まだのどかだった当時の紙面の中で、ロックの悪役ぶりはひときわ恐ろしく感じた

◎結城美知夫、誕生前夜


 1970年代に入ると、団塊の世代の成長につれて、大人もマンガを読む時代がやってきた。
 大学生が電車の中でマンガ雑誌を読む姿がニュースで報じられ、ハイジャック犯の若者が「われわれはあしたのジョーである」と語って、当時の人気マンガに自分たちの姿を重ね合わせるなど、マンガは世の中の動きと切り離せない存在になり始めていた。


 そうした流れの中で手塚は、当時市場を広げつつあった青年コミック誌を舞台に、人間の"悪"をさまざまな角度から描くことを試みた。
『I.L』(1969〜1970)や『人間昆虫記』(1970〜1971)では、男と女をめぐる人間の欲望を赤裸々に描き、『きりひと賛歌』(1970〜1971)では、登場人物のほとんどが欲とエゴと怨みをむき出しにした人物ばかりという中で、人間の醜さを浮き彫りにしてみせた。


 これらの作品に登場する悪人は、みな一様にこっけいで醜くぶざまであり、まさに人間の原罪を鋭く風刺した作品群といっていいだろう。
 ところが1976年、手塚はこれらの悪人とはまるで違う、ひとりのピカロ(悪のヒーロー)を誕生させている。それが『MW』の主人公・結城美知夫である。

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これらの諸作品で手塚は、人間の醜い部分をさまざまな角度から描いてみせた。いずれも雑誌『COM』増刊号として刊行されたもの(虫プロ商事刊)

(初出:2009/07/27)


黒沢哲哉


1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


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