虫ん坊

手塚マンガあの日あの時+(プラス)一読三嘆!! 『七色いんこ』を8倍楽しむ読み方!! 第2回:キャラクターの元ネタを探ると4倍楽しめる!!

2019/09/30

一読三嘆!! 『七色いんこ』を8倍楽しむ読み方!!

第2回:キャラクターの元ネタを探ると4倍楽しめる!!

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 代役専門の名役者にしてじつは大泥棒! そんな奇妙な主人公が活躍するマンガ『七色いんこ』。この埋もれた名作を楽しむためのヒントとコツを伝授するコラム。第2回目は、このマンガに登場する意外なゲストキャラクターや隠れキャラクターを探してみたい。果たしてどこにどんなキャラクターが隠れているか!? 時には目を皿のようにして探さないと見つからないキャラもいますゾ!!


◎手塚治虫のスターシステムとは!


 古くからの手塚マンガファンはよくご存知だと思うが、手塚マンガでは、俳優が様々な役柄を演じるように、ひとりのキャラクターが複数の作品でまったく別の役柄を演じることがよくある。
 手塚はこれを「スターシステム」と名付け、多くのスターキャラクターを生み出してきた。中にはヒゲオヤジやアセチレンランプなど、プロのマンガ家としてデビューする前から活躍しているキャラクターもいる。
『七色いんこ』は『ブラック・ジャック』の流れを受けついで、このスターシステムを全面的に採用しており、毎回、手塚マンガの常連キャラクターがどんな役柄で出てくるのかも、楽しみのひとつとなっている。
 そんなゲストスターの中から、まずは誰もが知っているあの人気キャラクターが登場する場面をご紹介しよう。

◎ごく普通の青年が突然アトムに変身!?


 誰もが知っている人気キャラクター、それは「鉄腕アトム」だ。アトムは3度出演している。
 ひとつめは第14話「化石の森」。父親の反対を押し切ってロボットの研究を続ける青年といんことの会話の中で、いんこが思い描くロボットのイメージとしてアトムの姿が引用されている。
 そしてもうひとつが第3話「人形の家」だ。役者のジミーは、妻である大女優のノーラから見下され、まるで操り人形のような扱いをされている。
 そのことに憤慨するも言い返せないジミー。そのウップンが頂点に達したとき、ジミーはいきなり鉄腕アトムに変身し、アニメの主題歌を口ずさみながら空を飛ぶ!
 ジミーは、続くコマでは何ごともなかったかのように平然といんこと会話しているが、あの変身はいったい何だったのだろうか......。

 そして3つ目。こちらは別のキャラクターと一緒に登場するので後ほど紹介いたしましょう。

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『七色いんこ』第14話「化石の森」より。分かりやすいロボットの例として鉄腕アトムのイメージを借りながら、この当時の最新のロボット技術を紹介している。※以下、マンガの画像はすべて講談社版手塚治虫漫画全集『七色いんこ』より

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第3話「人形の家」より。大女優である妻にまるで操り人形のように扱われている息子のジミー。彼の心に「ロボット」と言われた言葉が突き刺さり、いきなりアトムに変身して空を飛ぶ??? 講談社版手塚治虫漫画全集では『七色いんこ』第1巻に収録されている

◎万里子刑事が手塚キャラのシャツを着ていた!?

 続いては、目を皿にしてページをじっくり見ないと見つからない。そんな隠れキャラをご紹介。
 第11話「ピーター・パン」の冒頭、万里子が自宅で着ているのが「ユニコ」のキャラクターの絵柄が入ったノースリーブのシャツだった。
『ユニコ』は1976年から79年にかけてサンリオの雑誌『リリカ』に連載されたオールカラーの幼年向けファンタジーマンガである。さらに80年から84年にかけては、小学館の『小学一年生』でも連載をしていた。つまり『七色いんこ』連載中にバリバリの現役キャラクターだったのだ。
 主人公は伝説の一角獣ユニコーンの子どもユニコ。淡い水色の愛らしいキャラクター・ユニコは数々のキャラクターグッズとして今も人気だが、作中の人物がそのキャラクターシャツを着ているというのは珍しい。万里子はもしかして『小学一年生』の愛読者だったのか?
 ちなみにこの作品以外でユニコが出演している作品には『ブラック・ジャック』第173話「あつい夜」と、雑誌『小学二年生』版の『鉄腕アトム』がある。それぞれどのような登場だったのかは引用カットでご覧ください。

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第11話「ピーター・パン」より。万里子の着ているノースリーブのシャツを見ると、何と「ユニコ」のキャラクターシャツである。いったいどこで買ったのだろうか......

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『ブラック・ジャック』第173話「あつい夜」より。これはさすがに黒沢も気付いておらず、手塚ファンの友人に教えられて初めて分かった。※画像は講談社版手塚治虫漫画全集『ブラック・ジャック』第22巻より

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『小学二年生』版『鉄腕アトム』より。フーラー博士はユニコをヒントに巨大なユニコーンロボットを作り上げた。ちなみにこのときフーラー博士が参考にしたのは、当時『ユニコ』が連載されていた『小学一年生』だった。※画像は講談社版手塚治虫漫画全集『ユニコ 小学一年生版』より

◎映画オリジナルのキャラがマンガに出演!


 珍しいといえば、前回紹介した第8話「ゴドーを待ちながら」に登場したロボットの「オルガ」も手塚マンガに登場したのは非常に珍しい。というのも、もともとこのオルガは、1980年3月に公開された劇場アニメ『火の鳥2772』のキャラクターとして手塚がデザインしたものでマンガに出演したキャラではなかったのだ。それがこのお話では手塚自身の絵で描かれたオリジナルキャラクターとして、その魅力を存分に味わうことができるのだ。

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(上)第8話「ゴドーを待ちながら」より。街角のパーラーの店先で雨に濡れながら客引きをするロボット「オルガ」。(下)『火の鳥2772』の公開当時販売されていた下敷き。『火の鳥2772』は大々的に宣伝されていてキャラクター商品も山のように発売された

◎アメリカのパロディ雑誌のあの人まで出演......!?

 手塚キャラについては紹介しているとキリがないので、後は皆さん各自で探していただくとして、じつは『七色いんこ』には、手塚マンガ以外の意外なキャラも多数ゲスト出演している。そんなキャラを一気に紹介しよう。
 まずは第4話「修禅寺物語」から。総理大臣の肖像画がうまく描けず苦悩する著名な画家の男。その画家の娘の婚約者が義父のアトリエに眠る高価な絵の数々に目を付け、いんこに絵を盗み出す手助けをして欲しいと申し出る。そこで価値ある絵のイメージとして描かれているのが、手塚まんがの人気キャラクターの数々だった。どんなキャラクターが描かれているのかは画像でどうぞ。
 続いて第11話「ピーター・パン」では、最初のページで空を飛ぶピーター・パンの横に、何と見慣れた猫型ロボットの姿が。そしてさらに......いました! 鉄腕アトムの3つ目の登場シーンはここだったのです。
 続いて第19話「南総里見八犬伝」では、いつものようにウイスキーを飲んで悪酔いしている玉サブロー。インコに叱られた彼が「ゲッゲッゲゲゲのゲッ」と下品なゲップをしながら、ダンダラ模様のちゃんちゃんこを着てゲゲゲの鬼太郎のコスプレを!
 どんどんいこう。第21話「12人の怒れる男」では、集められた12人の陪審員の中に、どこかで見たことのある、カメラ目線のキモカワ青年がいる。何と彼はアメリカの風刺パロディ雑誌『MAD』のカバーボーイを務めるあの青年、アルフレッド・E・ニューマンくんだった!
 おしまいは、第26話「靭猿(うつぼざる)」から。いんことテレビのチャンネル争いをして家を追い出された玉サブロー。彼がその腹いせに野良猫を家に追い込んだ。その中に1匹、耳にリボンを付けた猫がいる。この猫はもしかしてキ○ィちゃん!?

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第4話「修禅寺物語」より。3コマ目に出てきているのが、高名な画家・不知田次萩の名画の数々だ。上から『W3』のノッコ、スパイダー、どろろ、そしてなぜかオルガとブラック・ジャックの要素が混ざっているマグマ大使?

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今回2度目の紹介となる第11話「ピーター・パン」より。妖精が暮らす不思議の国ネバーランドにはド○えもんもアトムもいる?

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第19話「南総里見八犬伝」より。右下のコマで、悪酔いした玉サブローが自分を叱ったいんこにわざわざコスプレをして嫌がらせ!

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第21話「12人の怒れる男」より。右列の上から5コマ目にいる耳の大きな父っちゃん坊やがニューマンくんだ。英語版のウィキペディアによれば1950年代の初め頃から雑誌『MAD』のカバーボーイを務めているという。ちなみに画像に入っているように、このキャラクターを引用している単行本のページには、版権元から正式な許可を得ているという但し書きが添えられている

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そしてこちらが雑誌『MAD』の表紙のニューマンくん。まさに風刺雑誌の表紙にふさわしい人を食った顔をしている。年齢も不詳だ

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ニューマンくんの名(迷)演技はまだまだ続く! このバカバカしさはぜひマンガ本編を読んでじっくりと味わっていただきたい

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こちらも手塚まんがマニアの友人から教えてもらった隠れキャラクター。いんこの家へ押し寄せる猫の群れ! そのどさくさに混じって左下のコマで駆け抜けているのは......!!

◎この名前、覚えてますか~っ?


 続いて名前だけが使われているゲストキャラも紹介しよう。第9話「アルト=ハイデルベルク」で、千里刑事が外務省の役人をいんこに紹介する際に、「フリテンくんみたいな人」と言っている。
 このフリテンくんというのは植田まさしの4コママンガに出てくる主人公の名前だ。フリテンくんは、取り立てて特徴のない平凡顔のサラリーマンでありながら、じつはしたたかな一面も持っている。当時、竹書房の雑誌を中心に4コママンガのブームが起きており、『フリテンくん』はそのトップを走る人気キャラクターのひとりだった。

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(上)3コマ目で万里子から外務省の役人が「フリテンくんみたいな人」と紹介されている。フリテンくんが誰なのかを知らないと面白さも半減してしまうので野暮を承知で紹介しよう。(下)が1980年代に4コママンガ雑誌界を席捲した竹書房の雑誌『別冊近代麻雀』1982年4月15号。表紙を飾っていのが「フリテンくん」だ!

◎いかつい顔の大学教授。その名前の由来は!?

 第12話「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」で、手塚スターシステムの常連フランケンシュタイン氏が演じているのは、その名もヤング・フランケンシュタイン教授だ。さらに彼はメルブルックス大学で遺伝子の研究をしていると語る。
 この元ネタはアメリカのパロディ映画『ヤング・フランケンシュタイン』(1974年)だ。監督はメル・ブルックス。同監督は西部劇のパロディ映画『ブレージングサドル』(1974年)で名を上げ、『ヤング・フランケンシュタイン』、『メル・ブルックスのサイレント・ムービー』、(1976年)、『メル・ブルックス/新サイコ』(1977年)とパロディ映画のヒットを連発した。
 ちなみに映画『ヤング・フランケンシュタイン』の主人公は、フランケンシュタインの怪物を生み出した博士の息子という設定だ。ただし彼は父のした死者を甦らせるという行為を恥じていて、自分は(英語読みで)フロンコンステインだとかたくなに主張する。だから「フランケンシュタイン」と呼ばれると激しく怒り出すというのが繰り返しのギャグとなっていた。しかし『七色いんこ』に登場したヤング・フランケンシュタイン教授には、とくにそんなトラウマはないようだ。

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(上)フランケンシュタイン演じるヤング・フランケンシュタイン教授。(下)1974年に公開された怪奇映画のパロディ映画『ヤング・フランケンシュタイン』劇場公開当時のパンフレット

◎次回は作中で語られるニュースの真相に迫る!


 ということで、あなたのお気に入りのキャラが作中にどんな役柄で出演しているかを楽しんだり、意外な隠れキャラを見つけたり、そんなお遊びも楽しめて楽しさ4倍の『七色いんこ』なのでした! さて次回はいよいよ『七色いんこ』を深掘りするシリーズの最終回。作中で登場人物たちが語っているニュースの真相に迫ります!!

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今月のおまけ。千里万里子刑事の名前の由来は、1970年代に活躍したこの漫才コンビだったと思われる。画像は戦前の名曲『道頓堀行進曲』を海原千里・万里が1977年にカバーしたシングルレコードだ


黒沢哲哉
1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


手塚マンガあの日あの時+(プラス)

■バックナンバー

第1回:手塚ファン1,000人が集結! 手塚治虫ファン大会開催!!

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