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手塚マンガあの日あの時+(プラス)手塚マンガに新たな光を!『マグマ大使』編 第3回:『マグマ大使』の宇宙観

2021/05/28

手塚マンガに新たな光を!『マグマ大使』編 第3回:『マグマ大使』の宇宙観

写真と文/黒沢哲哉

1回ではマグマたち「ロケット人間」について、第2回では「人間モドキ」という不気味な存在について考察してきた本コラム、今回はさらに視点を拡げて、アースやゴアが存在する、『マグマ大使』が唱える世界観についてご紹介します。

 地球の化身・アースと、宇宙からやってきた強欲なゴア。さらにその上に存在する宇宙神「カオス」。「初めに混沌ありき」――「混沌」の名を持つ宇宙神とは?

 『マグマ大使』から手塚治虫の宇宙観を読み解きます!


ヒーローマンガの常識を超えた世界観!

『マグマ大使』の世界では、地球は30億年前にアースによって作られた。アースはその大切な地球を宇宙の悪魔ゴアが狙っていることを知り、地球を守るためにマグマたちロケット人間を生み出したのだ。

 一方でゴアもまた宇宙の帝王を自称するだけあって、その力は並大抵のものではない。恒星や惑星を一瞬で消し去ってしまうくらい朝飯前なのである。と、ここまででもかなりスケールの大きい話だが、SFならこのくらいはまだありがちな範囲だろう。

 ところが、物語はゴアが一度マグマに敗れたところから予想もつかないスケールの広がりを見せていく。

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以下、本編の引用はすべて「手塚治虫漫画全集 マグマ大使」より

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地球は誰のものなのか!?

 マグマとの戦いに敗れて一度死んだと思われたゴアはやはり生きていた。そして巻き返しをはかるべく最終兵器とも言える怪物ブラック・ガロンを地球へと送り込んでくる。制御不能のブラック・ガロンはひたすら暴れまくり地球を破壊していく。

 そして「おれに地球をひきわたして消えうせろ!!」と脅すゴアに対し、アースはこう叫ぶ。

「どうしてもうばう気ならカオスさまにさばいていただく!!

 ここで初めて名前の出てきた"カオス"とはいったい何者なのか!? じつはこの宇宙には宇宙全体を司るアースよりもゴアよりもはるかに上位の存在がいた。いわば宇宙全体を司る全能の神、それがカオスなのである。

 アースとゴアはカオスに謁見し、カオスの御前で、それぞれが「我こそが地球を統べる権利がある」という主張を始める。

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宇宙神カオスの下した決断とは!?

 このときのゴアの言い分はもちろん屁理屈をこねているだけの詭弁でしかないが、それではもう一方のアースの主張はどうかというと、なんとこちらもまた説得力のある反論はできず中身のない空虚な言葉を連ねているだけなのだ。

 そんなアースに対してカオスはこう言い放つ。

「ゴアのいいぶんが正しい!! アースよ 地球はおまえのものではない!!

 絶対的な神だと思っていたアースがカオスの前でうろたえながら懇願する姿を見たとき、手塚マンガをある程度読まれている方ならば、もうひとつの手塚マンガを思い出すに違いない。それは手塚のライフワークとも言われる大長編『火の鳥』である。

 人間とは何か? 生命とは、そして地球とは何なのかを問いかける『火の鳥』のテーマ、それがこの『マグマ大使』においても、われわれ読者に鋭く突きつけられているのである。

 このふたりの論争がどんな結末を迎えたのか、カオスはふたりにどのような裁定を下したのかなどはぜひマンガを読んでいただきたい。

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『マグマ大使』から『火の鳥』へ!

 このカオスの登場する『マグマ大使』「ブラック・ガロン編」は雑誌『少年画報』1967年2月号で大団円を迎えた。

 そしてそれと入れ替わるように手塚が『COM』創刊号(1967年1月号)より構想も新たに連載を始めたのが『火の鳥』「黎明編」だったのである。このことからもじつは『マグマ大使』が『火の鳥』と地続きのテーマを持っていたことが分かるだろう。

 ということで、『マグマ大使』を読了された方はぜひ、『火の鳥』も続けて読んでみていただきたい。そうすると手塚が『マグマ大使』で読者に何を伝えたかったのかがよりよく理解できるのではないだろうか。

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以下、本編の引用はすべて「手塚治虫漫画全集 火の鳥」より

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参考文献&参考映画紹介

 ということで単なるヒーロー活劇ではない『マグマ大使』の新たな魅力を深堀りした

「手塚マンガに新たな光を!『マグマ大使』編」は今回で完結です。いずれまた他の作品にも新たな光を当てたいと思いますのでご期待ください。

 今月はオマケとして、これを知っていると『マグマ大使』が数倍楽しめるというお得な参考文献と参考映画を紹介しよう。

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アーサー・コナン・ドイル著『ロスト・ワールド』の原語版ペーパーバック(左)とハヤカワポケットブック版

『ロスト・ワールド(失われた世界)』はシャーロック・ホームズの生みの親としても有名なイギリスの小説家アーサー・コナン・ドイルが1912年に発表した小説だ。

 アマゾンの奥地に絶滅したはずの恐竜が生きて暮らす世界があったというお話で、『マグマ大使』の冒頭でまもるの家が恐竜時代にタイムスリップしてしまう場面は明らかにこの小説をイメージしていると言っていいだろう。過去に何度も映画化されているが、ここでは1925年に作られた最初の作品を紹介しよう。

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1925年公開のアメリカ映画『ロスト・ワールド』公開当時のポスター(上)とスティル写真(下)

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ジャック・フィニィ著『盗まれた街』ハヤカワポケットブック版(左)と原語版ペーパーバック

『盗まれた街』はアメリカの小説家ジャック・フィニィが1955年に発表したSF小説で、1956年には『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』というタイトルで映画化されている(日本では劇場未公開)。宇宙から飛来した未知の生物が、地球人に化けて地球を侵略していくという恐ろしいお話で、この恐怖描写は『マグマ大使』の人間モドキの場面に大いに生かされている。

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1925年公開の映画『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』初公開当時のポスター

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『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』日本版レーザーディスクのジャケット(1984年発売)

 それではまた、次回のコラムにもお付き合いください!!


黒沢哲哉


1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


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