写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい
謎の招待状に導かれ手塚治虫と手塚マンガにゆかりの場所を巡る虫さんぽ+(プラス)の旅。今回我々虫さんぽ+(プラス)隊が向かったのは埼玉県所沢市。そこにはまるで昭和にタイムスリップしたかのような不思議な商店街があった! さらにその商店街を抜けた先で我々は、想像を絶する夢のような体験をすることになる!! いざ出発だ!!
ある日、我々虫さんぽ+(プラス)隊は、とある電車に乗っていた。西武線の多摩湖駅と西武球場前駅を結ぶ山口線、通称「レオライナー」。西武ライオンズのレオのヘッドマークが付いた新交通システムだ。
我々がこの電車に乗っている理由、それはこの数日前にまたしても差出人不明の謎の招待状が届いたからだった。
その招待状がこれだ。今回の招待状には3つのキーワードではなく「プルートウ」という文字と空白のマス目が縦横に並んでいる。これはクロスワードパズルらしい。シルエットで描かれているのは『鉄腕アトム』「地上最大のロボットの巻」に登場した100万馬力のロボットプルートウのイラストだろう。
そして添えられた手紙には、「レオライナーに乗って西武園ゆうえんちへ行け」と書かれていた。
我々虫さんぽ+(プラス)隊の乗ったレオライナーは多摩湖駅を出て数分で西武園ゆうえんち駅に到着した。
改札口を出ると目の前には古い都電がポツンと停車している。都電の奥の小高い丘の上に見える建物は映画館だろうか。
ふと気づくと我々の方にひとりの男性が近づいてきた。細身で全身黒ずくめのスタイル。マスクをしているので顔はよく分からないがもしかしてブラック・ジャック......!? と思ったら違った。
男性は我々に向かってこう挨拶をした。
「黒沢さんですね。お待ちしていました」
この方は今回の虫さんぽ+(プラス)の案内人、西武園ゆうえんち マーケティング課長の高橋亜利さんだったのだ。
高橋さんに招待状を見せて我々がここへ来た理由を説明すると、高橋さんはすぐにこう答えた。
「なるほど、この招待状の謎を解くカギはすべてレオランドにありそうですね」
「レオランド!? それは何ですか?」
「正確には『レッツゴー! レオランド』と言います。この先の商店街を抜けたところにある、そうですね......いわばカーニバルのような場所です。そこまでご案内しましょう」
高橋さんの後に続いて鉄橋を模した正面ゲートをくぐる。すると正面に「夕日の丘商店街」というアーチ看板の掲げられた、どこか懐かしい空気を感じる商店街が見えてきた。すぐにそちらへ向かおうとすると高橋さんが呼び止めた。
「待ってください、西武園ゆうえんちであの頃のわくわくをより楽しんでいただくためのアイテムとして、まずは西武園通貨とうい独自の通貨に交換しましょう」
両替はチケット売り場と商店街の中の郵便局でおこなっているという。我々は調査費として郵便局で3,600円を両替してもらった。交換レートは120円=10園(せいぶえん)なので3,600円は300園(せいぶえん)となる。その100園(せいぶえん)券はなんとパンジャの肖像画入りだった。
ちなみに西武園通貨の有効期限は発行当日限りで園(せいぶえん)から日本円への両替は不可なので当日中に使い切れる金額を両替しよう。最初から買い物や食事などをすることが分かっている場合は入園券と西武園通貨がセットになったパック券がお得だ。
◎オート三輪で看板娘がやってきた!!
商店街に並ぶお店を一軒一軒見ていくと、建物が細部まで作り込まれていて本当に昭和の時代に迷い込んでしまったかのように感じる。建物だけではない、ショーウインドウの中に並ぶ小物から店先の雑貨や乾物まで、目を近づけて見てもまるで本物にしか見えないのだ。
そんなことにいちいち驚きながらアーケードを歩いていると、突然オート三輪の山車がやってきて、商店街の通りの真ん中で看板娘によるパフォーマンスが始まった。
高橋さんによれば、この商店街では季節や時間によってこうしたさまざまなイベントがあり、またお店の店員さんがパフォーマンスを見せてくれるなどゲスト参加型のイベントがたくさん用意されているのだという。
しかしそもそも西武園ゆうえんちがこのように昭和をテーマにリニューアルしたのはなぜなのか。商店街を歩きながら、高橋さんにうかがってみた。
「西武園ゆうえんちは1950年の開業から2020年で70周年ということで、2017年ごろから今回のリニューアル計画が始まりました。そのときにまず最初に決めたのが"幸福感"をコンセプトにしようということでした。
ではゲストの方に幸福感を感じていただくにはどうすればいいか。そこで思い至ったのが、人と人とのつながりです。現代は携帯やスマホが普及して便利な世の中になっていますが、一方で人間関係の希薄化が進んだと言われています。そんな時代だからこそ大切にしたいのは、人と人とのつながりや触れ合いではないかということで、そこから"昭和の世界観を再現する"という発想につながっていきました」
高橋さんの後について商店街を抜け、銭湯に突き当たると道が左へ直角に折れ曲がっている。
「レオランドはもうすぐです」
高橋さんはそう言って足を早めた。
なだらかな坂をくだっていくと、右手にタコ型の乗り物オクトパス・アドベンチャーや、海賊船がブランコのようにスイングするバイキングなどのアトラクションが見えた。
そしてついに前方にカラフルな色合いのアーチが見えてきた。高橋さんはそのアーチの下で立ち止まると我々にこう言った。
「ここが『レッツゴー! レオランド』です。私の案内はここまでです」
「えっ、高橋さんは一緒に謎解きを手伝ってくれないんですか?」
「私達の仕事は、あくまでもゲストの皆さまに楽しんでいただく"場"を提供することです。あとはゲストの皆さまおひとりおひとりが、ここでそれぞれの楽しみ方を見つけ、心から楽しんで帰っていただければうれしいと思っています。その招待状の謎が解けるのを私も心から願っていますよ。
そうそう、最後にひとつだけ......今回の謎解きとは関係ありませんが、「夕陽館」にはぜひ立ち寄ってください。では!」
そう言うと高橋さんはくるりと身をひるがえし、黒いポロシャツに風をはらませながら颯爽と歩き去っていった。
ありがとうございます、高橋さん!!
レオランドはすり鉢状にくぼんだ楕円形の土地にいくつものアトラクションが点在したエリアだ。高橋さんが言っていた通り全体がカーニバル風の装飾で統一されていて、全景を見渡しただけでテンションが上ってくる。
ここであらためて招待状を見てみよう。
タテのカギとヨコのカギは合計7つ。この7つのカギがレオランドのどこかにあるということのようである。
レオランドは、その外周に沿ってぐるりと1周する「レオとライヤの夕日列車」のレールが走っており、その中に3つのアトラクションと2つのプレイスポットがある。果たしてカギはこの中のどこに隠されているのか。
我々はさっそく手分けしてレオランド内の探索を始めた。園内は右を見ても左を見ても手塚キャラであふれている。手塚マンガ・アニメファンにとっては夢のような場所である。
またレオランド内のアトラクションは対象年齢0~3歳以上と幼児でも楽しめるアトラクションばかりなので、幼いお子さんのいる手塚ファンの方も安心して訪れることができる。ここへ来ればあなたの大切なお子さんもきっと将来立派な手塚ファンになってくれることだろう。
そうこうしているうちに、ある隊員から「カギ発見!」という知らせが入った。
さっそく現場へ駆けつけてみるとその隊員はあるものを指差してこう叫んだ。
「見てください、これです!!」
現場は「アトムの月面旅行」というジェットコースタータイプのアトラクションの前だった。そしてその隊員の指差した先には、小脇にヘルメットを抱えた鉄腕アトムの像が立っていた。
招待状に書かれたヨコのカギの2を見ると「ヘルメットを持って敬礼!」とある。
つまりこれがヨコのカギの2の答え、つまり2のヨコのマス目に入る文字は「アトム」だ! なるほど、この調子で空白のマス目を埋めていけばいいわけか。
「なんだ、思ったより簡単じゃないか」
このとき我々は全員がこう思っていた。そう、この先にあのような想像を絶する苦労が待っていようとは、誰も思っていなかったのである。
次回、ジャングルの迷宮をさまよう虫さんぽ+(プラス)隊の運命やいかに!! 乞うご期待っ!!
協力/西武園ゆうえんち
黒沢哲哉
1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番
つのがい
静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。
絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。
web:https://www.tsunogai.net/
twitter:http://twitter.com/sunxoxome/
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虫さんぽ+(プラス)
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・北海道・道南-道東横断編 第1話:標高550メートルの山頂でヒグマに囲まれる!?
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