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虫さんぽ+(プラス)北海道・道東-道央-津軽海峡編 第3話:海峡の歴史を物語る"あの船"を訪ねる!!

2020/05/01

北海道・道東-道央-津軽海峡編 第3話:海峡の歴史を物語る"あの船"を訪ねる!!

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

 幼いエゾオオカミの大冒険を描いた手塚治虫のマンガ『ロロの旅路』。前回は彼らの冒険の出発点となった北海道・北見山地を訪ね、2つ目のキーワードの謎が解明された。
 謎の招待状に書かれた3つのキーワードの謎を探りながら、手塚治虫と手塚マンガに関わる場所を訪ねる虫さんぽ+(プラス)の旅。道東から始まった北海道の旅もいよいよクライマックス! 3つ目のキーワードの示す場所は果たしてどこか。そして今回はどんな出会いと発見があるのだろうか!?


◎函館港でフェリーのチケットを渡された!?


 札幌で一夜を明かしたぼくは、目覚めるとすぐにまた車を出発させた。

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 網走から北見山地へ。手塚治虫の作品の舞台となった場所を訪ねた前回までの旅。その旅で3つのキーワードのうち2つの謎は解けた。残るキーワードは「連」のみ。この「連」というキーワードが示す場所はいったいどこなのか!?
 旅の終わりが近づいていることを感じつつ、気の向くままに車を走らせていると、ぼくはいつしか函館港へやってきていた。
 港では間もなく出港する予定の青森行きフェリーの乗船準備が始まっている。近くに車を駐めてその風景をぼんやりと眺めていると、係員が歩み寄ってきて、なぜかぼくに乗船券を手渡し早くフェリーに乗るようにと促した。
 ぼくは係員に「招待状の謎を解くまでは帰れないんですが......」と言ったのだが、次の車が待っているからとせかされ、無理やり乗船させられてしまった。

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北海道最終日の朝、札幌近くのパーキングエリアで短い仮眠から目覚めた

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クマザサの生い茂る道を進むうち、なぜかぼくは函館へ向かっていた

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函館港のフェリーターミナルに到着すると、係員がぼくにフェリーの乗船チケットを手渡してくれた

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促されるまま、ぼくは船上の人となってしまった。3つ目のキーワードを解かないまま北海道を去ってしまうのか!?

◎カーナビの案内でたどり着いた場所は......!!


 この日の津軽海峡は波もなく快晴で、函館港を出たフェリーはぐんぐんと速度を増し、まっすぐに青森港を目指して進んでゆく。
 すべてのキーワードの謎を解かないままに北海道を出てしまうというまさかの展開にかなり焦ったが、もうこうなったら成り行きにまかせるしかない。
 およそ3時間40分後、ぼくの乗ったフェリーは定刻通り青森港へ到着した。するとスマートフォンの地図アプリがいきなりどこかへの道案内を始めた。到着予定時刻は11分後。目的地はすぐ近くのようである。
 ナビに案内されるままにぼくがたどり着いたのはある観光施設だった。「青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸」。かつて津軽海峡で運航されていた本物の青函連絡船がここに係留されていて現在は記念館になっている。

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青森港に上陸するとスマートフォンのナビアプリが道案内を始めた。その目的地はいったい......!?

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カーナビアプリが案内してくれた場所は、「青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸」だった!

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青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸。開館時間:夏季 4月1日-10月31日=9:00-19:00(入館受付は18:00まで)、冬期 11月1日~3月31日=9:00-17:00(入館受付は16:30まで)、休館日:夏季=なし、冬期=毎週月曜日、12月31日、1月1日、3月第2週の月-金曜日、観覧料:大人510円、中学生・高校生310円、小学生110円(その他、近隣施設との共通割引券あり)、問い合わせ:017-735-8150

◎手塚マンガに描かれた青函連絡船!!


 ここでぼくはようやくこの場所へ導かれた理由がわかった! 手塚マンガ『ロロの旅路』の中で、北見山地から母親を追う旅に出たロロたち3匹のエゾオオカミの兄弟......、彼らが本州へ渡るときに飛び乗ったのが青函連絡船だったのだ!!
 青函連絡船はその名の通りかつて青森と北海道の函館を結んでいた定期運航船だ。運航していたのは国鉄、つまり今のJRである。
 その青函連絡船が現在のフェリーと大きく違うのは、船の中に鉄道の線路が敷かれており、貨物列車がそのまま船に乗り入れて海を渡っていたことだ。しかし1987年に国鉄が分割民営化され、さらにその翌年に青函トンネルが開通したことで、青函連絡船はその役目を終え廃止となったのである。

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『ロロの旅路』のトビラ絵原画。※画像は手塚治虫の原画のタッチを活かしながら、手塚マンガの扉絵をカラーで収録した『手塚治虫扉絵原画コレクション 1971-1989』(玄光社刊)より

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『ロロの旅路』より。剥製にされた母オオカミは、本州で開催される北海道物産店に展示されるため、青函連絡船に積み込まれた。※『ロロの旅路』は講談社版手塚治虫漫画全集では『タイガーブックス』第3巻に収録。以下『ロロの旅路』本編の画像はすべて同書より

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昭和30年代のものと思われる青函連絡船の絵ハガキ。『ロロの旅路』にも描かれた列車積み込みの様子がほぼ同じアングルで撮影されている。写真に写るこの連絡船は洞爺丸型の初代羊蹄丸で、1965年まで運航していた

◎八甲田丸を誰よりも知りつくしている男!!


 駐車場に車を駐めて八甲田丸に歩み寄ると、ぼくの到着を待ってくれていた人がいた。「八甲田丸を存続する会」代表の葛西鎌司さん(75)である。
 背筋の伸びたシャキッとした姿勢で出迎えてくれた葛西さんは、かつてこの船で乗組員として働いておられた方で、現在はボランティアガイドをされているという。
 葛西さんの案内で船内を見学させていただこう。葛西さんによれば、八甲田丸は1964年に竣工し、それから1988年3月13日の青函連絡船終航の日まで23年7ヵ月間にわたり運航された。青函連絡船の中では現役期間がもっとも長かった船だということだ。
 八甲田丸の全長は132メートル、総トン数5,382.65トン、旅客定員1,286名の大きな船である。船内は地下1階から4階の航海甲板(ブリッジ)まである。
 現在はチケットカウンターと受付が2階に設けられているので、この2階から見学を開始しよう。葛西さんは複雑に入り組んだ通路を迷うことなく上へ下へスイスイと歩いていく。それはそうだろう、かつてはここが葛西さんの仕事場でありホームグラウンドだったのだ。
 葛西さんは1970年に当時の国鉄へ入社し八甲田丸に三等機関士として配属された。そこで3年間勤務した後、いくつかの船を乗り継ぎ1986年に機関長として再び八甲田丸へ戻ってきたのだ。そしてそれ以後は88年3月13日の終航日までずっと八甲田丸に乗り続けておられたのである。

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八甲田丸を案内してくださった葛西鎌司さん。75歳とは思えぬ元気さ。ビシッと決まった敬礼も本物である

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出航の際に打ち鳴らしていたという銅鑼の合図を再現してくださった。かつてはこの音が港中に響き渡っていたんでしょうね

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連絡船の中枢である操舵室。運航当時は当然ながら一般人立入禁止の場所であるが、今は誰でも見学できる

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巨大なディーゼルエンジンが並ぶ第一主機室

◎『ロロの旅路』に描かれた青函連絡船は洞爺丸型!


 事前に『ロロの旅路』を読んでおられた葛西さんによれば、この作品の中に描かれた青函連絡船は、洞爺丸型といわれる旧型の連絡船ではないかという。
「昭和30年代に建造された八甲田丸と、洞爺丸型の違いは、列車が乗り入れる車両甲板の開口部に開閉式の船尾扉があるかないかです。洞爺丸型には船尾扉がありませんでしたので、ロロたちは恐らくそこから船に飛び乗ったんだと思います。
 青函連絡船に船尾扉が付いたのは昭和29年の洞爺丸台風以降のことです。この台風では洞爺丸が沈没して多くの犠牲者が出てしまいました。その沈没の原因となったのが、車両甲板の開口部から高波を受けて浸水したためでした。それでそれ以降に建造される青函連絡船には船尾扉が付くようになったんです」
 なるほど~、船の構造にもいろいろな歴史が込められているんですね。

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『ロロの旅路』より。ロロたち3兄弟は剥製になった母親を追いかけて、桟橋から連絡船へ飛び乗ろうとする。しかし末っ子のリリだけは乗りそこなって海に転落。力つきて海中へ没してしまったのだった。連続カットによる映画的表現が素晴らしい

◎列車がそのまま船内に!


 船内を案内していただいて圧巻だったのは、巨大なエンジンが並ぶエンジンルームだ。この船には1,600馬力のエンジンが8基搭載されているという(見学できるのは第1主機室の4基のみ)。エンジンはきれいで今にも轟音を上げて動き出しそうである。そんなことを葛西さんに言うと葛西さんは、
「終航の日まで元気に動いていたエンジンですからね。きちんと整備すれば今でも動くはずですよ!」と力強く答えたのだった。
 そして青函連絡船最大の見所は、やはり1階車両甲板に展示されている鉄道車両だろう。列車がそのまま船に乗り込むというのは世界的にも珍しいらしく、ぜひ運航中にこの目で見てみたかったものである。
 もちろん巨大な鉄板が開口部を塞いでいる船尾扉も、ここを訪れた際にはぜひ皆さんの目でご確認いただきたい。
 ちなみに八甲田丸が係留されている場所のすぐ後ろには、鉄道の線路を連絡船と連結するための可動橋と線路の一部がそのままの形で残されている。2011年にはこの八甲田丸と可動橋が「機械遺産」に認定されたとのことである。

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八甲田丸の船内に洞爺丸の模型が展示されていた。船尾扉の付いていない船の構造がよくわかる

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こちらは八甲田丸の船尾扉。これなら高波を受けてもまったく心配はない

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車両甲板にはこんな感じで列車が積み込まれる。船が傾いても列車が倒れないよう列車は左右から鋼鉄のワイヤーで固定される

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葛西さんの仕事場だったエンジンルームの総括制御室。操舵室に次ぐもう一つの頭脳ともいえる場所だ

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葛西さんがここで特別なものを見せてくれた。ある装置のトビラを開くと、その裏にマジックペンで描かれた乗組員の寄せ書きが。葛西さんのお名前もある。じつは八甲田丸は終航当時は保存されることが決まっておらず、解体される運命だった。そこでスタッフがここに寄せ書きをしたのだという。海の仲間たちの大切な思い出だ。※一般公開はされていません

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葛西さんおすすめの八甲田丸見学スポットがここ。八甲田丸の横からこの階段を上がって青森ベイブリッジの上へ出ると、そこから八甲田丸と可動橋の全景が見渡せる

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可動橋は、鉄道線路を連絡船と連結するための微妙な操作を行う場所。葛西さんによれば連結にはかなり高度な職人的技術が必要だったということだ

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八甲田丸の横には、石川さゆりが歌った名曲『津軽海峡 冬景色』の歌謡碑がある。1995年7月に建立されたものだそうで、近づくとセンサーが反応して歌が流れる。ひとりで聞いているのはかなり照れくさいのだが、曲が2番まで流れるからなかなかこの場を立ち去れない

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対岸の「青い海公園」からも八甲田丸の全景を見ることができる。ここも葛西さんおすすめの場所だ

◎旅の終わりはいつもセンチメンタル


 3つ目のキーワードの謎がようやく解けた。キーワード「連」とは青函連絡船の「連」だったのだ。

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 葛西さんにお礼を述べて八甲田丸を後にする。北海道を反時計回りに巡ってきた今回の旅もついに終わりだ。
 太陽が西に傾き、金色に輝く八甲田丸が、バックミラーの中でみるみる小さくなっていった。そして大通りを右折すると、その姿ももう見えなくなっていた。

 さて次回の虫さんぽ+(プラス)ではいったいどこへ行くことになるのか!? 次回のさんぽにもぜひおつきあいください!!

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雪国を走ったので融雪剤を落とすために青森駅近くのコインパーキングで洗車。あとは東京へ帰るだけだ

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旅の終わりの夕食は北海道産のホッケ定食。ごちそうさまでした! そしてさらば北海道!!

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おまけ情報。青函連絡船の実物展示は函館にもあります。こちらはJR函館駅から徒歩4分の場所にある「函館市青函連絡船記念館 摩周丸」。開館時間:4月-10月=8時30分-18時(入館は17時まで)、11月-3月=9時-17時(入館は16時まで)、12月31日-1月3日:10時-15時(変更、または休館になる場合もあります)。定休日はありませんが荒天時など臨時休館の場合があります。入館料:一般500円、小学生・中学生・高校生250円。※八甲田丸との共通割引券あり。問い合わせ:0138-27-2500

取材協力/青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸、葛西鎌司(八甲田丸を存続する会)

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黒沢哲哉

1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。

手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


つのがい


sanpo_tsunogai.jpg静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。
絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。
ブログ:http://tsunogai.blogspot.com/
twitter:http://twitter.com/sunxoxome/


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