虫ん坊

虫さんぽ+ 奈良編 第2話:写楽くんの足跡をたどりつつ古代史ミステリーを探る!!

2019/03/06

top_sanpo_nara02.jpg

奈良編 第2話:写楽くんの足跡をたどりつつ古代史ミステリーを探る!!

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

 謎の招待状に導かれて奈良へとやってきたぼくは、そこで手塚治虫の代表作『火の鳥 鳳凰編』に描かれた東大寺の盧舎那大仏、通称・奈良の大仏様を見た! マンガに描かれた大仏の"本物"を数十年ぶりに目撃した感動にうち震えつつ次に目指すのは、招待状に書かれたキーワード「石」が指し示す場所だ。奈良で「石」と言えば......そう、今回訪れるのは日本の古代史ミステリーに必ずといっていいほど登場するアノ場所である!! Let's GO!!!!


キーワード「石」の示す場所に到着!!

 奈良の東大寺から車で国道24号線を南下すると間もなく24号線は終点となり、そのまま国道169号線へ接続する。その169号線をさらに南下して車を走らせることおよそ1時間、ぼくは近鉄吉野線飛鳥駅に到着した。

 この地域、すなわち明日香村周辺には様々な歴史の遺構が残されており、特に古代人が残した不思議な形の石造物があちこちに点在していることで有名だ。

 そして、それらの石造物が作中に登場した手塚マンガといえば『三つ目がとおる』である。雑誌『週刊少年マガジン』1974年7月7日号から連載が始まった『三つ目がとおる』だが、最初は週刊連載ではなく月イチ連載だった。その月イチ連載時代の第4話目がここ明日香村を舞台とした「酒船石奇談」だったのだ。ということで、2つ目のキーワード「石」の示す場所はここ明日香村で決まりである!!

sanpo+_02nara_01-22.jpg

キーワード「閣」はクリアした。次に向かうべき場所のキーワードは......!!

sanpo+_02nara_02-02_s.jpg

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」雑誌掲載時の2色カラートビラ。

画像は『週刊少年マガジン』19741013日号より

ぼくは機動力を手に入れた!

 事前にネットで調べたところ、石造物のある場所は明日香村のあちこちに離れて点在しているため、レンタル自転車の利用が便利だということだった。そこでぼくも駅近くのレンタルサイクル店で自転車をチャーターすることにした。借りたのは26インチの3段変速機付きママチャリだ。これから数時間、旅を共にする相棒をぼくは「ビッグ・ローリー」と呼ぶことにした。

sanpo+_02nara_02-03_s.jpg

チャーターした車で近鉄吉野線飛鳥駅までやってきた。さてここからの移動手段をどうしたものか......

sanpo+_02nara_02-04_s.jpg

駅近くのレンタルサイクル店でママチャリをチャーターした。このりりしい雄姿から大活躍を期待したのだが......

◎額のバンソウコウをはがされて覚醒した写楽は......!!

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」は、主人公の三つ目くんこと写楽保介が、学校の修学旅行で明日香村へやってきたところから始まる。

 写楽は不良学生たちとつるみながら蘇我馬子の墓とも言われる「石舞台古墳」や、2つの顔が彫られた奇石「二面石」などを見学する。ところが行く先々で悪さをしていたため、写楽は怒った寺の住職に、ひたいのバンソウコウをはがされてしまった!

 写楽は、バンソウコウで封印されていた第3の目が露わになると、秘められていた三つ目族の本性が発現し、悪魔のような力を発揮するのだ。

マンガ的な表情をした「猿石」を見る!!

 ということで、ビッグ・ローリー号で飛鳥駅を出発したぼくも、『三つ目がとおる』に登場した場所をひとつひとつ巡っていく。 駅から北東の方向へ向かい、欽明天皇陵を横目で見ながらなだらかな坂を上っていくと、石の柵で囲われた吉備姫王墓とされる塚がある。その柵で囲われた中に置かれているのが4体の「猿石」である。元々はこの周辺の田畑などからばらばらに出土したものが後にここへ集められたものだとか。

 手塚が1974年に発表したエッセイでこの石について書いているので紹介しよう。

「(猿石は)まことにあいきょうのあるしろもので、謎めいてはいても重圧感はない。(中略)柵の外から見ると四、五十センチの石像が墓の左右に二体ずつ、こっちを向いている。非常にマンガ的なデフォルメがしてあって、一体などは顔中口のような感じがする」

(講談社版手塚治虫漫画全集『手塚治虫エッセイ集7』所収「猿石、亀石、二面石」より>※初出掲載誌は不明)

 大阪の旧制北野中学校に通っていた手塚は、その当時、クラブ活動でこの明日香村を足しげく訪れていたとのことで、これらの奇石群に昔から慣れ親しんでいたのだ。

 手塚によれば、そのころは現在のように観光地化されておらず、多くの石造物が雑草の中に埋もれたまま放置されていたという。

sanpo+_02nara_02-06_s.jpg

さっそく出現した上り坂の十字路。左の坂道を上っていくと「猿石」がある。正面の坂道を上っていくと「鬼の俎」と「鬼の雪隠」がある。
右へ行く道だけ下りだけど、こっちへ行ってもただ駅へ戻るだけだ

sanpo+_02nara_02-07_s.jpg

吉備姫王墓に到着。畑の真ん中にこんもりした樹木が寄り集まっていて鎮守の森的なイメージだ。
この柵の中に4体の猿石があるが、周囲を柵で囲まれていて中へは入れないので外から見学する

sanpo+_02nara_02-08_s.jpg

猿石その1。見た目がもっとも猿らしくて愛嬌ある顔をしている

sanpo+_02nara_02-09_s.jpg

猿石その2。その1の右隣に座っているこちらは長老的な雰囲気の石像。背中には何か荷物を背負っているのだろうか

sanpo+_02nara_02-10_s.jpg

猿石その3とその4。2体とも猿というより人間をマンガ的に誇張したように見える。手塚マンガのキャラにもいそうだ

「亀石」の顔はかまきり似!?

 続いてそこからさらに急になった坂道を、ビッグ・ローリー号を励ましながら、必死で上った小高い丘の中腹にあるのが、「鬼の俎(まないた)」と「鬼の雪隠(せっちん)」と呼ばれる2つの巨石だ。奇妙な名前とともにそれぞれの石にユニークな言い伝えもあるのだが、実際は両方とも古墳の一部だったようである。

 ここで今来た道を少し戻って三叉路を東へ、再び坂道を上っていった先の畑のあぜ道沿いに「亀石」がある。この亀石についても手塚が前出のエッセイで触れている。

「畑の真ん中にでんと座った直径四メートルほどの自然石の一方に、首をすくめたような爬虫類的な顔がのぞいている。見ようによっては、かまきりの顔にも似ている。(中略)これなどは、石そのままの形を実にうまく利用した彫刻だといえる」

 亀石を昆虫に見立てるところなど、じつに手塚先生らしいと言えるだろう。

sanpo+_02nara_02-11_s.jpg

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」より。猿石、亀石、鬼の雪隠が続けて紹介されている。
以下、手塚マンガの画像で特記なきものはすべて講談社版手塚治虫漫画全集より

sanpo+_02nara_02-12_s.jpg

鬼の雪隠。畑の中にこの場所だけなぜか突き出たこんもりした土盛りの上にある。現代アートのオブジェみたいだ

sanpo+_02nara_02-13_s.jpg

こんもりした森の中にある鬼の俎。幾何学的に彫られた溝が意味深で想像力がふくらむ

sanpo+_02nara_02-15_s.jpg

亀石へ通じる道。亀石は車の往来の激しい県道から1歩入った田んぼのあぜ道のような道にある

sanpo+_02nara_02-16_s.jpg

ホントにこの道でいいのか? と少し迷った末に、私道のような細い道を入ってようやく亀石を発見。
「たれぱんだ」のようなグダグダ具合が疲れた現代人の心を癒してくれる

上り坂の連続に悲鳴を上げる!

 ところでここまで読んでこられて皆さんも薄々お気づきに違いない。じつは飛鳥駅から自転車でこれらの石造物群へ向かうとほとんどの道が登り坂なのである。そういえば自転車を借りる際にレンタルサイクル店のおばちゃんがこんなことをボソッと言っていた。

「電動(アシスト)自転車はないですけどいいですか?」

 その言葉にぼく は深く考えず「大丈夫です」と答えていたが、全然大丈夫じゃありませんでした、すいません。というか、先に教えてよ、おばちゃん!!

「二面石」が真っ二つに割れて......!!

 もはやただのお荷物となったビッグ・ローリー号をヨロヨロと押しながら、ぼくは徒歩で次の石造物の場所を目指す。

 残る3つの石造物のうち「二面石」と「酒船石」は、マンガの中で特に重要な役割を持って描かれている。

 まずは二面石のある橘寺を目指そう。畑の間の坂道を上った先にある山門で拝観料を払って境内へ入ると、本堂脇の立木の下にあるのが「二面石」である。ひとつの石に背中合わせに2つの顔が彫刻されている。石の高さはおよそ1.1メートル。説明板には「右善面、左悪面と呼ばれ、我々の心の持ち方を現わしたもの」と書かれているが、手塚は前出のエッセイの中でこの二面石」をこう紹介している。

「長い顔と丸い顔が、苦悶に満ちた表情でふたつくっつきあっている。(中略)ぼくには夜叉が背中合わせに縛られ、うめいているように見える。これも摩滅していて、ことに長い顔のほうはほとんど目鼻立ちも分からないのだが、夜半にあかりのもとで見ると、すごい形相が現れるそうである」

『三つ目がとおる』の中では、写楽の不思議な力によってこの石が縦に二つに割れ、その断面に秘薬を調合するレシピが書かれていたのだった。

sanpo+_02nara_02-17_s.jpg

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」より。写楽と同級生の悪童たちが二面石へやってきた場面。画像は『週刊少年マガジン』19741013日号より

sanpo+_02nara_02-18a_s.jpg

橘寺へと続く石段。ビッグ・ローリー号とともにここまで坂道を上ってきて、あとひと息の石段がツライ

sanpo+_02nara_02-18b_s.jpg

橘寺。拝観時間9:00-17:00(受付16:30まで)、拝観料:大人・大学生...350円、高校生・中学生...300円、小学生...150円、
問い合せ:0744-54-2026

sanpo+_02nara_02-19_s.jpg

ついに本物の二面石と対面。ご覧の通り表面がかなり風化していて表情がわずかに読み取れるだけだ

sanpo+_02nara_02-20_s.jpg

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」より。何とこの二面石が縦真っ二つに割れて、その中から......!!

奇石「酒船石」に来た写楽の目的は......!?

 二面石で秘薬のレシピを知った写楽が向かった先、それが、自転車ではとうてい登れないほどの急な山道の先にある「酒船石」だった。

 写楽はこの「酒船石」に刻まれた溝を利用して、何やら危険な薬を調合しようとするのだが......と、この先はマンガを読んでみてください。

 それにしてもこの酒船石、今まで見てきた石の中でも特に独特で、表面に彫られた幾何学模様と人里離れたうら寂しい立地が相まって、まさに古代史ミステリーにふさわしい神秘的な場所となっていた。

sanpo+_02nara_02-21_s.jpg

酒船石へ向かう道は竹藪の中の上り坂だ

sanpo+_02nara_02-22_s.jpg

sanpo+_02nara_02-23_s.jpg

sanpo+_02nara_02-24_s.jpg

額のバンソウコウをはがされて覚醒した写楽は、夜中に旅館を抜け出し、無言で酒船石へと向かった。いったい何のために!?

sanpo+_02nara_02-25a_s.jpg

ぼくも坂道を登り切ってようやく酒船石に到着した

sanpo+_02nara_02-25b_s.jpg

古代史のロマンに満ちたこの奇妙な模様を目の当たりにすると、写楽でなくても何かの奇跡が起こせそうな気になってくる......かも?

sanpo+_02nara_02-26_s.jpg

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」より。酒船石で何やら薬の調合を始めた写楽。これが酒船石の正しい使い方だったのか!?

「石舞台古墳」の大きさに圧倒された!

 ここから一気に坂を下り、いよいよ最後の目的地へと向かう。明日香村の石造物群の中でももっとも有名な「石舞台古墳」だ。『三つ目がとおる』「酒船石奇談」では最初に登場した石造物である。

 入場料を支払って公園内に入ると、小高い丘の上に鎮座しているのがこの石舞台古墳だ。巨石を積み上げて造られた古墳の石室が露出したもので、天井部分の石が平らで舞台に見えることから「石舞台」と呼ばれるようになったという。ぼくは実物を見たのは初めてであったが、実際にこの巨大な石の塊を目の前にすると、その大きさと質量に圧倒された。

sanpo+_02nara_02-27_s.jpg

最後の目的地、石舞台古墳へ到着。

石舞台古墳。営業時間8:3017:00、休日:年中無休、料金:大人...250円、高校生...200円、中学生...150円、小学生...100円、
問い合せ:0744-54-4577,9200(一般財団法人明日香村地域振興公社)

sanpo+_02nara_02-28_s.jpg初めて来た石舞台古墳。ひとつひとつの石の大きさに驚いた

sanpo+_02nara_02-29_s.jpg

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」より。これはマンガです。実際に石舞台の上へ登ってはいけません。画像は『週刊少年マガジン』19741013日号より

sanpo+_02nara_02-30_s.jpg

『三つ目がとおる』「酒船石奇談」より。これはマンガです。石舞台の中で焼きイモを焼いてはいけません。画像は『週刊少年マガジン』19741013日号より

sanpo+_02nara_02-31_s.jpg

これが石舞台の石室への入り口。なるべく他人が写らないようにシャッターを切っているが、
この日は実際は女子高の修学旅行生が団体で来ていて周りは女子高生だらけだった

sanpo+_02nara_02-32_s.jpg

石舞台の石室の中。隙間から差し込む光で意外と明るい

ちなみに「石舞台古墳」は『火の鳥 ヤマト編』にも登場する。自らの権勢を後の世にまで伝えるために巨大な墓を建造しようとした哀れな国王の末路......それと石舞台古墳とがどう関わっているのか。こちらもぜひマンガを読んでいただきたい。

sanpo+_02nara_02-33_s.jpg

COM名作コミックス版『火の鳥 ヤマト・宇宙編』(1969年虫プロ商事刊)の表紙

sanpo+_02nara_02-34_s.jpg

sanpo+_02nara_02-35_s.jpg

sanpo+_02nara_02-36_s.jpg

sanpo+_02nara_02-37_s.jpg

『火の鳥 ヤマト編』より。国王のための巨大な古墳を建てようとしていたところへ国王危篤の知らせが届き、古墳は急ごしらえの適当なものとなってしまった......それが今に残る石舞台古墳の由来だった......のかも、という手塚版古代史ファンタジー

怪しいタクシードライバーが現われて......!!

 これで今回の旅の3つのキーワードのうち「閣」と「石」2つのキーワードが埋まった。残るひとつ「社」とはいったい何なのか? 飛鳥駅に戻ったぼくは、ビッグ・ローリー号を返却し、駅前で途方に暮れていた。

sanpo_nara02_card.jpg

2つ目のキーワードの謎も解けた。残る1つのキーワードが示す場所とは......!?

 するとそこへ1台のタクシーがゆっくりと近づいてきて、運転席から顔を出した男がぼくにこう言った。

「お前さん、東京から来たんだろ。次の目的地へは俺が案内してやるぜ」

 ボサボサの髪の毛に""というイニシャルの入った帽子をかぶり、ぞんざいな口調でしゃべるタクシードライバー。車のナンバープレートを見ると東京の練馬ナンバーである。そういえば手塚マンガにこんな登場人物がいたような気がするのだが......

ぼくはなぜかこの男の誘いを拒むことができず、言われるままタクシーの後部座席へ乗り込んだ。車は先ほど下ってきた国道169号線をさらに南下し始める。

 彼の運転で向かう先にはいったい何が待っているのか。それはまた次回、奈良編第3話でお伝えいたしましょう。

map_nara_02.jpg

取材協力/明日香村教育委員会 文化財課、宮内庁 書陵部畝傍陵墓監区事務所、橘寺(順不同、敬称略)


黒沢哲哉
1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


sanpo_tsunogai.jpg

つのがい
静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。
絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。
ブログ:http://tsunogai.blogspot.com/
twitter:http://twitter.com/sunxoxome/


■バックナンバー

 虫さんぽ+(プラス)

・大阪編 第1話:大阪・十三で旧制中学の同級生を訪ねる!!

・大阪編 第2話:大阪・中津の軍需工場跡地で、辛かった戦争時代の想い出を歩く!

・大阪編 第3話:大阪・十三で戦争の悲惨さを残す文化遺産を訪ねる!

・奈良編 第1話:火の鳥に誘われて巨大大仏を見る!!


TAG虫ん坊タグ