虫ん坊

虫さんぽ+(プラス)奈良編 第1話:火の鳥に誘われて巨大大仏を見る!!

2019/02/06

奈良編 第1話:火の鳥に誘われて巨大大仏を見る!!

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

 謎の招待状にみちびかれ、手塚治虫と手塚マンガに関わる場所を訪ね歩く虫さんぽ+(プラス)。今回我われがやって来たのは京都と並ぶ歴史の都・奈良である。奈良と言って思いつく手塚マンガといえば......いやいや、まだ分かりません。虫さんぽ+(プラス)では想像もつかない何かが起こるときもあるのです。奈良で我われを待っているものは果たして何か!? さっそくさんぽに出発いたしましょう!!


◎男の言った意味深な言葉の意味は......!?

 大阪の堂島川に架かる水晶橋。ぼくはそこで黒い服を着た謎の男から1枚の招待状を手渡された。そこに書かれていたのは「石」、「社」、「閣」という3つのキーワード。すなわちこれが次なる虫さんぽ+(プラス)への招待状だったのだ!

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大阪の水晶橋で黒い服の男から手渡された謎の招待状。ぼくはまず「閣」の文字を頼りに奈良へ向かってみることにした

しかしどこへ行けばいいのだろう。そこでふと思い出したのが男が去り際に言ったひとことだった。後頭部にロウソクを立てたその風変わりな男は、立ち去る直前、ぼくに「さようナラ」と言った。語尾にアクセントをつけた奇妙な言い回しだったため、この言葉が耳に残っていたのだ。

 再び招待状に目を落とすと、そこは3つのキーワード以外に火の鳥のシルエットが描かれている。そうか......これで向かうべき場所が判明した。ぼくは迷わず大阪メトロ肥後橋駅へと走った。そこから四つ橋線に飛び乗り、途中で近鉄奈良線に乗り換えて向かった先は......!!

キーワードを頼りに最初の目的地を目指す!

ぼくが降り立ったのは近鉄奈良線の終点・奈良駅である。もう察しの良い方はお分かりだろう。黒ずくめの男が言った「さようナラ」のナラは即ち奈良県を指していたのだ。また招待状に意味ありげに描かれていた火の鳥のシルエット......奈良と火の鳥、そこから浮かび上がる手塚マンガと言えば、東大寺盧舎那大仏(奈良の大仏)造立にまつわるドラマを描いた『火の鳥 鳳凰編』が思い浮かぶ。

 と、ここであらためて招待状に書かれた3つのキーワードを見ると「閣」の字に目が止まった。寺院の建物や仏堂・仏殿などを"仏閣"と呼ぶ。間違いない。今回の虫さんぽ+(プラス)最初の目的地はズバリ東大寺の大仏殿である!!

国宝だらけのその場所は......!!

 奈良駅で電車を降りたぼくは、地上へ出るとそのまま大通りを東へ向かって歩く。およそ15分ほどで前方に鹿で有名な奈良公園が見えてきた。そのすぐ手前の車止めのある歩道を左折すると、間もなく前方に姿を現わすのが巨大な木造の門、東大寺の南大門だ。

 この門は1199年(鎌倉時代)に再建されたもので国宝に指定されている。また門の中で向かい合って立つこれまた巨大な2体の木像・金剛力士像(阿形像と吽形像)も国宝である。

 それにしても偶然とは恐ろしいものだ。じつはちょうどこの時、ぼくは他社の仕事でこの金剛力士像の造立を描く歴史マンガの脚本を手がけていた。今回のさんぽの招待者はそれを知っていてぼくをここへ招いたのか。だとしたらこれは偶然ではなく、最初から仕組まれたものだったのだろうか......

sanpo+_02nara_01-02_s.jpg奈良・東大寺の「南大門」に到着!東大寺。拝観・開館時間:大仏殿・法華堂(三月堂)・戒壇堂 [410] 7:3017:30[113] 8:0017:00、東大寺ミュージアム [410] 9:3017:30 (最終入館17:00)[113] 9:3017:00 (最終入館16:30)
入堂料・拝観料(大仏殿・法華堂・戒壇堂、東大寺ミュージアム、それぞれで入堂料をいただいております):大人(中学生以上)600円、小学生300円 ●セット券(大仏殿・東大寺ミュージアム)大人(中学生以上)1000円、小学生400円 ●問い合せ:0742-22-5511

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南大門の中で向かい合って立つ2体の金剛力士像。左の画像が阿形で右の画像が吽形。巨大な木像は大迫力だ

『火の鳥 鳳凰編』に出てきたアノ場所に到着!

 門をくぐって東大寺の境内へ。行き交う観光客に交じって何頭もの鹿が石畳の上をのんびりと歩いている。

 その石畳の先にあるのが今回最初の手塚スポット、東大寺大仏殿である。『火の鳥 鳳凰編』の中では、火の鳥の像を彫った仏師・茜丸が聖武天皇からその才能を認められ、プロデューサーとして大仏造立を陣頭指揮することになったのだ。

 ところが、作中では天皇が大仏造立の巨大プロジェクトを強行する中で飢饉が起こり、造立中の大仏が涙を流すという場面が描かれている。

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人なつっこい鹿は外国人観光客にも大人気!

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ただし境内には鹿の落とし物がそこかしこにあるので下を見て歩くことをお勧めする

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COM名作コミックス版『火の鳥 鳳凰編』(1969年虫プロ商事刊)の表紙(上)とトビラ絵

◎巨大仏像と数十年ぶりの再会!

 拝観料600円を払って門をくぐると、ようやく大仏殿の全景が見えた。大仏殿は創建後、2度火災にあって焼失しており、今ある建物は1709年(江戸時代)に再建されたものだ。建物の大きさは創建当時の3分の2の横幅になっているらしいけど、それでも今の建物も世界最大級の木造建築だということだ。ちなみにこれも国宝である。

 大仏殿を入ると正面に大仏様が鎮座している。聖武天皇の発願で752年に開眼されたもので高さは約15メートル、仏像が座っている銅座の高さ3メートルを合わせると約18メートルにもなる巨大な銅像である。

 この大仏様を見るのは数十年前に中学の修学旅行で来て以来だ。あのころはまったく感じなかったけど、大人になってあらためて見ると、1200年も前によくこれだけの巨大な仏像を造ったものだと、当時の人々の技術力と、それを実現に導いた人々の熱意に驚いた。

『火の鳥 鳳凰編』の結びでは、この大仏の完成が宗教と政治との結びつきを揺るぎないものとし、貴族が絶対的権力者となる予兆だったと描かれている。

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東大寺の中核である大仏殿(金堂)が見えてきた! ちなみに手前に見える青銅製の燈籠「八角燈籠」は奈良時代の創建当時から残る貴重な遺物でこれも国宝である

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『火の鳥 鳳凰編』より。大仏の造立以前から、巷では飢饉が起こり災いが続いていた。大仏の造立は災いのない幸福な世を願って続けられた。ちなみに『火の鳥 鳳凰編』で描かれている大仏殿は江戸時代に再建された建物で、創建当時の建物とはデザインも大きさも異なっており、考証的には誤りである

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いよいよ大仏様とご対面!!数十年ぶりに見るとあらためてその大きさに驚く 

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堂内は薄暗くそれがまた神秘性を増している

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涙を流す大仏。大仏様は飢饉や災いを悲しんで泣いたのだろうか(『火の鳥 鳳凰編』より)

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大仏様の大きさが分かるように観光客の皆さんを入れて撮ってみた。この巨大さ!

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『火の鳥 鳳凰編』では、孤児の少女ブチがこの大仏様の手の平の上に乗って悪さをする!

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その問題のシーンがこちら。とんでもない罰当たりな行為だが言っていることは至極真っ当でおろかな大人たちよりもはるかに鋭い(『火の鳥 鳳凰編』より)

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大仏様がこんな表情を......! 手塚流の風刺が利いた辛口ギャグだ(『火の鳥 鳳凰編』より)

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大仏殿の中に展示されている、鎌倉期に再建された大仏殿の復元模型。本文でも触れたとおり大仏殿は過去に2度焼失している。
『火の鳥 鳳凰編』で描かれた大仏殿は現在のものであり、厳密に言うと考証的には誤りである

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完成した大仏様が圧倒的な迫力で人々を見下ろす。大ゴマを大胆に使用し、政治と宗教が時代の覇権を握った瞬間を象徴的に描いた名場面である(『火の鳥 鳳凰編』より)

◎2つ目のキーワードが示した先は......!?

 さて、1つめのキーワード「閣」の謎はこうして解けた。残るキーワードは「石」と「社」の2つだ。次はどこへ行けばいいのだろうか......。奈良で石......そうか、分かったぞ! 東大寺を出たぼくはただちに車をチャーターし、国道24号線を南へと走った。そして向かった先は......次回虫さんぽ+(プラス)奈良編第2話でまたご一緒いたしましょう!!

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1つ目のキーワード「閣」はクリアした。続いてぼくの目に止まった2つ目のキーワードは......

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取材協力/華厳宗大本山 東大寺


黒沢哲哉
1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


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つのがい
静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。
絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。
ブログ:http://tsunogai.blogspot.com/
twitter:http://twitter.com/sunxoxome/


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