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虫さんぽ+(プラス)ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第1話:早稲田で乗せた老女は幽霊だったのか!?

2019/11/06

ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第1話:早稲田で乗せた老女は幽霊だったのか!?

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

 客を探して深夜の大都会・東京をさすらう風変わりなタクシードライバー。彼が出会う奇妙な客たちの横顔を描いた手塚マンガが『ミッドナイト』だ。今回から3回に分けて、このマンガに描かれた風景を、本物のタクシーに乗って巡ります! タクシーの車窓から、いったいどんな物語のどんな風景が見られるのでしょうか!?


◎北海道で受け取った招待状の意味するものは!?

 前回の虫さんぽ+(プラス)では、手塚治虫先生の足跡を追って北海道へ。のぼりべつクマ牧場からオロフレ峠を巡り、手塚マンガの舞台となった根室駅周辺や摩周湖をさんぽした。そして、その旅の終わりの斜里町で、ぼくは新たな虫さんぽ+(プラス)の招待状を受け取ったのだった。

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「墓」「爆」「申」と今回も意味不明の文字が3つ並び、その片隅には物騒なピストルのシルエットが描かれている。

 これだけでは何のことやらまるで意味不明だが、この招待状をもらったとき、その場にいた若い女性トラックドライバーが、ぼくにこんな言葉を投げかけた。

「東京へ帰ってタクシーに乗りな!」

 これまた意味不明な言葉である。ともかくぼくは急ぎ北海道を後にして東京へ戻ることにした。

◎女性ドライバーの言った言葉の意味は!?

 函館からフェリーで青森へ渡り、東北自動車道を南下する。その道中、ぼくは車を運転しながら頭をフル回転させてこの招待状が指し示す場所を推理した。

 タクシーという言葉で真っ先に思い出される手塚マンガと言えば、これはもう『ミッドナイト』以外にはないだろう。『ミッドナイト』は手塚先生が1986年から87年にかけて雑誌『週刊少年チャンピオン』に連載した作品だ。主人公は真夜中だけ営業するというモグリのタクシードライバー、ミッドナイトこと三戸真也(みと しんや)。物語はそのミッドナイトが乗せた客たちのドラマを1話読み切り形式で描いたものだ。

 しかし広い東京のいったいどこでタクシーに乗ればいいのか。この謎の答えはなかなか出なかった。

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『ミッドナイト』連載第1話の扉絵原画。画像は手塚治虫の扉絵原画をペンタッチまで分かる印刷で再現した『手塚治虫扉絵原画コレクション 1971-1989』(2018年、玄光社刊)より

◎焼けつく太陽の下、タクシーがやってきた!!

 それから数日後の午後、東京へ帰り着いたぼくは、とある舗道に立ってタクシーを待っていた。その場所とは、東京都新宿区にある早稲田大学の正門前である。あれからいろいろと推理して、ぼくはここがタクシーとの待ち合わせ場所だと確信したのだ。その理由は後ほど説明しよう。

 早稲田大学の本部キャンパスを背にして立ち、目の前のバスロータリーを見渡すと、その向こうに見えているのが大隈記念講堂だ。1927年(昭和2年)に竣工した重厚な建物で、向かって正面左側にそびえ立っている時計塔がこの建物のシンボルとなっている。

 またじつはこの大隈講堂、200811月に手塚治虫生誕80周年を記念して開催された「手塚治虫ファン大会2008 in 早稲田」の会場でもあったのだ。

 残暑厳しい秋の日、照りつける日射しを避け、日陰の舗道でぼんやりと立っていると、ロータリーの向こうから1台のオレンジ色のタクシーが、こちらへ向かってまっすぐに近づき、ぼくの目の前で停車した。

 後席のドアが静かに開いた。ドライバーは前を向いたままだが、どうやらぼくに乗れと言っているようだ。

 後部座席に乗り込んでシートベルトを締めると、行き先も告げていないのに、タクシーは静かに発進した。

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早稲田大学正門前のバスロータリー。左端に見えているのが早稲田大学の大隈記念講堂である

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ロータリーを回って一台のタクシーがすべり込んできた

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目の前で後席のドアが開き、ぼくが乗るのを待っている

◎「ワセダ大学裏」の路地をタクシーで通る!

 タクシーは大隈講堂の前を通って一方通行の狭い路地へ入っていく。ここは大隈通りと呼ばれる道で、1980年代ごろまでは学生向けの食堂や雀荘が建ち並ぶいかにも学生街といった感じの路地だったが、最近はそうしたお店はほとんどなくなり、マンションが建ち並ぶ静かな住宅街になってしまった。

「運転手さん、ちょっと止めてください」

 路地の途中でぼくはタクシーを降り、後ろを振り返った。間違いない、この風景は『ミッドナイト』ACT.10で、ミッドナイトが老女を乗せた「ワセダ大学の裏」の路地だったのだ。

 その夜、ミッドナイトは行きつけのラーメン屋「ラーメン軒」で、タクシー仲間から「ワセダ大学の裏で老女の幽霊を見た」という話を聞いていた。そしてその場所を通ったミッドナイトの目の前に、ウワサ通りの幽霊のような老女が現われたのだった。

 ミッドナイトのタクシーに乗った老女はこう目的地を告げた。

「谷中の...墓地に......つけてくだ.........

 老女は、深夜の墓地にいったい何の用があるというのか。いぶかしがりながらも、ミッドナイトは車を発進させたのだ。

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『ミッドナイト』ACT.10より。このマンガはそのタイトル通り、多くのドラマが夜の間に起きている。ちなみに『ミッドナイト』にはサブタイトルがなく、連載時は「ACT.XX」で始まる通番が付いていた。ただし単行本化の際に各巻ごとに「ACT.1」から始まる番号が振り直されたため、連載時のACT.10は、講談社版手塚治虫漫画全集では『ミッドナイト』第2巻の「ACT.1」に相当する。以下、マンガの画像は全て講談社版手塚治虫漫画全集『ミッドナイト』より

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ミッドナイトが行きつけのラーメン屋「ラーメン軒」で、タクシードライバー仲間から怪談話を聞いた

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その場所へ近づくつもりなどまったくなかったミッドナイトだが、なぜか通行止めが続き、その道へ出てしまっていた

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ミッドナイトのタクシードライバー仲間が[幽霊を見た」と証言していた「ワセダ大学の裏」の道。樹木に隠れているが、マンガの絵とほぼ同じ位置に大隈講堂の時計塔が見えている

◎老女が谷中墓地へ行った目的は......!?

 皆さんにももうお分かりだろう。1つ目のキーワード「墓」が示していたのは、『ミッドナイト』ACT.10の、谷中墓地へ行く老女の物語だったのだ。そしてタクシーを待つべき場所も、老女がミッドナイトのタクシーを拾ったのと同じ早稲田大学付近の路上だったのである。

 新目白通りをまっすぐ東へ進んだタクシーは、飯田橋の手前で左折。小石川後楽園と東京ドームを右手に見ながら言問通りへと入る。あとはこの道を浅草方面へ向かってひたすら走ると、およそ15分ほどで谷中墓地に到達する。

 交通量の多い言問通りから一歩入ると墓地の周辺は人影もまばらでひっそりと静まりかえっており、まるで時間が止まったままのようだ。恐らくここは『ミッドナイト』のこの物語が描かれた当時とほとんど代わっていないだろう。

 ここ谷中周辺には江戸時代に神田から多くの寺院が移転してきたことで広大な寺町が形作られた。その後1874年(明治7年)、当時の東京府が天王寺(旧・感應寺)の墓地を中心とした10ヘクタールの土地を「谷中墓地」として開設した。谷中墓地は1935年(昭和10年)に「谷中霊園」と改称されたものの、現在も「谷中墓地」と呼ぶ人は多い。

 広大な墓地は桜の名所でもあり、旧・虫さんぽでは、まさに桜が満開の時期にここを訪れているのでぜひそちらもご覧いただきたい。

虫さんぽ 46回:東京の東側、昭和レトロな街並みに手塚マンガの面影を訪ねる!!

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ミッドナイトもついに老女の幽霊に出会ってしまった!? 老女はミッドナイトに「谷中墓地」へ行くようにと告げた

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ぼくの乗ったタクシーも、ミッドナイトのタクシーが走ったと思しきルートを通り、早稲田から谷中墓地へと向かう

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到着した谷中墓地。真夜中に谷中墓地へやってきた老女にはいったいどんな目的があるのだろうか......!?

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谷中墓地へ到着。平日の昼間なので怖さはまったくないが、人通りもまったくない。タクシーで乗り付けて墓参りをするでもなく写真を撮っている我われこそ、傍から見たら不審な存在かも

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老女が深夜に谷中墓地へやってきた理由は自殺をするためだった! ミッドナイトはあわてて彼女を助け、彼女の身の上を聞いた

◎老女が橋の上から飛び降りた!

 さて『ミッドナイト』の物語に戻ろう。谷中墓地でミッドナイトのタクシーを降りた老女は、何とそこで首つり自殺を図ろうとする。じつは老女には商社に勤める最愛の息子がいたのだが、その息子が中東でゲリラに捕まって消息不明となってしまった。その絶望感から老女は自殺願望に取り憑かれていたのだ。

 老女が幽霊ではなかったことが分かり、ミッドナイトは彼女を自宅へ送り届けるべくタクシーを再び早稲田方面へと走らせる。ところが老女は途中でいきなりタクシーを止め、今度は橋の上から川へ飛び込んでまた自殺をしようとしたのだった。

 谷中から早稲田へ向かう途中、作中に出てくるような大きな川は渡らないのだが、御茶ノ水駅前の神田川を渡っているお茶の水橋がマンガの絵に近い。

 ぼくが乗っているタクシーのドライバーも最初からそれを知っていたようで、谷中墓地を出ると、無言でぼくをこのお茶の水橋のたもとまで連れてきてくれた。

 昼間なので人通りが多く、マンガで描かれたような寂しい感じはまったくないが、真夜中ともなれば人通りも絶えて雰囲気は一変するに違いない。

 そしてここでもまた死に損なった老女を、ミッドナイトは何とか早稲田(近辺にあると思われる)彼女の自宅まで送り届けたのだが、その先には意外な後日談が待っていた......!!

 と、ここから先はぜひマンガを読んでみてください。

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ぼくの乗ったタクシーは谷中墓地から引き返してお茶の水橋へとやってきた。

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老女が谷中墓地から早稲田へ戻る途中で車から降りて入水自殺を試みたのは、位置関係から推定してこのお茶の水橋だったのか?

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お茶の水橋。この橋を渡った左側がJR総武線の御茶ノ水駅だ。橋の下には神田川が流れているが普段の水量はかなり少ない

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いきなり川へ飛び込んだ老女をミッドナイトが助ける。何をやっても死ねない老女には死神ではなく神様がついていたようだ

◎再び早稲田へ戻ったタクシーだが......!!

 ということで『ミッドナイト』に描かれた場所をタクシーで巡る、ミッドナイト東京タクシーさんぽ、1つ目のキーワード「墓」の謎は解けた。

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今回の虫さんぽ+にご協力いただいた「新東タクシー」。時間貸し料金は初乗り運賃が1時間4,700円で以後30分ごとに2,150円が加算されます。時間貸し中もメーターを回して走行し、精算時に時間貸し料金とメーター表示料金のいずれか高い方の金額でのお支払いとなります(走行距離が長くなった場合にメーター表示料金の方が高くなります)。問い合せ:03-3880-1161

 残るキーワードは2つ。さて次はどこへ行けばいいのだろう。ぼくが後部座席に座ったまま考え込んでいると、タクシードライバーが振り返ってこう言った。

「お客さん、次のさんぽは、もうこの場所から始まってますぜ......

「えっ? 運転手さん、今なんて言ったんですか?」

「この場所が、次のさんぽのスタート地点なんだよ......

「でも......近くにあるのはコンビニくらいですよ......

「フフフフ......

 もう次のさんぽが始まっている!? タクシードライバーの言った言葉の意味は何か? 次のさんぽはどこへ向かうのか!? 次回を待て!!

◎東京タクシーさんぽはまだ続く!!

 ちなみに今回のミッドナイト東京タクシーさんぽは、東京都足立区の「新東タクシー」の協力で、タクシーを時間貸しさせてもらい実現しました。次回も本物のタクシーに乗って巡るミッドナイト東京さんぽは続きます。お楽しみに!!

取材協力/新東タクシー株式会社、黒沢幸司

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■バックナンバー

 虫さんぽ+(プラス)

・大阪編 第1話:大阪・十三で旧制中学の同級生を訪ねる!!

・大阪編 第2話:大阪・中津の軍需工場跡地で、辛かった戦争時代の想い出を歩く!

・大阪編 第3話:大阪・十三で戦争の悲惨さを残す文化遺産を訪ねる!

・奈良編 第1話:火の鳥に誘われて巨大大仏を見る!!

・奈良編 第2話:写楽くんの足跡をたどりつつ古代史ミステリーを探る!!

・奈良編 第3話:その時が来なければたどり着けない!? 伝説の神社!!

・洞窟探検編 第1話:盗まれた名画の行方を追ってアトムが向かった場所は!?

・洞窟探検編 第2話:荒涼とした大地で手塚治虫が見たものは!?

・洞窟探検編 第3話:手塚治虫、大洞窟の中を命がけの逃亡!!

・北海道・道南-道東横断編 第1話:標高550メートルの山頂でヒグマに囲まれる!?

・北海道・道南-道東横断編 第2話:北海道東端の駅で子グマとSLの物語に思いを馳せる!!

・北海道・道南-道東横断編 第3話:財宝が隠されている神秘の湖はココだった!!


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