虫ん坊

虫さんぽ+(プラス)洞窟探検編 第2話:荒涼とした大地で手塚治虫が見たものは!?

2019/06/05

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洞窟探検編 第2話:荒涼とした大地で手塚治虫が見たものは!?

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

謎の招待状にみちびかれて手塚治虫と手塚マンガに関わる場所を訪ね歩く虫さんぽ+(プラス)。前回、招待状に導かれて向かったのは『鉄腕アトム』「第三の魔術師の巻」の舞台となった東京の秘境、奥多摩の「日原鍾乳洞」だった。では、次に向かうべき目的地はどこなのか。何と今回は一気に本州の西端を目指します。


◎第2のキーワード「吉」の場所は本州の東の端!?

 奈良の山奥でもらった虫さんぽ+(プラス)の招待状。前回は、そこに記された3つのキーワードの中から第1のキーワード「摩」に注目し、それが奥多摩の「日原鍾乳洞」だったことを解明、無事にさんぽを終えてきた。

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 次にぼくが注目したのは招待状の「吉」の文字だ。この「吉」という文字と招待状の左下に描かれたオオカミのシルエット......。そこからぼくはある手塚マンガに思い至った。それは1966年から67年にかけて雑誌『少年サンデー』に連載された怪奇マンガ『バンパイヤ』である。

 満月を見るとオオカミに変身してしまうバンパイヤ族の少年トッペイを主人公としたこのお話。そこに登場するのが、悪魔の心を持った冷酷な青年、間久部緑郎(通称=ロック)だ。

 ロックは自分を養ってくれた恩人の資産家・大西泰三を裏切り、その娘の大西ミカを誘拐して身代金を要求、まんまとその金をせしめる。

 だが顔を知られているミカをそのまま解放するわけにはいかない。ロックはミカをワニの剥製の中に閉じ込め、それをトラックに積み込んで一路高速を西へと向かった。

 そのロックの不審な行動に気づき、タクシーで彼の尾行を始めたひとりの男がいた。マンガ家の手塚治虫である。『バンパイヤ』には手塚治虫自身がキャラクターとして登場しているのだ。

 そしてロックがひたすら高速を飛ばして向かった先、それは山口県の「秋吉台」だった。

 招待状に描かれたオオカミのシルエットと2つ目のキーワード「吉」。この2つのヒントが指し示した場所は、まさしくここ秋吉台だったのである!

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『バンパイヤ』より。資産家の娘・大西ミカを誘拐したロックは、みずからミカに変装してトッペイの弟チッペイをだまし、さらにミカを殺害するため、ワニの剥製に閉じ込めてアジトから運び出した。だがそこを手塚治虫が目撃していた! 以下、マンガの画像はすべて講談社版手塚治虫漫画全集より

sanpo+03_doukutu_02-01f_s.jpg『バンパイヤ』より。ロックのトラックは秋吉台に到着。ロックはワニの剥製をカルスト台地へと引きずり出した

広大なカルスト台地に立つ!!

 そうこうしているうちに、ぼくの乗った新幹線も新山口駅に到着した。ここからは防長バスに乗っておよそ43分、終点の秋芳洞停留所からさらに20分ほど歩くと、ようやく秋吉台のカルスト展望台に到着である。

 見渡す限り広がる原野の至る所からごつごつとした岩が突き出ている光景はまさに奇観と呼ぶにふさわしい。

 小学生のときに『バンパイヤ』を読んでロックの危険な魅力に取り憑かれてからおよそ50年、ついにここへ来たという感慨はかなり深いものがあった。

 しかもさんぽ当日は季節外れの台風が去った翌日で、大きな雲が荒涼とした原野にいくつもの黒い影を落としながら轟々と流れていて、殺伐とした光景を、より一層際立たせていた。

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一方、虫さんぽ+(プラス)隊もバスでようやく秋吉台に到着した。

石灰岩の裂け目に落ちたらアウト!!

 秋吉台は山口県美祢市の西部から東部にかけて広がっている日本最大のカルスト台地で、その面積はおよそ130平方キロメートルにもおよぶ。国の特別天然記念物に指定されていて、一部は国定公園になっている。

 カルスト地形とは、石灰岩などの可溶性岩石から成る地形で、雨水や地下水によって石灰成分が溶かされ、その結果、ごつごつとした岩が地表のあちこちに露出した特殊な景観を作り出している。

 カルスト地形の土地にはドリーネと呼ばれる石灰岩の浸食によってできた窪地がいくつもある。そうした窪地の中には、落ちたら二度と出られないような深い裂け目もあるのだそうである。

『バンパイヤ』のお話の中でも紹介されているが、明治から昭和初期にかけて秋吉台は旧日本陸軍が演習場として使用しており、事実かどうかは不明だが、当時訓練中に行方不明となった兵士が何人もいたらしい......

 そして作中、夜中にここへ到着したロックは大西ミカにナイフを突き付け、彼女を脅して岩の裂け目に突き落としてしまうのだった。

 もちろん現在の秋吉台には安全な遊歩道が整備されているので、そこを外れなければ心配は無用です。

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見渡す限りの平原に、巨大生物の化石のような白い岩が点在している

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最初はこの光景の迫力に圧倒されるが、少しして見慣れてくると不思議と居心地の良い場所でもある

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草むらに大きなバッタを発見。写真のどこにバッタがいるか、お分かりいただけただろうか

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嘘か真か兵士が消えたという言い伝え。実際、深そうな穴が遠くにいくつか空いているのは目撃できた

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秋吉台の中を通る遊歩道。この道を外れなければ安全だ。ちなみに左奥に見えているのがカルスト展望台

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令嬢・大西ミカのあわれな最期。穴へ落ちる直前、ロックに侮蔑の言葉を投げかけたのは、彼女の最後のせめてもの抵抗だったのか......

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だがその一部始終を手塚治虫が目撃していた! ロックは今度は手塚治虫を殺すべくナイフを持って追いかける!

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昭和30年代のものと思われる秋吉台の観光パンフレットより。手塚先生が『バンパイヤ』を描いたころの秋吉台はこんな感じだったのだろうか

次回、洞窟探検編完結! 乞うご期待!!

 ということで2つ目のキーワード「吉」の示していた場所、すなわち「秋吉台」さんぽもこれにてゴールである。

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 ただし『バンパイヤ』の秋吉台を舞台とした物語はまだ終わってはいなかった。ロックが大西ミカを岩の裂け目に突き落としたところを、東京からタクシーで尾行してきた手塚治虫が目撃していたのだ。

 ナイフを振りかざしたロックは、手塚治虫も消すべく追跡を開始する。そこで手塚治虫が逃げ込んだ先──じつはそれが第3のキーワード「芳」の示した場所だったのだ。その場所とは......皆さんもうお分かりですよね。

「分かった」という方も、「まったく分からん」という方も、次回、虫さんぽ+(プラス)洞窟探検編の完結編で、ぜひまたご一緒いたしましょう!!

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取材協力/秋吉台観光交流センター


黒沢哲哉
1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。
手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


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つのがい
静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。
絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。
ブログ:http://tsunogai.blogspot.com/
twitter:http://twitter.com/sunxoxome/


■バックナンバー

 虫さんぽ+(プラス)

・大阪編 第1話:大阪・十三で旧制中学の同級生を訪ねる!!

・大阪編 第2話:大阪・中津の軍需工場跡地で、辛かった戦争時代の想い出を歩く!

・大阪編 第3話:大阪・十三で戦争の悲惨さを残す文化遺産を訪ねる!

・奈良編 第1話:火の鳥に誘われて巨大大仏を見る!!

・奈良編 第2話:写楽くんの足跡をたどりつつ古代史ミステリーを探る!!

・奈良編 第3話:その時が来なければたどり着けない!? 伝説の神社!!

・洞窟探検編 第1話:盗まれた名画の行方を追ってアトムが向かった場所は!?


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