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虫さんぽ+(プラス)ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第2話:杉並から早稲田へ、時限爆弾を追え!?

2019/12/17

ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第2話:杉並から早稲田へ、時限爆弾を追え!?

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

 深夜の大都会・東京をさすらう風変わりなタクシードライバー、その名もミッドナイト!! 彼の車に乗る客はワケアリの風変わりな客ばかりだ。この奇妙な物語の舞台となった風景を訪ね、本物のタクシーに乗って東京の街を巡る『ミッドナイト』の旅。その第2回目となる今回は、果たしてどんな物語のどんな風景を訪ねることになるのだろうか......!?


◎新たなさんぽがもう始まっている!?

 北海道で受け取った虫さんぽ+(プラス)の招待状。そこには「墓」「爆」「申」という3つのキーワードと、ピストルのシルエットが描かれていた。

 前回のさんぽでは、この招待状に導かれるまま、東京の早稲田大学前でタクシーに乗り、台東区の谷中墓地へと向かった。

 1つ目のキーワード「墓」が示していた場所は、手塚治虫先生のマンガ『ミッドナイト』ACT.10で自殺志願の老女が向かった「谷中墓地」だったのだ!

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 その後、1つ目のキーワードの謎を解いたぼくはタクシーで再び早稲田の新目白通りへと戻ってきた。するとそこで運転手がぼくにこう告げたのだ。

「お客さん、次のさんぽは、もうこの場所から始まってますぜ......

 もうさんぽが始まっている!? それはいったいどういう意味なのだろうか!?

◎早稲田のコンビニ前で乗せた母子は......!!

 さんぽは始まっていると言われても、近くに見えるのは都営バスの「早稲田」停留所と、どこにでもあるコンビニチェーン店だけである。

 と、そこでぼくは『ミッドナイト』のあるエピソードを思い出した。『週刊少年チャンピオン』1987年7月17日号に掲載されたSCENE.2だ。この物語は早稲田のとあるコンビニエンスストアから始まっている。

 終電間近の深夜のコンビニ。そこで4~5歳くらいの幼い少年を連れた若い女性が箱入りのクッキーを買った。買い物を終えた女性はたまたまそこに居合わせたミッドナイトのタクシーに乗り中野駅へと向かった。

 じつはこの女性とその夫は、とある過激派グループの一員であり爆弾テロを計画していた。女性がコンビニで買ったクッキーは、その空き箱に時限爆弾を仕掛けるために、わざわざ自宅から離れたこの店で買ったものだったのだ。

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『ミッドナイト』SCENE.2より。深夜のコンビニで幼い少年を連れた女性が箱入りのクッキーを買っていく。じつはこの買い物にはある目的があったのだが......! 『ミッドナイト』にはサブタイトルがなく連載開始から56話目までは「ACT.XX」で始まる通番が付き、その後約1ヵ月間の休載の後に連載再開してからは新たに「SCENE.1」から始まる通番が付けられた。連載時のSCENE.2は、講談社版手塚治虫漫画全集では『ミッドナイト』第5巻の「ACT.4」に相当する。以下、マンガの画像は全て講談社版手塚治虫漫画全集『ミッドナイト』より

◎終電間際の中野駅でタクシーを降りると......!!

 物語の冒頭ではこのコンビニの場所は明記されていないが、物語が進むと早稲田バス停近くのコンビニであったことが明らかになる。『ミッドナイト』SCENE.2は確かにこの場所から始まっていた!

 ぼくの乗ったタクシーも、『ミッドナイト』の物語と同じように、中野駅を目指して滑るように走り出した。

 平日の午後、道は空いている。新目白通りを西へ向かい、途中で左折して南下、早稲田通りをまた西へと進む。間もなく見えてくる駒井の交差点を左折すると、そこがもう中野駅の北口だ。所要時間は平日の昼間でおよそ20分。女性と息子が乗ったミッドナイトのタクシーも、恐らくこれと同じようなルートをたどったに違いない。

 物語では、ここ中野駅前でタクシーを降りた女性と息子は、ここから「荻窪行き地下鉄の最終」に乗って自宅へと向かった。

 女性の自宅はここからさらに西へ向かった杉並区の清水三丁目にあるのだが......ミッドナイトは何の情報も聞いていないのに、なぜかその住所をズバリと言い当てた。なぜだ!?

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コンビニを出た母子はミッドナイトのタクシーに乗り、中野駅まで行くように告げた

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早稲田バス停近くのコンビニ(実際のお店はマンガとは一切関係がありません)

◎清水三丁目で待っているものは......!?

 中野駅前でぼくもいったんタクシーを降り、駅前風景の写真を撮って再びタクシーに戻った。ぼくが後部座席に乗り込むと、運転手は心得たように無言で車を発進させた。

 皆さんももうお分かりだろう。次に向かう先は清水三丁目、すなわち女性の自宅がある場所である。

 杉並区の清水三丁目は荻窪の北側、先ほど通った早稲田通り沿いにある町で、中野駅からの距離はわずか5kmほどだ。タクシーで早稲田から中野駅まで来たのなら、わざわざそこで電車に乗り換えるよりも、そのままタクシーで自宅方面へ向かった方が手っ取り早い。なのに女性がわざわざ中野駅でタクシーを降りたのは、運転手に自宅を知られたくなかったからだろう。

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何気ない母子の会話だが、ミッドナイトは母親の態度に不審なものを感じていた

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中野駅北口へ到着。駅とタクシーをひとつの画面に収めたかったのだが車の往来が激しくてなかなかいいアングルが取れなかった

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駅前でタクシーを降りた母子。ミッドナイトは2人が向かう所番地をズバリと言い当てた!

◎爆弾魔の恐るべき犯行予告!!

 中野駅からおよそ20分ほどでタクシーは清水三丁目に到着した。あたりを見回すと東京のどこにでもあるごく普通の住宅街だ。物語では、爆弾魔の夫婦とその息子は、この町のどこかにある集合住宅に住んでいるという設定だ。

 夫は、妻が早稲田のコンビニで買ってきたクッキーの箱に時限爆弾を仕込み、翌日の正午キッカリにタイマーをセットした。そして翌朝、街角の公衆電話ボックスから警視庁に爆破予告の電話をかけたのだ。

 タクシーを手前の駅で降りる慎重さを見せていたのに、自宅近所の電話ボックスから脅迫電話をかけるという雑さはどうなのよ、と思わずにはいられないが、このマンガが発表された1987年ごろは、街角の防犯カメラなど影も形もなかった時代である。あのころそんなことを気にした読者はほとんどいなかっただろう。実際物語の中でも、夫が電話をかけた場所はすぐに特定されているが、それだけで警察が夫婦の近くに迫っているという描写はない。

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中野駅北口の風景。左のグレーの建物は1973年に開業した多目的ホール「中野サンプラザ」だ。中野サンプラザは老朽化のため2024年に解体されることが決まっている

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タクシーは中野駅を後にして早稲田通りを西へ走り、清水三丁目へと向かう

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清水三丁目の交差点は、環八通りと早稲田通りが交差する車の往来の激しい場所だが、脇道へ一歩入ると静かな住宅街が広がっている

◎清水三丁目の公衆電話ボックスを探せ!!

 それよりも問題は公衆電話ボックスである。21世紀が始まってすでに20年が過ぎようとしている現代、携帯電話の普及によって公衆電話ボックスはどんどん少なくなっている。果たして現代の清水三丁目にも公衆電話ボックスはあるのだろうか!?

 そこでNTT東日本のホームページ内にある「公衆電話 設置場所検索」で検索したところ、何と清水三丁目に電話ボックスがあったのだ。しかも現地を訪れてみると、公園の角にひっそりと立っている電話ボックスは、脅迫電話をかけるのにピッタリの(?)じつに雰囲気のある公衆電話ボックスなのだった!! 爆弾魔の夫はきっとここから電話をかけたに違いない!!

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その片隅でひっそりと暮らす親子。だがこの夫婦はじつは過激派組織のメンバーで爆弾魔だったのだ!


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清水三丁目の公衆電話ボックス。爆弾魔の男が警視庁へ脅迫電話をかけたのはここからだったのだろうか!?(実際のこの場所とマンガとは一切関係ありません)

◎爆弾を抱えた少年が街を行く!!

 だが、その後の展開は夫の計画通りには進まず、物語は意外な方向へと転がっていく。何と爆弾魔の夫婦の息子が、時限爆弾をしかけたクッキーの箱を持って家を出てしまったのだ。

 息子はクッキーが気に入り、自分の小遣いで同じものを買うために、(時限爆弾の入った)箱を持って街をうろついていたのだ。

 余談だが、古い映画がお好きな方ならば、ここまでの物語を読んで、あるサスペンス映画を思い出した方もおられるだろう。それはアルフレッド・ヒッチコック監督が1936年に発表した『サボタージュ』である。

 とある組織の男がロンドンの地下鉄爆破計画を企てる。ところが男が爆弾を持って家を出ようとしたところ、お使いを頼まれた甥っ子の少年が、間違えて爆弾の入った箱を持ち出してしまった。爆発時刻が刻々と迫る中、少年は、そうとは知らずに爆弾を抱えて街を歩く......

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爆弾魔の息子が、時限爆弾の入ったクッキーの箱を持って街へ出てしまった。爆発時刻が刻々と迫る中、何も知らない少年は、クッキーを買った早稲田へと向かっていたのだ

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ヒッチコック監督の映画『サボタージュ』DVD2006年、ファーストトレーディング刊)

◎少年はバスに乗って早稲田へと向かった!!

 手塚先生も恐らくこの映画を見ていたのだろう。『ミッドナイト』でも、爆弾魔の息子が爆弾の入った箱を大事そうに抱えて街をうろつく姿が、ヒッチコックばりの緊張感で展開していくのである。

 そしてどうしてもクッキーを売っている店が見つからない息子は、最終的に早稲田を目指し、母親とたどった道を逆ルートでたどることにした。まずは電車で中野駅まで行き、そこからバスに乗って早稲田へ。やがてバスの車窓から、母親がクッキーを買ったあのコンビニが見えた!

 しかし時限爆弾の爆発時間である正午まではあとわずかしかない。そこへ現われたのは、テレビのニュースで爆破予告のことを知って駆けつけたミッドナイトだった。

 ミッドナイトはテレビのニュースを見た瞬間に、この爆破予告があの母子と関係があるに違いないと直感していたのだ。

 だがもう時間がない。果たして子どもは助かるのだろうか!?

 その先はぜひマンガで読んでみてください。

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爆弾の入ったクッキーの箱を抱えた少年は、早稲田バス停でバスを降りて目の前のコンビニへと向かった......!!

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テレビのニュースで事件を知ったミッドナイトはコンビニ前で少年の到着を待っていた!

◎2つ目のキーワードが解明された!!

 ということで清水三丁目から早稲田まで、タクシーで戻ってきたところで今回のさんぽもゴールとなった。2つ目のキーワード「爆」はこの物語に描かれていた爆弾事件の「爆」だったのである。

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 だが、招待状にはまだ謎が残されている。3つ目のキーワード「申」と、左下に描かれたピストルのシルエットだ。

 するとタクシーの運転手がこう言った。

「お客さん、次のさんぽの場所へ向かいますか?」

 もちろんだ、ぼくには行かないという選択肢はない。そう答えると、運転手は薄笑いを浮かべながらこう言葉を続けた。

「いいんですね、本当に。次のさんぽはかなり危険な事件の匂いがしますぜ......フフフ......

 危険な事件の匂い!? どういうことなのか......言い知れぬ不安がふくらむ中、ミッドナイト東京タクシーさんぽは後編へと続きます! ぜひまた次回のさんぽでご一緒いたしましょう。ただし......そこで何が起きたとしても、すべてはあなたの自己責任ということで......!!

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今回の虫さんぽ+にご協力いただいた「新東タクシー」。時間貸し料金は初乗り運賃が1時間4,700円で以後30分ごとに2,150円が加算されます。時間貸し中もメーターを回して走行し、精算時に時間貸し料金とメーター表示料金のいずれか高い方の金額でのお支払いとなります(走行距離が長くなった場合にメーター表示料金の方が高くなります)。問い合せ:03-3880-1161

取材協力/新東タクシー株式会社、黒沢幸司

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■バックナンバー

 虫さんぽ+(プラス)

・大阪編 第1話:大阪・十三で旧制中学の同級生を訪ねる!!

・大阪編 第2話:大阪・中津の軍需工場跡地で、辛かった戦争時代の想い出を歩く!

・大阪編 第3話:大阪・十三で戦争の悲惨さを残す文化遺産を訪ねる!

・奈良編 第1話:火の鳥に誘われて巨大大仏を見る!!

・奈良編 第2話:写楽くんの足跡をたどりつつ古代史ミステリーを探る!!

・奈良編 第3話:その時が来なければたどり着けない!? 伝説の神社!!

・洞窟探検編 第1話:盗まれた名画の行方を追ってアトムが向かった場所は!?

・洞窟探検編 第2話:荒涼とした大地で手塚治虫が見たものは!?

・洞窟探検編 第3話:手塚治虫、大洞窟の中を命がけの逃亡!!

・北海道・道南-道東横断編 第1話:標高550メートルの山頂でヒグマに囲まれる!?

・北海道・道南-道東横断編 第2話:北海道東端の駅で子グマとSLの物語に思いを馳せる!!

・北海道・道南-道東横断編 第3話:財宝が隠されている神秘の湖はココだった!!

・ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第1話:早稲田で乗せた老女は幽霊だったのか!?


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