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虫さんぽ+(プラス)東京・東久留米編 第1話:初夏の舗道で冷たく光るクールなアイツを発見!!

2021/07/09

東京・東久留米編 第1話:初夏の舗道で冷たく光るクールなアイツを発見!!

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

 謎の招待状に導かれ、今回向かったのは東京の北西、東久留米市だ。手塚治虫先生が晩年を過ごしたこの町を歩くと、そこには意外な出会いと発見の連続が......!! 熱中症に気をつけてさっそく出発だ!!


◎謎の招待状、我が家に届く!!

 その招待状がぼくの手元に届いたのは間もなく暑い夏が始まろうとしている初夏のころだった。仕事を終えて帰宅するとポストの中に1枚の紙きれが入っていたのだ。またしてもいつもの"誰か"がぼくを虫さんぽ+(プラス)の旅に招いてくれたようである。

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 キーワードは"像"、"蓋"、"宝"の3つだ。いつもながらキーワードが3つとも謎なのは置いておいて、今回の招待状にはこれまでの招待状と違うところがある。"虫"というサインの横に"STUDIO(スタジオ)"の文字が添えられていることだ。さらにその左下には小さな星と矢印がある。これは何を意味しているのだろうか......

 それから数日間は何の手がかりも得られなかったが、ある日、別の仕事で外出しようとしてスマホアプリの地図を見ていたときのことだ。ぼくはあることに気がついた。そうか、招待状の意味が分かったぞ!

 次の週末、ぼくはある確信を持って池袋から西武池袋線に飛び乗り西を目指した。

 そして降り立ったのは東久留米駅である。

◎招待状の示す目的地とは!?

 今回の招待状が示す場所がここ東久留米駅周辺だと推理したのは、招待状の右下に書かれたSTUDIOの文字と星印が今回の目的地を示す地図だと考えたからだ。招待状の送り主はこの星の場所へ行けと言っているに違いない。

 その場所を特定するヒントは虫のサインに添えられたSTUDIOの文字だ。これは手塚プロの新座スタジオに違いない。と、ここまでくればあとは簡単だ。そこから南西に向かった位置にある町を地図で見ると、そこがまさしくここ東久留米市だったのである。

 東久留米市は手塚治虫先生が1980年5月にこの町に新居を建てて引っ越しをされてからおよそ8年間、家族との貴重な時間を過ごされた思い出の町だ。招待状が示していたのはこの町に間違いないだろう。だがこの町でどこを訪ねたらいいのか、相変わらず3つのキーワードの意味は分からない。

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◎今回の旅の最初の目的が判明!!

 西口の駅前ロータリーへ出てあたりを見回すと、遠くの舗道の一角に、花壇に囲まれた銅像のようなものが見えた。何の銅像だろう。少し気になったが今はそれどころではない。早くキーワードの手がかりを探さなければ。

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 西口に手がかりはなさそうなので、ぼくは駅のコンコースを通って東口へ出た。そのまま大通りを東へ向かって歩き出す。

 だが......15分ほど歩いても手がかりは見つからず、いい加減疲れて立ち止まったのは、東久留米市東部地域センターという建物の前だった。

 そこでふと足元を見ると......何とそこにブラック・ジャックとドクター・キリコの絵柄が描かれたマンホールの蓋が輝いていた!!

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 そういえば2021年3月、ここ東久留米市に市制施行50周年記念事業としてブラック・ジャックのマンホール蓋が設置されたというニュースを見たことがあった。招待状はぼくをこのマンホール蓋へ案内したかったのだ!!

◎マンホール蓋を探して東へ西へ!

 スマホで検索してみるとブラック・ジャックのマンホール蓋は東久留米市内5ヶ所に設置されているという。さっそく残る4ヶ所も巡ってみることにしよう。

 いったん駅まで引き返し再び西口へ出て大通りを西へ向かって歩く。通りの看板を見ると、この道には「まろにえ富士見通り」という名前が付いているようだ。

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 そういえばかつて手塚先生の長男でヴィジュアリストの手塚眞氏からこんな話を聞いたことがあったのを思い出した。

手塚「東久留米駅を出ると、まっすぐ西へのびている道路があって、その道の先に富士山が見えるんです。それが見事なくらい道路のちょうど真正面なんです」

 通りの先を見ると、おお! 確かに眞氏の言っていたように道路の真正面に富士山が見える!! しかもその姿は想像していたよりもはるかに大きい。いただきに雪をかぶった富士山の威容は遠目にも雄大で荘厳な感じがする。

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 ぼくは何だか得をしたような気分になって、足取りも軽く、間もなく2ヶ所目のマンホールの蓋の場所に到着した。そこは東久留米市役所前の舗道である。青バックに黒いダイヤが散りばめられた背景の前でブラック・ジャックが半身になりこちらを向いている、ブラック・ジャック王道の決めポーズだ。

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◎マンホール蓋前で出会った男性の「ある忠告」とは!?

 さあ調子が出てきた。3ヶ所目もここからすぐの場所らしいのでどんどん歩こう。まろにえ富士見通りをさらに西へ向かって歩くこと約10分、コンビニ「セブン-イレブン」のある交差点脇の舗道が目指すその場所だ。

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 と、そこに先客(?)がいた。スーツ姿の会社員風の男性が、マンホール蓋の上のホコリをハンカチで払いのけ、カメラで写真を撮っていたのだ。

 声をかけるとその方は市内に住むアニメファンで、ぼくとは逆に駅からもっとも遠い西側のマンホール蓋から順番に巡ってきたという。

 男性はぼくにこう尋ねた。

「じゃああなたはこれから西へ行くんですね、徒歩ですか?」

「そうです」

 ぼくが答えると、男性はぼくの顔を正面から見てこう言った。

「歩きだとかなり遠いですよ」

「あ、そうなんですね」

 ぼくは深く考えずに軽く答えた。遠いとは言ってもせいぜい2~3kmのはずだから大したことはない、そう思っていたのだ。

 男性は次のマンホール蓋を撮影するために市役所の方へ歩き去った。一方ぼくはデジカメでマンホール蓋の撮影を始めた。

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 ここのマンホール蓋はピノコと子猫の絵柄だ。ピンク色のバックにハートを散りばめたデザインが愛らしい。ぼくはさまざまな角度から、先ほどの2つよりも多めに写真を撮った。

◎熱中症になりかけた4ヶ所目のマンホール蓋!!

 では4ヶ所目のマンホール蓋を目指そう。スマホの地図を見ながらさらに西を目指す。ところが、歩けど歩けど目的地へ近づかない。

 今日は暑くなりそうだったので朝早くからさんぽを始めたのだが、太陽が高くなり日差しがどんどん強くなってきている。辛い......辛すぎる......。あの男性の忠告はまったく正しかったのだ。

 炎天下の中をできるだけ日陰を探しながらオロオロと歩くことおよそ30分、もうだめだ......と絶望しかけたところでようやく4ヶ所目のマンホール蓋にたどり着いた。

 ここのマンホール蓋は、『鬼滅の刃』の影響で街でよく見かけるようになった緑と黒の市松模様をバックに右向きのブラック・ジャックが描かれている。

 ブラック・ジャックは顔の左半分がほとんど髪の毛で隠れているので右向きの顔がこうしたデザインに使われるのは珍しい。

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◎ついに5ヶ所のマンホール蓋を全制覇!!

 自販機でスポーツドリンクを買って飲み、やや元気を取り戻したぼくは5ヶ所目のマンホール蓋を目指してまた歩き出す。次の場所はここから500mほどのところなのでわずか数分で到着した。

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 ここのマンホール蓋の絵はブラック・ジャックとピノコのツーショットだ。2人のいる場所は恐らくB・Jの診療所のウッドデッキだろう。このように背景が描かれているのはこの蓋だけだ。さらにこの蓋にはほかの4つの蓋と異なる部分がもうひとつある。それは他の4つの蓋はマンホールそのものに絵が描かれているのに対して、ここのマンホール蓋だけは樹脂のような素材に印刷された絵が蓋の表面に金属の枠で貼り付けられているのだ。なぜここだけ作り方が異なるのかは不明だが、この特に複雑な絵は、この方法だからこそ可能だったことは間違いない。

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◎さんぽの前に教えてほしかった事実とは!?

 それから5ヶ所を徒歩で巡り終えてから気づいたことがひとつあった。それはどのマンホール蓋もバス停留所のすぐ近くにあるということだ。

 そして何と、後から調べてみたところ東久留米駅からすべてのマンホール蓋へバスで行けることがわかった。なのでルートの途中でうまくバスを利用することで、今回のように苦労することなくすべてのマンホール蓋を回ることができたのだ。ああ、もっと早く気づいていれば......!!

 参考までにそれぞれのマンホール蓋の最寄りバス停を書いておこう。

(1)神山大橋(下り)(西武バス)

 (2)東久留米市役所(下り)(西武バス)

 (3)中央図書館(下り)(西武バス)

 (4)滝山団地入口(下り)(西武バス)

 (5)団地センター(下り)(西武バス)

 ※詳しくは以下の東久留米市のWEBサイトを参照のこと。

 https://www.city.higashikurume.lg.jp/1016787/1017036.html

 こうして招待状の1つ目のキーワードの謎が解けた。"蓋"という文字は、このブラック・ジャックマンホール蓋のことだったのである。

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◎第2のキーワードを求めて旅は続く!!

 さて、こうして謎が1つ解けても、ぼくには次の謎を解かなければならない使命がある。次の目的地はいったいどこなのか......。

 途方に暮れてその場に立ち尽くしていると、足元から幼い子どもの声が聞こえた。

「駅へいくのよさ!」

 驚いて足元を見ても、そこにはブラック・ジャックとピノコの絵柄が描かれたマンホール蓋があるだけだ。もしかして今の声はピノコ......!?

 そこでぼくは招待状の残った2つのキーワードについてあらためて考えてみた。残るは"像"と"宝"の2つである。

 ......そうか! ぼくはあることに気づき、バスに乗って東久留米駅へ戻ることにした。

ぼくの推理が正しければ、そこに2つ目のキーワードの"それ"があるはずだ!!

協力/東久留米市

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黒沢哲哉

1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。

手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


sanpo_tsunogai.jpgつのがい
静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。
絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。
web:https://www.tsunogai.net/
twitter:http://twitter.com/sunxoxome/


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