虫ん坊

虫さんぽ+(プラス)東京・椎名町、下落合、早稲田編 第2話:ブラック・ジャックが終電車で出会った客は...!?

2021/04/05

東京・椎名町、下落合、早稲田編 第2話:ブラック・ジャックが終電車で出会った客は...!?

写真と文/黒沢哲哉 地図と絵/つのがい

前回、去年7月にオープンした「トキワ荘マンガミュージアム」をじっくり見学した虫さんぽ隊。マンガ家の先生方が暮らしていたころそのままと見まごうような展示に感動したのもつかの間、待ち受けていた謎の男性の正体は――?

(※今回の虫さんぽ+は緊急事態宣言前に訪ねたものです)


案内人と一緒にトキワ荘通りを歩く!

 我々手塚ファンを手塚治虫と手塚マンガゆかりの地へと誘う謎の招待状──。今回の招待状の1つ目のキーワード""が示していたものは、2020年7月に開館したトキワ荘マンガミュージアムだった。

sanpo10_tokiwaso-waseda01-shotai02.jpg

 そのトキワ荘マンガミュージアムの見学を終え、案内人の「としま未来文化財団」北山奏子さんと一緒に建物を出てきたところに現れた謎の男性──。次の虫さんぽ+(プラス)の案内人、小出幹雄さんだった!

 小出さんは地元商店街の会長として働くかたわら「トキワ荘協働プロジェクト協議会」の広報担当としてトキワ荘関連の研究、資料収集、宣伝広報など幅広く活動されている方なのだ。ぼくも2009年に旧「虫さんぽ」で初めてこの町を訪ねて以来、毎回お世話になっている。

 ここで案内人が北山さんから小出さんにバトンタッチして次のさんぽが始まった。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-01.jpg

トキワ荘マンガミュージアムの見学を終えて案内人の北山さんと一緒に建物を出てきたところで謎の男性が登場! この人はいったい......!?

sanpo10_tokiwaso-waseda02-03.jpg

謎の男性の正体は、過去の虫さんぽでも何度もお世話になっている案内人の小出幹雄さんだった! 今回もよろしくお願いします!!

トキワ荘関連書籍6000冊が読み放題!!

 小出さんに連れられて最初に向かったのは、南長崎通り(通称:トキワ荘通り)沿いにある「トキワ荘通りお休み処」と「トキワ荘マンガステーション」である。

 トキワ荘通りお休み処は2013年のオープン当初に旧「虫さんぽ」で訪ねているが、2020年7月、その3軒隣に新しく「トキワ荘マンガステーション」がオープンした。

 トキワ荘マンガステーションはトキワ荘関連の本がおよそ6000冊も集められていて、それらの本をすべて手に取って読むことができる施設なのだ。入館料が無料というのもありがたい。

 トキワ荘関連の本は以前からトキワ荘通りお休み処にも並べられていたが、トキワ荘マンガステーションはそれを何十倍にも拡大した本気の施設なのである。

 棚を見ると手塚治虫の本もいっぱい並んでいる。講談社の手塚治虫漫画全集と文庫全集がほぼ全巻揃っているほか、貴重な復刻本などもあったので、同じ作品をさまざまなバージョンで読みくらべることも可能だ。(※本は時期により入れ替わる可能性あり)

sanpo10_tokiwaso-waseda02-04.jpg

小出さんの案内でトキワ荘通りお休み処へやってきた!

sanpo10_tokiwaso-waseda02-05.jpg

豊島区トキワ荘通りお休み処。営業時間:午前10時〜午後6時 (最終入館 午後530分)、定休日:毎週月曜日定休(月曜祝日の場合は、翌日火曜休館)、問い合わせ:03-6674-2518

sanpo10_tokiwaso-waseda02-06.jpg

お休み処の新商品「スポーツマン金太郎キャンディ」が発売中。トキワ荘マンガミュージアムでの寺田ヒロオ展開催を記念して作られたものだそうである。キャラクターカードのおまけが付いて1袋485円(税込み)。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-07.jpg

お休み処の人気商品、トキワ荘スリッパ赤、青各色1,000円(税込み)。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-08.jpg

お休み処2階の寺田ヒロオの部屋再現コーナーは、現在、トキワ荘マンガミュージアムに貸出中でした

sanpo10_tokiwaso-waseda02-09.jpg

トキワ荘マンガステーション。開館時間:午前10時から午後6時(最終入館 午後5時30分)、休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は、翌日火曜日)年末年始、入館料:無料、注意:新型コロナウィルス感染症対策のため、現在は50分入れ替え制となっています

sanpo10_tokiwaso-waseda02-10.jpg

トキワ荘関連の蔵書が壁面の棚にぎっしり。コレクターでもこれだけ集めている人はそうそういないでしょう

sanpo10_tokiwaso-waseda02-11.jpg

こちらは手塚治虫本のコーナー。復刻本までこれだけ揃えるとはマニアック過ぎる!
(本は時期によって入れ替わる可能性あり)

トキワ荘マンガミュージアムに隣接したショップ&カフェ!

 その後も小出さんの案内でトキワ荘通り界隈の見所を巡り、最後に立ち寄ったのが、トキワ荘マンガミュージアムのある南長崎花咲公園のすぐ横にある「ふるいち トキワ荘通り店」というカフェ&ショップだ。

「ふるいち トキワ荘通り店」の店内は1歩入ると、狭い店内がトキワ荘関連のグッズと本でぎっしりと埋め尽くされていた。トキワ荘グッズの中には小出さんが企画したこの店オリジナルのものもあるのでぜひチェックしていただきたい。本は新刊本のほかに古書も扱っているので、行ったタイミングによっては掘り出し物に巡り会えるかも。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-12.jpg

小出さんにトキワ荘通り周辺のレトロスポットを案内していただいた。通り沿いにはこうした昔ながらの商店が、数は減ったというが今でも営業中だ

sanpo10_tokiwaso-waseda02-13.jpg

トキワ荘通り沿いの南長崎4丁目に建つ旧家「岩崎家住宅」。この道は江戸川橋(現在の文京区)と清戸(現在の神奈川県綾瀬市)を結ぶ街道「清戸道(きよとみち)」の一部であり、早くから賑わった場所だった

sanpo10_tokiwaso-waseda02-14.jpg

路地を入ったところにはこんな立派な蔵も建っていたりする

sanpo10_tokiwaso-waseda02-15.jpg

sanpo10_tokiwaso-waseda02-16.jpg

西武池袋線椎名町駅のコンコースにはミニギャラリーやトキワ荘ゆかりの作家の大きなパネルも展示されている
(c)フジオ・プロ (c)石森プロ  (c)藤子スタジオ

sanpo10_tokiwaso-waseda02-17a.jpg

ふるいちトキワ荘通り店。営業時間:平日 11:00 - 18:00、土・日・祝 10:00 - 18:00、定休日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌平日)、問い合わせ:03-3951-4560

sanpo10_tokiwaso-waseda02-17b.jpg

ふるいちトキワ荘通り店のミュージアム側(公園側)入り口。道路側と公園側、どちらからでも入れます

sanpo10_tokiwaso-waseda02-18.jpg

ふるいちトキワ荘通り店の店舗責任者、下崎大輝さんに、このお店の手塚グッズの売れ筋商品をうかがった。ブラック・ジャックのトイレットペーパーやマグカップなどが人気だそうである

sanpo10_tokiwaso-waseda02-19.jpg

sanpo10_tokiwaso-waseda02-20.jpg

ふるいちトキワ荘通り店の手塚グッズコーナー。巣ごもり需要で最近人気が高まっているのがジグゾーパズルだそうだ。確かにお家でゆっくりした時間を過ごすには最適かも!

sanpo10_tokiwaso-waseda02-21.jpg

このお店でしか買えない限定グッズもいろいろある。ぼくもおみやげにいろいろ購入させていただきました!

sanpo10_tokiwaso-waseda02-22.jpg

こちらもふるいちトキワ荘通り店限定のTシャツ。左のトキワ荘Tシャツが3,500円+税、右の松葉Tシャツが2,500円+税

2つ目のキーワードの謎は!?

 さて、こうしてトキワ荘通り周辺を一通り歩き終えたのだが、招待状のキーワードの謎がまだ解けていない。

 ぼくは「ふるいち トキワ荘通り店」のカフェコーナー「エデン」の人気メニュー「しょうが入りカルピスお湯割り」を飲みながら今回の招待状をジッと見ていた。

 するとその招待状を見た小出さんがこんなことをつぶやいた。

""の字が下の方へずれて書かれていますね。それからこのスペードのQというのはトランプでしょうか......ブラック・クイーン......?」

 そうか! この言葉ですべての謎が解けた。

「小出さんありがとうございます! 今回もいろいろとお世話になりました!!

 ぼくは小出さんにお礼をのべると、ひとりで南東の方向へ歩き出した。目的地はここから直線距離で1.5kmほどの距離にある西武新宿線の下落合駅である。

 ぼくの推理が正しければ、そこが2つ目のキーワードの場所に違いないはずだ。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-23.jpg

小出さんと、ふるいちトキワ荘通り店のカフェコーナー「エデン」でちょっと休憩。飲んだのは冬にホッとひと息できる、しょうが入りカルピスお湯割り330円(税込み)

sanpo10_tokiwaso-waseda02-24.jpg

そしてこちらもエデンの名物ドリンク、サイダーに桜の花と香りを加えた桜舞うサイダー(350円+税)

sanpo10_tokiwaso-waseda02-25.jpg

小出さんと別れ、ひとり徒歩で下落合駅を目指す。その途中の道にもトキワ荘関連スポットの跡地を示す看板が

ブラック・ジャックが終電車で出会った人は......!!

 およそ20分ほど歩いて下落合駅へ到着した。手塚治虫の代表作『ブラック・ジャック』のあるエピソードにここ下落合駅が出てくる物語があるのだ。それは『週刊少年チャンピオン』1978年1月16日号に掲載された第198話「終電車」である。

 ある夜、西武新宿駅発の上石神井行き最終電車に乗ったブラック・ジャック。彼はそのガランとした車内で、偶然懐かしい女性と再会する。女性の名は鈴木このみ(旧姓:桑田)。彼女は外科医であり、冷酷なメスさばきから「ブラック・クイーン」とあだ名されていた。

 ブラック・ジャックはかつて彼女の恋人が事故で重傷を負ったとき、その恋人を手術で救ったことがあった。その後彼女はその恋人と結婚したというのだが、現在の様子を見ると、心から幸福を感じているようには見えなかった。

 それが気になったブラック・ジャックは彼女とともに下落合駅で途中下車し、一緒に彼女の勤務する病院へと向かうのだ。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-26.jpg

sanpo10_tokiwaso-waseda02-27a.jpg

sanpo10_tokiwaso-waseda02-27b.jpg

sanpo10_tokiwaso-waseda02-27c.jpg

sanpo10_tokiwaso-waseda02-27d.jpg

西武新宿線下落合駅が物語の舞台として描かれた『ブラック・ジャック』第198話「終電車」。ブラック・ジャックが電車の中で偶然再会した外科医の女性。しかし彼女は悩みを抱えているようで、あまり幸福そうではなかった。画像は講談社版手塚治虫漫画全集より

2つ目のキーワードの答えが判明!!

 東京近郊の駅は、改装や建て替えで昔の面影がなくなってしまったところが多いが、ここ下落合駅はホームも駅前の様子も『ブラック・ジャック』に描かれたころとほとんど変わっていない。

 下落合駅周辺には昭和の面影を感じさせる住宅街や商店街が広がっていて、駅の北側には大きな病院もある。手塚先生はこうした立地からここを作品の舞台として選んだのだろう。

sanpo10_tokiwaso-waseda01-shotai03.jpg

 ということで2つ目のキーワード、やや下にずれて描かれた""が示していた場所は、ここ下落合駅だったのである。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-28.jpg

徒歩20分程で下落合駅に到着。右手前に電話ボックスがあればマンガの構図通りだったのだが、もしかして昔は電話ボックスがあったのだろうか

sanpo10_tokiwaso-waseda02-29.jpg

新旧の電車が行き交う。この光景を見ているうちに、次の目的地がひらめいた!

sanpo10_tokiwaso-waseda02-30.jpg

西武新宿線に乗り、次に向かう先は果たして......!?

さらに3つ目のキーワードの手がかりも!!

 こうして招待状のキーワードは残りあと1つとなった。この""が示すものはいったい何なのか......。ぼくは駅前に立って行き交う電車を眺めながら、しばらくそのことを考えていた。するとぼくの頭にふとあるイメージが浮かんだ。

......そうだ......もしかしたら""というのはあの""かも知れない......!!

 ぼくは自分のひらめきを信じ、急いで下落合駅の改札を通り上り線ホームへと向かった。線路をはさんで反対側に、かつてブラック・ジャックと鈴木このみが降りた下り線のホームがある。終電車が走り去った後のホームを2人が歩く風景を頭に思い描いていると、間もなく西武新宿行きの電車がやってきた。

 果たしてこれから向かう場所が3つ目のキーワード""が示す場所なのか。それとも......。そんなぼくの思いを乗せて、電車はゆっくりと走り出した。

sanpo10_tokiwaso-waseda02-31.jpg

最後に今回の戦利品をご紹介。トキワ荘通りお休み処で買った「スポーツマン金太郎キャンディ」2袋

sanpo10_tokiwaso-waseda02-32.jpg

こちらはふるいちトキワ荘通り店の同店限定グッズ。左から時計回りに、鶴の湯の手ぬぐい(880円)、トキワ荘キーホルダー(440円)、電話ボックスキーホルダー(495円)、トキワ荘看板キーホルダー(440円)、そして中央が喫茶エデンのマッチ(100円)各税込み

協力/豊島区、公益財団法人としま未来文化財団、小出幹雄、ふるいちトキワ荘通り店

sanpo10_tokiwaso-waseda02-map.jpg


黒沢哲哉

1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。

手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番


sanpo_tsunogai.jpgつのがい
静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。
絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。
web:https://www.tsunogai.net/
twitter:http://twitter.com/sunxoxome/


■バックナンバー

 虫さんぽ+(プラス)

・大阪編 第1話:大阪・十三で旧制中学の同級生を訪ねる!!

・大阪編 第2話:大阪・中津の軍需工場跡地で、辛かった戦争時代の想い出を歩く!

・大阪編 第3話:大阪・十三で戦争の悲惨さを残す文化遺産を訪ねる!

・奈良編 第1話:火の鳥に誘われて巨大大仏を見る!!

・奈良編 第2話:写楽くんの足跡をたどりつつ古代史ミステリーを探る!!

・奈良編 第3話:その時が来なければたどり着けない!? 伝説の神社!!

・洞窟探検編 第1話:盗まれた名画の行方を追ってアトムが向かった場所は!?

・洞窟探検編 第2話:荒涼とした大地で手塚治虫が見たものは!?

・洞窟探検編 第3話:手塚治虫、大洞窟の中を命がけの逃亡!!

・北海道・道南-道東横断編 第1話:標高550メートルの山頂でヒグマに囲まれる!?

・北海道・道南-道東横断編 第2話:北海道東端の駅で子グマとSLの物語に思いを馳せる!!

・北海道・道南-道東横断編 第3話:財宝が隠されている神秘の湖はココだった!!

・ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第1話:早稲田で乗せた老女は幽霊だったのか!?

・ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第2話:杉並から早稲田へ、時限爆弾を追え!?

・ミッドナイト 東京タクシーさんぽ 第3話:ニセ警官はタクシーで庚申塚を目指す!!

・北海道・道東-道央-津軽海峡編 第1話:鉄格子の中から愛を込めて!?

・北海道・道東-道央-津軽海峡編 第2話:北見山地にエゾオオカミの生き様を見た!!

・北海道・道東-道央-津軽海峡編 第3話:海峡の歴史を物語る"あの船"を訪ねる!!

・マイ・ベストさんぽ【東京編】第1話:四ツ谷の下宿はどこにある!?

・マイ・ベストさんぽ【東京編】第2話:幻の地下ホテルを探せ!!

・マイ・ベストさんぽ【東京編】第3話:手塚先生の仕事場へタイムスリップ!!

・マイ・ベストさんぽ【大阪編】第1話:手塚マンガの原点となった町、松屋町を歩く!!

・マイ・ベストさんぽ【大阪編】第2話:手塚少年がアニメと出会った文化施設とは!?

・マイ・ベストさんぽ【大阪編】第3話:手塚少年の夢と空想を育てた幻の科学館!!

東京・御茶ノ水、神田編 第1話:神田明神でお茶の水博士とともに疫病退散を祈る!!

東京・御茶ノ水、神田編 第2話:明大通りの坂道でアトムマンホールに出会った!!

再録・虫さんぽ 第1回:豊島区南長崎 元トキワ荘周辺・その1

再録・虫さんぽ 第2回:豊島区南長崎 元トキワ荘周辺・その2

再録・虫さんぽ 第3回:高田馬場・その1

虫さんぽ+(プラス)東京・椎名町、下落合、早稲田編 第1話:失われたはずのあの建物が目の前に......!?

再録・虫さんぽ 第4回:高田馬場・その2

再録・虫さんぽ 第5回:江戸東京博物館『手塚治虫展』と両国・浅草界隈

再録・虫さんぽ 第6回:埼玉県飯能市・鉄腕アトム像周辺(前編)

再録・虫さんぽ 第7回:埼玉県飯能市・鉄腕アトム像周辺(後編)


CATEGORY・TAG虫ん坊カテゴリ・タグCATEGORY・TAG虫ん坊カテゴリ・タグ