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月刊マンガ少年 別冊「火の鳥」表紙

ストーリー

時空をこえて存在する超生命体・火の鳥を狂言回しに、過去と未来を交互に描きながら、テーマである「生と死」「輪廻転生」という哲学的な問題を深くえぐる、手塚治虫の代表作にしてライフワークとなった作品です。

そこには手塚治虫の歴史観から、遠い未来への予測的な視点のみならず、宇宙とは何か、といったスケールの大きな問への挑戦をも描かれています。

解説

「漫画少年」版 1954/07〜1955/05 「漫画少年」(学童社)
「少女クラブ」版 1956/05〜1957/12 「少女クラブ」(講談社)
黎明編〜休憩 1967/01〜1971/11 「COM」(虫プロ商事)
望郷編(COM版) 1971/12〜1972/01 「COM」、「COMコミックス」(虫プロ商事)
望郷編〜異形編 1976/09〜1981/04 「マンガ少年」(朝日ソノラマ)
太陽編 1986/01〜1988/02 「野性時代」(角川書店)


手塚治虫は本作が初めて単行本化された際、プロローグにこう書いています。

「「火の鳥」は、生と死の問題をテーマにしたドラマだ。古代から未来へ、えんえんと続く火の鳥----永遠の生命とのたたかいは、人類にとって宿命のようなものなのだ。」

「火の鳥」の歴史を辿ると、まずは学童社「漫画少年」に掲載された「火の鳥」黎明編(1954年7月〜55年5月)にそのルーツがあります。

火の鳥のイメージは1947年製作のソ連時代のアニメーション映画『せむしの仔馬』に登場する火の鳥がヒントになっています。ロシアの民話の火の鳥の羽根は災いを招くそうですが、手塚治虫の描く火の鳥は永遠の生命の象徴であり、その羽根もたとえば撫でるだけで傷が回復したり、病気が治ったりという超能力を持っています。

登場人物たちはこぞって永遠の生命「火の鳥」を捕まえようとし、飲めば不老不死になれるというその血をもとめます。

実は「漫画少年」版以来、本作は数奇な運命をたどっています。「漫画少年」では途中で休載となり、その後「少女クラブ」では少女向けに趣向を改めての連載となりました。

その後、改めて手塚治虫自ら創刊した「COM」(虫プロ商事)に描かれた一連の作品こそ、私たちが今日、『火の鳥』として認識している作品ということになるわけですが、「COM」もまた長くは続かず、「COMコミックス」と改題して「望郷編」が途中まで描かれたところで一度休刊となってしまいます。その「COMコミックス」も路線転換や復刊と迷走した末、虫プロ商事は1973年8月22日に倒産、「COM」も廃刊となります。

その後「火の鳥」の連載は朝日ソノラマの「月刊マンガ少年」、さらには角川書店(現KADOKAWA)の「野性時代」と掲載誌を改めながら描き継がれていきました。1974年1月の『赤旗』の企画記事「手塚漫画の主人公たち」で語られらたところによれば、21世紀部分のエピソードとして「鉄腕アトム」の物語が組み込まれる構想もあったようで、その痕跡は「太陽編」の初出バージョンにお茶の水博士がちらりと登場する形で残っています。

自らの「代表作」をも取り込みつつ、未来と過去を描きながら徐々に「現代」に迫ってくる、という壮大な構想は本当の完成を見ないまま、手塚治虫はこの世を去ってしまいます。

まさに作家としての全霊を傾けられた「ライフワーク」となったのです。

なお、作家の死とともに潰えた「太陽編」につづく物語のヒントが、『手塚ファンマガジン vol.78』(1988年12月30日発行)に一部明かされています。それは「大地編」と名付けられ、日中戦争の時代を舞台とし、軍人を主人公に「上海から始まって、楼蘭に終わる、スケールの大きな戦争メロドラマ」として構想されていました。

「死とはいったいなんだろう?
そして生命とは?
この単純でしかも重大な問題は、人類が有史以来とりくんで、いまだに解決されていないのだ。」

「火の鳥」は永遠に語り終わられぬ物語となってしまったわけですが、それを予見していたかのようなこの言葉もまた、冒頭に挙げた「プロローグ」に書かれています。

手塚治虫が語る
「火の鳥」

第一部の黎明編のつぎは未来編となります。私は、新しいこころみとして、一本の長い物語をはじめからと終わりから描きはじめるという冒険をしてみたかったのです。そして、そのつぎの話は、またもや古代に移って黎明編のあとの時代の話となります。こうして交互に描いていきながら、最後には未来と過去の結ぶ点、つまり現在を描くことで終わるのです。それが、それまでの話の結論にむすびつき、それが終わると、黎明編から遠い未来までの長い長い一貫したドラマになるわけです。

したがって、そのひとつひとつの話は、てんでんばらばらでまったく関連がないようにみえますが、最後にひとつにつながってみたときに、はじめてすべての話が、じつは長い物語の一部にすぎなかったということがわかるしくみになっています。なぜなら、人間の歴史に、くぎりや断層などあるわけがないからです。そのつなぎの役をするのが、狂言まわしの火の鳥ということになっています。

おのおののエピソードは、どれも生命というものを、さまざまなみかたから描いて問題を定義するようにしました。それだけでなくドラマの描き方も、SFあり、戦争ものあり、推理ものあり、ギャグものありで、バラエティーにとませ、一本調子にならぬようにしています。
(後略)

(虫プロ商事刊 『火の鳥 黎明編』より抜粋)

収録作品

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  • 火の鳥 少女クラブ版
  • 火の鳥 (1)
  • 火の鳥 (2)
  • 火の鳥 (3)
  • 火の鳥 (4)
  • 火の鳥 (5)
  • 火の鳥 (6)
  • 火の鳥 (7)
  • 火の鳥 (8)
  • 火の鳥 (9)
  • 火の鳥 (10)
  • 火の鳥 (11)
  • 火の鳥 (12)
  • 火の鳥 (13)
  • 火の鳥 (14)
  • 火の鳥 (15)
  • 火の鳥 (16)

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