人間の生と死をテーマに描かれた、壮大な叙事詩『火の鳥』シリーズのプロローグです。
まだ日本という名前がどこにもなかったころ……火の山のふもとの村にナギという少年がいました。
ある日、村へ流れついたグズリという医者が、ナギの姉ヒナクと結婚します。
しかしグズリは、実はヤマタイ国の女王・ヒミコのスパイだったのです。
その夜、猿田彦を隊長とするヒミコの軍勢が村へおしよせ、村は全滅してしまいました。
猿田彦はナギを捕らえて奴隷にし、腕のたつ狩り部に仕立て上げます。
猿田彦はナギに、火の山にすむ火の鳥を射止めさせようと思っていたのです。
その生き血を飲むと、不老不死になれると信じられていた火の鳥。
人々は、その火の鳥の生き血をめぐって、みにくい争いをくりひろげるのでした。
1967/01-1967/11 「COM」(虫プロ商事) 連載
手塚治虫がもっとも情熱を傾け、最晩年まで描き続けた文字どおりのライフワークが、この『火の鳥』です。 最初に描かれた『火の鳥』は、1954年に雑誌「漫画少年」に連載された「黎明編」ですが、これは同誌の休刊とともに未完となりました。 その後、こんどは1956年、雑誌「少女クラブ」に、古代ヨーロッパを舞台とした「エジプト・ギリシヤ・ローマ編」を連載していますが、これも未完となっています。 そして、1967年にみたび新たに稿を起こし、長編『火の鳥』の実質的な序章となったのが、雑誌「COM」に創刊号から連載された、この「黎明編」でした。 独立した物語が、歴史の両端から交互に語られて、それぞれがつながりを持ち、だんだんと作者の死亡時刻に近づいて、作者が死亡した瞬間に完結するという構成でした。