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手塚治虫生誕90周年企画 スペシャルインタビュー第8回 上田啓太さん【後編】

2019/08/13

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いよいよ8回目となる手塚治虫90周年企画スペシャルインタビュー、今回のゲストは鋭い視点で日常からマンガ・音楽までを斬るブロガーの上田啓太さんです。

後半の今回は、漫画批評や手塚治虫作品についてのお話を伺いました。上田さんがどう手塚治虫を読むか? 気になります。


◆再々々々々々読!

――上田さんの文章を初めて読んだのは、「マンバ通信」の「マンガ再々々々々々読!」だったのですが、あの連載をすることになったきっかけを教えてください。

上田 連載が始まったのが、マンバ通信の開設と同時なんですよね。その前に自分のブログ「真顔日記」に書いた「スラムダンクの深津をほめるおじさんについて(http://diary.uedakeita.net/entry/2016/07/28/001904)」がネットで話題になって。それを担当の方が見て、「やりませんか?」って依頼をしてくれたみたいです。
 「深津をほめるおじさんについて」を書いた後、もっとこんなネタも書けるんじゃないかと思っていて。マンガについてはまだまだ書きたいことがたくさんあるな、と思っていろいろ準備をしておいたんです。そこにマンバ通信からお話がもらえたので、じゃあここでやろう、と。

――「ドラゴンボール」の登場人物に関する記事はとても面白いです。

上田 「ドラゴンボール」は一番書いていて興奮しますね。人生の中で25年ぐらいずっと、折に触れて読み返しているので......。僕の世代は小学校の時に『週刊少年ジャンプ』がピークを迎えて、「ドラゴンボール」や「スラムダンク」に囲まれて育っていますから。最初はアニメで知って見始めたんですが、その年頃だとシステムもよくわかっていないから、原作漫画っていうものがあることを後で知る、という感じで。「ドラゴンボール」は当時、カードダスもあったし、ゲームもあった。もう「ドラゴンボール」に包囲されている感じですよね。
 未だに三十代になってから読むとまた違う感想が出てくるみたいなものもあって、余計に楽しい。

――コラムのタイトルもそうですが、同じ漫画を何度も再読されるそうですね。一番読み返した本は何ですか?

上田 ......やっぱり、「ドラゴンボール」なのかな......。「ドラゴンボール」か、「スラムダンク」ですね。この二つの作品とは小学生のころからの付き合いなので。どちらも「このエピソードだけ」とか「この試合だけ」というふうな感じで読んでいます。

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――一回通読して、印象に残ったり、好きだったりするところを何回も読み返す、という感じでしょうか。

上田 そうですね。もともと、一度読んだだけではあまり分からないみたいなところがあるんだと思います。活字の本でも最近特にそうなんですけど、どんどん感覚が「重たい女」みたいになってきているんですよね。初めて読むときでも、「この作家とずっと付き合っていけるのか?」とか考えてしまって。
 漫画も読み慣れてくると、ここは定型の技術でやってるな、とか、ここはパターンまかせだな、というところが見えてくるじゃないですか。その部分は割と飽きやすくて。
 たとえば謎で引っ張っていく、というストーリーの技術がありますが、ネタが割れてしまったら面白くなくなっちゃうところは読み返しの対象にはならないです。
 もっとも、浦沢直樹の「20世紀少年」の場合は、前半の謎を引っ張るところも、何度も何度も読みかえしています。これは浦沢直樹の凄いところだと思うんですが、何度読んでも「え どうなるんだろ?」って思えるんですよ! 最後まで読んでいるから知ってるだろう、って。あれはやっぱり、それこそリズムや情報の出し方、テンポの作り方が絶妙なんでしょうね。「トモダチ」が誰かももう知っているし、それについてはあまり納得がいっていないけど、あの引っ張り方は凄い。ある意味、謎解きはメインじゃなくておまけなのかも。謎がメインになってしまう作品は弱いですよね。

◆荒野の七ひき

――1984年生まれというと、手塚治虫をリアルタイムの連載で読んでいた、という世代ではないですよね。

上田 存在は知っているわけですよ。初めて手塚を読んだのも、小さい頃でした。「ブラック・ジャック」をつまみ読みして、めちゃくちゃ怖かった記憶があります。

――どのシーンが怖かったか、覚えていますか?

上田 とにかく手術シーンですよね。最近改めて読んでみて思ったんですが、手塚治虫、ちょっと雰囲気が暗いですよね。今回改めて大人向けのとか読んでみて、やっぱりちょっと怖い感じがしました。

――不幸な結末、というのも躊躇なく出てきますよね。

上田 逆に今は珍しいかも知れないです。そこがよかった。

――「ブラック・ジャック」でも、奇病みたいなものが出てきたりとか。

上田 デフォルメされているのに妙に生々しいんですよね。絵の力なのかな。
 絵の話でしたら、最近読んだ「ライオンブックス」の「荒野の七ひき」っていう作品がすごくいいな、と思いました。あの作品の、宇宙人の造形がよかったです。なんか、一人一人のキャラクターが立っていて。昆虫ベースデザインの宇宙人が特によかったですね。
 一応最後、ハッピーエンドみたいになっているじゃないですか。でもこれ全然ハッピーエンドじゃないだろ! みたいな。
 宇宙人のなかに、体を食べさせていくやつが出てくるじゃないですか。人間はどんどん体を食べていって、しまいには断片みたいになってて。「死んだ」って言って一コマで終わらせて進んでいく、みたいなのがめちゃくちゃ怖いなって思いました。二人でてくる人間も、1人、より残酷な方が死んでいって、最後人間と宇宙人と、1人ずつが生き残るんですよね。「そのやさしさがほしかった わはははは...」とか言って、笑うのかよ! と。
 しかも数十ページの作品なんですよね。淡々と進んでいって。

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『荒野の七ひき』より

――手塚治虫ってどういう人だったと想像しますか?

上田 手塚治虫って、作品の膨大さがなによりもポイントじゃないですか。そして、死ぬまで仕事をしているという。いったい何がそうさせたのか、考えちゃいますね。
 社会的な作家か、社会から抜けちゃっている作家か、というふうに考えると、手塚はどっちなんだろう?
 あるタイプのギャグマンガ家は、――たとえばいがらしみきおとかは社会から抜けちゃってるな、と思うのですが、手塚は情念の人だったのではないかと。そういう人はストーリーマンガに行きますよね。根っこに強い情念や感情があるというか、感情と一体化している感じがあって。そうすると、世の中が物語に見えてくる。一方でシュールなギャグを描くマンガ家は、はなから人間を突き放している。

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『がちゃぼい一代記』より 「お人よしでオッチョコチョイでおめでたやだろう」と、占い師の口を借りて自分のことを書いています。手塚治虫は自身でも「お人よし」だと思っていたようです。

 ストーリーマンガを描いている作家でも、社会から抜けちゃっている感じがある作家はいて、たとえば古谷実とかはそっちですね。始めは「行け!稲中卓球部」でギャグを描いていたわけだからギャグマンガ家としてデビューして、ギャグからだんだん、哲学とか、ホラーにいっている。いがらしみきおもホラーをかいていますよね。
 ギャグを描いている作家は、現実の社会と適応するために描いているんじゃないか、と思います。根本的な視点のずれを笑いにしちゃう。変人として理解してもらうことでコミュニケーションを取っている。そういうのは手塚からはあまり感じないですね。
 ジモコロの「京都ひきこもり大演説」にも書きましたが、基本離人症のケがあるかないか、で考えてしまうふしがあります。

――たとえばどういう作家が「離人症のケ」があると思いますか?

上田 ギャグマンガ家でも、赤塚不二夫は違うかな。根っこはあったかい人なんじゃないかな、って思います。藤子・F・不二雄のほうが怖い。さらっと、人間を突き放した怖いことを描けちゃう。
 最近なら堀尾将太の「刻々」とか、先ほどもあげましたがいがらしみきおの「I」とか、岩明均の諸作品には離人症っぽさを感じます。

――冷たい感じはするけど、受け入れられてはいますよね。

上田 気づかない人は気づかずに読めちゃうのかも。別にそういうところを隠しているわけじゃないですよね。淡々としているから、かえって解釈の幅が読者にゆだねられているのかもしれない。だから人によっては、感動的な話として読めるのでしょう。
 僕自身に離人症のケがあるから、離人に引き付けて読んでしまっているのかもしれません。

――「荒野の七ひき」にもそういう、人間に対する冷たさみたいなのを感じて、それが引っかかったのかもしれませんね。

上田 確かにあの作品には手塚の怖いところが出ているのかもしれないです。あの作品を描いたときの手塚は、全然人間の事好きじゃないだろう、って思います。
 

――今後、こういったことをしてみたい、というようなことはありますか?

上田 今後も引き続き、文章を書いていきたいのですが、もっと長いものを書いていきたいです。ネットだとどうしても2000字から3000字、長くても5000字の、読切り記事みたいなものが多いんで、もっと長く書いて、分厚い本を書きたいです。あとは小説とか。

――ぜひ読んでみたいです! 小説を描かれることにも興味はもっていらっしゃるんですね。ブログにもいつの間にか物語になっている記事もありますね。

上田 ブログもあくまでも実際にあったり、考えたりしたことを書いているんだけれども、感覚的にはフィクションのような気がするんです。嘘ではないんですけど。
 日記を書いていると、これはあくまで私=上田として読まれる感じが窮屈に思うことがあるんです。小説を書くなら徹底的に日常を描いて、離人感を表現できるようなものにしたいです。普通に人間の社会で生きていて、自分も人間なのに、決定的にそういう世界そのものが分からない、みたいな。それって自分が日常的に感じていることなんです。
 離人感を表現するには、文字がやっぱり、一番合っているんですよね。たとえばマンガだと、大衆向けになりやすいジャンルじゃないですか。なんだかんだで娯楽的に楽しんじゃいますよね。
 「荒野の七ひき」でも、一応ハッピーエンドに読めるように描かれているじゃないですか。良く考えたら怖い話でも、ライトに読んでも楽しめる。そこは手塚治虫の強いプロ意識に基づいているのかもしれませんが、マンガという媒体そのものが大衆向けになりやすいんだと思います。
 逆に、そこから外れた手塚作品があれば、ぜひ読んでみたいですね。社会を突き放した作品があったら、ぜひ教えてください。

――離人感のある手塚作品、探してみます! 是非読んでみていただきたいです。今日はありがとうございました。

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上田啓太さんに色紙を書いていただきました! 仕事でもプライベートでも、パソコンで文章を書くため、普段はほとんど字を書かない、という上田さんのサイン、レアです


上田 啓太

 文筆業。ブログ:http://diary.uedakeita.net/


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