虫ん坊

手塚治虫生誕90周年記念企画  スペシャルインタビュー 第1回  松浦だるまさん

2018/11/03

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 手塚治虫生誕90周年記念企画が始動! この企画では、「あの人が語る手塚治虫」というテーマのもと、ありとあらゆるスペシャルゲストをお招きし、手塚トークをしていただきます。
 第一回目のゲストは、講談社イブニングにて『累』を連載中の松浦だるま先生。聞くところによると、松浦先生はかなり手塚作品がお好きなようで、ご自身のSNSでも度々熱~く手塚治虫について語っておられます。そんな松浦先生に、直撃インタビュー! 手塚作品との出会い、自身にどう手塚イズムが生かされているのか、さらには作業場の事故物件のお話まで......ここでしか聞くことのできない秘話をお届けします!



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松浦だるま
イブニング新人賞ゆうきまさみ大賞及び宇仁田ゆみ大賞にて、共に優秀賞を受賞。本作『累 ─かさね─』が初連載作品となる。


『累(かさね)』
およそこの世のものとは思えぬ醜悪な容姿を持つ少女・累かさね。彼女はその容姿ゆえ、周りの者から苛烈なイジメを受けていた。そんな彼女に、亡き母が遺した一本の口紅。その口紅が累の運命を大きく変えていく----。







手塚治虫との出会いは、自我がなくなるほどの衝撃



―――松浦先生と手塚作品の出会いは、中学2年生の時だったとお聞きしました。当時、どういう出会いをしたのでしょうか。


松浦だるまさん (以下、松浦) 実は、手塚漫画は、『どろろ』の2巻を小学校1年生の時に読んだのが最初でした。


―――小学生でしたか。しかも、1巻ではなく?


松浦   そうなんです。親がマンガ好きで、手塚マンガは父の趣味で家に何冊かありました。父が『どろろ』の1巻を読んでいたので、傍らにあった2巻を読んでみようと思って。
なにもわからないまま読んでみたのですが、その時はすごく古いものと感じてしまって。とっつきにくかったんです。
それに、まだ小学校に上がらないくらいのときに、新聞で「マンガの神様が亡くなった」という記事を見たのを覚えていたんですよ。漠然と、この人、すごい人なんだという刷り込みがあって、小学生の頃はかえって入り込めなかったんです。 
それから、成長して中学2年生っていう、一番なにかをこじらせる時期になるわけですが......。


―――多感な時期ですね。


松浦   中学時代は、周りの友達に合わせて、当時流行っていた漫画を読んでいたのですが、私にはそれがあまり面白く感じられなくて。単にそのときの私の好みの問題であって、いま読み返したらすごく楽しめると思うのですが、なにか、ちょっと違っていたんですよね。自分にとって何が面白いのかわからなくなっていた時期に、小学校の時に読んで分からなかった『どろろ』をまた読んでみようと思って手にとったんです。
そうしたら、めちゃくちゃ面白かったんですよ。世の中に面白いものってたくさんあるけれど、私が面白いと思うものはこういうものなんだ、っていう、その基準になってくれたんですよね。そのあと出会った『ブラック・ジャック』も『火の鳥』も。
当時の私はテーマ性の強い作品っていうのをあまり読んでいなかったのかもしれません。
手塚作品というのは、すごくテーマ性が強いじゃないですか。そういうものに、多感な時期に出会ってしまったというのも、一因なんじゃないかと思うんです。


―――同世代の方と、話が合わなかったのではないですか?


松浦   全然、周りにはいなかったですね。手塚作品のほかに、『巨人の星』や『あしたのジョー』などの梶原一騎さんの作品も大好きで読んでいたのですが、昔のスポ根漫画にある熱血な感じがダサいという風潮があったように思います。
当時の10代って、ちょっと冷めた世代だったんじゃないかなと思っているんです。たとえば、TVドラマの『金八先生』を私や周囲も面白いなぁと見ていたけど、作品は真摯に真剣に伝えようとしてくれているのに、当時のリアル中学生にとっては何かそれが気恥ずかしくて、発信している側と受信している側でコミュニケーションが噛み合わないということがドラマに限らずいろんなものであったような気がするんです。冷めた世代に何かを熱く伝えるのって、逆に引かれてしまったり、むずかしいじゃないですか。
でも、私には手塚作品のテーマ性がダイレクトに、グサッときたんですよね。


―――70年代の漫画がお好きとのことですが、手塚マンガにその他の70年代を代表する作品と違う"衝撃"があったのは、どういったところだったのでしょうか。


松浦   違いと呼べるのかはわかりませんが、手塚先生って、子供でも、どんな人に対してでも、読者に目線を合わせてテーマを描いてくださるんですよね。真剣に、目を見て語りかけてくれるような感じがあるんです。読者のことを気にかけてくれているような。
それまで私が触れてきたものって、友人の影響もあってキャラクターや世界観の魅力を重視して描くものが多かったかも知れません。もちろんそれはそれで素晴らしいのですが、その中で、手塚作品は、それよりも、メッセージ性と、何よりおもしろい作品を描きたいんだという信念が突出して伝わってきました。
わたしは、手塚作品に限らず読んできた作品が多いほうではないので、あくまで自分の見てきた世界の中で、突出して見えたというところもあるのかもしれません。『火の鳥』も、最初読んだときはショックを受けてしまって。


―――どういうところにショックを受けたのでしょうか。


松浦   『火の鳥』未来編の、極大から極小へ行くシーンです。時間や空間を超えて、宇宙という大きな世界をみせた後にミクロの世界を見せて、生物の細胞から宇宙まですべて生きものなんだ、と火の鳥に教えられるシーンなのですが、あのシーン、完全に自分がなくなったんですよね。

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『火の鳥』未来編より。永遠の生命を与えられたマサトは、生命・人類の進化の過程をすべてを見届けるという過酷な使命を告げられ、火の鳥に連れられて極大から極小の世界を行き来する。


―――手塚先生の考える壮大な世界観・宇宙観を味わうことのできるシーンですよね。自分がなくなった、とは、どういうことでしょうか。


松浦   もう、自我が消えるほどフィクションの世界に連れて行かれてしまったんです。そんな経験って、漫画のみならず、他のメディアでも体験したことがなくて、すごくショッキングでした。
私が読んでたのは、文庫版で、そのサイズの紙の上ですごくスケールの大きな世界が展開されていて、こんなことができるなんて、と......。自分も幼い頃から絵や漫画を描いてきましたけど、ここまでできるとは思っていなくて。
『ブラック・ジャック』も、毎回20ページ前後という少ないページ数の中で、濃いドラマを描いてらっしゃるじゃないですか。患者の1人1人の人生を切り取ったような、毎回読者の心に訴えるものが、その少ないページ数に込められている。そういうスケール感や、ドラマの描き方は、手塚作品で相当、勉強させてもらいました。



『累』は『人間昆虫記』に似ている!?


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『累』1巻より


―――『累』は、卓越した演技力を持ちながらも醜い容姿である累が、口づけをした相手と顔と声を入れ替えることのできる力を持つ口紅を使い、舞台女優の道をのしあがっていくという、『人間昆虫記』のような要素もあるし、演劇を題材としたところでは『七色いんこ』的でもあるし、美醜というテーマを扱う、という点では『アラバスター』的であったり......普段、手塚作品にばかり触れているものですから、勝手に解釈してしまいました。


松浦   それは、職業病ですね! でも、『人間昆虫記』や『奇子』は絶対言われるだろうな~と思って、覚悟はしていました(笑)。  実は、『人間昆虫記』は、『累』の1巻が出た段階で初めて読んで、あ、やばい! と思いました。


―――発売後に読んだので、というところは、太字で書いておきます!


松浦   パクってないぞアピールを(笑)。
手塚先生は、ピカレスクロマン......悪の描き方も本当にうまくて。どうしても、手塚作品って、図書室に置いていい漫画というイメージが最初はあったんです。若い世代と作品が出会う場所があるのはいいことなのですが、私は図書室では出会えなかった派でした。テーマ性が強いといっても、どうせいい事描いてあるんでしょ? と思ったり。でも読んでみたら、正義が描いてあるどころか、残酷なところも悪も、すべてが描いてあったんですね。
中でも、悪の描き方は勉強になりました。今『累』を描いていて、すごく感じます。


―――『累』には、悪の部分を持つ人がたくさん出てきますね。良い人も少なからず悪い部分を持っていて、全部が全部、悪いわけじゃないという。


松浦   言わずもがなかもしれませんが、手塚作品は、人間の持つ性質として善悪を描いているんですよね。正義の裏には、悪があって、平和な世界も描くけど、その裏で起きている悲しみも描かれる。
中学校の頃に読んだものの中で、バッドエンドの作品というのはそんなになかったと思います。その中で手塚作品を読んで、必ずしもハッピーエンドにしなくても、負のものというか、ネガティブというか、悪とか、そういったものだって描いて良いんだということを学びました。
人が死んでしまう作品というのは当時もわりと他の作品でもあったんですが、手塚作品は、死んでしまうだけではないんですよね。こんなに残酷なんだぞ! というのをただ見せたいのではなく、そこに抗えない人間たちの、「運命」を描いている。それまでの私は、ハッピーエンドかアンハッピーエンドしかないと思っていたので......。
短編では、『カノン』とか『ロロの旅路』が特に好きなのですが、ハッピーエンドなのかどうか、どちらともつかないような終わり方をされるので、そういう結末の描き方がすごく新鮮だったのかもしれないですね。

と、今、楽しい手塚作品を思い出そうとして、なぜか『百物語』が出てきて、あれは楽しい終わりではないなとか思っちゃったんですが(笑)。

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虫ん坊スタッフが持参した『カノン』に、「大都社の装丁、良いんですよね~」と反応してくださった先生。『累』と一緒に。





流れは怪談話に......。



松浦   『百物語』好きなんですよね。妖怪とか、和の世界観が。


――― そう言えば『累』も、茨城県に古くから伝わる怪談「累ヶ淵(かさねがふち)」をモチーフとされているんですよね? (気になった方は調べてみてね!)
以前から、怪談などはお好きだったんでしょうか?


松浦   >そうですね。アイディアを考え始めてから怪談「累ヶ淵」を知ったんですけれど。だから余計に興味を持ったところもあります。
怪談は、大好きです! 家にも水木しげる先生の妖怪図鑑があって。父が好きだったんですよね、それも。父の水木作品との出会いというのが、なにかで入院した時に、親戚が水木先生の作品集を病院に持ってきたらしいんですよ。
それがまた、当時の青林堂の短編集とかで。どうしようもない終わり方するやつだったり。


――― ある意味、不謹慎な(笑)。


松浦  

それを入院中に持って来られて、そこで父の水木趣味は完全に決定したと。 そんな父に影響を受けた私がいるわけです。


―――なんと、松浦先生が今住んでいる所も事故物件だと伺いました。


松浦   それ、インタビューごとに絶対言われるんですが......。最近じゃ税務署の職員さんにも言われました。


―――みんな気になる話題なんですね(笑)。


松浦   コミックスのあとがきにも描きましたけど、特に何も起こらないです。
別に事故物件を狙ってそこに決めたわけではなくて、本当に不動産屋で写真を見た時に良かったんですよ。風通しも日当たりも最高じゃん! ここで作業したい! って思いまして。駅から近いし安いし、そしたら、「告知事項アリ」と書いてあったんですよね。死因とかは知りたくないなと思ったんですが、契約書にしっかり書いてあって。......この先も聞きますか?


―――ヒィ~~~~! 結構です!


松浦   でも見学に行ったら、リフォームはちゃんとしていて、全然怖い雰囲気ではないんですよ。ここはもう大丈夫だなと思って。私、見えないんで。
 でも、霊感の強い友達に「天袋に女の人がいたよ」と言われて。でも亡くなったのは男の方なんですよね。


―――あれ? おかしいですね。


松浦   その子曰く、「人が住まなくなるとそういう空間には霊が居つくことがある」と。だから天袋の女性も、「それは人が住むようになれば出ていくよ」って。私は心霊は半信半疑に受け取ってますが。


―――「まっくろくろすけ」みたいなもんなんしょうか?


松浦   考え方としては、似てるでしょうね。ロフトのある部屋ってあるじゃないですか。その友達は一人暮らしする時、ロフトを絶対に物置にしないらしいんですよ。理由は、「来るから」って。納戸部屋とかロフトを物置にすると来やすくて怖いんだと。だから絶対にそこを生活に使うらしいですね。......すみません、『百物語』から脱線しました。


―――いえいえ。べべべ勉強になりました。(ガタガタ)




松浦だるまに潜む手塚イズムとは



―――しかし、あまり手塚作品を読んでいないとおっしゃるわりに、名前があがるのは渋い作品ばかりの松浦先生ですが、好きなキャラなどはいますか?


松浦    好きなキャラは......考えてみたのですが、あんまり私、漫画をキャラで見ないようにしていて。でも、あえて挙げるのであれば、『ミューズとドン』っていう短編の、ミューズっていう豹がすごく好きです。女豹ですよ。めちゃくちゃかっこいいんですよね。絶対、『累』に影響が出ていると思います。


―――また、渋いところを! たしかに、『累』に出てきそうな。淵 透世のイメージが近いかもしれません。



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手塚治虫漫画全集ライオンブックス4巻『ミューズとドン』より、ミューズ/『累』7巻より、主人公・累の母、淵 透世


松浦    実は、『累』の連載がはじまってからは、しばらく手塚作品をはじめ、影響を受けた先生方の漫画を意識的に読まずにいましたけど、最近になり手塚作品を改めて読み返したら、新しい発見もあったりして。特にコマ割りなんかは、いろんなことを試していらっしゃるということに改めて気付きました。確か1ページに7コマまでってご自身で言ってた気がするのに、それ以上コマを詰めているページがあるし。でも見やすい! と思いながら(笑)。
 コマ割りって、作品を読むときのテンポを決めるんですよね。私、漫画を描く上で一番大事に思っているのって、テンポなんですよ。書きたいシーンやセリフがあっても、テンポを乱すなら、そこは削ってしまったりとか。
 今、改めて読んで、手塚先生のコマ割りが余計新鮮にみえたんですよね。『ブラック・ジャック』の、時計まわりにぐるっと回ったように見せるコマの割り方とか。
 しばらく読むのを控えていた間に、最近の旬の漫画を勉強も兼ねてたくさん読んでいたので、今読んだら感動も薄れているかなと思いましたけど、何一つ色褪せていないし、新しい発見もあって。
 どうしても私、影響を受け過ぎていて、絵からも手塚臭が漂ってしまうんです。意識していなくても出てしまうんですよね。高校生の時描いてた絵なんて、もうモロ手塚という感じで。動物の絵とかばかり描いてたんですけど......今だったら、「ケモナー」と言われてしまうかもしれない。


―――言われませんよ!(笑)


松浦   でも、本当に、動物の絵描くの大好きだったんです、こんな。
(おもむろに描きだす)



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―――あ、たしかに、手塚先生っぽいですね! フォルムとか、顔つきとか。


松浦   (描きながら)滲み出ますよね。こういう感じで......。火の鳥の造形とかもとても好きですし。だからちょっと影響が濃すぎるので、それを薄めさせなきゃいけないくらいでした。
 1巻の第1話の絵に少し片鱗が残ってるんですけど、自分の世代より絵柄も古くて。それがスタイルにまでなってれば良かったんですけど、そこまではなっていない、ちょっと格好悪いような感じでしたので、『累』にはその絵柄は向いていないなと。
 私、絵柄ってこだわりが無いんですよ。だから、作品によってそれはいくらでも変わりようがあるなと思っていて。『累』は曲線的表現よりも、シュッとした鋭い直線的な方が映えると思ったので、そのように意識的に変えていきました。今もどんどん変えている最中です。




松浦だるまに潜む手塚イズムとは



―――演劇を題材にするというのは、漫画の世界では結構珍しいような気がするのですが。松浦先生は、演劇部だったんですよね。


松浦   中学校で、3年間やっていました。『累』に演劇っていう題材を選んだのは、「美醜」というテーマを描いて、顔を交換するというアイディアが先にあったので、それにつけたら面白いんじゃないか、と思って付け足した要素なんです。


―――手塚先生も劇団に入っていた時期がありました。演劇体験という意味では共通している部分がありますね。


松浦   そうですよね、手塚先生、演劇経験されてるんですよね。宝塚もよく観ていたそうですし。


―――『累』は、美貌を奪う累と、その美貌を奪われた女優たちの心の葛藤など、登場人物の心理描写が印象的ですが、やはり、演劇の体験がそこに影響しているのでしょうか?


松浦   それはあると思います。たとえば、漫画を描くときは、まずは展開を文章で書いていき、それを今度は台詞に起こしてプロットを立て、そこから台詞をネームに起こしてゆく、という一連の作業をこなすのですが、演劇部での経験はそこに間違いなく生きていますね。俳優さんの演技力とは違うんですけど、漫画家って、演技力が必要なのではないか、と思っていて。表情を描く時なんかは、特に。


―――登場人物になりきって描く、ということでしょうか?


松浦   そうですね。ネームを描きながら、音読してみたりもするんですよ。 「漫勉」という番組で、浦沢直樹先生が、人物描きながら演技をするということをおっしゃっていたんですよ。それを聞いて、「あ、そうなのかもしれないな!」と思って。『累』を描いていても、キャラクターにうまく入っていける時といけない時があって、それ次第で描く表情の良し悪しが変わってきます。


―――キャラクターに入り込める時というのは、どんな時なんでしょうか?


松浦   入り込みやすい時というのは、やっぱり物語が盛り上がっている時。でも『累』で盛り上がっている時って、大体誰かしらが窮地に立たされている時ですね(笑)。


―――あの、口紅がすり替わってて、あ、顔が戻っちゃうのかな!? という時なんかは特にすごかったんじゃないですか?

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累の破滅を目論む野菊によって力を持つ口紅とただの口紅を入れ替えられ、舞台の公演中に元の醜い顔に戻ってしまうのか!? というシーン。ここでちょうど8巻がおわったため、続きをはやく!! となった読者は少なくないハズ。


松浦   あの時の野菊の焦りなんかは、私はすごく入り込んで描いてたと思います。うまく表現出来ているかどうかは別にして。漫画は、常に入ってないと描けません。
その点、手塚先生って、なんというか、一歩引いてますよね。キャラクターに対して。造物主の目で見ているじゃないですか。


―――たしかに、このキャラが気に入っているから描く、というのではないかもしれないですね。まさに役者を描いている、という感じがあります。「スター・システム」という言葉もありますし。


松浦   そういう、引いた見方が出来るから、「人物を描く」「キャラクターを描く」ではなくて、「運命を描く」ことが出来るのかなと思っていて。『火の鳥』なんてまさにそうじゃないですか。登場人物が、運命に翻弄される人たちなんですよね。主役級でもポロッと死んだりするし。その「運命を描く」というのがすごく格好良いなと。やっぱり、憧れます。


―――もしまだ手塚マンガを読んだことのない人におすすめするとしたら、どの作品を読んでもらいたいですか?


松浦   この質問、めちゃめちゃ迷います。というのが、私が少しひねくれた所から入っているので。中学生だったから入れたという。その時代や世代によって、昔の作品への入り方って変わってくると思うんですね。


―――では、もし松浦先生が入り込んだという、14歳の多感な時期の方々に向けて、だとしたらどうでしょう?


松浦   なんだろう~。すごい考えちゃいますね~。短編だと『るんは風の中』とか爽やかで読みやすいかな。あ、でも逆にひねらない方が良いのかもしれない、今の子たちは。真面目じゃないですか。10代の子とのふれあいは無いんですけど、アシスタントでこないだ20歳になった子がいて、話を聞いてると、すごく真面目だなと思って。真っ直ぐ受け取ってくれるんだとしたら、やっぱり『火の鳥』、『ブラック・ジャック』が良いのかな。


―――最後に、松浦先生にとって、手塚治虫とは、どのような存在ですか?


松浦   私の人生を決めた方です。私が物心ついた頃に亡くなられたのに、私の人生を決めた方。私はまだ未熟ですが、それでも手塚先生の系譜の上に続くたくさんの作家の、端っこの一人です。
 本当におこがましくて、勝手なことを言っているんですけど、ありがとうございます、としか言えません。マンガを描いてくださって、真剣に読者を見て描いてくださって、ありがとうございます。マンガに限らず、手塚先生は文章を読んでいても、読者と目線を合わせてくれていて。お優しい方なんだろうな、と感じます。


―――本日は、ありがとうございました。


松浦   こちらこそ。ちょっと気持ちが入り過ぎた気がします。

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なんと、サインに加え、特別に累と『ジャングル大帝』のレオを描いていただきました! 
累とレオの夢の共演は、ここでしか見られない貴重な一枚です。先生、ありがとうございました!



※こちらの記事は、虫ん坊2017年11月号の再掲載となります。


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