虫ん坊

手塚治虫生誕90周年企画 スペシャルインタビュー第7回 田亀源五郎さん【後編】

2019/03/04

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手塚治虫90周年企画スペシャルインタビュー7回目のゲストは、マンガ家でありゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎さん。

自身もゲイであり、過激ながら繊細に描かれる作風で国内外のゲイアートシーンで活躍。初めて一般誌で連載された『弟の夫』は、2018年3月にNHK BSプレミアムでドラマ化され、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。また、アメリカのマンガ賞・アイズナー賞では最優秀アジア作品賞を獲得、情報誌「The Hollywood Reporter」の2018年ベストコミックスに選ばれるなど話題となりました。

後編では、よりディープな手塚マンガの話や田亀さんがリメイクされた手塚作品、現在連載されている『僕らの色彩』などについてお伺いしました!!

前回の記事:スペシャルインタビュー第7回 田亀源五郎さん(前編)



―――手塚作品にも同性愛を描いた作品がありますが、例えば『MW』を読まれたときはどんな感想をもたれましたか?


田亀源五郎さん(以下、田亀) もちろん楽しく読ませていただきましたし、とても興味深い作品なんですけど、『MW』になってしまうと自分の専門やプライベートとの距離が近すぎてしまうので、逆に違うところが目立ってしまって。


手塚先生のお描きになる同性愛全般に感じることなんですけど、手塚先生はジェンダーの揺れとか性自認の揺れ、性表象の揺れにはものすごく鋭敏かつクリアだったと思うんです。


ただ、同性愛表現に対しては男性と女性の間の揺らぎのところに同性愛の文脈も吸収されてしまっていて。

結城さんがバイだというのは面白いし良いんですけど、女形であったり男だか女だかわからないような美しさが出てきてしまうと、私の感じる同性愛やゲイ表象とは違う世界なんですね。


―――田亀さんの求める性表現というのはどのような表現なんでしょうか。


田亀 『MW』についてはよく聞かれますし、作品としてはとても好きだし面白いんですけど、自分的......ゲイ的に刺激的だったかというとそれは違いましたね。

私自身には性別の揺らぎが無く、見た目も中身も男性の2人が付き合ったりセックスしたりするのが自分の性的指向であり、両性具有や女装などにはまったくエロスを感じないタイプなんです。

そこが手塚先生の作品と自分自身の趣味趣向とのギャップの部分ですね。同じゲイでも、ドラァグクイーンの皆さんとか、もしくは少しトランスジェンダーの素養がある方のほうが、作品として身近に感じるのかも知れない。


―――手塚作品のなかで、先生の趣向に沿った作品はありますか?


田亀 『シュマリ』ですね。シュマリと十兵衛の関係というのがとても好きでして。

それというのも、これは男同士の、女の人はそこに入れないほど密接な友情ではあるんですが、ひょっとしたら十兵衛はシュマリのことを性的にも好きなんじゃないかと思わせるような危うさがあるんですね。親密な男同士というホモソーシャルな関係性を描いたものは、世の中のフィクションにいくらでもあるんですけど、『シュマリ』のそれには、一歩間違えたらホモセクシャルになるような揺らぎを感じます。大人になって読み返したらすごく魅力を感じて。ちょっと腐女子みたいな発想ですけどね(笑)。

他に『刑事もどき』の2人というのもわりとそれに近いです。結構踏み込んだところまで関係性を描いてらっしゃるなと。


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もう一度、都へ帰るべきだと諭すシュマリに、「死ぬまで離れんと決めたんだ」と食らいつく十兵衛。「おれにとっちゃおまえさんしか頭にないんだよ」という言葉にも妄想を掻きたてられる


―――今度、田亀先生の手でリメイクされた『刑事もどき』が「テヅコミ」(マイクロマガジン社)で掲載されるとお伺いしています。どのように描かれるのかとても気になりますが、『刑事もどき』を選ばれたのはなぜでしょうか。


田亀 手塚作品のトリビュートやリメイクを私が描くとしたら、どうオリジナルに興味を持ってもらえるようアプローチするんだろうと考えたときに、キャラ萌えか関係性萌えだと思ったんです。そのなかで、『刑事もどき』に登場する段袋刑事とサギ師の大枚田、2人の関係性は、今の読者にも萌えとして十分アピールできるんじゃないかと思ったんですね。普通に男の人が男の人のまま男の人のことを好きになっているところも良いですし。

しかもユニークなのが、半分コメディっぽく描いているがゆえに、大枚田の方があからさまに好きだとアプローチするんです。


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段袋をマッサージする大枚田。いまの本業はサギ師だが、コックを3年、テーラーに2年半勤務し、料理も裁縫もプロ並み。度々スペックの高さをのぞかせる


田亀 私がもし萌え絵を描ける人だったら、それこそ『0マン』を可愛く描いたりしたかも知れませんが(笑)。

話の続きを描きたいというよりは原作を有効利用しないと、というプロデューサー寄りの発想ですね。私は元々手塚の原作ファンですし、ちょっと原理主義的なところもあるので、下手なアレンジはせず、オリジナルを活かして、男の色気と男っぽさの両方を描いた作品にしたいと思っています。


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こちらはキャララフ画。「テヅコミ」には前編(Vol.9)・後編(Vol.10)に分かれて掲載。田亀さんの手によって、どのようなお話が展開されるのか。是非、ご一読ください


―――新作といえば、「月刊アクション」で現在『僕らの色彩』を連載されていますね。『弟の夫』では家族愛を中心に描かれていましたが、『僕らの色彩』はなにを切り口に描かれているのでしょうか。


田亀 『弟の夫』では、ノンケさんにいかにゲイイシューを読ませるかということが重要でしたので、主人公の弥一は異性愛者という設定にしました。その彼の目からゲイイシューを読み解いていくことで、同じ異性愛者の読者に追体験してもらいたいというのがあったんですね。でも、『僕らの色彩』に関しては、引き続き一般向けにゲイをテーマにしながら、野球部の同級生に恋をしているゲイの男子高校生が主人公となっています。


ゲイや同性愛を取り扱っているもの全般に言えるんですけど、セックスとロマンスに偏りすぎているなと感じていまして。
フィクションの役割として、ファンタジーを提供するのもひとつの楽しい役割ですけど、もう少し現実に寄り添ったかたちのもの、つまり、これは私のことだって思わせてくれる話というのもフィクションの武器のひとつだと思うんですね。


そういう意味で、中高生くらいのゲイが読んで、共感を持ってくれるような読み物があまり思い浮かばなかったんです。ないんだったら、自分が中高生の頃に読みたかったような作品を描いてみたいなと思ったのがきっかけでしたね。


―――そこはまた新しい挑戦のような気がしますね。


田亀 完全に中高生のゲイの子をメインターゲットにして描いてしまっているので、そこからいかに間口を広げさせるか。私がもう少し、サブカル寄りのオシャレな作家だったら、そんなことは要求されないと思うんですけどね(笑)。自分に求めるハードルが上がりました。


今はゲイ・ポルノとノンケ向きのマンガ、どちらも描くのが面白いと感じているので、可能であるならどちらも続けて行きたいと思いますね。


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―――まだ、手塚作品を読んだことのない、特にLGBTの若い子たちにオススメするとしたらどの手塚作品を選びますか。


田亀 短編ですけれども『べんけいと牛若』。自分らしさというものに迷いがある人に対してものすごくいい意味で肯定してくれているなと思いますね。
見た目はイカついんだけど、実はカワイイものが大好きでファッションデザイナーになりたい男の子と思春期特有の悩みを抱えた男の子の凸凹コンビが登場するんですけど、作品としてきっちり完成されているし、課題図書で読んでもらってもいいくらい良い話だと思うので。


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見た目はジャ●アンのような少年、凸 卍(でこ まんじ)。「べんけい」というニックネームでまわりから怖れられるが、趣味はイメージとかけ離れていた


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べんけいにケンカをうった牛若。ふたりはそれぞれ外見にコンプレックスを持っていた


―――人は見た目じゃないんだという普遍的なメッセージが心に響きそうですね。


田亀 手塚作品の根っこのところには、異質なものとどのようにしてコミュニケーションを取るかというのが絶えずあるような気がします。
たぶん、これから世界はどんどん境界がなくなって入り混じっていくか、もしくはもっと壁を作ってしまうかのどちらかだと思うんですけれども、私は入り混じって欲しいと思っているし、入り混じるときにどうやっていい関係性を築いていくのかがとても大事な課題だと思っていて。セクシャルマイノリティとかそうじゃないとか関係なく、いかに相手のことを知ろうとするかがとても重要になってくる。


手塚作品って、自分ではない視点からも物事を捉えることができるということを知るには、とても良い機会を与えてくれると思うんですよ。そういう意味では、どれを読んでも大丈夫じゃないかな。


後になって考えてみたら、「ああ、あのとき手塚マンガに描いてあったじゃん」って思わされることがあるし、性別の揺らぎとか、性別がどこからくるのかが絶えず作品のなかに見受けられる。私が読者目線で読んでも面白いと思うところですね。


―――実際に手塚治虫に会えるとしたら、どんなお話をしたいと思いますか。


田亀 ただの挙動不審な人物になると思います(笑)。ものすごくアガリ症なので(笑)。仮にご存命で共通の知り合いに「会わせてあげるよ」と言われても、「いや、結構です」と断ってしまいそう。


理想としては、パーティ会場でサインが欲しいけどとても声を掛けられないなと思っているところにおせっかいな編集者が来て、無理やり引っ張っていってもらうというのが理想ですね。自分から行動は起こさない(笑)。


―――是非、そこはおせっかいな編集者に無理やり引っ張っていってもらって(笑)、サインと一緒に好きなキャラクターも描いてもらえるとしたら、どのキャラクターを選びますか?


田亀 力有武さんを。手塚先生のスターシステムのなかで、一番好みのタイプはと聞かれたら力有武さんなので(笑)。彼は日本男子的な役割が多いんですよ。結構、悲劇に巻き込まれやすいキャラクターでもあって。割と朴訥で不器用、でも一本気な父親とか男みたいな役がとても多い。私にとっては実力派のバイプレーヤーですね。


ヒゲオヤジだとちょっとメジャー過ぎるけど、有武さんだったら、マニア心も満たされるし。名前もね、分かりやすくて(笑)、時代のおおらかさが羨ましいですね。いま、シリアスマンガのなかでヒョウタンツギなんて出せないでしょう。私の兄は、あれこそ手塚マンガの神髄だと言っているくらい。


―――最後に、田亀さんからみたマンガ家・手塚治虫とはどのような存在ですか。


田亀 この方がいなかったら、日本のマンガ史が変わってくるじゃないですか。時代を変えてしまうような作家さんはいろんなポイントにいると思うんですけど、日本のポップカルチャー上ではおそらく一番大きなポイントなのではないかと思える存在。


子供の頃からずっと読んでいたし、手塚作品なしに育っていたら、いまの自分とは違う自分になっていたと思うし、「影響を受けています」と言うのもおこがましいくらいに影響が沁みついている。そのことを手塚先生に伝えたいですね。


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田亀さんイチ押し。"実力派のバイプレイヤー"力有武を描いてくださいました! 原作テイストを抑えつつもたくましいイラストをありがとうございます!!




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田亀源五郎
1964年生まれ。日本のゲイ・コミック作家を代表するひとりで、自らを「ゲイ・エロティック・アーティスト」と称している。
多摩美術大学卒業後、アート・ディレクターをしつつ、86年よりゲイ雑誌にマンガ、イラストレーション、小説等を発表。94年から専業作家となり、ゲイ雑誌「G-men」(ジープロジェクト)の企画・創刊にも協力。同時に、日本の過去のゲイ・エロティック・アートの再評価および研究、また、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツなどのゲイ・メディアでも活動を開始する。作品は国内外で出版され、フランスでの個展や様々な企画展への招聘参加など、美術家としても世界中で高い評価を得ている。『弟の夫』では賞を多数受賞。現在、「月刊アクション」にて『僕らの色彩』を連載中。

http://www.tagame.org/



●展示会情報

『日本のゲイ・エロティック・アート』完結記念

日本のゲイ・エロティック・アート展 Gay Erotic Art in Japan

[内容]

「日本のゲイ・エロティック・アート」は、日本が生んだ優れたゲイ・エロティック・アートの数々を発掘、再評価した画集です。2003年にVol1、2006年にVol2、そして2018年には完結版としてVol3が刊行されました。

その完結版発売を記念して、この3冊の本に収録され、紹介された作家を中心に、この本を編集した田亀源五郎氏の作品も交え、ゲイ雑誌創世記の作家から、現代の作家まで貴重な作品群を展示いたします。

[出演作家]

稲垣征次/大川辰次/小田利美/木村べん/児夢/髙蔵大介/田亀源五郎/武内条二/遠山実/長谷川サダオ/林月光/平野剛/船山三四/三島剛

[会期]

2019年3月5日(火)~3月17日(日)

平日12:00〜19:00、土日祝日:12:00〜17:00

[会場]

ヴァニラ画廊 展示室AB

東京都中央区銀座8-10-7 東成ビルB2

https://www.vanilla-gallery.com/

[入場料]

1,000円

※18歳未満入場不可となっております。受付にて年齢が確認できる写真付IDをご提示ください。

※受付でのチケット販売は行っておりません。必ず事前にLive Pocketにてチケットをご購入の上、会場受付にお渡し下さい。

その他、トークイベントなどの詳細はこちらから



●バックナンバー

 生誕90周年企画 スペシャルインタビュー

・第1回 松浦だるまさん

・第2回 大塚明夫さん

・第3回 中村佑介さん

・第4回 [ALEXANDROS] 庄村聡泰さん

・第5回 最果タヒさん

・第6回 横尾忠則さん(前編)

・第6回 横尾忠則さん(後編)

・第7回 田亀源五郎さん(前編)


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