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講談社 手塚治虫漫画全集「アドルフに告ぐ」1巻 表紙用イラスト 1996年(手塚プロダクションによる)

ストーリー

第二次世界大戦当時の日本とドイツを舞台に、アドルフという名前をもつ3人の男がたどった運命を描く長編マンガです。

文藝春秋社 週刊文春掲載 第1話 扉絵より 1983年

1936年、ベルリンオリンピックの取材でドイツにきていた峠草平は、そこで留学中の弟が殺されていることを知ります。やがて弟が殺された理由が、彼がアドルフ・ヒットラーの重大な秘密を文書にして日本へ送ったためであることが明らかになってきます。その文書とは、ヒットラーにユダヤ人の血がまじっているという出生の秘密を明かすものでした。

一方、神戸に住むドイツ総領事館員のヴォルフガング・カウフマンも、本国からの指令を受けて、その文書の行方を追っていました。そのカウフマンにはアドルフという息子がいました。カウフマンはアドルフを国粋主義者として育てようとしていましたが、アドルフは、自分と同名のユダヤ人アドルフ・カミルと親友だったため、ユダヤ人を殺してもいいと教えるナチスドイツの考え方には反発を感じていました。けれども、アドルフ・ヒットラーという独裁者が支配する恐怖の時代に、ふたりのアドルフの運命は大きくねじ曲げられていくのでした。

文藝春秋社 週刊文春掲載 第1話 扉絵より 1983年

解説

1983/01/06-1985/05/30 「週刊文春」(文藝春秋社) 連載

20世紀の悪夢、アドルフ・ヒットラー。アーリア人以外の人種をすべて憎み、ユダヤ人を弾圧・虐殺した独裁者がじつはユダヤ人だったことを証明する文書が実在したら? というフィクションをもとに繰り広げられる大河ドラマです。

虚実が織り交ぜられたストーリーながら、たとえば「陽だまりの樹」のように、多くの実在の人物が登場したり、歴史的な出来事や実在の神戸の地名などがちりばめられたリアリティのある描写があるため、読み込めば読み込むほど深く味わえる作品です。

手塚治虫が自らの戦争の記憶を伝えたい、という思いも込められており、当時の風俗やうたわれた歌、子供たちの遊びなどが細かく描きこまれているのも見どころの一つ。「陽だまりの樹」「シュマリ」「一輝まんだら」そしてこの「アドルフに告ぐ」、さらに戦後を描く作品なら「どついたれ」「奇子」「MW」と、幕末から昭和史までを手塚作品で辿ってみるのも一興です。

この作品の掲載誌はマンガ雑誌ではなく、総合週刊誌の「週刊文春」でした。さらに、編集長からの「徹底的にシリアスな大河ドラマを」という求めに応じて描かれたということもあって、手塚治虫の青年マンガ作品の中でも、ひときわシリアスでハードな社会派ドラマとなっています。

日本での舞台は、手塚治虫が少年期を過ごした戦前・戦中の関西地方を中心に描かれていて、当時の神戸の雰囲気がよく描かれているところも注目すべき部分です。

連載中に体調をこわして入院するなどしたために、後半はエピソードが大幅にカットされ、単行本化のときに描き加えられました。

アドルフ・カウフマン

アドルフ・カミル

主な登場人物

アドルフ・カウフマン

アドルフ・カミル

アドルフ・カウフマン

ドイツ人外交官と日本人女性を両親にもつ少年。お坊ちゃんらしい性格で内気だが、気の強いユダヤ人のアドルフ・カミルにたびたび助けられ親友になる。父やその部下にAHSに強制的に入学させられ、ドイツに送られ、ナチズムに染められてしまう。

アドルフ・カミル

神戸市内にあるパン屋の息子。ユダヤ人。大人たちがヒットラーの出生の秘密について話しているところを盗み聞きしてしまい、秘密を巡る陰謀に巻き込まれてしまう。

峠草平

峠草平

協合通信に在籍する記者で、ベルリンオリンピックの取材で訪独中に、ドイツ留学中だった勲が何者かに殺害され、その死の秘密を探るうちに、ヒットラーの出生の秘密を証拠立てる文書に行き着き、ゲシュタポに追われる身となる。ドイツ語と英語が堪能で、W大学陸上部の元選手。持久走が得意。
>キャラクター/峠草平

峠草平

米山

絹子(本多幸)

米山

兵庫県警捜査一課長。御殿山山中で見つかった芸者・絹子の殺人事件を担当していた。捜査中、ドイツ人外交官・ヴォルフガング・カウフマン(アドルフ・カウフマンの父)に疑いを持つ。

絹子(本多幸)

有馬温泉「芳菊」という置屋の芸妓。

由季江・カウフマン→峠由季江

小城典子

由季江・カウフマン→峠由季江

アドルフ・カウフマンの母。馬術がきっかけでヴォルフガングと知り合い、結婚する。絹子殺しの事件をきっかけに、夫に不信を抱くようになる。特高に追われていた峠草平と偶然に知り合った後、彼を気にかけ、たびたびその身の上を救っている。

小城典子

神戸の小学校の教諭。アドルフ・カミルの先生でもある。反戦詩を書いていることから特高に目を付けられてしまう。峠勲からヒットラーに関する秘密文書を託された。

本多

本多芳男

本多

憲兵隊の大佐。由季江とは昔馴染みで、由季江を慕っていたこともある。由季江の頼みで、けがを負ったまま特高につかまった峠草平を助けたが、峠が由季江に近づくことはよく思っていない。

本多芳男

本多大佐の息子。軍人としての将来が嘱望されていたが、ソ連のスパイ・ゾルゲに父親を通じて日本軍の機密情報を漏らしていた。

赤羽

峠勲

赤羽

特高の警部。小城典子と峠草平が「アカ」ではないか、と疑い、秘密文書を付け狙っていた。峠を追う途中に脳に外傷を追い、痴呆状態になりながらもしぶとく生き延びていた。
>キャラクター/ハムエッグ

峠勲

峠草平の弟。ベルリン留学中にヒットラーの出生の秘密を証明する文書を手に入れ、ナチスの転覆を企てていたが、ゲシュタポに殺されてしまう。熱心なナチス支持者のローザと恋仲だった。

アドルフ・ヒットラー

アドルフ・ヒットラー

ナチス・ドイツ総統。「劇場型国家」を作り上げ、ユダヤ人を迫害・虐殺するなどの政策をとった独裁者。本作ではユダヤ人の父を持ち、そのことを証明する、母がしたためた手紙などの文書が残されているという設定。元は建築家を志したが、学生の頃苦労をしたため、資本家のユダヤ人を憎んでいる。猜疑心が強く激しやすい性格で、アーリア人以外の民族を異常にさげすみ、忌み嫌う。

アドルフ・ヒットラー

ローザ・ランプ

アセチレン・ランプ

ローザ・ランプ

アセチレン・ランプの娘。峠草平にはリンダ・ウェーバーという偽名を名乗る。峠勲と恋仲だったが、ナチスに勲の動きを密告していた。

アセチレン・ランプ

ゲシュタポの極東諜報部長。峠勲が秘密文書を握っていることをつかみ、勲の死の謎を追っていた草平を捕まえ、拷問にかける。冷徹で執念深い性格で、日本まで草平を追ってきた。
>キャラクター/アセチレン・ランプ

手塚治虫が語る
「アドルフに告ぐ」

空襲下の関西

ゾルゲ

(前略)
最初僕が考えていたのはショートショート的なものだったんです。ところが、編集長が僕に期待するのは、シリアスな大河ものだというんですね。そのとき、思いつくままいくつかあげたアイディアのなかで、僕の青春の象徴でもある神戸の街を舞台にしたいなあということをチラっと言ったんですね。そしたら、それがいいということで急遽決まったんです。

戦前から戦中の関西、特に空襲下の関西というのはあまり本に書かれていないんですね。そこで、戦争中の僕の思い出話でも描きましょうかということになったんですが、それだけではどうも薄味で、いま一つ腹ごたえがないから、そこにメインディッシュをもってこなくてはならない、そこでヒットラーの話をからませる。それに、僕はゾルゲが非常に描きたかったんで、尾崎秀樹さんにご相談したところ、現在ゾルゲの評価はどんどん変わっていて、本質的なものが解明されるにはまだ時間がかかるということだったんです。初めは、ゾルゲとその時代ということで、ゾルゲを主人公に考えていたものが、後では、その時代を中心にすることで落ち着いたわけです。その前のヒットラー、それに神戸の空襲、この三つを結びつけて構想をたてたわけです。

ごく大筋は、三人のアドルフのうち二人は戦後生き残って、最後に戦わせようというふうに思っていました。

青春小説の場合、子どもから始めるとどうしても少年漫画にみられてしまうから、はじめから大人を主役に、色模様があって、ある程度のスリルとサスペンスにとんだ人物を狂言回しとして峠草平を登場させ、スタートは、セミドキュメンタリックなミステリーでいこうと、だんだんかたまってきました。連載の三か月ぐらい前に話があったんで、僕としては十分すぎるぐらいの時間はありました。
(後略)

(講談社刊 手塚治虫漫画全集『アドルフに告ぐ』5巻 あとがきにかえて より抜粋 初出:1986年4月号 中学教育「著者に聞く」)

空襲下の関西

ゾルゲ

文藝春秋社 週刊文春 連載時 扉絵

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  • アドルフに告ぐ (1)
  • アドルフに告ぐ (2)
  • アドルフに告ぐ (3)
  • アドルフに告ぐ (4)
  • アドルフに告ぐ (5)

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