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ドラマイズム『アポロの歌』 二宮健監督×MBS上浦プロデューサー×手塚プロダクションライセンス部湯本 鼎談 その5

2025/03/18

218日から放送開始のドラマ『アポロの歌』。髙石あかりさん、佐藤勝利さんのダブル主演の本作は、タイトルの通り手塚治虫が1970年に『少年キング』に連載したマンガ『アポロの歌』を原作としています。

 手塚治虫の大ファンという映画監督・脚本家の二宮健さんを監督に迎え、全7話のドラマとして制作された本作は、どのような哲学の元に作られたのか。

監督、担当プロデューサー、手塚プロダクション翻案担当者の三人が話します。

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プロフィール

二宮健

映画監督、脚本家。大学の卒業制作『SLUM-POLIS(2015)が、第23回レインダンス映画祭 に正式出品されて全国で劇場公開される。2017年、『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』 で商業映画デビュー。2019年、岡崎京子原作の『チワワちゃん』が公開。2022年の『真夜中乙女戦争』では、第26回プチョン国際ファンタスティック映画祭にて最優秀アジア映画賞を受賞。そのほかの監督作品に『疑惑とダンス』(2019)、『とんかつDJアゲ太郎』(2020)、 『Sleepless/米国音楽』(2023)など。また、映画監督同士が声を掛け合ってオーガナイズされる映画上映企画『SHINPA』の代表を務める。『アポロの歌』では監督、脚本を手掛ける。

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第5回 現代的なコンプライアンスと1970年代の表現について

湯本:『アポロの歌』は発表当時に有害図書指定も受けています。また、1970年代の発表当時には許されているけれども今は難しいと感じる表現もあります。今回の映像化にあたって今の価値観に合わせるために、一番気を使われた点はどこですか?

上浦:一番にジェンダー観ですね。今この時代にドラマ化する上で、プロデューサーとしてはここが一番気をつけるべきと思っていました。はじめに読んだときには、まずこの作品は男女が自己犠牲を乗り越えた先に生まれる生命への讃歌とも読めると思ったんです。1ページ目から精子と卵子のメタファーの描写が始まって、命というのはこれを何度も繰り返して生まれる尊いものである、という。手塚さんも当時、ある程度はそう考えていらっしゃったかもしれません。

 ただ、2025年の現代で、愛というものが子供を産むことに必ず結びつくものだとは私個人も思っていないですし、もしいま、手塚さんが生きていらっしゃったらまた違った表現をされたと思います。単純に、この作品が描かれたのは1970年ですので、当然、今とは感覚が違います。現代で愛を描く上で、万が一、愛というものが生命や、子孫繁栄、子供を産むこと、精子と卵子の結びつきであると捉えたドラマだと見えてしまったら、手塚さんが描かれた本当のテーマが伝わらず、まったく本末転倒だなと思うんです。

 近石昭吾という一人の人間において言うと、そこにテーマはなくて、むしろ愛が生命を生むという点では諦観にあふれた作品だと思っていたので。

湯本:特に女性は、一元的に読んでしまうと反発を覚えるかもしれませんね。

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上浦:そこはすごく感じました。理想的な母親像というか、母親と息子という存在に対する強烈な思いも感じましたね。

 今回、そういったジェンダー観から抜け出した愛の形を模索したかったですし、それは特に合成人間編で表現できていると思います。

二宮:いまの上浦さんのお話は、2025年にこの作品を届けるための配慮だと思います。改めて立ち返りたいのはこの作品が1970年の青年誌である『少年キング』で連載されたということだと思っているんです。

 手塚治虫さんのライトモチーフの中にはメタモルフォーゼや倒錯的なもの、常識の範疇を越えたいびつな存在が立ち現れるというイメージは常にあったので、手塚さんのなかでも男女のジェンダーに関する、当時の規範的な考えには、そもそもあまり関心がなかったのではないかと思うんです。男女がそれぞれこうあるべき、ということは一様に語られることではないというのは、彼の中ではじめからインプットされていることだったと思います。ただ、これが1970年代当時の社会に訴えかける装置として、男女というものが設定されているだけだ、と僕は解釈しているんです。今でこそ結婚に対して自由でいられることとか、独身でいるライフスタイルもあって当然と言うムードは、当時はほとんどなかったはずで、結婚はするものだし、結婚したら女性は家庭に入るのがあたりまえ、という世間に対してひとまず施された設定に過ぎない、という。

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 では、なんで僕が『アポロの歌』に感動するかというと、手塚さんが言いたかったことが「男女の愛」だけにとどまらなかったところなんです。

 当時の愛をテーマにした作品の多くが、愛をうたうようなものばかりだったと思うんですよ。僕は、「愛って自由じゃないよね」というのは、すごく進歩的な考え方だと思うんです。

 ところが『アポロの歌』においては昭吾は誰かと愛しあったら死ぬという罰を与られる。それは永遠に、人が滅びるまで続きます、というんです。そのうえ、近石昭吾はそれを受け入れてしまいます。

 実はこの運命は、人間全員が背負っているものでもあります。愛は美しいだけのものではなく、時にどうしようもなく苦しいものでもあるということを、この時代にすでに描き切っている。そこに僕はすごく感動したんです。

 ただ、「アポロの歌」で描かなかったのは、ひろみの主体性なんですよ。ひろみが近石昭吾の都合で動く人という印象が強い。第1話で登場するエリーゼや、シグマ女王はすごく勇敢だったり、主体性を感じさせるキャラクターですが。

 ドラマの『アポロの歌』では、ひろみが近石昭吾と同じぐらいの強さとエネルギーで旅をしているんだ、ということを現代で語り直す上で必ず描きたかったです。二人の関係性がちゃんとフラットになることで、愛が関係性に縛られる不自由なものである、というテーマがより強固になるんじゃないかな、と思って。

 でも、僕は関係性に縛られていて、不自由で傷つけあうものだとしても......それでも愛は人間にとって不可欠な力だ というのはひとつ自分の主張としてこのドラマに残したかったことでもあります。

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上浦:合成人間のパートをあきらめずに入れ続けたのは、性別を超えた、生殖器を備えていない人ならざるものに対しても、昭吾が自分を犠牲にするほどの愛を感じていくというところに、一元的な考え方からすこし解放されたように感じたからかもしれません。

次回につづく


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↑原作マンガはこちら!↑

ドラマイズム「アポロの歌」
2025/2/18(火)初回放送スタート 
MBS:2/18(火)より毎週火曜24:59-
TBS:2/18(火)より毎週火曜25:28-

公式HP
https://www.mbs.jp/apollonouta/

公式SNS
公式X(旧Twitter):@dramaism2_mbs
公式Instagram:@dramaism2_mbs
公式TikTok:@drama_mbs
公式タグ:#アポロの歌 #ドラマイズム

配信
TVer、MBS動画イズムで見逃し配信1週間あり

Ⓒ「アポロの歌」製作委員会・MBS


コラムバックナンバー

ドラマイズム『アポロの歌』 二宮健監督×MBS上浦プロデューサー×手塚プロダクションライセンス部湯本 鼎談

1回 『アポロの歌』とは近石昭吾のパーソナルな物語である

2回 手塚治虫のカジュアルなエンタメ性

3回 手塚治虫と「非難」の歴史

4回 手塚治虫は「活動家」である


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