2月18日から放送開始のドラマ『アポロの歌』。髙石あかりさん、佐藤勝利さんのダブル主演の本作は、タイトルの通り手塚治虫が1970年に『少年キング』に連載したマンガ『アポロの歌』を原作としています。
手塚治虫の大ファンという映画監督・脚本家の二宮健さんを監督に迎え、全7話のドラマとして制作された本作は、どのような哲学の元に作られたのか。
監督、担当プロデューサー、手塚プロダクション翻案担当者の三人が話します。
プロフィール
二宮健
映画監督、脚本家。大学の卒業制作『SLUM-POLIS』(2015)が、第23回レインダンス映画祭 に正式出品されて全国で劇場公開される。2017年、『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』 で商業映画デビュー。2019年、岡崎京子原作の『チワワちゃん』が公開。2022年の『真夜中乙女戦争』では、第26回プチョン国際ファンタスティック映画祭にて最優秀アジア映画賞を受賞。そのほかの監督作品に『疑惑とダンス』(2019)、『とんかつDJアゲ太郎』(2020)、 『Sleepless/米国音楽』(2023)など。また、映画監督同士が声を掛け合ってオーガナイズされる映画上映企画『SHINPA』の代表を務める。『アポロの歌』では監督、脚本を手掛ける。
湯本:手塚治虫自身が、わりと世間から非難されてきた人なんですよ。今でこそマンガの神様とか文科省推薦みたいなイメージがあると思うんですけど、もちろん現役の時も大御所で周りからはリスペクトされていたのですが、デビュー直後マンガ家の先輩たちから絵が下手で迷惑だ、と言われているんです。昔のマンガ家さん達の認識だと、絵画の勉強をしていないと駄目みたいで基本がなってないとか言われたそうです。でも、読者の人気が出てくると先輩たちも黙ってくる。すると今度は売れすぎて、1950年代ごろ、親の目の敵になる。子供に悪影響を与える、悪書追放だといってマンガを焚書する。その槍玉に挙げられていたのが手塚治虫です。さらには劇画の台頭とともに時代遅れの烙印を押される。私が知りうる限りでも、なんだ、手塚って非難されっぱなしじゃないか、と。
もしあの当時、いまみたいにSNSなんかあったらボロボロになっていたかもしれないですよ。ですから非難を恐れなくていいと思います。お二人が熱い気持ちで作ってくださった作品も、いろいろな意見が出ると思います。私たち手塚プロの人間も、手塚マンガの翻案作品を世に出す度色々な批判をいただききます。手塚治虫もそういうものを浴びてきたので。手塚自身も語っていますが、健全な批判は大いにいただききたいと。
二宮監督はご自身でも手塚治虫の大ファンですが、翻案作品についてはどのようにとらえていますか?
二宮:たとえば僕以外の方が「アポロの歌」を実写化するとしたら、純粋に悔しいと思うでしょうね(笑)。僕は、毎回手塚さんの実写化が発表されるたびにへこんでますので(笑)。それこそ(高橋)一生さんにも、「『ブラック・ジャック』には嫉妬しましたよ!」って言いましたし。
今回の『アポロの歌』は、手塚さんの強いファンの皆さんに認めてもらうことが目標ではないんです。もちろん手塚さんについて造詣が深い方に僕の作ったものがポジティブに受け止められて、それを論じてもらえれればうれしいと思うんですけれども、それよりもやっぱり、このドラマがなかったら『アポロの歌』を手に取ることがなかった方たちが、原作を手に取ることのほうが、僕にとっては意義深いことだと思っていて。
実は僕、手塚さんはマンガの神様と呼ばれているとは思うんですけど、手塚さんが大事にされていた価値観や哲学というのは、絶妙に今の日本の漫画には受け継がれていないではないか、と思っているんですよ。
湯本:それはどういうことですか?
二宮:医師だったというバックボーンがあったせいか、手塚さんの中には実は、「人は大きなことは成し遂げることができない」というような哲学があるんですよ。人は人にあらざるとてつもない大きなものの力によって淘汰されてゆく、という哲学がどの作品にも通底していて、どのキャラクターも、人間にはどうすることもできない悲劇について嘆くんです。
僕は手塚作品のそここそが好きなんですよ。でも、ただペシミスティックなまま終わるんじゃなくて、彼らなりの悟りや感動はあるんです。ただ究極的にはみんな、何もできない。僕が『ジャングル大帝』を読んだときに感じた、ことごとく残酷な目にあう、という感想の根源は、そこにあると思うんです。
ところが日本のマンガの歴史のどこかで、そういう手塚さんが唱えた哲学に対するカウンターが発生したのか、いまのメジャーにあるマンガには、「いや、できるんだ」みたいな楽観主義がある。みんなで団結すればなんだってできる、という強敵や困難に打ち克つことの感動が物語の中心にある。
手塚さんはみんなで団結しても何もできない、と言っているわけではないです。人間が何をやったって、その先には人間の力では立ち向かえないものがあることを必ず物語の中で語り、そこから目をそらしてはいけないんだ、ということを訴えているんだと思うんですよね。今のマンガの多くは、産業的な要請からそういう無力感に目を向けない範囲で物語を終わらせたがっている。でも僕はたまに、そこに疲れちゃうことがあって。だからこそ、手塚さんが人間は無力であるという哲学を描かれていたということを、マンガの神様とまで呼ばれている人が、いまのマンガの主流にある哲学とは、ある意味で真逆のものを描き続けていた、ということを、ただ知ってほしいんですよね。
湯本:手塚マンガの読後感は、いい意味で気持ち悪いんですよね。「とんでもないものを読んじゃったよ」というような。かなりの作品において、「これはこういうことでした」とか「これが正しいです」という断定はしてくれない。そうすると「え、これは考えなきゃいけないの?」ってなって。
上浦:『アポロの歌』という物語が問題として向き合っているのって、実はごくパーソナルな、半径一メートルの範囲の世界なんですよね。壮大な物語の中で変化したものは、「業を背負った男が、他者のために働くこと」にすぎないのですが、それが昭吾の中ではその変化こそが大スペクタクルだった、と。
人間としての業そのものを解消することはできなくても、自分個人のありようを良い方向に変えることはできる、というのは、この作品の美しいところだと思います。
二宮:原作では、榎先生が最後に昭吾に「きみはなおったな......!!」と呼びかけるセリフがありますよね。昭吾が成し遂げる、他者を想うようになるという成長は、本人にとっては大きな一歩のようでも、傍から見たらすごいささやかな一歩なんですよね。
湯本:壮大な悲劇も描かれてはいるけれども、実はごく小さな成長の物語としての救いもあると。
次回につづく
ドラマイズム「アポロの歌」
2025/2/18(火)初回放送スタート
MBS:2/18(火)より毎週火曜24:59-
TBS:2/18(火)より毎週火曜25:28-
公式HP
https://www.mbs.jp/apollonouta/
公式SNS
公式X(旧Twitter):@dramaism2_mbs
公式Instagram:@dramaism2_mbs
公式TikTok:@drama_mbs
公式タグ:#アポロの歌 #ドラマイズム
配信
TVer、MBS動画イズムで見逃し配信1週間あり
Ⓒ「アポロの歌」製作委員会・MBS
ドラマイズム『アポロの歌』 二宮健監督×MBS上浦プロデューサー×手塚プロダクションライセンス部湯本 鼎談
『アポロの歌』MBS/TBS ドラマイズム枠にて実写ドラマ化決定!!