そのやさしい作風や、日本を代表するキャラクター「アンパンマン」の生みの親として、幅広い世代に愛されているやなせたかしさん。そのやなせさんの作品を見られるミュージアム「やなせたかし記念館」が高知県・香美市にあります。そちらで現在開催中の「やなせたかしとアラビアンナイト展」に、手塚治虫から依頼されてやなせさんがキャラクター・デザインを手がけた大人向けアニメ(アニメラマ)『千夜一夜物語』の貴重な資料が展示されています。
この企画展は夏休み期間の9月14日まで開催していますので、これはぜひ、見ておきたいところです!
今月の虫ん坊では、香美市立やなせたかし記念館のスタッフの方から、展覧会の見どころなどをご紹介していただきました!
チケットプレゼントもありますよ!!
・ 香美市立やなせたかし記念館 公式サイト
・ 高知県にて「やなせたかしとアラビアンナイト展」開催
企画展開催中の「香美市立やなせたかし記念館」の入場チケットを5組10名様にプレゼント!応募方法は以下の通り。
●募集期間:
2015年8月1日〜10日
●応募方法:
メールにて、本文に「お名前」「ご住所」「当選通知用メールアドレス」を明記して、メールにてご応募ください。
応募メールアドレス:tezukaosamu-net-guide@tezuka.co.jp
※当選された方にはメールでお知らせ後、ご連絡の住所あてに発送させていただきます。
ふるってご応募ください!
Q:長年、アラビアンナイト(千夜一夜物語)をモチーフに作品を描き続けてこられたというやなせたかしさん。やなせさんのアラビアンナイト作品は、どんなところが魅力的なのでしょうか?
A:やなせたかしは、アラビアンナイトを“空想文学の最高峰”と称しました。「この黄金の書三十巻は魅力と幻想に充満していて、たとえば自分の生涯をついやしてもその全貌を知ることはできず、不滅の空想文学として、これをこえるものはない」と賞賛しています。
また、あまり一般的ではない「ハッサン・アル・バスリの冒険」(編注:主人公ハッサンが、バーラムという男から奪った魔法の太鼓を使ってさまざまな冒険をする物語。美女との出会いや、エロティックなモチーフも盛り込まれており、少し大人向けのお話)を、子ども向けに改変し自身の編集した子ども向けの詩とイラストの雑誌『いちごえほん』で「やなせたかしの新アラビアンナイト」として発表しており、そんなところにも「千夜一夜物語」に対する作者の深い造形とこだわりを感じます。
原作の冒険譚としてのエッセンスにどちらか一方が倒れるともう一方も倒れてしまうというやなせイズムを織り込んだ、夢と冒険と空想の物語は現在の子どもたちにも読んでもらいたいお話です。
Q:今回の企画展「やなせたかしとアラビアンナイト展」の一番の見どころ、目玉の展示を教えてください。
A:当館初公開の《シェエラザード》です。この作品は、リムスキー=コルサコフの交響組曲『シェエラザード』に収録するカセットテープ文庫のためのイラストとして描かれました。この楽曲は、バレエやフィギュアスケートの人気演目でもあるため、ご存知の方も多いと思います。 主人公シェエラザードは、女性に失望した殺人王に千一夜にわたってアラビアンナイトの説話を語るヒロインです。やなせは、「もし話が面白くなければ即座に殺されてしまうため面白さに生命をかけるシェエラザードは、現代の漫画家にも似ている」と語っています。
シェエラザードのオリエンタルな美しさや、抑えた色調で描かれた挿絵の数々をぜひ原画でご覧ください。
Q:やなせ先生がアラビアンナイトをテーマにした作品を描かれ始めたのはいつごろからだったのでしょうか? 手塚治虫が「千夜一夜物語」のキャラクター・デザインを頼んだのは、そういったお仕事を見てのことだったのでしょうか? それとも、まったくの偶然だったのでしょうか?
A:映画の制作が始まる1967年以前の創作物は確認されていません。そのため映画「千夜一夜物語」が、やなせがアラビアンナイトをモチーフとして手がけた初めての作品です。
抜擢された理由は、虫プロは鉄腕アトムのイメージが強く、スタッフも子供アニメのキャラクターに馴れているので、キャラクターは大人漫画の人選した結果、当時大人向け漫画の分野で活躍していたやなせにオファーがありました。
手塚氏からのオファーの電話について自伝の中で次のように著しています。
「もしもし、やなせさん、手塚治虫です」
「あ、どうも」
「実はね、今度虫プロで長篇アニメをつくることになったんですよ」
「はあ、大変ですね」
「それで、やなせさんにキャラクター・デザインをお願いしたいんです。ひきうけていただけますか」
「いいですよ」
「それじゃね」
(『アンパンマンの遺書』(フレーベル館)より)
やなせとしては青天の霹靂、ほとんど交流がなかった手塚氏からの電話を受けたときの気持ちを、「魔法のジュータンに乗らないかとさそわれたような気がした。」と語っています。
仕事を引き受けたやなせは、主人公の《アルディン》からバグダットの街の人々まで、たくさんのキャラクターをデザインしましたが、アラビアンナイトの世界を空想してデザインしたため、衣装のほとんどは史実の資料にあたらずターバンの巻き方すらやなせ流です。
この映画に携わったことが、やなせの仕事の3つのターニングポイントになります。
一つ目は、子ども向けの作品への進出です。「千夜一夜物語」の大ヒットを受けて、やなせは手塚氏から、虫プロでアニメ映画を制作しないかと提案を受けます。そこでラジオ作品として既に発表していた『やさしいライオン』をアニメにしました。この映画は毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞します。この出来事がきっかけとなり、のちにアンパンマンを出版するフレーベル館とのつながりが出来ました。
二つ目は、キャラクター・デザインです。やなせは2000年代になって多くの自治体や企業にキャラクター・デザインを提供していますが、今作が氏のキャラクター・デザインの始まりともいえます。
三つ目は、手塚氏との交流が生まれたことです。このことは手塚氏が「漫画家の絵本の会」に参加したきっかけにもなったのではないでしょうか。「漫画家の絵本の会」は絵本が好きな漫画家の集いで、毎年展覧会を開いていました。この活動を通して、やなせは絵本の分野でも活躍していた漫画家たちから絵本創作を学んだのです。
Q:今回の企画展でしか見られない、貴重な作品もいくつか展示されるものと思いますが、中でもなにか面白いエピソードがある作品がありましたら、教えてください。
A:児童文学作品「新アラビアンナイト」シリーズは、今展が初公開となります。
この作品は子ども向けの詩と絵と童話の雑誌『いちごえほん』にて1978年から1980年の2年間にわたって連載した雑誌連載版を、単行本にするにあたり絵と文章をすべて新たに書き直して出版したシリーズです。雑誌版も単行本版もストーリーはほとんど同じですが、すべて描き直しているところに、作品への作者のなみなみならぬ情熱を感じます。
加えて単行本版では3作目の『魔城の怪人』が新たに書き下ろされており、1作目の「地上の国」、2作目の「地底の国」、3作目の「天空の国」と3つの世界が舞台となっています。
物語は、やなせの著書のシリーズのひとつである「いねむりおじさん」に登場する「ぼくくん」が、「ハッサン」という名のアラビアの少年になって、アラビアンナイトのさまざまな説話の世界を冒険するというストーリーです。冒頭とラストに描かれる「ぼくくん」と「いねむりおじさん」の会話がアラビアンナイトの「シェエラザード」の物語と同様の枠物語になっています。
Q:やなせ先生の作品を見るときに、「こんなところに注目するとよりいっそう面白いよ!」という点がありましたら教えてください。何しろどんな人にも好さがわかる先生の作品ですので、あえて「通好み」の見方があるのかどうか、というと、難しいかもしれませんが…
A:やなせ作品に共通するものは「繰り返し描く」ということです。代表作である「アンパンマン」も例外ではなく、大人向けのメルヘンとして雑誌に連載したり、子ども向けの絵本として出版したりと何度もおなじキャラクターを使って創作しました。
「新アラビアンナイト」シリーズも、雑誌で連載していたものを、イラストの構成と文章を変更して発表しています。また『新アラビアンナイト・魔城の怪人』では、アニメ「千一夜物語」でやなせがキャラクター・デザインを手がけた女盗賊「マーディア」が火の魔神として、盗賊のお頭「カマーキム」が魔城の怪人になって再登場しています。
Q:「詩とメルヘン絵本館」「アンパンマンミュージアム」そのほかやなせ先生ゆかりの地で、どこかおすすめ(あるいは、個人的にお気に入りの)場所などはありますか?
A:やなせたかし記念館から車で10分ほどのところに、「やなせたかし朴ノ木(ほおのき)公園」があります。ここはやなせ先生のご生家のあった場所で、やなせ先生と奥様の暢(のぶ)夫人のお墓があり、誰でもお参りしていただけます。
やなせ氏のアイディアで、アンパンマンとバイキンマンの石像がお墓に対して斜めに建ちアンパンマンミュージアムの方向を向いています。ミュージアムにお寄りになった際にはぜひお参りください。
Q:また、常設で展示されている作品で、「初めて訪れるんだったらぜひこれは見てください!」という展示物がありましたら、教えてください。
A:アンパンマンミュージアムでは「顔をあげるアンパンマン」をぜひご覧ください。この作品は、足を滑らせ、暗い谷底に落ちて泣いていたうさぎのピョンきちに、飛んできたアンパンマンが「さあ、ぼくの顔をあげる。食べてごらん。元気がでるよ」と自分の顔をちぎってあげている場面が描かれています。
アンパンマンの正義は「おなかをすかせた人に食べ物を差し出すこと」です。これだけが唯一、逆転しない正義であり、自分が傷つくことなしに誰かを助けることはできないというやなせの思いが描かれています。
アラビアンナイト展の開催期間中は、アンパンマンミュージアム「やなせたかしギャラリー」に展示されています。
Q:高知・香美市を訪れる県外の皆さんにお勧めしたい「地元おすすめスポット」もしくは「おすすめお土産・グルメ」ありましたら教えてください!
A:記念館のある香美市香北町は山間部にあります。ミュージアムの正面にある道の駅で販売している、香美市の名産品「しいたけ」や「しょうが」はサイズがとても大きいので、お土産にすると面白いと思います。
同じく、道の駅の食堂では地元のお米としいたけを使った「しいたけ丼」が食べられます。
他にも「朴ノ木公園」の先にある古民家カフェ「おーちょ」も、おすすめです。
観光は、当館から車で30分程のところに、「龍河洞」という鍾乳洞があります。やなせデザインのキャラクター「龍河洞リューくん」にも会えるかもしれません。
ぜひ観光してみてください。
Q:来館される方へメッセージありましたらお願いします。
A:やなせたかしは、アンパンマンの発表と同時期の1970年代から20年間の間に、アラビアンナイトをモチーフに7作品を手がけました。残念ながらこれらの作品の中には原画や資料が失われてしまったものもあります。また出版物としても絶版となっていることから、長らく人の目に触れる機会がありませんでした。
そのため今展はやなせたかしの「アラビアンナイト」作品を一堂に会する初めての展覧会となります。
晩年まで精力的に仕事を続けたやなせは、ライフワークであった小学生向けの新聞連載の題材を「千夜一夜物語」で構想していました。この企画は「千話描くまでに生きているかわからない」という作家自身の判断により、他の題材になりましたが、やなせを長きにわたって惹きつけたアラビアンナイトの魅力とは一体なんなのでしょうか。
今展で一堂に会した 5作品の“やなせたかし版”「アラビアンナイト」の世界からぜひ発見してください。
ありがとうございました!
夏休みには、ほかにもたくさん、手塚治虫に関連するイベントが、全国各地で開催中です! ぜひ訪れてみてください!
・横浜にて 企画展「手塚・石ノ森 ヒーローズ」開催
・福井市美術館にて巡回展「手塚治虫展」開催
・手塚治虫の「昆虫標本」実物展示@東京スカイツリー
・「『描く!』マンガ展」に、手塚治虫作品も展示されます。