オールカラーハードカバー版の発売から、『ユニコ』関連ではさまざまな企画が予定されています。
今回は、ヴィレッジヴァンガードとコラボして企画されたグッズをご紹介。
デザインを手がけた、UNNON 安藤悟史さんにインタビューしました。
——ファッションブランド「UNNON」について、改めていろいろ、教えてください。ファッションブランドでありながら、画家や編集者、映像作家などの多彩な才能が在籍しているということですが、設立されたきっかけは何だったのでしょうか?
UNNON 安藤悟史さん(以下、安藤):もともと、僕の周りにはイラストレーターや画家といった広い意味での絵描きや、編集者、映像作家の友人がいたんです。そのころはファッションに他業種がメインで構成するブランドというのがあまりなかったので、面白そうかな、と思いやってみることになりました。
最近では、さまざまな業種の方がブランドを持っていますが、そのころはまだ少なかったんですよ。
——異質な才能が集まっていることで、何か良かったことなどはありましたか?
安藤:服のデザイン以外の仕事も受けられるというところは、よいところだと思います。展示会のお仕事などもいろいろ受けましたし、そういうときに、枠にとらわれない発想ができるというのは、いいところかもしれません。
ただ、そのせいか議論が紛糾して、なかなか案がまとまらないということもありましたね。立ち上げ当初の商品は、Tシャツがたった3型で。デザインの良しあし以上にコンセプトにこだわりがあるんです。
たとえば、「Made in China」と書かれたTシャツをきっちり日本製でつくる、とかそういった感じです。
——ユーモアがありますね。でも、たった3つじゃ売り込みも大変なのでは。
安藤:とにかく数百近いセレクトショップに毎日電話をかけまくりました。でも、30店ばかりは「おもしろいね」と乗ってくれたんで、あんがいやれるんじゃないかな、と。
——お電話だけで、「買います」という話に?
安藤:お電話でコンセプトを説明して、その後、デザイン案などをメールでお送りするのですが、中には話だけで「買った」と言ってくれる方もいましたね。(笑
——ほかにも、UNNONならではの作品を教えてください。
安藤:そうですね…。何年も前に話しになるんですが、スワロフスキーの展示会では、スワロフスキーのビーズをつかって、何か作る、というお題が与えられたのですが、まあ、普通に考えたら手に収まるようなものに装飾としてつける、というような発想になると思うんですが、僕らは、2メートルくらいの怪物をつくちゃおっか…みたいな(笑
——アクセサリーや実用品ではなく。
安藤:とにかく、僕らとしてはいちばん目立ったろう精神で行きました。その怪物は、プラモデルの部品を使って作ろう、という話しになりまして、プラモデルといえば、ということでバンダイに電話しまして、「不良品とか、いらないプラモデルはないですか?」と飛び込みで訊いてみました。
——かなりの行動力ですね。
安藤:コンセプトなども、お電話で説明しただけなんですが、ご担当者が面白がってくれて、やがてプラモデルがたくさん送られてきたんです。僕が見たことのある中で一番大きな段ボールに入って、4つほど宅配便で届きました。その商品が不良品かどうかは結局確認しなかったんですけれども…。
制作にあたっては、ラフイメージをメンバーと共有しながら、作り上げるのは当時、画家の佃弘樹くんにお任せしました。
かれは今では、こういう手法を確立して、いろいろな作品を作っているようです。僕も、その後バンダイとはよい関係ができて、仕事もするようになりました。
他には、これまた何年か前ですがBURTONの展示会では、スキー関連のブランドということで、大きなイエティを作りました。その時は漫画家の横山裕一さんに造形会社のアレグロという会社を紹介してもらって、電話したら、そこの社長と話すことになって。
予算は限られていたのですが、その予算内でできるところまでならやるよ、と言ってくださって、造形のプロフェッショナルの職人さんをつけていただきました。2週間ぐらい毎日会社に通って、朝礼も出ました。
かなりサイズが大きいものだったので、ラフなベースまでを作っていただいて、あとは僕が布を貼ったりして細部を整えて、作り上げました。懐かしいですね(笑
——電話で難関突破されるケースが多いんですね。
——手塚治虫作品に関するお仕事は、実ははじめてじゃないんですよね。
安藤:そうですね。GAS AS INTERFACE のTEZUKA OSAMU BY GAS BOOKという企画に参加しています。
——「鉄腕アトム」と「アラバスター」をテーマに作品を作られていましたね。
安藤:「鉄腕アトム」も「アラバスター」も、自分で選んだキャラクターや作品じゃなかったと思うのですが、読んでみて強烈な印象はありました。特に「アラバスター」は、透明人間の少女にひどいことを——スプレーやペンキを塗りたくったり、強姦したり、——するストーリーには衝撃を受けました。
手塚治虫作品というと、平和・戦争・差別・命みたいなイメージがありましたので。しかも、手塚先生ご自身でも「気に入っていない」みたいなことをどこかで書かれていますよね。
——「アラバスター」はちょうど、手塚治虫も虫プロ倒産などの逆境に遭っていたころの作品で、暗黒部分が出てしまったのかもしれません。
安藤:それはあるでしょうね。でも、普通に思いつかないほどのエグさなんですよ! 他の作品でも、手塚マンガには残酷な描写があるものもありますが、それらはまだ理解ができるんです。「アラバスター」の残酷さは、ちょっと理解を超えていましたね。
ちょうどそのころ友人に聞いた、「Wet & Messy」というセクシャルで変なフェチの世界なんですが、美術の観点からも面白いなと思ってたところで、「アラバスター」のテーマの作品は、「ペンキを塗りたくる」というイメージを膨らませたものになりました。
手塚先生にも、隠れた変態性があったのかな。いずれにせよ、あの時代にやってた、というのは凄いですよね。
——初めて読んだ手塚作品は何でしたか? 印象に残っている作品は?
安藤:マンガはだいたい、連載で読むのが好きだったので、単行本はあまり買ってなかったんですよ。それが、小学5年生くらいのときに、本屋で見つけた『アドルフに告ぐ』になんか心惹かれて、買ったのを覚えています。
四十六判のハードカバーで、表紙がかっこいいんですよね。
——横山明さんの油絵の表紙のものですね。手塚治虫が「この人に」と特別に指名された方だった、とか。読んでみての感想はどうでしたか?(編注:この単行本のお話は、過去、虫ん坊2012年11月号でもご紹介しています)
安藤:当時のことなのでもう記憶もおぼろげなのですが、とにかくシリアスで、ちょっと難しいな、という印象はありました。でも、読み通して、友達にはすすめまくりましたね。誰も読んでくれなかったけど。
しばらくいろんな友達にすすめてたのですが、中学2年のころにようやく一人、借りてくれた子がいたんですよ。でも、貸したまま、返してくれなくって。ですから『アドルフに告ぐ』についてはそのころ読んだきりですね。
家には全く漫画の単行本というものがなくて。『アドルフに告ぐ』が初めて安藤家に持ちこまれたマンガだったんです。僕の父は普通の会社員でしたが、そのあたりは厳格で、マンガを買ってくれるような人ではなかったので。
——奥様が東村アキコさんですし、マンガの世界にも近いところにいらっしゃいますね。
安藤:そうですね、仕事場にもよく行きますし、色んな漫画をおしえてもらったりもします。今の漫画も、もちろんすごく面白いですが、まわりがあまり読まないような少し古めの作品に惹かれたりもします。
最近では、トーンの会社のICスクリーンさんと正式にライセンス契約を結んで、服の柄に使わせていただく、ということを始めました。スクリーントーンってもちろんライセンスフリーなんですけど、オフィシャルにこだわりまして。きっかけは、夜景のトーンをモチーフに使って総柄をつくったことがあったんですけど、それが大変人気だったんですよね。その時は契約などもなく、作ったんですが、コンセプトをちゃんとお話ししたら、けっこうおもしろがってもらえたんです。トーンを使うのに許諾も何もいらないし、ただなんですけれども、ここはちゃんとオフィシャルでやろう、ということになりました。最近はマンガ家の方の作業環境がデジタルに移行していて、するとトーンを貼るのもデジタル上で一発じゃないですか。
手書きマンガの味わいにはデジタルにない良さがありますよね、うちの家内の作品にしてもすごくいいなぁと思いますし。デジタルへのアンチテーゼ、というふうな意味合いも少しあります。無理矢理とってつけた感じですけど(笑
——今回、デザインをUNNONで受けて頂くことになったのは、やはり『GASBOOK』の流れだったのでしょうか。
安藤:いいえ、それがそうではなくて。このあたりは、長谷川さんからお話いただいたほうがよいかもしれません。
株式会社インドア 長谷川史郎さん(以下、長谷川):僕は、グッズの企画・製造から販売までを手掛けているのですが、突然ヴィレッジヴァンガード下北沢店の中野さんから、ヴィレッジ限定で『ユニコ』の原画のテイストを生かして商品を作ってくれないか? と話をいただいたんです。そこで、原画を生かしたデザインができる方が必要と思ったとき、まず一番に安藤さんが思い浮かんで。実は、『GASBOOK』のこともその時は知らなかったんです。お仕事をお願いした後で知りました。
——長谷川さんと安藤さんは、もうずいぶん長いことお仕事を一緒にされているのでしょうか?
長谷川:いえ。まだ1年くらいですかね…。でも、この案件を面白がってくれるかなと思ったので「明日手塚プロダクションと打ち合わせなんですけれど、来れませんか?」とお願いしてしまいました。気持ちが乗ってもらえれば、とても話が早い方だと思ってましたので。
——商品はTシャツやトートバックといったファッションアイテムのほか、クッションやアートパネルも作られるんですね。デザインを作る際に気を付けたことはありますか?
安藤:長谷川さんも言ったように、原画を生かす、という点には気を付けました。特に、布などにプリントすると、布の地色などの影響がでますので。絵柄は、ヴィレッジヴァンガードの担当者で、ものすごい『ユニコ』が大好きな女性がいたので、彼女に選んでもらっています。
——一番気に入っているデザインはなんですか?
安藤:やっぱり、キービジュアルを使ったものがいちばん気に入っています。キャラクターもかわいいし、絵の描き込みも多いですよね。点数もいろいろ作りました。
——最後に、グッズを楽しみにしている皆さんに、何か一言お願いします。
安藤:今回のグッズを手に取る皆さんは、原作を読んだことがないような方もおおくいらっしゃると思います。グッズで「かわいいな」「いいな」と思ったら是非、原作にも手を伸ばしてみてください!
——ありがとうございました!