今年は戦後70周年にあたり、、8月15日には終戦記念日を迎えます。
今月のオススメデゴンスは、手塚治虫が歴史ではなく現実に戦争を体験した者として描き上げた数々の作品の中から、短編「モンモン山が泣いてるよ」をご紹介します。(『タイガーブックス』4巻収録)
自身の少年時代を投影したいじめられっ子の主人公。その前に現れた蛇神社の白ヘビと名のる青年。青年との交流を通し、少年は少しずつ強くなって行きます。
次々と青年が予言した言葉が現実になって行く中、年月が経ち、少年は大人に。
再び故郷の土を踏み、当時は聞こえなかった紋紋山(もんもんやま)の泣き声に思うことは何か。
非常に読後感のある深い作品となっています。
昭和54年1月号の『月刊少年ジャンプ』に掲載された読み切り作品。
数ある自伝的作品の中でも、「紙の砦」と並んで特に代表的な一編で、手塚治虫の少年時代を舞台に、反戦と自然破壊への警告がえがかれている。
なお、作中に登場する「蛇神社」は兵庫県宝塚市に実在する神社で、平成7年の阪神・淡路大震災で倒壊したが、有志により平成12年に再建されている。
この「モンモン山が泣いてるよ」は、手塚治虫の故郷への想いが色濃く出ている、非常にノスタルジックな短編作品です。
昭和11年の秋。小学4年生のシゲル(手塚治虫がモデル)は、チビで弱虫のため学校でよくからかわれ、いじめられていました。特に、ポプラの柄を引っ張り合う「ポプラ相撲」では、むりやり強い相手と勝負させられて、毎日のように連戦連敗。
そんなある日、シゲルは紋紋山(もんもんやま)に新しいポプラを拾いに行った時、不思議な雰囲気を持った青年に出会います。その青年は「自分には蛇神社の主・白ヘビが乗り移っている」といい、色々とシゲルに力を貸してくれるようになります。
しかし、シゲルが町の中学に通い始めた頃には、この平和な田舎町にも戦争の足音が聞こえ始め、やがて青年も戦場へ送られるのでした。
この青年が、本当にヘビにとりつかれた人間だったのか、手塚治虫はハッキリと描写する事を避けました。実は、この青年は反戦主義者で、思想犯として官憲から睨まれないよう「ヘビつき」として振舞っている…とも読めますが、このあたりのボンヤリとした扱いが、この作品にファンタジー性を付加する効果を生み出しています。
しかし、この作品のテーマである「反戦」「自然破壊への警告」は実に明確で、少々ストレートすぎるのでは、と思えるほどです。自分の故郷が、戦争や開発などで切り崩されていく悲しさを、手塚治虫はラストの一コマにハッキリと込めています。
この深い余韻を残すラストを読んで、あなたはどう感じるか。読んだ後も、手塚治虫が作中に込めたメッセージについて、じっくりと考えてもらいたい作品です。