手塚治虫の作品を雑誌に初めて掲載されたものとほぼ同じ形で読むことが出来るようにする復刻出版が相次いでいます。4月下旬には、『鉄腕アトム《オリジナル版》復刻大全集』のユニット7(別巻)も発売されます。
すでにニュースコーナーでご紹介のとおり、満を持して、手塚治虫のライフワークとも言えるあの『火の鳥』が、同じように、各初出掲載雑誌のバージョンで復刻刊行されることになりました。
"黎明編"のプロトタイプ版が掲載された『漫画少年』から、『少女クラブ』、『COM』、『マンガ少年』、『野性時代』と、足掛け35年、五誌にわたって連載されたこの大河作品を、掲載当時と同じ画面の大きさとフルカラーで再現、当時の読者ときわめて近い気持ちで読むことが出来る決定版『火の鳥《オリジナル版》復刻大全集』が、ついに今年6月から発売になります! 虫ん坊では、企画・編集を手がける、復刊ドットコム
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火の鳥《オリジナル版》復刻大全集全12巻、発売決定!!
以前、『ぼくのそんごくう』の復刻の際にも、虫ん坊のインタビューに答えていただいた森さん。2006年から実に5年ぶりにお話を伺うことになりました。
参考: 2006年8月掲載 ☆虫ん坊INTERVIEW☆
http://tezukaosamu.net/jp/dir/mushi/200608/topix01.html
「僕が手塚治虫作品の復刻系書籍にかかわり始めたのは、『手塚治虫美女画集 Romanesque』からですから、2002年からです。それ以降、『リボンの騎士 少女クラブ オールカラー完全版』(04年)など、年に一作のペースで、手塚プロの
昨年までジェネオン エンタテインメントにお勤めだった森さん。10年前にご自身で立ち上げた出版事業では、手塚作品をはじめ数々のヒットにも恵まれたのですが、もともと同社がビデオソフト会社であることからの限界もあり、将来的な出版継続への想いを断ちがたく、今の復刊ドットコムに移られました。制作中だった『鉄腕アトム オリジナル版』シリーズも、商品の性格上、最後まで同じスタッフでの共同作業が必須だったため、各方面と調整の末、ユニット4からは復刊ドットコムからの発売となったそうです。
「雑誌『少年』版の『鉄腕アトム』を、本誌と別冊ふろく、全部そのままの判型と仕様で復刻したい、というのは僕の長年の願望でした。おかげさまで無事に6ユニット完結できたのですが、それでもまだ、『アトム今昔物語』などの傑作群が収録できておらず、続刊を望む声も大変多かったので、別巻ユニット7を4月に出すことになりました。そして、今回の『火の鳥』全話復刻。これはもう、作品の質も分量も、復刻系としては最大級のプロジェクトと言えるのではないかと思います。うち(復刊ドットコム)には復刊リクエストという独自のシステムがあるんですが、『火の鳥』オリジナル版の復刻は、ファンの皆さんから常にトップクラスの票を集めていた、待望の企画でもあるんです」
壮大なスケールのSF作品、『火の鳥』。日本という国がまだ生まれない大昔から、1000年以上先の未来まで、さまざまな時代を舞台に、不死鳥・火の鳥という不思議な存在を狂言回しに、生命や宇宙の神秘を描く作品。いままでもさまざまな形で単行本化されてきましたが、どんなところが今までの『火の鳥』の単行本と違うのでしょうか?
「雑誌掲載当時のオリジナル版にこだわり、3つのポリシーに沿って制作しています。
まずは、やはり内容ですね。雑誌に掲載されたバージョンの『火の鳥』全話を、可能な限り初出に忠実に収録します。ストーリー的内容の再現はもちろんですが、実は、各話の扉絵がコンプリート収録される単行本は、今回が初めてなんですよ。
次に、初出時の雑誌と同じサイズであること。『COM』などの雑誌は、B5判という大きさで、普通の漫画の単行本のほぼ倍の大きさです。今回は、そのB5判フルサイズで単行本化します。『火の鳥』という作品は、なんといっても素粒子の世界から銀河系の果てまで、あるいは古代から超未来まで、時空をこえて展開する壮大なドラマですから、この大きさで読まないと、本来のスケール感と迫力が味わえないと僕は思っています。
三つめに、扉も含めて、初出でカラーだったページは、4色なら4色、2色なら2色と、すべてカラーのまま収録します。初出バージョン・初出原寸大・フルカラー。基本的に、『鉄腕アトム 復刻大全集』と同じポリシーと思っていただければと。
加えて、愛蔵版としてぜひ長年お手元に置いていただきたく、保存性を考えて、ハードカバー上製、箱入りの仕様としました。初版完全限定でもあり、何度も出し直すタイプの本ではないと思うので、仕様についてはこだわりたいところでした」
これこそ決定版『火の鳥』、という意気込みで挑み、本文の紙質や造本、装丁部分にいたるまで、こだわりぬいた本にしたいとのこと。雑誌版ではザラ紙に掲載されていた作品も、長年保存しても劣化しにくい紙に印刷し、ハードカバー、箱入りの美本になるそうです。
また、一番大変なコストがかかるのは、
「お値段をみて、高いなぁ…と感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこれでも、最低限までコストを抑える努力をしています。印刷所も制作スタッフも、目に見えないところで、膨大な時間や手間をかけていますので、そこをご理解いただければうれしいです」
原版を製版して、印刷された校正刷りを、1ページずつ丁寧にチェック。赤ボールペンで、細かく修正指示を入れていきます。デジタル・リマスタリング、というと、オートマチックに作業が出来るかといえばとんでもない、
「なにぶん、原版が数10年前の雑誌ですから、劣化が著しいんです。アトムの時は、1ユニットあたり、赤ボールペンを3本、使い果たすほどの指示を入れました。常に時間との戦いで、あまりに速くペンを動かすせいか、
また、ゴミやヨゴレのほかにも、経年劣化で問題になるのは、カラーページの黄ばみや
「たとえば、この絵は『望郷編』のワンシーンですが、青空の部分を、もっと鮮やかな濃い青色に塗ってしまう、というわけには絶対にいきません。経年劣化の状態を経験などから逆算し、作者が意図した色にできるだけ近づけるようにします。何冊も経験をつんでいくと、原版にどのぐらいの劣化が起こっているか、元の色はどういった色なのかが、ほぼ分かってくるようになります。
こうした修正については、さまざまな意見があり、たしかにサジ加減が難しいです。劣化したままでもいいじゃないという極論もあるかとは思いますが、僕は、雑誌を買って初めて開いたときに近い気持ちを味わっていただきたい、そしてそれを、長い時間に耐える形に定着保存させたいと考えて、適正な範囲で、できる限りのリマスタリングを行うようにしています。映画の世界でいう、フィルム・レストア、フィルム・アーカイブの発想ですね。ともあれ、まずは作品の世界観とストーリーに読者が抵抗なく入っていっていただけるような状態にして、できるだけ読みやすく、と願っています。
手塚作品は全般にそうですが、特に『火の鳥』は、画面効果の比重が大きいというか、絵が非常に大事なんですよね。あの絵のもたらす感動を届けられるように、がんばっていきたいです」
画像のクオリティ部分はさることながら、やはり気になるのは、内容です。具体的に収録内容について伺いましょう。
「端的に言いますと、長らく読めなかった雑誌初出版がついに読める、ということに尽きます。ですからこのシリーズは、〈復刻〉と銘打ちながらも、実際には、〈初刊行〉の新刊なんですよ。
手塚先生は、作品を単行本にまとめる際に自ら再編集を加えられる、というのは、ファンの方ならよくご存知ですよね。そういう意味では、これまでの単行本版もむろんひとつの作品です。でも、初出の雑誌がきわめて手に入りにくく、読みにくくなっている今、『初めはどんな内容だったのかな?』ってすごく気になる人もいると思うんですよ。雑誌で楽しみに読んでいた人にとっては、ご自身のノスタルジーもあるでしょうし、初めて読む人には、単行本版とはまた別のバージョンとして楽しみ、『なるほど、こんな話だったのか!』と驚いてほしいと思います」
いくつか、極めつけのシーンを教えていただきました。
「たとえば、この、お茶の水博士と猿田のツー・ショット。『太陽編』の1ページなのですが、お茶の水博士は猿田の兄、ということになっています。単行本版には、そんな設定もシーンもありません。『火の鳥』には『アトム編』が構想されていた、という説もありますが、ある意味で、それを裏付けるシーンですよね」
内容については、単行本で差し替えられたセリフなども、可能な限り元のままにしています。
「現代の社会にそぐわないセリフや表現を最小限修正したり、文字のカケやカスレなどを直す以外、基本的に手は加えていません。手塚先生は、掲載当時の時事ネタギャグなど、社会の状況にあわせてどんどん変えてゆく方でしたが、そういう改変については、雑誌初出版のほうで収録していきます。
また、発表時の諸事情でまったく違う内容に描き直されたエピソードや、単行本収録時に全面的に描き換えられたエピソードなどもありますが、それらは手塚プロさんの許可をいただき、未完の作品も含めて、初出のスタイルで収録されることになりました」
もちろん、編集や原版の収集については、手塚プロダクション資料室も協力、監修しています。
「『火の鳥』の切抜きを、この迅速さと完璧さで集められるのは、手塚プロの森晴路資料室長と、協力者の方々がいらっしゃるおかげと、いつも大変感謝しています。森さんと仕事の合間に漫画の話をしていると、いつも、時間がいくらあっても足りないんですよ。手塚作品に限らず、あれこれ漫画談義をするんですけど、本当に凄い知識と漫画愛、そして独特のクールな平衡感覚をお持ちの方です。お互い名字が同じというのは、ちょっとやりにくい時もありますけど(笑)」
ちなみに、各巻の詳しい構成は下記のとおり。
関連リンク: http://tezukaosamu.net/jp/news/n_641.html
連載時の手塚治虫による記事、エッセイ、イラストなども収録予定とのこと。決定版の名にふさわしい内容になりそうです!
映像系の仕事を長くしながら、漫画ファンとしても筋金入りの森さんが『火の鳥』に出会ったのは、中学1年の時。虫プロ商事発行の単行本で「未来編」を始めて読んだ時の衝撃と感動は、今でも忘れられないそうです。
「いわゆるヒーローものとして親しんでいたアトムを別にすれば、手塚先生といえば『火の鳥』、という気持ちが強くありました。もちろん、『落盤』などの名短編や、『アドルフに告ぐ』『人間昆虫記』とか好きな作品はいっぱいあるんですが、総合的にはやっぱり『火の鳥』……それも特に、最初に読んだ『未来編』が、自分の中ではオールタイム漫画作品の3指に入るくらい好きなんです。でも今読み返すと、どの編も、それぞれ個性があって素晴らしい。今回、全話復刻に着手することが出来て、本当にうれしいですね」
全12巻セットは98,700円(税込)。セット購入の場合、特典もつきますが、もちろん1冊ずつお求めいただくことも出来ます、とのこと。
「ご自分のお好きなエピソードの一冊からでも、ぜひ手に取ってみていただければ。配本スケジュールは2011年6月から毎月一冊ずつ、丸一年かけての刊行になります。これから長丁場ですが、一冊ずつ丁寧に作っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
お話ありがとうございました!
<関連リンク>
復刊ドットコム
http://www.fukkan.com/
火の鳥 <<オリジナル版>> 復刻大全集 全12巻 販売ページ
http://www.fukkan.com/fk/CartSearchDetail?i_no=68319289&tr=tb
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