映画「手塚治虫のブッダ -赤い砂漠よ!美しく-」の公開まで、あと約1ヶ月! 待ち遠しい中、一足早く、展覧会などで「ブッダ」に会えるイベントが続々と開催されています。
4月26日から、上野の東京国立博物館で開催される特別展「手塚治虫のブッダ」展は、日本の博物館では初の試みで、なんと漫画と仏像が同一展示会場に展示される、というユニークな展覧会です。
最近では、若い人にも増えているという仏像ファンからも、漫画ファンからも楽しみな展覧会です!
虫ん坊ではこの展覧会を企画された、東京国立博物館 学芸企画部長
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東京国立博物館で「手塚治虫のブッダ展」開催!
「仏像と漫画、トーハクでまさかの共演!」
というキャッチフレーズが印象的なポスターが今、都内のいろいろな場所に貼り出されています。東京国立博物館のみならず、博物館の展覧会で漫画と仏像がコラボするのは、日本では実は始めての試み、ということ。いったい、どんな展示内容になるのでしょうか?
そもそも、こんなユニークな展覧会が企画されたきっかけは?
「手塚治虫の『ブッダ』が映画化されるにあたり、それを記念した展覧会を、ということで、今回の映画の配給をされている東映の担当者からご連絡をいただき、共同事業として開催することになりました。
とはいえ、歴史・美術系の博物館として、文化財を皆さんにお見せすることを大切にしなければ、という東京国立博物館の立場から、どのようなことが出来るだろうか? と考えてみたところ、手塚治虫の原作・映画ともに主人公となるブッダその人に焦点を当て、仏像と一緒に展示して、「ブッダの生涯」を描き出すのが良いであろう、とひらめいたのです」
展示の構成は、手塚治虫の『ブッダ』の各場面の原画の展示を縦軸に、仏像や仏教美術品などの文化財が、それぞれのシーンに対応させるように並べていく、とのこと。そのような展示のスタイルをとることで、『ブッダ』のストーリーの概略を追いながら、さまざまな貴重な仏像を見ることができます。
「手塚治虫は、『ブッダ』を伝記として描きましたが、やはり特別な存在として、聖なるイメージを付加して描かれています。この絵(※図版)のような、背景に
「展示されている作品をそれぞれ見てみると、一口に『仏像』といっても、実にさまざまな表現があることに、お気づきいただけると思います。時代も、作られた地域も違う作品ですから、顔の表情も、着ている服、さらにはポーズももちろんぜんぜん、違います。仏像それぞれがもつストーリーを想像しながら見ていくのも、面白いですよ」
でも、やはり『仏像』というと、なんだか難しいイメージがあるなあ…… という方もいらっしゃるかも知れません。
「いえいえ、そんなことはありません。私たちも、見ている方々が『仏像』というものをわれわれの世界から
たとえば、手塚治虫の『ブッダ』だって、宗教的な信仰の対象である“仏”とはどんな存在か? を説明する作品です。そういった視点では、『ブッダ』だって、“仏像”のひとつなのです。手塚治虫は漫画家だったので、ストーリーで“仏”を表現されましたし、形としては漫画という出版物として扱われています。この展覧会で並ぶ仏像たちも、“仏”を表現した、という側面では、漫画『ブッダ』と同じものだ、といえると思います。
長い歴史を経て、また、優れた美術作品として扱われているものですが、もしかしたら、この仏像が作られた当時の人々は、漫画『ブッダ』を見るのと同じような気持ちで、像と向き合ったりしていたようなこともあったかも知れません」
展示物の中には、ブッダの生涯の物語のシーンの各場面が彫られているレリーフなどもあります。よく見てみると、彫りだされている各場面が、それぞれ時間の異なるシーンを彫ってあったり、または、天上の世界と、地上の世界を上下に分けて彫ってあったり… 今の漫画やアニメーションにも通じる表現もみつけることが出来ます。そんなちょっとした発見も、今回の展覧会を楽しむポイントの一つです。
仏像と漫画を同じ展覧会で展示していく、という試みははじめて、とのことですが、そのことで戸惑いやご苦労などはあったのでしょうか?
「先ほど申し上げたように、今回の展示では、手塚治虫の『ブッダ』の各場面と仏像を並べて展示していきますので、ある漫画の場面に対応する仏像を選ぶところで、ずいぶん頭を悩ませました。なにしろ、選択肢が膨大にあるところから選びますからね。さて、そうして「このシーンにはこの像」と、組み合わせて並べてみると、もちろんそれぞれ異なる作家の作品ですから、必ずしも一対一にはなりません。そこをどう見る方にご理解いただくか? が工夫のしどころだと思っています。なぜ、この仏像を選んだのか? を説明し、こちらの意図を伝えたうえで、ユニークな視点を持たせていきたいと思っています。
あと、実はもっとこんなぴったりの像があるんだけど、海外の遠くの美術館に収蔵されていて……などの悩みはやはり出てきます。そんな中、一番いい形を探っていくのが、難しいところですね。おそらく、展覧会を開いたあとも、ああしておけばよかったとか、あれこれ思い悩むと思います」
漫画原稿を東京国立博物館で、というアイディア自体は、思いのほか、反対もほとんどなく受け入れられたそうです。
「普通の展覧会でも、テーマを決めてから4、5年は検討を重ねていくものですが、今回はたったの半年で実現しました。140年の歴史をもち、日本で一番古くからある東京国立博物館で初めての試みとして、エポックメイキングでもあるわけです。実は私は、もう少し抵抗の声がでるかな? と気を揉んでいたのですが、皆『面白いね、やろうか!』ということになったのです。
これも手塚治虫作品が、国内のみならず、海外でも高く評価され、浸透しているからでしょうね」
そんな展覧会のみどころは、ブッダの一生の4つのハイライトといえる、「
四大事跡とは、ブッダの産まれたシーン「誕生」、出家を決意するシーン「出家」、悟りを得、ブッダと成った後の姿を現す「
「手塚治虫の作品でも、ブッダ誕生の瞬間に動物たちが集まってくるシーンや、出家した後、厳しい修行に明け暮れたために骨と皮ばかりになってしまったシッダルタ王子、悟りを開いた瞬間のシーンなど、「四大事跡」に対応するシーンが描かれています。この四大事跡に関する展示は、文化財もすばらしい表現のものがたくさんありますので、これらをじっくり見てさえいただければ、他を見る時間がなくても大丈夫なくらいです」
博物館学芸員って、どんな仕事なのでしょうか? 毎月のように全国各地で開かれる展覧会の展示物のディスプレイやご案内の文章など、総合的にプロデュースする仕事もそのひとつ。
「展覧会では、そのような展示物をどう見せるか、が学芸員の腕の見せ所です。
たとえば、二つのものを並べるとしても、どれぐらい離すか? ガラスケースにはひとつずついれるのか、いくつかまとめていれるのか? 光はどうあてるか? 展示の順番は? などなど、いろいろな方法があります。同じテーマで、同じ作品を取り扱っても、学芸員の考え方ひとつで、無限の表現の可能性があります。学芸員も、ひとつの展覧会を作っていく、表現していくという意味で言えば、芸術家でもある、という自負をもって取り組んでいます」
いっぽうで、文化財などの事物を保管、収蔵したりという仕事も、重要な仕事です。どんな心構えが必要なのでしょうか?
「学芸員は、広い意味で事物を扱う仕事です。事物そのものが好きで、大切にしたい、という心を持っていることが一番重要だと思っています。展覧会を主催する仕事は、確かに非常に大きな仕事ですが、私たちの仕事のひとつの側面でしかありません。展覧会は、皆さんにじかにすばらしいものを見ていただき、その価値や大切にしたい、という気持ちを伝えていくために欠かすことの出来ない要素ですが、今よりもっと未来に、——百年、千年先へ伝えるために保存をしてゆくことも同じぐらい大切なことです。
プライベートの時間も常に仕事について、考えをめぐらせてしまうぐらい、忙しいし、大変ではありますが、その博物館のテーマにまつわるものが好きであれば、とてもやりがいのある、一生をかけるに足る仕事だと思っています」
なるほど、千年先まで見据えた視点が重要なのですね! 考えてみれば、文化財も千年以上昔から、そういう方々の手で伝えられてきたんですよね。
東京・浅草のお生まれで、なぜだか子供のころから、古いものが好きだった、とおっしゃる松本さん。学芸員を目指されたのも、そんな文化財たちのそばにいられる! という一念からでした。ご専門は中国美術、仏教美術とのことですが、同時に、昔から漫画に親しんでいらっしゃったということです。
「男の子ばかりの3人兄弟の末っ子で、当時としては珍しかったのですが、家では『少年マガジン』や『少年サンデー』といった週刊誌を、創刊からずっと取り寄せていました。
そんな中でもちろん、『ジャングル大帝』や『鉄腕アトム』などの手塚作品にも触れていました」
奥様も漫画・アニメ好きで、『ブッダ』も潮出版の希望コミックスで読んでいました、とのこと。
「私は漫画に娯楽を求めるので、読んだ当時は、ちょっと硬い作品だな、と思ったんです。今改めて読み返してみると、また違った印象で、すばらしい作品だなあ、と思いましたが」
では、一番好きな作品は?
「実は『リボンの騎士』が一番大好きなんです。あまりこんな話は、聞かれないししないんだけれども(笑)」
それでは、インタビューの最後に、この展覧会を見に来る方々へなにかメッセージがありましたら、お願いします。
「仏教という宗教が誕生して、長い時間がたっています。長い歴史の中で、いろいろな人がいろいろな形で『ブッダとは?』と考えてきたのです。ずっとこうして考えてきたのに、人々が『ブッダ』という存在に求めるものは、実はいまも同じだったりするんですよね。手塚治虫の作品をヒントとして、いろいろな歴史上のブッダ観を見せながら、人間の本質を問う、というテーマが、今回の展覧会の最終的なねらいとなっています。
現代は、混乱した、閉塞感のある時代ですが、手塚治虫も含め、先人たちが残したさまざまな「ブッダ」像を通して、人間というものがどういうものなのか? そのすばらしさを感じていただければと思います。
展覧会を見ることで、あなた自身の『ブッダ』を見つけてください!」
十人十色、いろいろなブッダ像を思い浮かべて、一緒に見に行った人と語ってみるも良し、感想をお寄せいただくも良し。虫ん坊投稿でも、見に行った感想がありましたら、ぜひ投稿してみてください!
東京国立博物館にも、アンケートコーナーがありますので、そちらもどうぞ。
松本さん、お忙しい中、ありがとうございました!
プレゼント
今回ご紹介した、「手塚治虫のブッダ」展チケットを、
5組10名様にプレゼント!!
当選者には折り返しメールにてご連絡させていただきます!
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<関連リンク>
特別展「手塚治虫のブッダ展」 特設WEBサイト
http://www.budda-tezuka.com/
東京国立博物館
http://www.tnm.jp/
<関連情報>
「ブッダ」の原作情報はマンガwikiで!
映画「ブッダ」のアニメ情報はアニメwikiで!
映画『手塚治虫のブッダ -赤い砂漠よ!美しく-』公式サイト