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潮出版社 「ブッダ」10巻 表紙用イラスト 1980年

ストーリー

独自の解釈で描かれた、手塚治虫版ブッダ伝です。

シッダルタは、ヒマラヤ山脈のふもとカピラヴァストウで、シャカ族の王・スッドーダナの長男として生まれました。けれども、生後7日目に母マーヤと死にわかれ、叔母のパジャーパティに育てられました。

その後、16歳でヤショダラと結婚し、一子ラーフラをもうけますが、人生の根底にひそむ生老病死の問題について考えるようになり、29歳のとき、すべてをなげうって出家します。

やがてピッパラの樹の下で悟りを開き、以後、ブッダ(サンスクリット語で目ざめた人という意味)と名乗って、インド各地をめぐる説法の旅を続けるのでした。

解説

1972/09-1983/12 「希望の友」-「少年ワールド」-「コミックトム」(潮出版社) 連載

「火の鳥」にも輪廻転生をテーマにした「鳳凰編」、因果応報をテーマとした「宇宙編」「異形編」などで、手塚治虫が独自に到達した生命や宇宙の哲学の片鱗を感じることができ、それらは日本の歴史を下敷きにしていることもあり大いに仏教的なニュアンスを感じさせます。

この「ブッダ」では仏伝を相当調べ込み、その東洋的な哲学を、それこそ少年少女にもわかりやすい、感動あり、アクションあり、冒険ありの大河ドラマにしたてています。

連載開始当時、手塚担当だった『希望の友』編集者・竹尾修氏によれば、プロローグで古代インドの社会のカースト制度や人間の差別意識を踏まえた社会背景を書いてほしい、と要望を出したそうですが、それは第1部のチャプラとタッタの悲劇のエピソードによって、見事に描き出されています。

スードラ(奴隷階級)の苦しみをうったえるチャプラ

『火の鳥』と同じ、人間の生と死をテーマとした長編作品です。

『火の鳥』を連載していた雑誌「COM」が休刊したあと、雑誌「希望の友」から『火の鳥』の連載を続けないかという申し出がありました。しかし「希望の友」は少年雑誌で読者年齢が「COM」より低かったため、『火の鳥』の連載はあきらめ、新たに構想したのが『ブッダ』でした。

その後、「希望の友」は「少年ワールド」、「コミックトム」と誌名を変えイメージチェンジを繰り返しましたが、『ブッダ』の連載は続けられました。

主人公・シッダルタの周囲を固める人物の多くは架空の人物で、さらに実在の人物にも大胆な脚色が加えられています。

チャプラ

タッタ

主な登場人物

チャプラ

タッタ

チャプラ

スードラ階級の少年。荷物運びの役目をしている途中でバリアの集団に襲撃され、タッタと知り合う。コーサラ国の将軍をワニから助けたことで出世の機会を得るが、のちにスードラ階級だということが分かり、コーサラ国の兵士に殺された。

タッタ

コーサラ国の兵士に家族を殺された少年。スードラよりも虐げられているというバリア出身。商隊から盗みをしながら生きていた。幼いころには動物の心の中に入るという能力を持っていて、虎や馬などに意識を移して操ることができた。大人になってからはコーサラ国への恨みから敵国のマガダ国の兵士として仕官する。
>キャラクター/タッタ

チャプラの母

ブダイ将軍

チャプラの母

優しい気質のスードラ階級の女性。息子チャプラを優しく見守る。チャプラと親友となったタッタにとっても、母親がわりのような存在。チャプラとともにコーサラ国の兵士に殺される。

ブダイ将軍

コーサラ国の将軍。ワニに襲われそうになったところを救ってくれたチャプラを、スードラとは知らずに養子に迎える。
>キャラクター/猿田

アシタ

ナラダッタ

アシタ

ブッダが生まれることを予言した仙人。多くの弟子を従えている。ウサギが身を捨てて修行者を助けた謎を解く人物こそが、世界の王となるべき偉大な人である、と考えており、弟子のひとりのナラダッタに、南の方角に出現する不思議な力を持つ人物を見つけてくるように命じた。

ナラダッタ

アシタの弟子のひとり。不思議な力を持つ人物を探して旅に出た途中で、動物に自在に心を移せるというタッタと出会い、ひょっとするとタッタこそがその偉大な人物なのではないか、と行動を共にするようになる。

シッダルタ(ブッダ)

シッダルタ(ブッダ)

仏教の始祖。カピラバストウの王子として生まれたが、生まれつき体が弱かったが、小さいころから聡明で物静かな性格で、死んだらどうなるのかを考えたり、畑で鷲に捕らわれた小鳥に心を移したりと、非凡さを見せる。病や死の苦しみに早くから気づき、それらから逃れるにはどのようにしたら良いかを知るために出家し、サモンとなる。様々な人や事件に出会い、修行を重ねてブッダ(目覚めた人)となり、インド全土に自らの教えを説き広めていく。
>キャラクター/ブッダ

シッダルタ(ブッダ)

デーパ

ミゲーラ

デーパ

元クシャトリアの若者。修行中のサモン。シッダルタと出会い、サモンの心得を教える。苦行林で一時、シッダルタと考え方の違いからものわかれになるが、ブッダとなったシッダルタに命を救われたことで和解し、ブッダの弟子となった。

ミゲーラ

シッダルタがタッタに誘われて一時王宮から家出をしたときに知り合った盗賊の女首領。スードラ階級の出身だが、シッダルタと相思相愛の恋に落ちてしまう。そのため目を焼かれ、野に追放される。
>キャラクター/ミゲーラ

ヤタラ

ビドーダバ(ルリ王子)

ヤタラ

スードラ階級の男。両親を象に踏みつぶされて亡くした。父には薬剤の知識があり、彼の開発した薬を飲んで育った結果、人並み外れた巨人に成長してしまう。コーサラ国に戦士として雇われる。

ビドーダバ(ルリ王子)

コーサラ国の王子。彼を生んだカピラバストゥ出身の女性は、クシャトリアと偽って遣わされたスードラの女性だったことから、実の母親を奴隷小屋に追放する。冷徹だが知的な性格で、建前の前で自らの情をも殺せる人物。のちにコーサラ国の王となり、カピラバストゥに侵攻し、これを滅ぼした。

ダイバダッタ

アナンダ

ダイバダッタ

シッダルタが出家した後、一時カピラバストゥの王となったバンダカの息子。バンダカの死後母親に育てられたが、父親がいないために貴族の子弟からいじめられていた。幼いころから自分のためになら手段を択ばないところがあり、子どもばかりでピクニックに出かけた先で暴れゾウに襲われて洞窟に閉じ込められた際には、仲間を殺してでも水を奪うほどの残忍性を見せる。ナラダッタの弟子として、動物の摂理を学び、力こそがすべてだ、という信念を持つにいたる。
>キャラクター/ダイバダッタ

アナンダ

バンダカの寡婦の再婚相手の子どもで、ダイバダッタの異父弟。両親が小島で遭難した際に「この子だけは助けてほしい」とマーラ(悪魔)に子供をささげたため、悪魔が常にその身の上を守っていた。長じて盗賊となり、盗みや殺人を重ねてきたが、司直に追われている間にブッダと出会い、その思想にふれて改心し、弟子となる。弟子となってからもブッダはなにかと目を掛け、アナンダをマーラの誘惑から守った。ブッダの晩年には一番信頼される弟子として、その最後の旅のお供をする。

手塚治虫が語る「ブッダ」

本文 原稿より

(前略)
「ブッダ」は先にのべたように、ほとんどがフィクションで、正確な仏典の漫画化ではありません。ですから、釈尊伝の正しい解説をのぞんだ方々からはかなり反発がありました。しかし、釈尊伝をただ映像にしただけのものなら、だれでもできるし、また、そんなにおもしろいものにはならないでしょう。それに釈尊の生涯だって、いろいろ諸説があって、あいまいな部分が多いのです。

ここにくわしくフィクションの部分を指摘する余裕はありませんが、たとえば登場人物の中で、主役クラスのチャプラ、タッタ、ミゲーラ、バンダカ、それにナラダッタなどは、まったく仏典には登場しない架空のキャラクターです。片目のデーパ、ブダイ将軍、アッサジ、ヤタラ、ヴィサーカー、スカンダ隊長なども同じです。また仏典にある人物でも、すっかりキャラクターを変えてしまったものに、アナンダ、ダイバダッタ(デーヴァダッタ)、アジャセ、パセーナディ王、アングリマーラ(アヒンサー)、それと五人のピクなどがあります。

それらをのぞいて、仏典そのままの部分を量的に見ると、ほんのわずかになってしまって、これではまるで釈尊伝にはならないでしょう。かんじんのお釈迦様の思想や教えも手塚流にかえてしまっていますので、その点でも問題になりそうです。つまり、この作品はお釈迦様の伝記をかりた、まったくのフィクションといえるでしょう。
(後略)

(講談社刊 手塚治虫漫画全集『ブッダ』14巻 あとがきより抜粋)

本文 原稿より

潮出版社 希望の友 連載時 扉絵 1973年

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