講談社 「リボンの騎士」1巻 口絵 1954年
男の子と女の子ふたつの心を持ったサファイヤ姫が、リボンの騎士として活躍するファンタジーです。
サファイヤは、天使チンクのいたずらのせいで、男の子の心と女の子の心を、両方持って生まれました。さらに彼女は、国王のあとつぎとなるために生まれたときから王子として育てられる運命をせおっていたのです。
ところが、自分の息子を王位につけたいと考えている家臣のジュラルミン大公は、サファイヤが女であることを証明しようとして、さまざまな悪だくみをくわだてるのでした。
1953/01-1956/01 「少女クラブ」(講談社) 連載
キャラクターやストーリーが著名なのはのちのリメイク版、「なかよし版」のほうですが、原点となっている作品はやはりこちら。
タカラジェンヌから着想を得たというサファイヤは、男勝りながらも気品があります。ストーリーのメインはサファイヤとフランツ王子の恋愛かもしれませんが、サファイヤと母の王妃、プラスチックとジュラルミン大公、ヘケートとメフィストフェレスという、親が子を想う気持ちがストーリーの重要なキー・ワードになっていることも見逃せません。
その後、『双子の騎士』ではサファイヤも騎士たちの母となります。
あま色の髪の少女に変装したサファイアとフランツ王子
講談社 「リボンの騎士」1巻 表紙用イラスト 1954年
日本のストーリー少女漫画の第1号です。
少年時代を宝塚で過ごした手塚治虫が、宝塚歌劇の雰囲気を少女マンガに置き換えて描いたファンタジーで、その後の少女マンガに大きな影響をあたえました。目の中にキラキラと輝く星を描く表現方法などもそのひとつです。
毎回、3色3ページ、と2色4ページのカラー構成で好評を博しましたが、こうした色彩や画面構成は、1952年に日本公開された映画「ホフマン物語」の影響を大きく受けています。
『リボンの騎士』は、その後、3度リメイクされています。最初は、1958年から雑誌「なかよし」に連載された少女クラブ版の続編で、この作品は、単行本化の際に『双子の騎士』と改題されました。2度目は1963年から「なかよし」に連載されたもので、これは「少女クラブ」版の描きなおしですが、メフィストの役がヘル夫人に変わり、途中からは別の話に展開しています。3度目のリメイクは、手塚治虫・原作、北野英明・マンガで、テレビアニメの放映にあわせて、1967年に雑誌「少女フレンド」に連載されたもので、SF仕立ての設定となっていました。
講談社 「リボンの騎士」1巻 表紙用イラスト 1954年
サファイヤ
天使のいたずらで男の子の心と女の子の心両方を持つ王女。生まれたときに手違いで王子と報告され、王子として育てられたため、剣の達人。亜麻色の髪のかつらをかぶって出席した舞踏会で、隣の国の王子・フランツに恋をしてしまう。
>キャラクター/サファイヤ
サファイヤ
チンク
こどもの天使。神様が生まれる前の子どもたちに性別を決めるハートを飲ませる儀式の際にいたずらでサファイヤに男の心を飲ませてしまう。サファイヤから男の心を取り返すために父神から命じられて下界に下りてきた。
>キャラクター/チンク
チンク
フランツ
ジュラルミン大公
舞踏会でサファイヤが変装した亜麻色の髪の乙女と出会い、好きになるが変装であることには気づかず、サファイヤが王子であることを信じきっていた。悪魔や人魚の母から、たびたび娘の婿に、と求められるほどの美男子。
サファイヤから王位を奪い、自分の息子・プラスチックに王位を与えようとたくらむ貴族。強引であくどい悪役だが、一人息子であるプラスチックの将来を心配するなど、人間くさいところもある。ヒゲと髪型に特徴がある。
>キャラクター/ジュラルミン大公
ナイロン卿
プラスチック
ジュラルミン大公の家来のような男。そこそこ剣がたつが、サファイヤには及ばない。ずるがしこく、さまざまな悪巧みを思いつく。天狗のような長い鼻が特徴。
>キャラクター/ナイロン卿
ジュラルミンの息子。年の頃はサファイヤと同じぐらいだが、ふるまいは幼児なみ。サファイヤが失脚した後、王に即位したが毎日遊んでばかりいる。
メフィストフェレス
ヘケート
悪魔。サファイヤの女の心を奪って、おてんば娘のヘケートに与えようとたくらんでいる。たくらみの成就のために、たびたび魔力でサファイヤを助けるが、手ごわい敵でもある。
メフィストフェレスの娘。たいへんなお転婆で、たびたび父・メフィストの手を焼いている。ネズミのような大きな耳がある。
>キャラクター/ヘケート
本文 原稿より
これは断言できますが、この「少女クラブ」にのった「リボンの騎士」は、日本のストーリー少女漫画の第一号です。
それまでの少女漫画は、「あんみつ姫」に代表されるように、お笑いとユーモアだけでつくられた生活漫画でした。
昭和二十七年の秋に、当時「少女クラブ」の編集者だった牧野さん(その後、編集長から役員にまでなり、現在は出版社の社長です。)が来られて、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」のようなストーリー漫画を、少女ものとしてつくれないだろうかと、相談をもちかけられたのです。ぼくは、すぐ、女の子に人気の高い宝塚歌劇の舞台を漫画におきかえてみたらどうだろうと思い、やってみましょう、とご返事しました。
ぼくは、ご存じのとおり、育ったのが宝塚で、歌劇団の事務所にも出入りし、知りあいもたくさんいたし、宝塚歌劇調のコスチュームプレーが漫画で十分表現できると思いました。
もっとも、ぼくはそれまでに、いくつかの少女ものの単行本をだしていました。「森の四剣士」「奇蹟の森の物語」「ファウスト」、「漫画大学」の第二話、「化石島」の第三話などは、はっきり女の子を対象にかいたマンガです。「リボンの騎士」は、その延長線上にあるわけです。
昭和二十八年に、三色刷り四ページで始まった「リボンの騎士」は、おかげで、最初からものすごい支持を受けました。
読者からのお便りの山の中に、「私も男の子の姿をしてみたいわ。」ということばがしきりにかかれていたのは、その当時の女の子の立場と夢がよくあらわれていたと思います。
(後略)
(講談社刊 手塚治虫漫画全集『リボンの騎士(少女クラブ版)』2巻 あとがきより抜粋)
本文 原稿より
講談社 「リボンの騎士」1巻 口絵 1954年